保育士の人材不足にどう対応する?沖縄県が実施する離島保育園見学ツアー&就職説明会に学ぶ

保育士の人材不足にどう対応する?沖縄県が実施する離島保育園見学ツアー&就職説明会に学ぶ

保育士不足が全国的な課題となるなか、全国の各自治体は人材確保のためにさまざまな取り組みを行っています。沖縄県もその1つです。沖縄県は2013年に沖縄県保育士・保育所総合支援センター、通称「おき保」を設立。2016年からは、沖縄本島のほか保育士不足が特に深刻な離島を対象に、県内外の保育士に向けた保育園見学ツアー&就職説明会を実施しています。

今回は、同ツアーを主催する沖縄県保育士・保育所総合支援センターの職員のみなさんに、ツアーの概要や参加申し込み状況、離島で働くメリット・デメリットなどについて話をうかがいました。

\お話をうかがった方/
沖縄県保育士・保育所総合支援センター
労働環境改善コーディネーター 城間千賀子さん
保育人材確保及び就労支援コーディネーター 幸喜紀子さん
総合支援員 座安佳代子さん
総合支援員 喜納恵さん

保育士不足が特に深刻な離島で、見学ツアー&就職説明会を実施

沖縄本島の西側に位置する久米島の風景。那覇からは飛行機で約30分、フェリーで約3時間。
沖縄本島の西側に位置する久米島の風景。那覇からは飛行機で約30分、フェリーで約3時間。

――まずは、沖縄県の保育園を取り巻く状況をお聞かせください。

幸喜:沖縄県の待機児童数は2020年4月1日時点で1,365人でしたが、2024年4月1日時点では356人となっており、年々減少傾向にあります。

一方、こども家庭庁が発表した「保育士の各都道府県別有効求人倍率等の比較」によりますと、2024年の平均有効求人倍率は、全国は3.54、沖縄県は3.90、2025年は全国は3.78、沖縄県は3.32でした。改善がみられるものの依然高い水準となっており、保育士不足は深刻な状況といえます。

沖縄県保育士・保育所総合支援センターは、こうした状況を改善するための活動を行っています。

――沖縄県保育士・保育所総合支援センターというのは、どういった機関なのでしょうか。

座安:沖縄県保育士・保育所総合支援センターは、待機児童数ゼロを目標に2013年に沖縄県の委託事業として設立されました。

開所当時の当センターは、保育士の確保や施設の拡充などを総合的にサポートする役割を担っていました。施設整備や拡充を完了した現在では、潜在保育士の就労支援と保育士のための労働環境改善支援、人材バンクを活用した就労斡旋、保育施設と保育士のための相談支援などを行っています。

また、県内で就職・復職を考えている方に、LINEや「おき保」アプリ、InstagramなどのSNSでお役立ち情報を発信したり、保育士の魅力を伝えるための動画を配信したりと、将来の保育の担い手確保のための活動も実施してきました。

2016年度からは、保育士不足が特に深刻な離島を対象に、保育園見学ツアー&就職説明会も開催しています。

見学ツアーに参加した2~3割の学生・保育士が、離島の保育園に就職

2024年度に石垣島で開催された保育所見学ツアーのチラシ。那覇-石垣島の往復渡航費、宿泊費は無料です。
2024年度に石垣島で開催された保育所見学ツアーのチラシ。那覇-石垣島の往復渡航費、宿泊費は無料です。

――離島を対象とした保育園見学ツアー&就職説明会について詳しくお聞かせください。ツアーは沖縄県内のすべての離島で実施されているのでしょうか。

座安:ツアーがはじまった2016年は、宮古島のみで行っていましたが、現在は石垣島、久米島、伊江島でも各市町村の主催で実施しています。ツアーには当センター職員が同行し、スムーズに実施できるよう運営しております。

ツアーの参加資格は、「保育士資格を所有している方、資格取得見込みの方で、なおかつ、ツアー先である離島の保育園での就職を希望される方」です。募集人数は、島にもよりますが毎回10人程度です。

