子どもたちは自然から人生を学ぶ。「自然体験保育」の狙いとそこにある3大効能|プロナチュラリスト・佐々木 洋

子どもたちは自然から人生を学ぶ。「自然体験保育」の狙いとそこにある3大効能|プロナチュラリスト・佐々木 洋

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近年、自然に触れる活動を通じた保育である「自然体験保育」の注目度が増しています。では、自然体験保育とはそもそもどんなもので、どんな狙いやメリットがあるのでしょうか。

幼稚園や保育所、小学校などで自然体験保育を指導するプロ・ナチュラリストの佐々木 洋さんに、自然体験保育の基本を教えてもらいました。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)
取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

生活をしている場所で身近な自然を感じさせる保育

写真提供:佐々木 洋氏

――「自然」というと、遠くに行かなければ味わえない特別なもののイメージがあるのですが。

とくに都市部に住んでいる人のなかにはそう思っている人もいるかもしれませんね。でも、それこそ園庭や小さなプランターのなかにも自然はあります。

「自然体験保育」にもいろいろなタイプのものがありますが、やはり基本となると、「毎日生活をしている場所で、子どもに身近な自然を感じさせる保育」となるでしょうか。

そういう意味でも、わたしは自然観察のことを「自然感察」と表現しています。「観察」ではただ見るだけという意味にとらえてしまいますが、やはり自然を「感じる」ことが大切だからです。

――子どもに自然を感じさせるべき理由はなんでしょうか?

わたしは「自然感察」=自然を感じるものさしをつくる」ことだと考えています。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、子どものうちに自然を感じるものさしを持てていないと、大人になったときに地球規模での自然を感じられません。

たとえば、まったく自然を感じることなく育った子どもがいるとします。その子が、小学生や中学生になって環境問題について学んだところで、その問題を自分ごととしてとらえることができるでしょうか? 自然が身近に存在しなかった子どもたちに、おそらくそれは無理でしょう。ですから、小さいうちから自然に親しむことが大切なのです。

身近にある自然とは、動植物に限ったものではありません。天気や風なども含めて、園庭など外に出たときに感じるものすべてが、子どもにとっての自然だというふうに保育士のみなさんには考えてほしいですね。

――自然体験保育にはほかにもメリットがありそうですね。

はい。自然体験保育には、先に述べた「自然を感じるものさしをつくる」という目的とは別にさまざまな「効能」があります。それは次の3つです。

【自然体験保育の3大効能】

  1. 多様性を知れる
  2. 究極の癒やしを得られる
  3. 思いどおりにならないものの存在を知れる  

一つひとつを詳しく説明していきましょう。

生き物を通して、多様性を受け入れることができる

1つ目は、「多様性を知れる」ということ。なぜなら生き物の種類は本当に数え切れないほど多いからです。電車が好きな子なら、あらゆる種類の電車を覚えているということもあるでしょう。

でも、生き物の場合は絶対にすべてを覚えることはできません。園庭で見られる虫に限ったとしても、すべての虫の名前をいうなんてことは、大人にだってできませんからね。そのことが、多様性を知ることにつながります。

「みんなちがって、みんないい」なんて言葉もありますが、世の中にはほんとうにいろいろなものがあって、なにひとついらないものはありません。たとえば、一般的には嫌われているカラスだって、自然界では掃除屋さんという重要な役割を担っています。もしカラスがまったくいなくなってしまえば、自然界のバランスは崩れてしまうでしょう。

この意識は、人格形成にとっても重要なものです。クラスにはいろいろな友だちがいて、同じ子は誰もいなくて、そしていらない子も誰もいません。「みんなが大事なんだ」ということを子どもは自然を通じて学ぶことができます。

自然に触れることで悩みを抱えた心が癒やされる

写真提供:佐々木 洋氏

2つ目の効能は、「究極の癒やしを得られる」ことです。天真爛漫に見える子どもだってみんな悩みを抱えています。大人であるみなさんも、大きな悩みを抱えたときに海を見たり森のなかを散歩したりすることで、癒やされるということがあるでしょう。

当然、同じことが子どもにもいえます。たとえ本人は無意識であっても、原っぱでバッタを追いかけたり園庭でダンゴムシをじっと観察したりするうちに、子どもたちの心はずいぶんと癒やされるのです。

思いどおりにならない自然の現実が、人生を歩む力を与えてくれる

3つ目の効能は、「思いどおりにならないものの存在を知れる」ということです。どんなに丹精を込めて育てたチューリップも花を咲かせないことがあります。友だちがアゲハチョウを見たといった翌日に、同じ場所へと出かけてもそのアゲハチョウを見つけられないということはあたりまえに起こります。

そこで子どもは、「自然は自分の思い通りにならないこと」に気づくのです。

でも、その次の段階では、「どうすればチューリップが花を咲かせてくれるのか」「どうすればアゲハチョウを見つけられるのか」と考え、創意工夫します。そうして、一度はあきらめたとしてもどんどん前に進む力を得ていくのです。

みなさんもきっとうそうでしょうけれど、大人になると思いどおりになることより、むしろ思いどおりにならないことばかりではありませんか?

それが世の中というもので、誰だって、その現実とうまく折り合いをつけて人生を歩んでいかなかければなりません。生きるうえで大切なそうした現実を、自然が教えてくれるのです。

バーチャル全盛の時代だからこそ、リアルの体験が必要

――今後、自然体験保育は広まっていくのでしょうか?

いま、わたしは自分の仕事を通じて、自然体験保育の注目度が増しているように感じています。いまは「バーチャル全盛の時代」です。インターネットを通じて、実際にその場に出かけなくてもさまざまなことを体験できます。

もちろん、それはとても便利なことですし、一概にバーチャルが悪いといいたいわけではありません。でも、バーチャルの体験だけではやはり寂しいではありませんか。

「感性」「人間」というものをつくっていくなかでは、当然ながら「リアルの体験」もとても重要です。人間関係においてもいえることだと思いますが、リアルの体験のなかで人とぶつかったり失敗をしたりした経験がないと、よりよい対人関係をつくる能力は育ちません。

バーチャル全盛の時代だからこそ、バランスを取る意味でのリアルの体験がより重要になっているのです。その点でいえば、自然を感じ楽しむということは、子どもにとってとても身近でリアルな体験といえるのではないでしょうか。

1961年9月30日生まれ、東京都出身。プロ・ナチュラリスト。
公益財団法人日本自然保護協会自然観察指導員、東京都鳥獣保護員など
さまざまな立ち場で自然解説活動をしたあと、「プロ・ナチュラリスト 佐々木 洋事務所」を設立。
25年以上にわたって、自然観察指導、自然に関する執筆・写真撮影、
講演、テレビ・ラジオ番組の出演・企画・監修、エコロジーツアーの企画・ガイド等の活動をおこなう。
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