実力アップセミナーレポート【2018/03/25開催】井上 さく子先生『21世紀型の保育について』

実力アップセミナーレポート【2018/03/25開催】井上 さく子先生『21世紀型の保育について』

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今回のテーマは「21世紀型の保育について」

3月25日(日)、マイナビ保育士では保育環境アドバイザーの井上さく子先生を講師にお招きし、『保育士のための実力アップセミナー』(東京・JR新宿ミライナタワー25階・マイナビルーム)を開催いたしました。2018年4月1日から施行の新たな保育所保育指針を見据え、今回のセミナーテーマは『21世紀型の保育について』です。

1976(昭和51)年より、東京都の目黒区立保育園に勤務し、38年の保育士歴を経て、日々、子どもたちの「つぶやき」を拾い続けてきたさく子先生は、昭和から平成、20世紀から21世紀へと移り変わってきた社会情勢と、まるで合わせ鏡のように変化してきた保育現場の「ナマの声」をもとに、今後、目指すべき「21世紀型保育」を語ってくれました。
後半はディスカッションコーナー、質問コーナー等も設け、講師と参加者全員が「子ども主体の保育とは何か?」について考える、実り多きセミナーとなりました。

いつも意識したい「誰のための保育?」

井上さく子先生のセミナーは、本題に入る前の序曲、リラックスタイムとして、さく子先生自身が子どもたちの「つぶやき」を拾い、その想いを込めて編み上げた自作詩の朗読から始まります。
その後は、さく子先生が全国各地の幼稚園、保育園、こども園、子育て支援センターなどを回り、子どもたちと触れ合い、ウオッチングするなかで撮りためてきた保育現場の写真をスライドショーで披露。その写真とともに「現在進行形の保育現場」を語る形式で進行。一見、何気ない日常風景を切り取っただけに見える写真の中にも、子どもたちが発するサイン、日々の成長と工夫、子どもたちが本当に求めている遊びなどのヒントが隠されています。さく子先生はその微細なサインを見逃しません。毎日、子どもたちと接していると、つい見逃してしまいがちともなる子どもたちの訴えを代弁してくれます。

保育の業務には、日々のルーティンとなる作業があります。当然、時間にも追われます。保育士さんたちは「保育のプロフェッショナル」として業務をスピーディーに遂行していくのですが、ここに落とし穴があります。「オトナたちの都合で子どもを動かしていませんか?」「それは、もしかして”オトナのためのルール”なのでは?」と、さく子先生は忌憚なく疑問を投げかけます。
さく子先生は自らの園長時代、子どもたちの「最善の利益」を保証するために、全職員に「指示・命令・禁止用語の禁止」を通達しました。1年間は職員側も我慢の連続だったそうですが、その結果、「指示・命令・禁止用語」に代わって「対話的保育」「応答的保育」という世界が誕生。オトナがあえて簡単に教えない、答えを出さないことに徹した成果で、子どもたちは常に自分の頭で考え、自分の言葉の引き出しを開け、まるで言葉を覚えるかのように、豊かに人間関係を育むようになったそうです。
その他、「園庭をどのようにデザインしてきたか?」という実践の歴史、「丁寧な保育とは決して過保護のことではない」「仕掛け、作りすぎた異年齢交流は本物ではない」「子どもたちは”名もない遊び”の中からこそ生きる力を身につけている」「『危ない!』を取り上げてしまったらケガをする」など、さく子先生ならではの、ソフトな語り口で優しいオブラートに包みつつ、チクリと現状に警鐘を鳴らすスタイルのトークで、現代保育の問題点を洗い出し、そして目指すべき方向性を提示してくれました。

その後は参加者3人以上で臨時のグループを組み、前述の内容についてディスカッションを重ねつつ、それを発表。または、さく子先生に自身の保育現場で抱える悩みなどを相談するコーナーが設けられました。

セミナー参加者からは「写真が多く、お話の実際のイメージがわきやすく、とても面白かったです」(保育士)、「今は『危ない!』と思うと、ついつい『ダメッ!』と言ってしまっているので、心に×マスクを心がけていきたい」(保育士)、「ケガをさせない保育をすると、ケガをする子どもに育ってしまう、という言葉が響きました」(4月から保育士に)、「当園では『これはやってはダメ』というようなルールが多すぎ、なかなか流れを変えられないジレンマがあります」(保育園看護師)などの感想が寄せられました。

新しい保育所保育指針が意味すること

後半の焦点は2018年4月1日から施行された新しい「保育所保育指針」についてです。
「丁寧な保育」と口にするのは簡単ですが、それは皆さん、保育士になった時点で心がけている、ごく当たり前のことでもあります。では、新指針において「丁寧な保育」とあえて謳っている意味とは何か? さく子先生は「丁寧さの源とは子どもとの『愛着関係』です。特に0歳児においてはそれが重要です」と即答。そこには保育現場において、保育士が一人ひとりの育ちの違いを、しっかりと見抜く力をつけていくことが問われているのです。

保育者との愛着関係によって、食事や排泄といった生活面の下地ができた子どもだけが、一人遊びを経て、やがて2人、3人と関わりつつ遊ぶという「遊びの世界」へと羽ばたいていくことができます。そんな時期、保育士は「それぞれの年齢に合った環境構成で散りばめられているか?」に注意を払い、しっかりとツボを押さえた環境構成を整える必要があります。かといって、何でもグループで固めてしまい、何事も集団で一斉に……というような教育はNGです。

「私たちが動かす保育ではなく、子どもが主体的、能動的に動く、楽しい環境を用意しませんか?」と、さく子先生は改めて訴えかけました。
セミナー参加者からは「新指針の意図が、わかり易く、かみ砕かれた内容で説明され助かりました」(保育士)、「保育の在り方が、ようやく時代を経て、このような「子ども主体」の保育になってきたことに感銘しました」(現在求職中)などの感想が寄せられました。

井上さく子先生プロフィール

いのうえ・さくこ 1953(昭和28)年、岩手県遠野市出身。1976年4月、東京・目黒区立第二田道保育園を皮切りに保育士生活をスタート。結婚、出産を経て2人の娘を育てながら保育士として活動。2014年、目黒区立ひもんや保育園の園長職を最後に38年間にわたる保育士生活にピリオド。以降はフリーの保育環境アドバイザーとして研修会講師、講演活動、執筆活動など多角的に子どもの世界を広く人々に伝える活動にまい進。
新渡戸文化短期大学の非常勤講師、臨床育児・保育研究会世話人、環境部会世話人、アサラゲコチャ(希望をもつ):ネパールOKバジを支援する会代表として、本人曰く「回遊魚のような生活です」というほど多忙な毎日を送る。最近は3人の孫の世話にも追われ、さらに大忙しに。
著作は数多く、2018年1月に発売の近著『保育士という生き方』(イースト新書Q)も各方面で話題となっている。また「遠野あとむ」のペンネームで詩作、朗読、イラストレーターとしても活動中。

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