ふさわしい時期にふさわしい課題に取り組む。「シュタイナー教育」が大切にしていること|東京賢治シュタイナー学校

ふさわしい時期にふさわしい課題に取り組む。「シュタイナー教育」が大切にしていること|東京賢治シュタイナー学校

幼児部教師|池田真紀先生 学校教師|鴻巣理香先生

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7歳まで文字や計算を教えないなど、ほかに類を見ない教育手法で子どもの可能性を伸ばすと日本でも注目が集まっている「シュタイナー教育」。日本でシュタイナー教育を行う東京賢治シュタイナー学校の幼児部教師・池田真紀(いけだ・まき)先生と学校教師・鴻巣理香(こうのす・りか)先生に、シュタイナー教育でとくに大切にしていることを教えてもらいました。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)
取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

秩序ある「リズムと繰り返し」が子どもを育む

――幼児期におけるシュタイナー教育で大切にしていることを教えてください。

池田先生:しっかりとこの地上で生きていくという目標を達成するための土台となる身体を、7歳までのあいだに育むことですね。そして、そのためにもっとも重視しているのは「リズムと繰り返し」です。幼い子どもは、繰り返しが大好きなのです。

決まった時間に登園して、お部屋で約1時間半の自由遊びの時間があって、それが終わったらお片づけをして……と決まった一日の流れを繰り返す。この繰り返しに、子どもは「安心感」を覚えます。

これがもし日によってちがったとしたらどうでしょう? 「今日はもっとたくさん遊んでいいよ」とか「今日はお片づけをしないで外に行きましょう」といった具合です。そのように次にすることが日によって変わってしまうと、子どもは「次はなにが起こるんだろう……」と不安になってしまいますよね。

そうすると、子どもの身体はきゅっと緊張し、呼吸は浅くなります。当然ながら、身体が緊張すると血流は悪くなり、健全な身体の育成を阻害することになってしまうのです。その身体の育成とは、身長が伸びるとか体重が増えるといったことに限りません。

じつは、0〜7歳までのあいだは内臓も急激に成長している時期だといわれています。人間にとってさまざまな重要な働きを持つ内臓をしっかりと育むためにも、子どもに安心感を与える呼吸のようなリズムと繰り返しが重要です。

なにか新しい刺激的なことが毎日のように起きる。それこそが成長にとって重要だと考える人もいるかもしれませんが、そうではないとわたしたちは考えています。

――少し意外に感じました。身体を育むには、それこそ自由に遊ぶようなことがよさそうだという気もします。

池田先生:それは、「自由」のとらえ方によりますね。「なんでも好きなようにしていいですよ」という自由を与えてしまうと、子どもは欲求に任せて動くでしょうけれど、心から安心して遊ぶことは難しいでしょうね。「いまはお部屋で遊ぶ時間」とか、「お部屋で走り回ると、床の下の小人さんが起きてしまうから外で走りましょう」といったような秩序があるからこそ、子どもは大人に「守られている」安心感を抱きながら目いっぱい遊ぶことができるのです。

要するに、「秩序がある環境で子どもたちが自分の想像力を使って自由に遊ぶこと」が大切だと考えています。

子どもの想像力・創造力の成長を阻む「刺激の強い映像」

――「シュタイナー教育ではテレビが禁止されている」とも聞きますが、その狙いはどこにあるのでしょうか。

池田先生:「テレビが禁止されている」という表現はちょっとちがいますね。わたしたちはテレビを禁止しているわけではありません。不要だと考えているのです。大切なのは、「なぜテレビが子どもにとって不要なのかを知り、大人が意識をもって考えること」だと思います

テレビなどのメディアを通じた映像が子どもに与える刺激は、大人に与えるそれとは比較にならないほど強いものです。そのため、映像を観過ぎてしまうと、子どもたちは想像力を発揮できなくなってしまうのです。

たとえば、お姫さまが登場するお話を子どもたちが聞いたとします。子どもたちは、「ドレスはどんな色かな」「髪飾りはどんなかたちかな」「どんなお城に住んでいるのかな」と、自分のなかで自由にお姫さまを想像するでしょう。

でも、そのお話を映像で観せられたとしたらどうでしょうか? その決まったお姫さまこそがお姫さまで、そうでないものはお姫さまではないというふうに思ってしまいます。自分で自由に思い描くことができなくなってしまうわけです。

本来、想像力とは自由なものであり、お姫さまはその子にとってのお姫さまであればよいのです。そうやって自分のなかからお姫さまの像をつくり、ごっこ遊びで綺麗な布をまとってお姫さまになって楽しく真剣に遊ぶことができたら、その子は自分で生み出したものを実現できる力をつけたことになります。

