語学やスポーツ、ビジネス、金融教育——。ヒーロー幼児園が考える、「究極の英才教育」とは

語学やスポーツ、ビジネス、金融教育——。ヒーロー幼児園が考える、「究極の英才教育」とは

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まるで初心者向けマネー講座のようですが、実は保育活動の一環として、こうしたビジネス・金融の学習を取り入れている保育施設があります。「やればできる」という考えのもと、子どもたちの可能性を最大限に伸ばすための教育に取り組む「ヒーロー幼児園」です。

ユニークな園名には「未来のヒーローを育成したい」という思いが込められており、英語や計算、体操、IT教育、音楽、ビジネス、自然体験など、カリキュラムは実に多彩。その幅広い教育内容は、保護者や保育業界から注目を集めています。そこで今回は、「ヒーロー幼児園」を設立した代表・福嶋一郎さんに、設立の経緯や同園を通じて実現したいこと、具体的なカリキュラムの内容などについて、話をうかがってみました。

\お話をうかがった方/
福嶋一郎さん
株式会社ヒーロープロデューサー代表取締役
ヒーロー幼児園代表
1969年生まれ。早稲田大学卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社。その後ベンチャー企業を経て、リンクアンドモチベーションに入社し、取締役に就任。一貫して社会人教育や企業成長の支援に携わる。2020年7月に「世の中のヒーローとなりえる子どもたち」を育てることを目的に、株式会社ヒーロープロデューサーを設立。現在は、都内で「ヒーロー幼児園」4園を運営している。

幅広い教育を提供し、「やればできる」という自信を育みたい

福嶋さん考案のオリジナルのボードゲームで、ビジネスや金融について学びます。子どもたちへの指導は、専門的な知識を持つ方にお願いしているのだとか。

――ヒーロー幼児園のキャッチコピーは、「究極の英才教育」だとうかがっています。まずは、園の特色からお聞かせいただけますか?

福嶋:「究極の英才教育」というのは、何かひとつに特化した教育ではなく、オールラウンドな教育に対応していることを表現した言葉です。現在、保育施設にはスポーツに特化した園もあれば、語学に特化したインターナショナルスクールもあります。もちろんそれぞれによさはありますが、ひとつのことに特化してしまうと、どうしてもほかの分野での学びが不足しがちですよね。

また、子どもの得手や不得手はいろいろな経験をしてみないとわかりません。なので、将来に必要な学びを幅広くカバーするオールマイティ型の教育が必要だと思うんです。

ヒーロー幼児園はそうした考えのもとで設立しており、現在は、英語やスポーツ、自然体験から、音楽、ビジネス、金融教育まで幅広い教育を行っています。

ビジネスに関するカリキュラムを入れたのは、もともと私がコンサルタント業の一環で社会人や学生向けにビジネスや金融教育をしていたからです。保育施設のカリキュラムとしては珍しいので、その部分を注目されることが多いのですが、実際はさまざまな教育をバランスよく網羅しているところが特色だと言えます。

――コンサルタント業に従事するなかで、幼児教育に興味を持ったのはどのような経緯からでしょう。

福嶋:長男の入園がきっかけです。幼稚園に入れるにあたって、いくつか園を見学したのですが、なかなかしっくりくるところが見つかりませんでした。そんななか、スポーツに特化した教育を行っている「バディスポーツ幼児園」だけは、子どもの成長を後押ししてくれそうだと感じられ、入園を決めたんです。

同園では、体育を通して子どもの「できた」を育むという方針を打ち出していますが、実際に通わせてみると、長男のできることはどんどん増え、運動能力も伸びました。そして、その姿を見ているうちに、「スポーツ以外のことも教えたら、子どもたちの能力はさらに伸びるのではないか」という思いが強くなっていったんです。

そんな折、バディスポーツ幼児園の園長だった田中先生と話をする機会があり、自分なりの教育論をぶつけてみたところ、すっかり意気投合。お互いの幼児教育への思いが合致することがわかり、2020年には田中先生を園長に迎えて、ヒーロー幼児園を開園しました。

——ヒーロー幼児園は、保育園でも幼稚園でもなく、幼児園という枠組みです。これはどのような理由からでしょうか?

