折り紙で算数の力が育つ!? 数や図形に強くなる遊び方のポイントとは

折り紙で算数の力が育つ!? 数や図形に強くなる遊び方のポイントとは

折り紙と算数。一見、まったく関係がなさそうに思えますが、実は折り紙は算数の基礎を身につけるのに最適な知育教材なのだそうです。

いわれてみれば、折り紙遊びには、1回、2回、1枚、2枚など数に関する言葉がたくさん登場します。四角になったり三角になったりと、目の前でいろいろな形が作れるので、自然と図形の特徴も覚えられるでしょう。「半分に折る」「さらにもう一度半分に折る」という作業も、小学2年生で習う「2分の1」や「4分の1」の感覚そのものだと思いませんか?

普段は何気なく折っている折り紙ですが、算数的な目線で眺めてみると、ひと味違った楽しみ方ができそうですよね。そこで今回は、幼児さんすう総合研究所代表の大迫先生に、算数の力が身につく折り紙遊びの方法や、算数の世界に親しむためのポイントなどをうかがってきました。 

\お話をうかがった方/
大迫ちあき先生
日本数学検定協会認定幼児さんすうエグゼクティブインストラクター。2人の育児を終えて中学受験算数講師に。そこで「中学受験の成功のカギは幼児期」と確信し、幼児さんすうスクールスピカを設立。自主的に学び、論理的思考をもつ子どもの育成に励んでいる。著書に「折り紙百科3・4・5歳 楽しく算数センスが身につく」「折り紙百科 5・6・7歳 図形力と考える力が身につく」(ともに世界文化社刊)などがある。

大迫ちあき先生

折り紙遊びには、「数」「形」「思考力」といった算数の基本が詰まっている

――先生は、折り紙を知育教材と位置づけていらっしゃいます。折り紙と算数の関係について、詳しく教えていただけますか。

大迫:小学校で学ぶ算数の重要な要素として、「数」「形」「思考力」の3つが挙げられますが、折り紙はこれらを身につけるのにとても役立ちます。

例えば、折り紙遊びで使われる「1回折る」「2枚重ねる」といった表現から、数の数え方が覚えられます。また、「四角にする」「三角に折る」などの作業によって、図形の特徴がわかるようになります。さらに「ここを折ったらどんな形になるのだろう」と考えると、思考力も育まれますよね。そんなふうに、遊びながら算数の基本を身につけられるのが、折り紙の魅力なのです。

折り紙というと、日本では伝統的な遊びとして扱われていますが、韓国や中国では知育教材として活用されているんですよ。

――算数というと数にばかり注目しがちですが、形や思考力も大切な要素なのですね

大迫:算数は中学になると数学に変わります。そして、数学は「代数」と「幾何」という2つの分野に分かれます。代数では数や数式、幾何では形や空間を扱いますが、中学や高校ではこの2つを並行して学びますよね。

そのことを踏まえて、小学校の算数に目を向けてみると、中学や高校で学ぶ代数と幾何が、数・形という要素でバランスよく含まれていることがわかります。小学校の低学年では、足し算や引き算などの数の学習に重点を置きますが、3年生からは図形に関する内容が多くなり、5年生では思考力が求められるような内容も増えてきます。

「算数が得意になってほしい」と考える保護者の方が、「計算ドリルをやらせている」と話しているのを耳にすることがありますが、実は計算練習だけでは不十分。算数の基礎を身につけるには、形や思考力を含めた幅広い学びが必要です。

――そうした力を伸ばすには、どのような遊び方をするのがよいのでしょう。

大迫:折り紙を並べて「いろんな四角があるね」と話すだけでも、図形の特徴が意識できると思います。「四角い折り紙を三角にするにはどうすればいい?」「三角を2個使って大きな三角にするにはどう並べる?」などと聞いて、図形の変化を想像させたり、実際に折って並べたりしてもよいでしょう。それらは、簡単に形が変えられる折り紙だからこそできる遊びですよね。

数を足したり引いたりといった計算は、年齢が上がるとたいていできるようになります。しかし、図形を正しく認識し、それが変化していく様子を想像する力は、大きくなってからあわてて取り組んでもなかなか身につきません。だからこそ、幼児期に基本をおさえておく必要があるのです。

