水泳や体操、ダンス──。“習い事”のようなプログラムを導入する保育園が増加中!? その狙いとは

体操やダンス、音楽、絵画、英語……。近年は「外部のプロ」の協力を得て、“習い事”のようなプログラムを導入している保育園が増えています。実際、ある保育関連会社が全国の保育園に対して2024年に実施した調査では、「保育中にプロの外部講師が直接指導する活動を取り入れている」と回答した園が7割以上にのぼったとか。こうした流れには、いったいどんな背景があるのでしょうか。
今回は、複数の外部プログラムを導入していることで知られる、神奈川県川崎市の「ぶれあ保育園・武蔵中原」を訪問。プログラム導入の背景や具体的なプログラムの内容、子どもや保護者、保育士の反応などについて、園長の伊藤良子さんにお話をうかがいました。
\お話をうかがった方/
伊藤良子さん
幼稚園で7年間働いた後、社会福祉法人の保育園で15年勤務。2020年にぶれあ保育園へ移り、2年前に園長に就任。私生活では子ども2人(高校生と中学生)の母親で、育児休暇をとりながら保育に関わる仕事を続けてきた。保育士としてのモットーは、「『笑顔であいさつ』から広がる安心と信頼を大切に、子どもたちの興味や関心を引き出せる環境をつくっていくこと」。

「選ばれる保育園」を目指し、外部プログラムで他園との差別化を図る

──ぶれあ保育園・武蔵中原では、スイミング、ダンス、体操、そして「すぽむっく♪(※)」と、外部のプロによる付加的サービスを4つも導入しています。いつ頃から、どんな意図があって始めたことなのでしょう?
伊藤:スイミングを始めたのが最初で、開園した2018年から導入しています。都市部の保育園にはありがちですが、当園には園庭がありません。そんな条件下で、「思いっきりからだを動かして遊ばせてあげるにはどうすればいいか?」と考えたとき、たまたま近くにスイミングスクールがあることに気づいたんです。
それで、バスによる送迎付きのスイミングプログラムを導入してみたところ、子どもたちは大喜び。保護者の方たちからも好評をいただきました。その後、5年ほど前からは体操、3年前からはダンスと「すぽむっく♪」を取り入れるなど、徐々にプログラムを増やしていきました。
※音楽と運動の掛け合わせた、同園独自のプログラム。

──外部プログラムを増やしたのは、保護者のニーズを感じたからですか?
伊藤:保護者の方から、具体的に「これを導入してほしい」というご意見をいただいたことはありません。プログラムを増やしたいちばんの理由は、他園との差別化を図るためですね。当園がある川崎市中原区は、保育施設の激戦区です。子育て世帯が多いので保育施設のニーズは高いのですが、そのぶん施設数も多く、認可保育所だけでもエリア内に100以上あります。
そうした環境では、当然私たちも「選ばれる保育園になるにはどうすればいいか」を考えなければなりません。
実際、ほかの園もいろいろな取り組みをされていて、英語のプログラムを取り入れている園もあれば、パソコンのプログラムを導入している園もあります。そんななか、私たちは開園当初からスイミングをしていたこともあり、からだを動かす運動系のプログラムを充実させようと考えたのです。
結果的には、その方針に保護者の方も満足してくださっていると感じています。
スイミングはバスの送迎付き、体操も習い事さながらの本格的なレッスン!

──最初に導入したスイミングは、どのようなプログラムなのでしょう。
伊藤:4歳児、5歳児を対象とした、月2回のプログラムです。園外で行う唯一のプログラムでもあり、近くにあるスイミングスクールからの送迎バスに乗って、みんなでスクールに移動します。
──園外のスイミングスクールでプロのコーチに教えてもらうとなると、習い事とほとんど変わりませんね。
伊藤:そうですね。その点では、習い事をさせたいご家庭のサポートになっている面もあると思います。スイミングは、小さな子どもの習い事として人気が高いのですが、保育園を利用する保護者の方はほとんどがフルタイムでお仕事をされていて、平日にスイミングスクールに連れていく時間がありません。そうすると、どうしても週末を利用することになり、休日が1日潰れてしまったり、利用者が多くてなかなかレッスンが予約できなかったり、ということが起こります。
ですから、保護者のなかには、「保育園がスイミングのプログラムを実施してくれるのは、ものすごく助かる」とおっしゃってくださる方が多いですね。月に2回ではありますが、進級テストもあるので、子どもたちはそれに向けて自宅のお風呂で顔をお湯につけたりして練習しているそうです。
──とても微笑ましいです。スイミングと同様、体操も小さな子どもの習い事として人気が高いですが、こちらは園内で行われているのですか?

伊藤:外部の先生に週に1回来てもらって、園内で行います。対象は3歳児から5歳児で、鉄棒、跳び箱、縄跳び、マットなど、体操のカテゴリに入る種目をすべて教えてもらっています。苦手な子どももいるので、基本的には一人ひとりのペースに合わせて目標を立て、運動会で保護者のみなさんに日頃のがんばりの成果を見てもらうというのが、基本的な活動の流れです。
プロが教えるだけあって、ダンスレッスンの楽曲選びも本格的!