じつはその力が、大人になったときの能動的な生きる力に代わっていくのです。子どもが想像力をもって遊ぶことはそのくらい重要なものなので、その力を育むためにも、テレビやメディアとのかかわりについては、大人の方は真剣に考えていただきたいと思います。

――子どもが映像を観ない環境をつくるにはどのようにしたらよいでしょうか。

池田先生:保育士の立場からすれば、親御さんに対して、そういう映像を観せなくとも子どもと楽しく過ごせるようなアドバイスができるとよいですね。

たとえば、電車などに乗っていて静かに過ごす必要がある場面では、「指を使った遊び」だとか、「ハンカチでうさぎをつくってお話をしてあげる」といったこともできるでしょう。また、そうしたほうが結果的に親子の信頼関係も豊かになっていくと思います。スマホやタブレットに子守りをさせてしまうと、親子のかかわりはどうしてもそこで途切れてしまいますからね。

ご家庭では、一緒にお料理をしたり、洗濯物をたたむなどの仕事を子どもと一緒にすることで、メディアに触れることを減らせませんか? また、出来上がった性能の高いおもちゃではなく、子どもが想像力を膨らませられるような、素材のようなおもちゃ(木の実や布、ひも、棒など)を用意することで、しっかり遊べるようになるかもしれません。

それから、保育士さん自身も、映像に没頭している子どもをよく観察してみてください。映像を観ているときには目も体も動かず、じっとしているでしょう? でも、子どもは本来動くことが大好きですから、そのあとに反動がきて騒いだり落ち着きがなくなったりする傾向が強いと思います。

それはやはり不自然な姿だと思いませんか? 映像メディアがあふれているいま、保育士自身も含めてそれらに対する接し方を振り返ってみることが大切なのではないでしょうか。

幼児期にやるべきことは、生活のなかにあるたくさんの体験をすること

―― テレビの話とはまた別に、「シュタイナー教育では幼児期に文字や数字の勉強をさせない」とも聞きます。

鴻巣先生幼児期は、肉体や感覚器をしっかりと育む時期で、その後の成長の基をつくっていく時期です。ですから、子どもたちが学びに臨める状態にまだ達していないとわたしたちは考えているのです。大人にとってはもう過ぎたことですから忘れてしまっているでしょうけれど、抽象である文字や数字を学ぶということは、じつは子どもにとってはそれまでと別次元の世界に行くといってもいいほどハードルが高いことなのです。

文字や数字を使って行う「読む」「書く」という行為は、「話す」という行為からはじまること。つまり、幼い子どもたちに必要なのは、文字や数字を覚えることなどではなく、友だちや親とたくさんのやり取りをし、生活のなかでたくさんの体験を、しかもはじまりから終わりまでのプロセスの体験をすることなのです。文字や数字を覚える、使うということは、そのあとでいくらでもできることです。

―― 親からすれば、子どもが幼いうちから文字を書けたり読めたりすればうれしいものですが、焦りは禁物ということですね?

池田先生:そうですね。「ふさわしい時期にふさわしい課題に取り組む」ことがシュタイナー教育の根幹なので、幼児期には体を使って友だちとたっぷり遊んだりお手伝いをしたり、お散歩でしっかり歩くといった豊かな時間を大事にしていただきたいですね。

また、「イベント的」な体験が必要なのではなく、日常生活のなかには、幼児期の子どもが体験すべき多くの「動き」が隠されています。遠出してどこかへ行かなくても、日々のなかで十分子どもは豊かに過ごせるのだ、ということも強調しておきたいと思います。

地盤の緩い土地には、どんなに丈夫な家を建てたくても建てられません。それと同じように、身体がしっかり育めないままに学習がはじまってしまうとしたら……。どうぞその時期その時期を大切にしてほしいと思います。 

1994年、30年以上にわたり公教育に携わった鳥山敏子氏が公立学校を退職し、天地人のつながりのなかに生きようとした宮沢賢治の生き方を理想として長野・美麻に若者のための学びの場「賢治の学校」を立ち上げる。その後、ドイツのシュタイナー学校の見学をとおして「子どものための学校」こそ必要だとし、1997年に東京・立川に拠点を移して前身である「東京賢治の学校」を創設。1999年に幼児部、2005年には高等部を開設。2013年より現校名となる。
いけだ・まき
東京賢治シュタイナー学校幼児部教師(クラス担任)。「古くならないいまの時代に合ったシュタイナー教育」を目指す。
こうのす・りか
東京賢治シュタイナー学校教師(4年生クラス担任)。「正直であるというところから人間は真の強さを生み出す」を信念とする。

『シュタイナー教育入門 0歳から9歳までの子どもの成長と12感覚器』
東京賢治シュタイナー学校教師・鳥山雅代 著
NextPublishing Authors Press(2020)

シュタイナー教育音声講座
https://www.tokyokenji-steiner.jp/video-gallery/video-category/voice-seminar/

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