実際、5年生で習う立体図形という単元では、図形の特徴をとらえるのが苦手な子が、平面図と立体の関係や対面構造などを想像できずにつまずくケースが多いんです。そのせいで、算数自体を苦手に感じてしまうこともあります。一方で、折り紙遊びやパズル遊びを通して図形を正しく認識できている子どもは、高学年で習う図形や割合といった単元の理解がスムーズだと感じます。

手順通りに折り進めることで、「筋道を立てて考える力」も磨かれる

――折り紙遊びをするにあたって、大人の側はどういった点に配慮すべきでしょうか。

大迫:まずは、折り紙を「楽しい」と感じてもらうことと、「作品ができた」という達成感を味わってもらうことが大切です。

そのためにも、作らせたいものを押しつけたりせず、「今日は何を作りたい?」と声をかけて、子どもの気持ちを尊重しながら取り組みましょう。その子が折り紙遊びを「楽しい」と感じてくれれば、主体的に取り組むようになって、算数の要素も吸収しやすくなるはずです。

――具体的な声かけや取り組みについても、アドバイスをお願いします。

大迫:先ほどお話したように、「折り紙は何枚ある?」「四角い折り紙を三角にするにはどうする?」などの簡単な問いかけで、数や図形の特徴を意識させることができます。

これは私の教室で実際に行っている遊びですが、まず折り紙を2回折って四角にしたあと、子どもに好きな形で切り抜かせてみてください。切り抜き終わったら、「これを広げたらどんな形になるかな?」「穴はいくつあるかな?」と質問してみましょう。すると、子どもはあれこれと予想しますよね。

そして、実際に開いてみると? 1つしか穴をあけていないはずなのに2つに増えているので、子どもたちは驚きます。別の遊び方として、折り紙をいろんな方向に折ったあと、「どんなふうに折り目がついているかな?」と予想してもらうこともあります。

このように、広げたときの形や折り目を考えると、思考力を育てることができますし、対称図形を理解する力も身につきます。形や折り目を想像するのは大人でも難しかったりしますが、教室ではみんな楽しんで取り組んでいますよ。

――算数力アップを意識する場合、おすすめの折り紙作品はありますか?

大迫:3〜4歳の場合は、「できた」という達成感が味わえれば十分なので、簡単な形から折り始めましょう。3〜4工程くらいで作れる、チューリップやちょうちょが最適だと思います。細長く切った平面の折り紙が立体に変化する七夕の輪っか飾りも、平面から立体への変化が楽しめるのでおすすめです。

年中以降なら、「紙風船」や「ぱくぱく」など、できあがってから遊べるものがいいですね。「紙風船」は10個以上の工程がありますが、「(折り紙が)楽しい」という気持ちがやる気につながれば、集中して取り組めるはずです。順番通りに作り進めていくうちに、「こう折ったら、こういう状態になるに違いない」と、工程を想像できるようになる子もいるでしょう。

当たり前の話ですが、折り紙で作品を作るときって、工程をひとつでも飛ばすと完成しませんよね。これは、コマンド1、2、3……と順番に作っていくプログラミングと同じ作業です。つまり、お手本を読み解いて順番通りに作ったり、自分なりの工夫を加えたりすることは、「道筋を立てて考える力」を養うことにもつながるんです。

――折り紙遊びとプログラミングに共通点があるというのは、気がつきませんでした。立体物を作ることで、空間認識力も鍛えられそうですね。

大迫:実をいうと、子どもは絵に描かれた立体物を実物と結びつけるのが苦手です。大人は積み木の絵を見れば、「これは積み木だ」とすぐに理解できますが、子どもは空間を把握する力が未熟なので、絵と実物が同じものだと認識するが難しいのです。

でも、折り紙遊びを活用すれば、そうした苦手意識も払拭できます。なぜかというと、平面の紙が立体物に変わっていく様子を自分の目で確かめられるからです。平面の折り図を見ながら実際に作品を作る経験を重ねると、平面の絵と実物を結びつける力は、より鍛えられるでしょう。

――そうしたとき、保護者や保育士はどこまでサポートすべきでしょうか。

大迫:最初は一緒に作ってあげてください。その際は、折ったときに角と角を合わせる、折り目に指でアイロンをかけるといった、折り紙遊びの基本をしっかり教えることが大切です。