──運動会のように披露する場があると、子どもたちも普段のレッスンに力が入るのではありませんか?
伊藤:おっしゃるとおりです。実は体操だけでなく、4歳児と5歳児を対象に週に一度やっているダンスプログラムでも、運動会で保護者の方に見てもらうという目標を設けています。
昨年の運動会では、5歳児がBTSの「Dynamite」、4歳児がゴリエちゃんの「Mickey」を踊りました。今年の運動会では、5歳児がYouTubeで人気を博した「はいよろこんで」のギリギリダンスを、4歳児がリロ&スティッチの「アロハ・エ・コモ・マイ」を踊る予定です。本番に向けて、いまもみんなで練習しているんですよ。
──プロの先生が教えるだけあって、楽曲の選定も本格的ですね! 「すぽむっく♪」も音楽に関係のあるプログラムのようですが、こちらはどんな内容なのでしょう?
伊藤:音楽に合わせてからだを動かすことで、子どもの表現力やリズム感を育むプログラムです。いわゆるリトミックに近いもので、音楽と運動をかけ合わせた内容になっています。

具体的には、先生が弾くウクレレの音色に合わせてからだを動かしながら歌ったり、マラカスや鈴を鳴らしながら遊んだり、ミラーボールを使って光と音で楽しませたり。1歳から2歳児が対象なのですが、先生が子どもの楽しませ方を熟知した方で、私たち保育士も見ていて感心するほど、いろいろな遊びを提案してくださいます。
子どもたちの成長を目の当たりにするのは、保育士として大きな喜び

──どれも保育士だけでは提供が難しい内容だと感じます。園長先生は外部プログラムを導入するメリットについて、どんなふうにお考えですか?
伊藤:いちばん大きいメリットは、子どもたちがプログラムを心から楽しんでくれることです。私たちとしても、導入の最大の目的が「子どもたちに元気にからだを動かしてもらうこと」だったので、その点では非常に満足しています。
副次的なメリットは、プロの先生に教えてもらうことで、子どもたちがいろいろな技術を習得することでしょうか。スイミングを例にとると、保護者のなかにはお子さんが泳げるようになってほしい、水に慣れてほしいと考える方もいると思います。しかし、近年は公立小学校の水泳の授業が減っているそうで、マンモス校では年に1〜3回くらいしかないところもあると耳にしました。
──それだと学校の授業だけでは泳げるようにならないですよね。
伊藤:そんな背景もあって、スイミングスクールの需要が高まっているようです。当園の外部プログラムが好意的に受け止められているのも、技術の習得という副次要素があるからではないでしょうか。一方、ダンスは小学校の体育の授業で必須科目になっていますから、小学校入学までにダンスに慣れさせておきたいと考える方が少なくありません。体操も同様ですね。
──プログラムを楽しんでいるうちに、気がつけば小学校で必要になるからだの動きや技術が身についている。理想的な保育活動だと思います。
伊藤:それに加えて、運動会で披露する組体操やダンスは、お友だちと力を合わせて練習する必要があるので、集団行動における振る舞いや協調性も身につくと感じています。

──逆に、プログラムを導入してみてデメリットだと感じることはありましたか?
伊藤:どうでしょう。すぐには思いつきませんが、スイミングに関してはスイミングスクールと直接契約していただくことになるので、保育料にプラスアルファのお金がかかることでしょうか。金額は、月に2回で月額4,700円ほどです。ただ、送迎付きと考えれば、一般のスクールに比べて割高ではないと思います。
実際、対象の4歳児、5歳児の9割がスイミングプログラムに参加していますし、参加しない子も「どうしても水を怖がる」「まだスイミングは早い」といった理由がほとんどです。また、スイミング以外の体操やダンスといったプログラムにはお金はかかりませんし、当園の保育料がほかの保育園に比べて高いということもありません。
──ありがとうございました。最後に、プログラムに対する園としての思いをお聞かせください。
伊藤:園としては、プログラムを提供してくれる先生方をお迎えするのに準備が必要だったり、子どもたちがスイミングや体操でけがをしないかどうか注意深く監督したりする必要があります。とくにスイミングは保育士が同行し、何かあったらいつでもプールに飛び込むくらいの覚悟で注視しています。その時間的・精神的コストの増加はデメリットといえばデメリットかもしれませんね。
でも、それ以上に外部の先生の子どもたちとの接し方、教え方には学ぶところが多いので、誰も苦にしていないと思います。
そして何より、泳げるようになったり、ダンスができるようになったり、鉄棒ができるようになったりと、子どもたちの成長を目の当たりにする喜びは、一般の保育だけではなかなか経験できないものです。その点では、園にとっても保育士個人にとっても大きな意味を持つ活動になっているのではないでしょうか。
先ほど、子どもたちや保護者の方のメリットについてお話しましたが、私たちにとっても外部プログラムのメリットは非常に大きいと実感しています。
取材・文/岸良ゆか


