子どもを信じて任せる、いま注目の子ども教育――。 保育士が、「モンテッソーリ教育」いますぐ取り入れるコツ。「吉祥寺こどもの家」園長・百枝義雄先生インタビュー【第1回】

子どもを信じて任せる、いま注目の子ども教育――。 保育士が、「モンテッソーリ教育」いますぐ取り入れるコツ。「吉祥寺こどもの家」園長・百枝義雄先生インタビュー【第1回】

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近年、イタリア発祥の「モンテッソーリ教育」が世界的に再評価されています。そのきっかけは、Google、Amazon、Facebook、Wikipediaなどの創業者たちが一様にモンテッソーリ教育を受けていたことや、将棋界の若き天才、藤井聡太氏がモンテッソーリ教育の幼稚園に通っていたことが報じられたことにありました。そのモンテッソーリ教育とはどんな教育手法なのでしょうか? その概念を一般の幼稚園や保育所に取り入れる方法と併せて、「吉祥寺こどもの家」園長・百枝義雄先生に教えてもらいました。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹(株式会社ESS) 写真/和知明

モンテッソーリ教育とは? それまでの子ども像を変えたモンテッソーリ教育

モンテッソーリ教育とは? それまでの子ども像を変えたモンテッソーリ教育

――モンテッソーリ教育についてお聞かせください。

「モンテッソーリ教育」を考案したのは、イタリアの女医であるマリア・モンテッソーリです。19世紀末、当時はまだなかった医学的なアプローチと教育的なアプローチを同時に行う「療育」(発達支援)を試みるプロジェクトに、ローマ大学が着手しました。彼女は、そのプロジェクトのメンバーに抜擢されます。

プロジェクトで彼女は、子どもたちがなにをしたがっているのかを注意深く観察することに徹しました。子どもたちの親や、教育者でないからこそ、先入観なく子どもたちを観察することができたのです。

そして、観察からの気づきをもとに、子どもたちがやりたがっていることを実現できる環境を整え、教育法を構築しました。

この教育法がモンテッソーリ教育の代名詞といわれる「おしごと」です。子どもの好奇心をくみとり、それぞれが興味を引かれる教具(おもちゃ)を使って遊びながら学びます。洗濯をしたり、裁縫をしたり、夢中になって字を読んだり書いたりすることを「遊び=おしごと」として取り組みます。

この教育法を知的障害のある子どもたちの治療教育課程で施したところ、知的水準が上がるなど、子どもたちに驚きの効果が見られ、その絶大なインパクトにより、モンテッソーリ教育はあっという間に世界中に広まることになりました。20世紀初頭のことです。

――日本で注目されたきっかけは?

モンテッソーリ教育が、日本で注目されるきっかけとしては、棋士の藤井聡太氏がモンテッソーリ教育の幼稚園に通っていたことが報じられたことが大きかったようです。また、イギリス王室のウィリアム王子が、ふたりの子どもをモンテッソーリ教育の幼稚園に通わせたことも関心を持ってもらえた要因だったと推測します。

一般の保育教育との違いは? 自分を伸ばす力を持っている子どもを信じる

一般の保育教育との違いは? 自分を伸ばす力を持っている子どもを信じる

――モンテッソーリ教育の特徴をお聞かせください。

一般の保育教育と比較してモンテッソーリ教育が異なる大きな特徴は、「子どものなかに自分を伸ばす力があり、その力を持つ子どもを大人が信じる」ということが挙げられます。そして、そのことを教育の出発点にしている点だと考えます。

ですから、大人が勝手に「今日はお歌を歌いましょう」「お絵描きをしましょう」と子どもたちに遊びや学びを押し付けるようなことは一切しません。子どもたち自身がやりたいことを思う存分、納得いくまでやるのがモンテッソーリ教育だからです。もちろん、やることは子どもそれぞれ。というのも、子どもそれぞれに子ども自身が伸ばしたいところが異なり、かつ、それぞれの子どもたちが自分の伸ばしたいところを理解しているからです。

子どもは自分自身がやりたいことを選ぶのですから、一生懸命にやります。そのため、子どもは自分自身が伸ばしたいところをしっかり伸ばしていけるのです。わたしたち大人は、子どもの伸びる力を信じ、子どもがやりたいことを実現できる教具を用意したり環境をつくったりするといった、サポートをするに過ぎません。

――そのような環境で育った子どもたちは、どんな人間に成長するでしょうか?

