3大夏風邪の流行シーズン到来!ヘルパンギーナ、手足口病、プール熱の特徴と予防法を知ろう

感染症というと冬に流行するイメージが強いかもしれませんが、実は夏に流行するものも少なくありません。その代表が、ヘルパンギーナ、手足口病、プール熱(咽頭結膜炎)です。ヘルパンギーナ、手足口病、プール熱は、夏になるときまって患者が増えることから、「3大夏風邪」とも呼ばれます。
3大夏風邪は、未就学児がかかりやすいため、乳幼児が集団で生活する保育園では特に注意が必要です。そこで今回は、「どうかん山こどもクリニック」の森戸やすみ先生に、3大夏風邪の特徴と保育現場でできる予防方法、感染拡大防止のポイントを教えていただきました。
\お話をうかがった方/
森戸やすみ先生
小児科専門医。「「どうかん山こどもクリニック」院長。
一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、2020年に「どうかん山こどもクリニック」(東京都台東区谷中)を開院。『ワクチンくんといっしょ: どうしてするの?よぼうせっしゅ』(チャイルド社)、『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』(内外出版社)など、著書・監修本多数。
高温多湿の環境を好むウイルスが、3大夏風邪の原因
――ヘルパンギーナ、手足口病、プール熱は3大夏風邪と呼ばれています。そもそもなぜ、夏に流行するのでしょう。
森戸:ヘルパンギーナ、手足口病、プール熱は、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症と同じように、ウイルスが原因で起こる感染症です。
インフルエンザや新型コロナウイルス感染症は冬に流行するので、ウイルスは温度と湿度が低いほど活性が高くなる、つまり活発になると考えられがちです。しかし、ウイルスのなかには、高温多湿の環境でも活動性の高い種類もあります。ヘルパンギーナ、手足口病、プール熱が夏に流行するのは、夏の気候がこうしたウイルスに向いているからだと考えられます。
――3大夏風邪は、それぞれ原因となるウイルスや症状が異なるのでしょうか。
森戸:ヘルパンギーナは、エンテロウイルスが原因で起こる感染症です。エンテロウイルスにはいくつかの型があり、型によって多少の違いはありますが、38~40℃の急な発熱とのどのはれや痛み、せき、鼻水などが主な症状となります。のどや頬の内側に、水疱が見られることもあります。
手足口病も、ヘルパンギーナと同じエンテロウイルスが原因で、38℃程度の発熱に加えて手のひらや足の裏、口のなか、のどの奥などに水疱ができるのが特徴です。ウイルスの型によっては、腕や脚全体、唇のまわりに水疱ができることもあります。また、肛門のまわりに水疱ができる子どももいます。
――ヘルパンギーナと手足口病は症状が似ていますが、見分け方などはありますか?
森戸:インフルエンザや、新型コロナウイルス感染症のように検査キットは一般的ではなく、また診断後も治療薬が変わらないので、多くの医療機関では、医師が症状を見たうえで、ヘルパンギーナか手足口病かを判断します。通常、ヘルパンギーナのほうが熱は高く40℃近くになることもありますが、手足口病は38℃以上の熱が出ることは多くありません。水疱については、手足口病のほうが広範囲に出ます。
――プール熱の特徴についても教えてください。
森戸:プール熱というのは、プール活動が増える夏場に患者が増えることからついた俗称です。正式には「咽頭結膜熱」といい、アデノウイルスが原因で起こります。
主な症状は高熱で、38~40℃の熱が長いときは5日くらい続きます。頭痛やのどの痛み、目の充血、目やになども見られます。
なお、プール熱はプールの水を介してうつるわけではありません。飛沫感染、接触感染をするので、プールに入る前後に狭い空間で着替えて、ウイルスを持っている子と触れたり、タオルを共用したりすることで感染しやすくなります。もちろん、プールに入らなくても感染します。
――3大夏風邪にかかりやすい年齢や流行時期に違いはありますか?
森戸:かかりやすい年齢は、ヘルパンギーナ、手足口病、プール熱とも5歳までが多いです。流行時期については、どれも6~9月が中心です。
とはいえ、かかりやすい年齢や流行時期はあくまでも目安です。6歳以上の子どもはもちろん、大人が感染するケースもありますし、秋に感染するケースもあります。
いずれもワクチンや有効な治療法はなく、対症療法が基本
――3大夏風邪に対して、医療機関ではどのような治療が行われるのでしょうか。
森戸:ヘルパンギーナ、手足口病、プール熱のいずれも、ワクチンや有効な治療法はありません。熱や痛みがあれば解熱鎮痛薬を、水疱にかゆみがあればかゆみ止めのぬり薬を処方するという具合に、対症療法が基本となります。プール熱で目に充血や目やになどの症状があれば、点眼薬が処方されます。
ヘルパンギーナも手足口病もプール熱も、重症化することはあまりありません。個人差はありますが、3~7日くらいで回復すると考えてよいでしょう。ただ、熱が高かったり水疱の痛みが強かったりして食事や水分がとれなくなり、脱水症状が見られるような場合は、入院して点滴することもあります。
加えて、どの夏風邪もごくまれに髄膜炎や急性心筋炎、脳症などの合併症を引き起こすことがあるので注意が必要です。頭痛や嘔吐、けいれん、意識障害などが見られたら、すぐに医療機関を受診してください。
――子どもが3大夏風邪にかかった場合、保育園を何日間休ませればよいのか、どのタイミングで登園してよいのか悩む保護者や保育士は多いと思います。インフルエンザのように、出席停止期間のルールがあれば教えてください。
森戸:厚生労働省が作成し、こども家庭庁が一部改定した「保育所における感染症対策ガイドライン」では、プール熱の登園の目安は「発熱、充血等の主な症状が消失した後2日を経過していること」となっています。通常、プール熱の主な症状は5日ほど続くので、5日に2日をプラスして、目安として1週間は保育園をお休みすることになります。
ヘルパンギーナと手足口病に関しては、出席停止期間の基準はありません。熱や水疱の痛みやかゆみといった症状が治まり、食欲がふだんの半分以上まで戻ったら、基本的には登園してかまわないでしょう。
ただし、子どもは熱がいったん下がっても、再び発熱する場合が少なくありません。さらにいえば、症状が軽快してもウイルスは排出されます。登園のタイミングは、子どもの体調をよく観察したうえで決めるようにしてください。
3大夏風邪の感染拡大を防ぐために、保育園でできることは?
