「この子、もしかしたら発達障害かも……」 そう感じたとき、保育士はどうするべきか? お茶の水女子大学名誉教授・榊原洋一先生インタビュー【第2回】

「この子、もしかしたら発達障害かも……」 そう感じたとき、保育士はどうするべきか? お茶の水女子大学名誉教授・榊原洋一先生インタビュー【第2回】

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近年、「発達障害」が保育現場における大きな課題としてクローズアップされることが増えてきました。日々、保育の現場にいるみなさんのなかにも、「もしかしたら、この子は発達障害かもしれない……」と感じた経験がある人がいるかもしれません。では、そんなとき保育士は何を考え、どうすればいいのでしょうか? 発達障害研究の第一人者である、お茶の水女子大学名誉教授・榊原洋一先生にアドバイスしてもらいました。

前回の記事、「発達障害」は保育現場の大きな課題 保育士が最低限知っておくべき「基本のき」とは? お茶の水女子大学名誉教授・榊原洋一先生インタビュー【第1回】をまだご覧になっていない方は、まずはそちらの記事をご覧ください。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹(株式会社ESS) 写真/山本未紗子

保育士としての大切な役割は、「子どもの発達障害に気づく」こと

保育士としての大切な役割は、「子どもの発達障害に気づく」こと

――発達障害の子どもと接する際、保育士が果たすべき役割には、どんなものがあるのでしょうか。

大切な役割として、「子どもの発達障害に気づく」ことが挙げられます。発達障害の行動特徴には、「家庭ではあまり見られないのに、幼稚園や保育所における集団生活のときによく見られる」というものもあります(インタビュー【第1回】参照)。ですから、親は気づかないのに、保育士が発達障害に気づく、という可能性は非常に高いのです。

そして、もしその可能性に気づいた場合は、まずは親御さんとしっかりと話をしたうえで、医師など専門家に診断してもらう必要があります。その際、きちんと認識しておいてほしいのは、発達障害は一般的な病気とはまったくちがうものだということ。たとえば、園で子どもが発熱した場合、医療機関に連れていけば治療してもらえます。でも、発達障害の場合は、診断はできてもその場で治療できるものではありません。ですから、ある子どもが発達障害と診断されたなら、その子にあった対応法を考えていく必要があります。

とはいえ、発達障害の対応法は千差万別。「注意欠陥多動性障害の子どもにはこうしたほうがいい」「自閉症スペクトラム障害の子どもにはこうしたほうがいい」というふうに、一律に決まっているものではありません。だからこそ、保育士さんにも発達障害の特徴や対応法を勉強してもらい、私たちと一緒に支援してもらう必要があります。「絵本の読み聞かせをするとき」「外遊びをさせるとき」「イベントに参加させるとき」というふうに、さまざまな場面に応じた対応法を解説した専門書が存在しますから、興味のある方はぜひ手に取ってみてください。

「オリジナルの対応事例集」をつくっておくと、現場の強力な武器になる

「オリジナルの対応事例集」をつくっておくと、現場の強力な武器になる

――保育士が勉強するにあたって、参考になる取り組みがあれば教えてください。

近年は、臨床心理士などの専門家を呼んで、発達障害の子どもへの対応法に関する勉強会を開いている園もあります。中には、専門家と保育士がセッションするだけでなく、実際に子どもたちの行動を専門家に見てもらい、より具体的な対応法を講義してもらうケースもあると聞いていますので、機会があれば参加してみるのもいいでしょう。

また、「オリジナルの対応事例集」をつくるのも、ぜひやってほしいことの1つです。私が書いた『発達障害のある子のサポートブック 保育・教育の現場から寄せられた学習困難・不適切行動へのすぐできる対応策2800』にも、400人を超える保育士さんや教員から、実際の保育現場、教育現場における発達障害の子どもの問題行動とその対応事例をまとめてありますので、参考にしながら自分なりの事例集を作ってみてください。

もし、個人で取り組むのが難しい場合は、園全体、あるいはグループや地域の園を挙げて取り組むといいかもしれません。「Aという子どものBという行動には、Cという対応したらうまくいった」など、さまざまな事例がどんどん集まるので、それらを共有するだけで、自分たちだけの強力な武器になるはずです。

親御さんには「園としてきちんと対応していく」という意思を伝えてほしい

親御さんには「園としてきちんと対応していく」という意思を伝えてほしい

――発達障害の子どもを持つ親御さんへの対応についても、アドバイスをお願いします。

先にお伝えしたように、親御さんより先に保育士が子どもの発達障害の可能性に気づくケースがあります。そして、そのことはきちんと親御さんに伝えなければなりません。そのときに、まず意識するべきなのは「発達障害を持っていても、自分たちの園できちんと対応していく」という意思を伝えることではないでしょうか。

親御さんにとってのいちばんの心配事は、「『他の園に移ってほしい』『特別支援学校に移ってほしい』といわれるのではないか……」ということ。だからこそ、「うちの子が発達障害であるはずがない!」というような主張をして、保育士さんや教員とトラブルになるケースが起きてしまったりもします。ですから、「親御さんと相談しながら、自分たちできちんと面倒を見ていくつもりだ」と伝えることが、とても重要だと私は思っています。

しかし、なかには「自分の子どもに発達障害の疑いがあることを認めたくない」という親御さんもいます。そういうときは、親御さんに許可を取ったうえで、園内における子どもの様子を動画撮影し、それを見てもらう方法が有効です。繰り返しになりますが、発達障害には集団生活のときによく見られる行動特徴があるからです。

そうやって、実際に問題行動を動画で親御さんに見てもらい、親御さんとコミュニケーションを取る際も、「自分たちの園で責任を持って対応していく」ということをしっかりと伝えてください。そうすることで、親御さんと無用なトラブルを起こす可能性も低くなるはずです。

著書紹介
『子どもの発達障害 誤診の危機』
榊原洋一 著 ポプラ社(2020)

榊原洋一(さかきはら・よういち)

榊原洋一(さかきはら・よういち)

1951年12月15日生まれ、東京都出身。お茶の水女子大学名誉教授。医学博士。東京大学医学部卒業後、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授等を経て2016年より同大学名誉教授。CRN(Child Research Net)所長、日本子ども学会理事長等の肩書も持つ。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学等を専門とし、なかでも発達障害研究の第一人者として知られる。『最新図解 女性のADHDサポートブック』、『最新図解 ADHDの子どもたちをサポートする本』、『最新図解 自閉症スペクトラムの子どもたちをサポートする本』、『最新図解 発達障害の子どもたちをサポートする本』(いずれもナツメ社)、『発達障害のある子のサポートブック 保育・教育の現場から寄せられた学習困難・不適切行動へのすぐできる対応策2800』(学研プラス)など著書多数。

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