福嶋:長い時間子どもを預かる保育園と、教育機関としての幼稚園のよいところを抽出し、当園独自の教育を提供しているので、「幼児園」という造語を採用しています。

認可を受けてその枠内で運営すれば、国からの補助もあって収益的にはありがたいのですが、それだと国が定めた範囲内の教育しかできません。先ほどお話した「究極の英才教育」ができなくなってしまうんです。そのため、あえて認可を取らない形で、理想の幼児教育を追求しています。

――独自の教育を実施するなかで大切にしている思いなどあれば、そちらもお聞かせください。

福嶋:私たちがいちばん大切にしているのは、「やればできる」と思える人間力の育成です。最初は難しいと思ったことでも、努力すれば少しずつ上達するし、上達すれば自信もつく。それを感じてもらうために、当園ではさまざまな課題に取り組むカリキュラムを用意し、早い時期から成功体験を積ませるようにしています。

英語や体操、ビジネスなどの教育はあくまでも手段であって、目的は学びを通して「やればできる」という自信を育むことなんです。

園児全員が2〜3km走る「朝体操」から1日が始まる

授業は1コマ20分。「ビジネスや音楽など、2コマ分の時間を使ってじっくり取り組む授業もあります」と福嶋さん。

――カリキュラムについて具体的にお聞きします。まずは、園の1日の流れから教えてもらえますか?

福嶋:子どもたちは8時から9時の間に登園し、全員で朝体操を行います。朝体操にはランニングも含まれていて、年中・年長さんは毎日3km走ります。2歳児はほとんど走れないので、散歩から始めて200m、500m、1kmと少しずつ走る距離を伸ばしていく感じです。それでも、夏には2kmくらいは走れるようになりますよ。

――2歳児が2kmも走るのは驚きです!

福嶋:もちろん、ゆっくりと楽しみながらです。最初のうちは嫌がって走らない子もいますが、みんなが走っている間、一人で座って眺めているのも退屈なのか、ほかの子につられて一緒に走るようになります。

朝体操の後は着替えや朝の会を行い、音楽、体操、芸術など1コマ20分の授業が始まります。20分にしているのは、集中力を切らさないためです。まだ授業を受けるのが難しい2歳児は、別のカリキュラムで生活していますが、年中・年長さんは昼食までに3〜4コマの授業をこなします。

――1日のスケジュールのなかには、お昼寝の時間や自由時間もあるのですか?

福嶋:あります。ただ、3歳児のクラスでもお昼寝は12月までで、1月からはなくなります。年少さんになると、読み書きや算数など本格的な授業が始まるので、その準備として昼寝をしない生活に切り替えるんです。

お昼寝の時間がないことに不安を感じる方もいるかもしれませんが、朝体操などを通してしっかり体力をつけているので、子どもたちは終日元気に活動できています。保育園に通わせている親御さんが「園で昼寝をしすぎると、夜ふかしになって困る」と話すのをよく聞きますが、当園の子どもたちは朝から3km走って勉強もこなしているため、夜ふかしすることもないようです。

自由時間は、すべてのカリキュラムが終わった2時半から、保護者のお迎えを待つ5時までです。授業の合間には設けていません。開園当初は授業の合間にも自由に遊ぶ時間を設けていたのですが、ある時期から子どもたちが「あれがやりたい」「これもやりたい」と授業を望むようになったんです。いろいろな授業を経験するうちに「もっと学びたい」という気持ちが強くなったのかもしれませんね。結局、自由時間にも授業を行うことが増えて、今の形になりました。

ただ、息抜きも必要なので、月に一度は授業を行わない日を設けています。その日は、みんなで水遊びをしたりゲームをしたりして、のんびりと過ごしています。

「仕事は楽しくてすばらしいこと」だと理解してほしい

メーカーの仕事の流れを学べるボードゲームで遊ぶ子どもたち。ゲームを通して、顧客のニーズに合わせたものづくりや、仕入れ値と利益の関係などについて学びます。

――オールラウンド型の園であることを理解しつつも、ヒーロー幼児園にはやはりビジネスや金融教育のイメージがあります。そういった教育を行う狙いについてお聞かせください。

