感性や思考が育つ! 保育現場で役立つ「シュタイナー教育」の基本の「き」|東京賢治シュタイナー学校
学校教師|鴻巣理香先生 幼児部教師|池田真紀先生
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俳優の斎藤工さんや、児童文学作家のミヒャエル・エンデ、ポルシェデザイン創業者、元アメリカン・エキスプレスCEOなどが受けた「シュタイナー教育」を知っていますか? 教科書を使わない教育でモンテッソーリ教育と並ぶ進歩的教育法として日本でも注目されています。
では、シュナイター教育の基本方針とはどんなものなのでしょうか。日本でシュタイナー教育を行う、東京賢治シュタイナー学校の幼児部教師・池田真紀(いけだ・まき)先生と学校教師・鴻巣理香(こうのす・りか)先生に教えてもらいます。
おふたりが強調したのは、「7歳までの幼児期に、子どもの『身体』を育むこと」こそがなによりも大切だということでした。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)
取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
シュタイナー教育とは? どんな教育法?
――まずは、「シュタイナー教育」が生まれた経緯から教えてください。
鴻巣先生:シュタイナー教育は、思想家のルドルフ・シュタイナーによって1919年にドイツではじまりました。当時、タバコ工場で働く従業員たちが、「子どもには、自分自身が受けられなかった教育を受けさせたい」とシュタイナーに相談したことが誕生のきっかけです。
当時のドイツの普通教育は、いまでいう小学4年生くらいまで。その後は、高等教育を受けるのか、あるいは職業教育を受けるのか、その時点で決めなければなりませんでした。
シュタイナーに相談した親たちは、職業教育を受けて早くから働きはじめた人たちです。大人になり家庭を持つなかで、「もっと学びたかった」という思いを抱いていました。
でも、当時の教育体制のなかでは、彼らの子どもの世代であっても親たちと同じで、高等教育を受けることは簡単ではありませんでした。だからこそ「自分で学びたいと思ったその時期に学べるような学校をつくってほしい」とシュタイナーに依頼したのです。
――そうしてはじまったシュタイナー教育とはどんな教育なのでしょうか。
鴻巣先生:いろいろないい方があると思いますが、わたしたちは「自由への教育」といっています。これは「自由な教育」とはまったくちがうもの。
自分勝手になんでもやるということではなく、将来的に「自分はこんなふうに生きていきたい」ということを実現するための力を育てる教育です。
シュタイナー教育の特徴【人間は「7年区切り」で成長していく】
――シュタイナー教育のいちばんの特徴を教えてください。
鴻巣先生:さまざまな特徴がありますが、いちばんとなると、人間の成長を「7年区切り」でとらえていることです。わたしたちの教育では、「人間には年齢に応じて主に成長してく部分がある」と考えています。教育とは、その部分の成長を促すように手を差し伸べるものなのだと思います。
池田先生:シュタイナー教育では、0〜7歳までは「身体」、7〜14歳では「感性」、14〜21歳では「思考」を育むとしています。
《シュタイナー教育の7年区切り》
0〜7歳 | 身体を育む |
7〜14歳 | 感性を育む |
14〜21歳 | 思考を育む |
ただ、やはりいちばんの基礎となるのは0〜7歳のあいだです。その子がしっかりとこの地上で生きていくという最終的な目標を思えば、まずなにより健全な身体ができないことにはその先には進めないはずだからです。
――身体ができていないと、勉強どころではないということですか?
