生き物の名前を知らなくても大丈夫。「自然体験保育」における保育士の役割|プロナチュラリスト・佐々木 洋

生き物の名前を知らなくても大丈夫。「自然体験保育」における保育士の役割|プロナチュラリスト・佐々木 洋

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自然に触れる活動を通じた保育である「自然体験保育」。近年、注目度が増している保育手法だけに、自分の勤め先である幼稚園や保育所にも取り入れたい、その機会を増やしたいと考えている人もいるでしょう。

では、自然体験保育における保育士の役割とはどういうものなのでしょうか。「プロの自然解説者」であるプロ・ナチュラリストの佐々木 洋さんが、意識すべきポイントと併せて解説してくれました。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 
取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

「五感」を使うことを意識して子どもたちに声かけをする

「自然体験保育」をするうえで、保育士さんのみなさんにまず心がけてほしいのは、「五感を使うことを意識して子どもたちに声かけをする」ということです。

自然を楽しむというと、どうしても「見る」ことばかりを意識しがちですが、自然の楽しみ方は見ることだけではありません。匂いを嗅ぐこともできれば、鳴き声を聞いたり実際に触れたりすることもできます。鳥がいたなら「鳴き声を聞いてみようか」とか、綿毛をつけたタンポポがあったら「ちょっと触ってごらん」といった具合です。

そうして五感を意識して自然に接することで、たとえ小さな園庭のなかの自然であっても、何倍も楽しむことができるのです。

それから、「目線の高さを変える」ことも意識してみてください。わたしは、「子どもは虫を見つけるのが上手」ということを保育士さんや親御さんからよく聞きます。

子どもが虫を見つけるのが上手なのは、単純に大人と子どもでは目線の高さがちがうからです。目線が低いと植物の葉っぱの裏側に隠れている虫も簡単に見つけることができます。ですから、みなさんもぜひ外ではしゃがんで周囲を見てみてください。子どもたちが見ている自然を共有できるはずです。

もちろん、それとは逆に子どもたちに大人の目線を味わわせてあげることも大切。子どもを抱き上げて大人の目線を味わわせてあげるのです。きっと、子どもたちにとってこれまでになかった体験となり、新たな発見もできるでしょう。

子どもに意識させるべきは、生き物同士の「つながり」

また、保育士のみなさんには、「いい生き物と悪い生き物をつくらない」ということも意識してほしい。

つい、「スズメはかわいくていい鳥、カラスは悪い鳥」といったふうに、ヒーローと悪役のように生き物をとらえがちです。鳥がチョウをくわえて飛んでいたら「あの鳥は悪い鳥だね」とか、クモの巣にトンボが引っかかっていたら「トンボ、かわいそうだね」なんていいそうになるかもしれません。

でも、鳥は自分の赤ちゃんに餌を与えるためにチョウをつかまえたのかもしれないし、クモだって一生懸命に生きています。当然のことですが、生き物にはヒーローも悪役もいません。それなのに、保育士がヒーローや悪役を決めつけてしまうと、子どものなかに差別の意識を植えつけてしまいかねません。

自然のなかに起きていることは、それぞれの生き物にとって必ず意味があることです。ですから、「かわいそうかもしれないけど、これは生き物みんなが生きていくために仕方ないんだよ」というふうな声かけを意識してほしいと思います。

そういう意味では、「つながりとして自然を感じさせる」ことも大切です。モンシロチョウを見て、ただ「かわいいね」で終わるのではなく、モンシロチョウがタンポポにとまって蜜を吸っていたら「モンシロチョウは花がないと生きていけないんだよ」とか、モンシロチョウを追いかけている鳥がいたら「鳥さんたちは虫がいないと生きていけないんだね」といったふうに声をかけましょう。

自然を「個」で見ることも大切ですが、つながりを感じさせるように意識してみてください。そうすれば、子どもたちが生き物のなかでヒーローや悪役を決めつけるようなこともなくなるはずです。