――保育園でできる3大夏風邪の対策についてうかがいます。感染拡大を防ぐために気をつけるポイントを教えてください。
森戸:ヘルパンギーナ、手足口病、プール熱の主な感染ルートは飛沫感染と接触感染です。飛沫感染はくしゃみ、せきをしたときに出る飛沫を介して感染し、接触感染はウイルスを持っている子と直接接触したり、ウイルスが付着したドアノブやタオルなどに触ったりすることで感染します。
ですから予防対策としては、マスク着用と手洗いの徹底が大切です。自分でトイレや手洗いができる子どもには、トイレのあとや鼻水やよだれを触ったあと、食事の前などに、手洗いをしっかりと行うよう声がけをしてください。
子どもが触るおもちゃなどをきちんと消毒し、清潔に保つことも大事です。洗えるものは流水で洗い、洗えないものは次亜塩素酸ナトリウムで消毒しましょう。3大夏風邪の原因ウイルスには、アルコール消毒があまり効果がないので、次亜塩素酸ナトリウムを使ってください。
――暑い夏にマスクを着用するのは厳しいように感じます。マスクはしたほうがよいのでしょうか。
森戸:マスクをすることで、他人に感染させるリスクだけでなく、ほかの病原菌をもらうリスクも下げられます。そのため、私のクリニックでは、熱やせき、くしゃみなどの症状があり、なおかつ、マスクをしていられる2歳以上のお子さんには、マスクの着用をお願いしています。園でも流行時期には、マスクをしたほうがいいでしょう。
あわせて、保育士さん自身の感染対策も忘れずに行ってください。3大夏風邪は子どもの風邪と思われがちですが、先ほどお話したとおり大人も感染しますし、大人のほうが症状は重くなりがちです。ウイルスは便に触れることでも感染しますから、例えば、オムツ替えの間だけでもマスクをするなどの対策をするとよいでしょう。もちろん、使い捨て手袋を使ったりこまめに手洗いをしたりすることも大事です。
――3大夏風邪について、ほかにも気をつけるべきポイントがあれば教えてください。
森戸:はじめて子育てをする保護者のなかには、3大夏風邪をよく知らない人もいるはずです。ですから、3大夏風邪が流行する前に、保護者に向けて3大夏風邪の症状や対策についてお知らせしてはどうでしょうか。
病児・病後児保育に関してもアナウンスしておくとよいかもしれません。保育士の方ならご存じだと思いますが、病児・病後児保育の利用には事前登録が必要です。けれど、それを知らない保護者が意外に多いのです。
実際、子どもがはじめて3大夏風邪にかかって当院を受診した保護者から、「子どもが感染したので病児・病後児保育を利用しようと思って問い合わせたら、事前登録をしていないと利用できないといわれて途方に暮れた」という声を聞くこともあります。
――保育園からのお知らせで事前登録について把握していれば、病児・病後児保育を利用する際にあわてずにすみますね。3大夏風邪のほかにも、夏に気をつけたい病気はありますか?
森戸:夏は高温多湿で汗をかく機会が多くなるので、皮膚疾患が増えます。とびひやあせも、アトピー性皮膚炎の悪化には注意してください。まれに、蚊に刺されたことでアレルギー反応が起こり、手足が激しくはれる子もいます。保育士さんはあらかじめ、保護者に子どもの既往歴などを確認しておくとよいですね。
また、子どもは体内にたくわえられる水の量が少ないため、水分が少し不足するだけで脱水症になります。脱水症と熱中症は命に関わることがあるので、十分気をつけてください。保育園では時間を決めて水分補給を行っていると思いますが、水分補給のタイミングで水をあまり飲まない子がいたら、その後のフォローを忘れないようにしましょう。
――ありがとうございます。最後に、「ほいくらし」の読者にメッセージをお願いします。
森戸:夏は3大夏風邪だけでなく、皮膚疾患、脱水症、熱中症にも注意が必要です。保育士さんの日々の観察が、疾患の予防や感染拡大につながりますので、子どもたちの様子をいつも以上に見守ってあげてください。
疾患を予防するには、保育士さん自身が健康でいることも大切です。ただ、いくら健康管理に気をつけていても、体調を崩してしまうことはありますよね。そんなときは無理をせずに休みましょう。それが病気の感染拡大につながりますし、結果として子どもたちの健康も守れます。
そのためにも、園の管理者の方には、保育士さんに健康管理を促すだけでなく、保育士さんが休みやすい職場環境をつくっていただきたいなと思います。
●どうかん山こどもクリニック https://www.doukan-yama.jp/
取材・文/小川裕子