池田先生:そのとおりです。いまは早期教育が盛んになっていますが、わたしたちは不要だと考えています。大人になると、自分だけではなく子どもに対してもつい目に見える成果を求めてしまうものですが、その考え方には危険な側面もあるのではないでしょうか。
3歳や4歳の子どもでも、文字や数字を教えれば覚えます。そのため、「だったら、早く教えたほうがこの先に困らない」と思いがちです。しかし、そうするとその子は本来この時期に育むべき身体ではなく頭ばかりを使うことになってしまう。頭のなかの知識だけで、まわりの世界を知ったつもりになってしまうのです。
わたしたちは幼い子どもにとって本当に大事なことは「身体を使った体験から世界を知ること」だと思います。たとえば、子どもが園庭でカタツムリを見つけたなら、「かわいい!」「ちっちゃい!」と気持ちが動いたり、実際に触れてぬるっとした感触を味わったり、動いているカタツムリには、寒いときではなく梅雨の時期に出会える体験をするでしょう。
そうした生身の体験なしには、本当にカタツムリを知ることにはなりません。さまざまな感覚を使って実際にカタツムリに出会う体験が7年の間にあってこそ、その後、小学生の中学年以降に図鑑を見たときに「ああ、カタツムリってこういう生き物なんだな」という知識が、生き物の命を大切にする慈しみや良心とともにすっと自分に入ってくるのです。
鴻巣先生:自分の身体を使った体験があれば、子どもは体験を通じて、世界とつながります。でも、その体験がなければ頭で覚えることでの知識しか得られなくなる。――つまり、自分と世界の間に大きな溝ができてしまうのです。
貴重な0〜7歳の期間に「体験から世界を知る機会」を子どもたちに保証してあげることが大人の役割なのではないでしょうか。
シュタイナー教育を実践するには?【「日常生活に根ざした動き」で身体を育む】
―― 一般の園がシュタイナー教育のエッセンスを取り入れるとしたら、やはりしっかりと子どもたちの「身体をつくる」ことになってくるのでしょうか。
鴻巣先生:そうなりますね。学びというのは、「身体がしっかりとつくり上げられたことで生まれた〈余分な力〉によってようやくできるようになるもの」だととらえることができます。たとえば身体がきちんと育まれていない場合、ある部分が未熟なためにそれを補うために力が使われてしまい、本来必要な部分に力が使えないということが出てきます。
いまの世の中を見ると、子どもたちが身体を動かすことが本当に少なくなっているように感じますね。多くの時間を屋内で過ごして、たまに外出するのも親に抱っこされて車に乗せられて……と。20年、30年前までの子どもと比べると、やはり身体を動かすことが圧倒的に少ないのです。
その代わりに、なんらかの習い事をさせられている子どもも多くいます。しかし頭ばかりを使うような習い事はもちろん、身体を動かすスポーツなどの習い事でも、小さい子どもにはおすすめできません。なぜならそういった習い事では、身体を自由に柔軟に動かすのではなく、なんらかの決まった動きを求められることが多いからです。
本来、小さい子どもたちの身体には、自分の意思で好きなように動かせる力が備わっているはずです。動くことを通してその力は育ち開花します。動くことを通して子どもはたくさんの感覚器を養い、また自分自身の身体をコントロールしていく力を身につけていくのです。身体を動かす機会が少ない、あるいは決まった動きばかりを繰り返すと順当に身体が育たないのです。
――つまり、子どもたちがしっかりとかつ自由に身体を動かせる環境を用意することが大切ということでしょうか。
鴻巣先生:そうですね。それこそなにか決まった動きばかりをするのではなく、家庭はもちろん、園でもなるべく日常生活のなかでたくさんの体験を、喜びとともにしてゆく場をつくってあげるのがよいでしょう。柔軟性というのは、スポーツでいう柔軟な身体のことではなく、外から強制されることのない、自分自身の内側からの動きのことです。
現代では、食器を洗うのも食洗機に任せられますし、掃除もロボットがやってくれるという家庭もあります。そうすると、「食器を洗う」「ほうきやちりとりを使う」といった日常の体験のなかで身体を育むことが難しくなります。
子どもたちは道具を使うのが大好きです。「ふきんで食器を拭く」「ほうきで掃く」といった普段の動作から力の加減を覚えていきます。ふきんでお皿を拭くときとほうきを使うときの身体の動かし方のちがいを知ること。また、ふきんとお皿の手触りのちがいやほうきで木や土の上を掃くときの音のちがいを聴くこと。また、柄から伝わる感覚のちがい。これらをたくさん体験することは、身体の動きをコントロールし、自分の身体と世界とのかかわりを見つけていくことにつながるのです。
『シュタイナー教育入門 0歳から9歳までの子どもの成長と12感覚器』
東京賢治シュタイナー学校教師・鳥山雅代 著
NextPublishing Authors Press(2020)
シュタイナー教育音声講座
https://www.tokyokenji-steiner.jp/video-gallery/video-category/voice-seminar/
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