「個性」を見出せば、虫嫌いは克服できる

また、わたしが講演会や研修会を通じて保育士さんや親御さんからよく相談されることに「子どもが虫を嫌っている」「どうすれば虫嫌いを克服させられるか」といったことがあります。

でも、当然かもしれませんが、「大丈夫だから触ってごらん」なんていって無理やり触らせるようなことはよくありません。その手法では、余計に虫に対する拒否反応を起こさせてしまうでしょう。

わたしがよくやるのは、「許せる虫を探す」ということ。いきなり本物を見せるのではなく、まずは図鑑を広げて「どの虫だったら大丈夫そうかな?」と聞いてみるのです。虫が苦手な子どもは、だいたいテントウムシかダンゴムシを挙げます。

そして、「だったら、ちょっと見てみようか」といって本物を見せる。見るのが大丈夫になったら、今度は「少しだけ手に乗せてみない?」というふうに、少しずつハードルを上げていくのです。

そうすれば、虫が嫌いな子どもも、「テントウムシだけは大丈夫」「ダンゴムシだけは大丈夫」というふうになっていきます。そして、その次の段階がとても大事。「先生はこのテントウムシが好きだけど、○○ちゃんはどれがいい?」というふうに、複数のテントウムシのなかで「僕の、わたしのテントウムシ」を選ばせるのです。

男の子なら「黒っぽくて格好いいこのテントウムシがいい」、女の子なら「ちっちゃいこのテントウムシがかわいい」といったふうに答えるでしょう。すると、テントウムシのなかに個性を見出し、「僕のテントウムシだけはカッコいい」「わたしのテントウムシだけはかわいい」というふうに、それぞれのなかで思い入れを持つようになる。そうするうち、他の虫に対する嫌悪感も徐々に和らいでくるはずです。

いわば、犬や猫のペットと同じように虫を扱うわけです。自分の家にいるペットは当然ながらかわいいですよね。もちろん、これは大人にも有効な手法です。虫が苦手という保育士さんも、ぜひ試してみてください。

生き物の名前を知らなくても、自然体験保育はでき

最後にお伝えしたいのは、たとえ自然のことをあまり知らないとしても、「いますぐに自然体験保育をはじめてほしい」ということです。親御さんもそうですが、とくに保育現場で「先生」と呼ばれる保育士さんの場合、「きちんと知ったうえで、子どもに教えたい」と考えがちです。

でも、それは大人の勝手な都合です。みなさんが自然について学んでいるあいだに、あっという間に時間は過ぎて子どもは卒園してしまう。すると、その子たちは幼い頃の自然体験が不足したまま育つということになってしまいます。

でも、生き物の名前や特徴なんて知らないままでも、自然体験保育はできます。園庭や公園で知らない草木や虫を見つけたら、「あとで一緒に図鑑で調べてみようね」というふうに、子どもたちと一緒に学んでいけばいいのです。

生き物に詳しい子どもがいたら、「○○君は先生だね!」というふうにその子を立ててあげてもいいでしょう。

保育士さんは、ものごとを進めていくときに進行を円滑にし、目的を達成できるよう中立的な立場から働きかける、いわばファシリテーターです。そして、子どもは「大人がすべてを教えてあげなければならない存在」などではありません。

大人であるわたしたちが促すことで、子ども自身が自然を体験することがなによりも大切なのだと思います。

1961年9月30日生まれ、東京都出身。プロ・ナチュラリスト。
公益財団法人日本自然保護協会自然観察指導員、東京都鳥獣保護員など
さまざまな立ち場で自然解説活動をしたあと、「プロ・ナチュラリスト 佐々木 洋事務所」を設立。
25年以上にわたって、自然観察指導、自然に関する執筆・写真撮影、
講演、テレビ・ラジオ番組の出演・企画・監修、エコロジーツアーの企画・ガイド等の活動をおこなう。
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