幸喜:ツアーは1泊2日または2泊3日の日程で実施します。島内では各市町村が手配したバスで移動、島内の保育園を訪問し、実際の保育の様子を見ていただきます。島によっては見学だけでなく先生方と交流する時間もあります。その後、就職説明会を行い、給与、休暇といった待遇面や保育園の特色など、見学だけではわからない部分を質疑応答形式で説明するのが基本的な流れです。

座安:離島ということで、費用が気になる方もいるかと思いますが、那覇空港から島までの往復の渡航費と宿泊費は基本的に無料です。朝食は宿泊費に含まれますが、それ以外の昼食や夕食の費用、飲み物代、お土産代などは自己負担となります。

――渡航費と宿泊費を負担していただけるのはありがたいですね。ツアーにはどのような方からの申し込みがあるのでしょうか。

座安:県内の方からも、県外の方からも申し込みがあります。県内の方は、保育士資格取得見込みの学生さんが多いですね。学生さんからは「ふだんは本島で暮らしているけれど、実家や親戚宅がある離島での就職を検討したい」「ツアーに参加して、離島の保育園を実際に見てみたい」という声が多く聞かれます。

幸喜:県外からの応募には、潜在保育士さんが移住を視野に申し込まれるケースが多いです。参加者の大半は女性ですが、最近は男性保育士さんも増加の傾向にあります。

――潜在保育士の復職を後押しする制度でもあるのですね。保育園見学ツアー&就職説明会がスタートして今年で9年目になるわけですが、参加者の反応や手応えはいかがでしょう。

喜納:県外から参加される方のほとんどが、豊かな自然に囲まれた環境を希望されていますから、離島ならではの自然の豊かさ、美しさにまず感動されるようです。また、自己負担が少ない形で離島の保育園を見学できたり、就職説明会で直接働き方についての質問ができたりする点も、参加者の方から好評をいただいています。

幸喜:先ほどお話したように、保育園見学ツアー&就職説明会の定員は10名程度なのですが、定員を超えた応募があることも少なくありません。

ツアーに参加したあと、実際に離島の保育園に就職した方ももちろんいらっしゃいます。2024年度は、計14名のツアー参加者が離島の保育園に就職しました。平均すると、ツアーに参加した方の2~3割が、実際に離島の保育園に就職しているという計算になります。

――就職を決める方には、単身者が多いのでしょうか。

城間:割合としては単身者が多めですが、ツアーに参加された方がご家族やパートナーと一緒に移住されるケースも見られます。

過去には、単身者の方が地元の人と結婚されるケースもありました。ツアーがきっかけとなってご縁が結ばれたのかと思うと、非常にうれしいですね。

――「沖縄の離島で保育士として働いてみたい」と思う県外出身者のなかには、離島の暮らしになじめるのか不安に思う人もいるはずです。そのあたりについて、ツアーではどのように説明されていますか。

幸喜:ツアーでは、「移住コーディネーター」や「島ぐらしコンシェルジュ」による離島生活説明会も実施し、離島のよさだけでなく、不便さについても率直にお話しています。

県外出身の方が想像するとおり、美しい自然に囲まれた環境で子どもたちに向き合えるのは、離島だからこその魅力です。のんびりとした雰囲気のなか、のびのびとした保育ができるのも離島のよさでしょう。しかし、その一方で移動の手段が限られる、物資の運搬コストがかかるため物価が高めになるといった、離島ならではの不便さがあるのも事実です。

城間:保育園では、保育士さんが教材を手作りすることがありますよね。一般的には、教材の素材を100円均一ショップで購入する機会も多いと思います。そのため、「教材の素材をどうやって調達していますか? 100円均一ショップはありますか?」という質問をいただくこともありますが、100円均一ショップがない離島も多いです。