「自分を信じ、まわりの人も信じられる人間」に成長すると思います。なぜなら、モンテッソーリ教育の現場では、まわりの大人たちが子どもを信じているからです。まわりの大人が信じてくれているから子どもは自分でいろいろなことをやるようになる。そして、自分を信じられる人間に育っていきます。

また、モンテッソーリ教育では、ほかの子どもたちと比較評価するようなことはありません。仮になにかに失敗しても、怒ったり評価したりしないので、子どもは「失敗しても行動を認められる」という安心感から、失敗を恐れず、自分の行動に自信を持ちます。その結果、まわりと信頼関係の構築が円滑にできる人間に成長すると考えます。

大人が取り上げている役割を子どもに返してあげる

大人が取り上げている役割を子どもに返してあげる

――モンテッソーリ教育を保育の現場で活用する方法をお聞かせください。

モンテッソーリ教育独自の教具は一般の園にはないでしょうから、別のアプローチで考える必要があります。そこでまずは、「子どもを信じて任せる」ということを実践してみることからはじめてみてください。

一般の園を見ていると「これは子どもにはできないもの」と決めつけていることが多いようですが、やり方や道具さえ工夫すれば、いくらでも子どもにできることはあるはずです。

たとえばわたしたちの園では、子どもたちの出席を取るのも子どもの役目です。大人が使う出欠簿ではなく、カードにひらがなで子どもたちの名前を大きく書いておけば、日直の子がお友だちの名前を呼んで出席を確認することができます。

お昼寝で使う布団や掃除に使うほうきなどの道具も、子どもが使いやすいサイズのものにするといいでしょう。そのうえで、「こうしなさい」ではなく「こうするんだよ」とやり方さえ教えてあげれば、子どもたちは自分で布団を出したりしまったり、掃除をしたりするようになります。このことをモンテッソーリ教育では、「大人が取り上げている“おしごと”(役割)を子どもに返してあげる」と表現します。

大人はどうしても、「子どもは自分ではなにもできない存在」だと思い込みがちです。その思いがベースにあると、先生は指示する人、子どもたちは受け身で指示を待つ人というように関係性が固定されてしまいます。その関係性がある限り、子どもたちは自分のなかにある「自分を伸ばす力」を生かすことは難しいでしょう。

ならば、子どもを信じて任せてみてはどうでしょうか? 自分でやれることがどんどん増えていくのですから、子どもはますますやる気になり、いろいろなことに挑戦していくようになります。そういう好循環が生み出せれば、状況は大きく変わっていきます。

「どんな声かけをすべきか」という発想自体を改めよう

「どんな声かけをすべきか」という発想自体を改めよう

――声かけのポイントと注意点をお聞かせください。

わたしたちの園には、一般の幼稚園や保育所の保育士さんたちが見学に訪れます。すると、「こういうときは、どんな声かけをすればいいでしょうか?」といった質問を受けるのです。たとえば、「走ってほしくない場面で子どもが走り回ってしまうときの声かけは?」「静かにしてほしい場面で子どものおしゃべりが止まらないときの声かけは?」といった具合です。

でも、わたしからすれば、「どんな声かけをするべきか」という発想から改めるべきだと思うのです。大人同士の関係性において、先の例のような質問を考えてみましょう。たとえば、「僕の彼女を思い通りに行動させるには、どんな声かけをすればいいかな?」。こんなことを誰かに聞くような彼氏は、誰でも嫌ではありませんか?……(笑)。それなのに、子どもに対しては平気でそういう考えを持ってしまう大人が多いから不思議です。

では、みなさんはどんな人の意見なら素直に聞き入れることができますか? その答えはシンプルに「信頼している人」だと思います。

それはもちろん、大人と子どもの関係においても変わりません。まずは子どもを信頼すること。さらに子どもから信頼してもらえて、はじめてきちんと言葉を受け入れてもらえるのです。

ですから、どこでも走り回ってしまう子どもに対しては、頭ごなしに注意するのではなく、「いまここで走ったらどうなると思う?」と、子どもに向き合いながら率直に聞いてみましょう。信頼してくれている子どもなら、素直に言葉を受け入れ、自分自身で考えてくれます。考えた子どもが、「お友だちとぶつかっちゃうかもしれない」と答えたとします。そこで、「うん、危ないよね。だからいまは走るのをやめようね」といえば済む話なのです。そんなシンプルな発想のもと、子どもへの声かけを意識してみてください。

保育士にありがちな「困ったシチュエーション」……。 注目の「モンテッソーリ教育」ではどう対応する? 「吉祥寺こどもの家」園長・百枝義雄先生インタビュー【第2回】はこちら!

著書紹介
『「集中できる子」が育つモンテッソーリの紙あそび』
百枝義雄・百枝知亜紀 著 PHP研究所(2019)

百枝義雄(ももえだ・よしお)

百枝義雄(ももえだ・よしお)

1963年10月23日生まれ、長崎県県出身。吉祥寺こどもの家園長。東京大学教養学部教養学科第一表象文化論分科卒業。日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成センター卒業、モンテッソーリ教師(3歳〜6歳)資格取得。横浜国際モンテッソーリ乳児アシスタントコース卒業、AMI乳児アシスタント資格取得。2002年度より2006年度まで日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成センターの実践講師として3歳〜6歳のモンテッソーリ教師養成に携わる。2007年、同センターで0歳〜3歳のモンテッソーリ教師養成コースを立ち上げ、2011年3月まで4期にわたり実践講師を担当。現在は、モンテッソーリ・ラ・パーチェ トレーニングコース代表、日本赤ちゃん学会会員も務める。著書に『「自分でできる子」が育つモンテッソーリの紙あそび』(PHP研究所)、『「1人でできた!」を助けるおうちでモンテッソーリ子育て お母さんはラクになり、子どもの未来が輝く』(PHP研究所)、『父親が子どもの未来を輝かせる』(SBクリエイティブ)などがある。

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