慣れてきてひとりでできるようになったら、できるだけ手出しせずに見守ってください。難しくて、子どもが困っているときだけ手伝いましょう。ただ、その場合も最後まで手伝うのではなく、完成につながる最後の工程は子どもにゆだねてください。そうすることで、子どもは「できた」という達成感を味わうことができるからです。成功体験を重ねていけば、自己肯定感が上がって、新しい挑戦にも積極的になると思いますよ。

2歳くらいの子どもの場合、折り紙を渡すとぐしゃぐしゃにしたり、破ったりするかもしれませんが、そうしたときも「ダメ」といわずに見守ること。折り紙遊びを「楽しい」と感じることが大事なので、ひととおり好きなようにさせて、「何か作りたい」という気持ちがわいてきたら一緒に作ってあげてください。

折り紙遊びをするときは、「算数言葉」を積極的に使うのがおすすめ

――保育の現場で折り紙遊びをするときのポイントはありますか?

大迫:意識して「算数言葉」を使ってみてはいかがでしょう。算数言葉というのは、「2枚重ねる」「2つに折る」など算数に関連する表現のことで、「三角」「四角」という図形を表す言葉や、「同じ」「半分」「大きい」といった比較に関する言葉も、算数言葉にあたります。

算数言葉かどうかを判断するポイントは、その言葉に数字や単位をくっつけたときに違和感がないことです。「2センチ大きい」「90度回転させる」という表現ができる場合、「大きい」も「回転させる」も算数言葉に含まれます。

なぜ、算数言葉をすすめるかというと、算数が得意になるには算数に親しむ機会を増やすことが大切だからです。

子どもは日常生活のなかで得た経験を通して、さまざまな知識を獲得していきます。つまり、数や形を意識できるような「算数体験」を積み重ねれば、それだけ多くの知識が獲得でき、結果的に、算数への興味も増していくのです。折り紙遊びは、数や図形に触れる絶好の機会なので、積極的に算数言葉を使ってほしいと思います。

もちろん、普段の活動のなかで「今日は昨日より3度気温が高いね」「このプールは2メートルの深さだよ」などと伝えるのも効果的です。

――算数を身近に感じることが、算数力アップにつながるわけですね。折り紙遊び以外で、算数の世界に触れられる遊びはありますか?

大迫:園に必ずあるものでいえば、積み木ですね。積み木の数を数えると、数の概念が身につきますし、積み上げたものを並べて「こちらの方が2個多い」「3個少ない」といった比較もできるので、足し算や引き算の練習にもなります。いろいろな形を組み合わせると複雑な立体物が作れるので、立体図形の理解にもつながるでしょう。

積み木を使った遊びでおすすめなのは、「四方観察」です。四方観察というのは、特定の方向から物体を見たときの見え方を正しく判断することですが、積み木を使えば遊びながら「四方観察」が体験できます。例えば、積み木を組み合わせて立体物を作ったときに、「こちらから見たら赤い積み木が見えるけど、裏側からは見えないね」と声かけすれば、子どもは見る角度によって見え方が違うことを理解します。立体的なものの見方が身につけば、空間認識力も鍛えられるはずです。

子どもにとって、「あるはずのものが見えない」というのは不思議な体験なので、ぜひ味わわせてあげてください。

――ありがとうございました。最後に「ほいくらし」の読者にメッセージをお願いします。

大迫:今回は、折り紙と算数の関係についてお話させていただきましたが、安価で手に入りやすく、持ち運びが便利なのも折り紙の魅力です。

世の中には高価な知育教材がたくさんありますが、「せっかく購入したのに子どもが使ってくれない」といった話もよく聞きます。それだと、親としては悲しすぎますよね(笑)。でも折り紙なら、ぐしゃぐしゃにしても、丸めてボールにしても気になりません。バッグにいれておけば、どこでもすぐに取り出してあそぶことができます。こんなに手軽なのにしっかり算数の力を養えるのだから、優秀な知育教材ですよね。

算数や数学は難しいと思われがちなので、「専門の教材を使わなければ算数力は伸ばせない」と考えている方も少なくありませんが、そんなことはありません。まずは、日常生活に折り紙遊びを取り入れて、算数の世界に触れる機会を増やすことからはじめてみてはどうでしょうか。

取材・文/木下喜子

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