けれど、現在は離島でも通販サイトは利用できますから、「住んでみたら思ったほど不便ではなかった」という声はよく聞きます。

――住居についてはいかがですか? 引っ越しや家賃の補助制度がありましたら教えてください。

城間:沖縄県に限りませんが、空き家はあっても、賃貸できる物件や、希望に合う物件が少ない傾向にあり、離島によってはよい物件が見つかっても家賃が割高だったりします。そのため、住まいの確保にはどうしても時間がかかりがちです。

ただし、費用面に関しては、県外はもちろん島外から就労・移住する方を対象とした各種支援制度があるので、それらを活用すれば負担を軽減できます。

保育士不足の解消には、園側の意識改革や労働環境の改善も不可欠

伊江島には東保育所と西保育所の2つの保育園があります。こちらは東保育所の園庭です。
伊江島には東保育所と西保育所の2つの保育園があります。こちらは東保育所の園庭です。

――保育園見学ツアー&就職説明会の今後の展望についてもお聞かせください。

喜納:当センターでは現在、宮古島、石垣島、久米島、伊江島の4島を対象としたツアーを主催していますが、今年度は、小規模離島への支援に力を入れる予定ですので、ほかの離島でもツアーを実施できればと思っています。潜在保育士さんに向けて、保育園で体験就労してもらえるようなプログラムも実施したいですね。

潜在保育士さんのなかには、保育士として働く意思はありながら、ブランクを気にして復帰に踏み切れない方や、保育士としての就業経験がないため就職を決断できずにいる方が少なくありません。

そうした方が保育園で短期間働けるような体験プログラムを用意できれば、潜在保育士さんの復職を後押しできるのと同時に、保育士を安定的に確保したい保育園にとってもメリットがあるのではないかと考えています。

――保育士不足は全国的な課題といえます。解消するにはどのような取り組みが必要だとお感じですか?

城間:私は保育園の労働環境改善支援事業を担当していますが、保育士不足を解消するためには、就労斡旋とあわせて労働環境の改善も重要だと感じています。そこで当センターでは、働きやすい職場づくりを目指して、保育園の先生方を対象に業務や労働環境の改善を目的とした研修を実施しており、現場からは好評価を得ています。

2022年には、労働環境に関する悩みを相談できる相談ブースも開設しました。そこでは、園長や保育士さんたちの相談内容に合わせた改善策の提案や環境整備の推進、人材育成や専門家との連携などを行っています。

座安:保育の現場の魅力を発信し続けることが大切ではないでしょうか。私たちも、保育士という仕事のやりがいと重要性、労働環境がかなり改善されている「保育現場の今」の状況を、動画やSNSなども活用しながら、もっと積極的に伝えていきたいと思います。

――ありがとうございます。最後に、全国の「ほいくらし」の読者に向けてメッセージをお願いします。

幸喜:今後、さらに多くの仕事がAIに代わっていくといわれていますが、未来ある子どもたちに寄り添い、成長をサポートする保育のお仕事はAIには代え難い、社会的重要性の高い仕事の1つです。また、子どもたちの安全を守り、探求心を育てるやりがいあふれる仕事でもあります。

そんな魅力ある保育の仕事を、沖縄の離島でなら、壮大な自然のなかでのびのびとできます。青空の下、透き通った海を見ながら真っ白な砂浜を子どもたちと散歩する。まるで映画のワンシーンのようなひとときもあります。

これから保育士を目指す方、すでに保育士として働いている方、潜在保育士の方、美しい自然のなかでのびのびと保育の仕事をしてみたい方は、沖縄の離島に一度目を向けていただければと思います。

砂浜にいる人たち

AI 生成コンテンツは誤りを含む可能性があります。
竹富島の保育人材募集のポスター。美しいビーチを子どもたちとお散歩できます。

城間:私たち沖縄県保育士・保育所総合支援センターはこれからも、離島地域の「保育人材確保」と「保育の魅力発信」に努めていきます!

取材・文/小川裕子

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