福嶋:幼少期から世の中の仕組みに触れることで、子どもの視野を広げたいという思いがあります。野球、サッカーといったスポーツの世界では、小さい頃から学ぶ環境が整っていて、世界で活躍する人も多く生まれています。しかし、ビジネスの世界にはまだそうした環境が整っていません。

加えて、日本ではお金の話がタブー視されがちで、子どもが自然に学ぶ機会がほとんどない状況です。それに対してアメリカやヨーロッパでは、若いうちから起業する人も多く、子どもの頃からお金やビジネスに触れることができます。

そうした状況を考えると、日本の金融教育は明らかに遅れています。社会に出ればお金と無縁ではいられないのに、知識として知らないのでは、視野を狭めてしまいますよね。だからこそ、幼少期からお金の仕組みや生み出し方、使い方を学んでもらい、将来に役立ててほしいと思ったのです。

――実際にどのような内容の授業を行っているのでしょうか。

福嶋:「ビジネス・社会」の授業のなかから、独自性の高いものを3つ紹介します。まずは「職業クイズ」です。

このクイズでは、先生がある職業について書かれた問題を読み上げ、子どもが職業名を答えます。例えば「結婚式を楽しくするために準備を手伝ってくれる人は誰?」「野菜や果物を仕入れて、みんなに売ってくれる仕事は?」と聞いて、子どもたちが思いついた職業名を答えていくといった具合です。

答えは「ウェディングプランナー」と「八百屋さん」ですが、これを繰り返し行っていくと、子どもたちは卒園までに150種類の職業を覚えます。

――いろいろな職業を覚えると、将来の選択肢も増えそうです。

福嶋:そうなるといいですね。少し話がそれますが、このクイズにはこんな裏話もあるんです。

ある日、仕事に関するボードゲームをしている子どもたちが、楽しそうに自分の職業を選んでいました。それで、私が「実際の仕事は楽しいと思う?」と聞いてみたら、「楽しくない」「つらいし、大変だと思う」という答えが返ってきたんです。

おそらく、家庭で「パパは仕事で疲れているから、静かにして」とか「今日は疲れたから、ゆっくりさせて」とか、仕事をネガティブに捉える発言を聞いているからでしょう。そのために、子どもたちは「仕事は疲れるし、楽しくないものだ」とインプットしてしまったわけです。それだと、仕事に対してポジティブなイメージを描けませんよね。

なので、「仕事をすると誰かの役に立てて嬉しくなる」ということを伝えるために、クイズにひと工夫を加えることにしたんです。

――どんな工夫ですか?

福嶋:クイズを出しながら、その仕事におけるやりがいも教えることにしました。ウェディングプランナーなら、「結婚式のお手伝いをすると、結婚する人やお祝いに来た人に喜んでもらえるからうれしい」というのがやりがいですよね。そのように職業名とやりがいをセットで覚えることで、仕事は楽しくてすばらしいことだと理解できるのです。

ボードゲームには、「顧客のニーズに合わせた商品づくり」を実践する場面も。ブロック遊びを取り入れるなどして、子どもの力を多角的に伸ばす工夫が凝らされています。

――素敵な工夫だと思います。ほかの授業内容についても教えてください。

福嶋:先ほどの話に出てきた、お仕事ボードゲームもビジネスの授業のひとつです。内容は4種類あり、職業を選んで給料を得るゲーム、稼いだお金を投資するゲーム、商社やメーカーの仕事の流れを学ぶゲーム、お金以外の指標で競うゲームの4種類です。いずれもすごろく形式になっていて、遊び進めるなかで弁護士や医者などの収入を知ったり、投資の仕組みを学んだり、仕入れから商品化までの流れを体験できたりします。

