赤ちゃんの人見知りを科学的に解明!「怖い」と「接近したい」という相反する気質が強い子ほど、人見知りしやすい!?

赤ちゃんの人見知りを科学的に解明!「怖い」と「接近したい」という相反する気質が強い子ほど、人見知りしやすい!?

知らない人を見ると、恥ずかしがったり、泣いたりしてしまう子どもの「人見知り」。これまで乳幼児期の人見知りは、相手を怖がることによる行動だと考えられてきました。しかし、近年は人見知りのメカニズムが明らかになり、「怖がり」だけが原因でないことがわかっています。また、乳幼児期の人見知りと乳児期以降の人見知りではメカニズムが異なる可能性が高く、「保育者は子どもの人見知りのタイプを見極めたうえで、対応する必要がある」とも言われます。

長年にわたる調査研究から見えてきた、子どもの「人見知り」の原因と対策について、白梅学園 子ども学部 子ども心理学科 教授の松田佳尚さんにお話をうかがいました。

\お話をうかがった方/
松田佳尚さん
白梅学園大学 子ども学部 子ども心理学科 教授
専門分野は知覚・認知心理学、神経・生理心理学。2009年〜2012年にかけて、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の研究員として、乳児の人見知りのメカニズム解明に挑む「岡ノ谷情動情報プロジェクト」に参画。その後、同志社大学 赤ちゃん学研究センター准教授、白梅学園大学 子ども学部 発達臨床学科准教授 を経て、2024年4月より現職。日本赤ちゃん学会の理事も務める。

松田佳尚さん
白梅学園大学 子ども学部 子ども心理学科 教授

相手が怖いのに、近づきたい……。その葛藤から生まれる赤ちゃんの人見知り

──「子どもの人見知り」と聞いて最初に思い浮かぶのが、ママ以外の人に抱っこされて泣いてしまう乳幼児の姿です。人見知りは何歳くらいからはじまるものなのでしょうか。

松田:一般的に、生後半年頃から、多くの子どもに人見知りがはじまると言われています。ただ、時期や程度には個人差があって、私が1,500人の乳児を対象に行なった調査では、生後4か月くらいから人見知りがはじまる子もいれば、1歳を過ぎてから人見知りがはじまる子もいました。

──赤ちゃんが人見知りをするようになると、「他人とママを区別できるようになった証拠だよ」と言われたりします。人見知りには、そうした点も関係しているのですか?

松田:人見知りが「他人と母親を区別できるようになった証拠」という考え方は、正しくありません。

実は、赤ちゃんは生まれてすぐに他人と母親を区別することが、先行研究で明らかになっています。つまり、赤ちゃんは生まれてすぐに他人と母親を区別しているのに、生後数か月を過ぎるとなぜか人見知り行動を取るようになるのです。

──不思議です。要因はわかっているのでしょうか?

松田:これまで、人見知りは赤ちゃんの「怖い」という感情によるものだとされてきました。なぜかと言うと、「怖い」という感情が、人見知りと同じく生後半年以降に表れるからです。

一方で、人見知りをする赤ちゃんの中には、ママにしがみつきながらも、対象となる人物をチラチラ見たり、おそるおそる近づいたりする子がいます。でも、単純に「人見知り=怖がり」なら、そんなことはしないはずです。私たちは、そうした点に着目しながら人見知りのメカニズムを解明すべく調査研究を行なったのですが、そこで興味深い事実が判明しました。

調査では、まず母親にアンケートを取って赤ちゃんの人見知り度を定量化し、そのうえで、赤ちゃんが「どれほど人を怖がるか」や、「どれほど人に接近したがるか」について回答してもらいました。その結果、わかったことが2つあります。1つは、人見知り度の高い赤ちゃんは、怖がりの気質が強いということです。

──「人見知り=怖がり」説が、データでも証明されたわけですね。

松田:おっしゃるとおりですが、「人見知り=怖がり」という説は昔から言われていたこと。ある意味、つまらない結果ですよね。興味深かったのは、もう1つの「接近」にまつわる発見です。

人見知り度の低い赤ちゃんほど、接近の気質が強いというのは予想したとおりだったのですが、人見知り度の高い赤ちゃんも、それと同じくらい接近の気質が強いことが判明したんです。

──つまり、人見知りが強い赤ちゃんは相手を怖がると同時に、接近したがってもいる?

松田:はい。人見知り度の高い赤ちゃんは、「怖い」と「接近したい」という相反する感情を併せ持っているんです。一方で、人見知りが中程度の赤ちゃんは、接近の気質がそこまで強くありませんでした。

このように心の中に相反する感情が存在し、どちらを取るか迷うことを「葛藤」と言いますが、学童期の子どもを対象にした研究では、「怖い」と「接近したい」の葛藤状態が人見知りの原因であると報告されています。そして、私たちの研究によって、乳児の人見知りにも葛藤状態が関係していることが示唆されました。

つまり、学童期の子どもと同様、赤ちゃんも2つのうちどちらの気持ちを取るかで葛藤した結果、人見知りになってしまっているのです。

赤ちゃんが他人の「目」を怖がるのは、人間が野生動物だった名残り!?

──人見知りが強い子も、恐怖心を取り去ってあげれば接近してくれるかもしれないわけですね。そもそも、人見知りの子はなぜ相手を怖がるのでしょう?