ちなみに、お金以外の指標というのは「人生100年の中で何を学び、何に幸せを感じるか」といった個々の価値観のことで、ゲームを通してこうした価値観を認識してもらいます。

これらのゲームは、社会で生きていくのに必要な知識を身につけてもらうために、私が考案しました。授業の多くは、保育士や幼稚園の教諭が担当しますが、ボードゲームは専門性が必要なので、私と商社で海外赴任の経験もある方が一緒に指導しています。

そしてもうひとつの授業が、「ヒーロースタンスかるた」を使ったかるた遊びです。これは普通のかるたと違って、大人になっても大事にしてほしい考え方が学べるようになっています。例えば、「あ」の絵札には、子どもがおばあさんに椅子を勧めている絵が描かれていて、「相手のことを思いやろう」という読み札に対応しています。

――面白そうですね。ほかに、どのような札があるのでしょうか?

福嶋:ほかには「わからないときは考えよう」「くやしさをバネにしよう」「“だって”と言い訳しない」などがあります。言ってみれば、子どもたちのなかに根付かせたい考え方を入れ込んだ感じですね。

そうした考え方は、言葉で伝えるのが一般的かもしれませんが、先生に「最後まで頑張りなさい」と言われてやるより、自分のなかに根づいた言葉や思いで奮起するほうが、自信につながりますよね。ですから「ヒーロースタンスかるた」の言葉がしっかりと根づくように、繰り返し学んでもらっています。

――「ビジネス・社会」の授業を通して、子どもたちに何か変化はありましたか?

福嶋:最初に卒園した子どもがまだ大人になっていないので、当園での教育がどのように作用するのかはわかりません。ただ、保護者の方からは、「子どもが世の中の仕組みに興味を持つようになった」という声をよく聞きます。「今日の株価はどうなってるの?」「ちゃんと税金払ってる?」などと親に聞く子もいるみたいですよ(笑)。なかには、子どもがリアルな投資をしたいと言ったことで、証券会社に口座を作ったご家庭もあります。

繰り返しになりますが、日本の金融教育は遅れています。これは聞いた話ですが、日本人は大人でさえ「金融の知識に自信がありますか?」と聞かれると、8割の人が「自信がない」と答えるそうです。そんななか、子どもたちが社会やビジネスに興味を持ってくれていると聞くと、自分たちの方針に手応えを感じますね。

幼児教育が発展するためのモデルケースを目指す

年少クラスの英語の授業風景。独自プログラムを教えるための講習を受けた保育士や幼稚園教諭が、子どもの指導にあたります。

――ヒーロー幼児園の活動は、保育業界からも注目されています。そうした立場から、現在の幼児教育に対して感じていることはありますか?

福嶋:時代が変わっていくなかで、幼児教育が変わっていないことにはやはり疑問を感じます。ただ、業界全体をすぐに変えるのは簡単ではありません。なので、時代の流れや子どもの将来を見据えた保育園経営をする施設が、もっと増えてほしいと思います。

そのためには私たちが頑張って、よい意味でのモデルケースとなる必要があるでしょう。私たちの取り組みに対して保護者の賛同が得られれば、同じような園が自然と増えてくると思うんです。そういった流れのなかで、幼児教育がもっと幅広い方向に発展すればいいですね。

――ありがとうございました。最後に、「ほいくらし」の読者である保育士さんにメッセージをお願いします。

福嶋:当園に来てくれた保育士のなかには、それまでの保育活動に対して「本当に子どものためになっているのだろうか」という不安を抱いていた人や、古い習わしや体制に疑問を感じていた人もいます。変化を求めても実現しない現場はたくさんあるので、そこにいる限り不安や疑問を感じるのは仕方のないことかもしれません。

しかし、「現状維持は衰退の始まり」という言葉があるように、保育の世界を活性化させるにはアップデートが必要です。「保育はこれでいいんだ」などという正解はありませんからね。そして、そのために大切なのは変化を恐れないことです。自分の理想の保育を実現するためにはどうすればよいのかを考え、常に自分自身をアップデートしてほしいなと思います。

取材・文/木下喜子

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