松田:赤ちゃんは、相手の「目」にすごく敏感なんです。私たちの調査研究でも、人見知りの強い赤ちゃんほど相手の目を凝視する傾向にあることや、相手が自分を見ているときよりも、よそ見をしているときのほうが相手をより観察することがわかっています。

では、なぜ目に敏感なのか。動物は、基本的に相手を威嚇するようなときにしか目を合わせません。そのため、目が合うと反射的に恐怖が沸き起こり、警戒心が高まるのです。

この仕組みは人間の脳にもあり、知らない人と目が合うと、自動的に脳の扁桃体という部分が働いて恐怖を感じます。一方で、相手が危険ではないとわかれば、脳の前頭前野というところが働き、恐怖を抑えることができます。しかし、赤ちゃんの脳は、まだ前頭前野の働きが発達していないため、目が合うと反射的に強い恐怖を感じてしまうのです。

──赤ちゃんに人見知りをされると、目をみつめて「大丈夫だよ、怖くないよ」となだめたりしますが、それは逆効果なのですね……。

松田:赤ちゃんにとっては、恐怖の念押しをされたような状態でしょう(笑)。なだめるのであれば、取るべき行動はその逆。人見知りの強い赤ちゃんに対しては、赤ちゃんのほうを見ないことが大事です。よそ見をしながら赤ちゃんのママと話すなどして「この人は安心できる」と印象づければ、赤ちゃんはこちらに興味を持って目線を向けてくれるようになるはずです。そして、赤ちゃんが興味を持ってくれたら、少しずつ近づいていきましょう。

大人でも、満員電車などで目の前にいる人がじっとこちらを見ていたら、不快に感じますよね。けれども、3〜4m離れたところからなら、見られても許容できる。この「他人に侵入されると不快に思う領域」、つまりパーソナルスペースを無視していきなり距離を詰めると、赤ちゃんは恐怖を感じてしまいます。

輪に入れない子がいるときは、人見知りのタイプを見極めて対処するのが大事

──人見知りは、意識して治したほうがいいのでしょうか?

松田:個人的には、無理に克服する必要はないと考えています。人見知りしてしまうのは、恐怖の感情がきちんと芽生えているということですから、決して悪いことではありません。逆に、まったく人見知りをしないと、知らない大人に付いていってしまうといった事態も起こり得ます。

それに多くの場合、乳幼児期の人見知りには「終わり」があります。いつはじまるのかと同様、終わる時期にも個人差がありますが、中にはたった数週間で終わってしまう子もいます。ですから、心配しすぎる必要はないでしょう。

──ただ、小学生になっても人見知りが治らず、そのまま大人になってしまったという人も、見られます。

松田:それは学童期の人見知りで、乳幼児期の人見知りとはメカニズムが違います。私たちの調査では、乳幼児期の子どもの性格を「接近」と「怖がり」という気質の強弱によって、「人見知りが弱い」「人見知りが強い」「人見知りは中程度」の3つのタイプに分けました。

一方、学童期の子どもを対象にした研究では、それぞれの性格を「社交的」「葛藤」「内向的」「回避的」の4つのタイプに分類しています。このうち人見知りが強いのは「葛藤」と「回避的」ですね。

ゲーム画面のスクリーンショット

AI によって生成されたコンテンツは間違っている可能性があります。
図は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の資料をもとに編集部が作成。

先ほども申し上げたとおり、乳幼児期の人見知りはほとんどの子どもが経験しますが、多くの子はそれを乗り越えて成長します。赤ちゃんのときに人見知りの強かった子が、社交的な大人に成長する可能性もあるでしょう。しかし、学童期の場合、人見知りの要因や乳幼児期の人見知りとの関連性がよくわかっていないのが現状です。

誤解のないように言っておくと、「学童期の人見知り」という言葉は、小学生以降の人見知りを指すわけではありません。早い子だと、1歳半くらいで学童期の人見知りがはじまります。

──学童期の人見知りは、保育園での活動にも関わってきそうです。たとえば、人見知りで友だちの輪の中に入っていけない子がいた場合、保育士はどうすべきでしょう?

松田:その子の人見知りが「葛藤」なのか「回避的」なのか、タイプを見極めることが大切です。「葛藤」は人見知りの強い赤ちゃんに似ていて、相手が怖いけれど近づきたいタイプ。そうした子たちは、恐怖を取り除いてあげれば相手に近づいていきます。

もう1つの「回避的」は、ただただ相手が怖いというタイプです。そもそも近づきたいとも思っていないので、無理をしてまで輪の中に入れる必要はないでしょう。しかし、だからといって、1人きりにしていいというわけではありません。その子とアタッチメントを形成した保育者が、きちんとコミュニケーションを取るようにしてください。

──人見知りの子どもがいると、他の子に「〇〇ちゃんと遊んであげてね」と言いたくなりますが、それが子どもにとっていいことだとは限らないのですね。

松田:無理強いはしないほうがいいでしょう。先ほども言いましたが、赤ちゃんの人見知りは、赤ちゃんがきちんと「恐怖」の感情を獲得できている証拠です。でも、学童期の人見知りはそれとは違い、「相手に見られている自分」を意識することで起こります。これは、自分の行動や思考を客観的に認知する能力、すなわち「メタ認知」が芽生えている証拠だと考えられます。

その意味では、成長しても人見知りをする子は、感性が豊かで認知力が高いと言えるでしょう。また、たとえ対面でのコミュニケーションが苦手でも、いまはチャットやSNSをはじめ、たくさんのコミュニケーション手段があります。人見知りはその子の気質であり、個性なんだと、ポジティブに捉えてあげてほしいですね。

取材・文/岸良ゆか

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