「未来を育てる」という保育者の社会的な価値に気づいてほしい

「未来を育てる」という保育者の社会的な価値に気づいてほしい

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「20年後を創る。」という一大ミッションを掲げて、関東近郊に16園を展開する茶々保育園グループ。保育業界の常識にとらわれない数々の取り組みで、大きな注目を集める同グループの迫田健太郎理事長に、ご自身の活動の源泉でもある「保育への思い」や、これからの保育園・保育者のあるべき姿などをお聞きました。

「保育」の地位向上を実現したい

茶々保育園グループの迫田健太郎理事長。グループのWebサイトや講演会、セミナーなどでも積極的な発信を行っている。

——地域社会との交流を目的としたカフェの併設や保育スタッフの名刺制度の導入、外部ブレーンの起用など、茶々保育園グループでは数々のユニークな取り組みを行っています。そうした独創的な取り組みの背景には、どのような思いがあるのでしょう。

私が自らのキャリアを通じて、もっとも成し遂げたいことは「保育園や保育者の地位向上」です。保育業界の中にいる我々から見ると、保育者はとても専門的なうえに、クリエイティビティも要求される職業。非常にプロフェッショナルな存在です。しかし、世の中のみなさんの評価は、まだその段階には達していません。たとえば、2019年に滋賀県で起きた大きな交通事故の際、子どもたちの命を守ろうとした保育者に向けて、多くの方が「#保育者さんありがとう」というツイートをしてくださいました。それ自体はとてもありがたいムーブメントだと思っていますし、とても感動したことも事実です。しかし、その一方で「プロフェッショナルとしての保育者のすごさ」については、あまり理解されていなかったのかもしれないという思いもありました。

——保育者のプロフェッショナル性について、もう少しお聞かせください。

実際のところ、保育者に対して「社会のセーフティネット的な部分を補完する存在」という認識をお持ちの方も少なくはないと思います。お父さんやお母さんが働くためには、子どもを預けなくちゃいけない。そのサポートをするのが保育者だという点では何ら間違ってはいません。ただ、そこから一歩進んで、保育の現場で育まれた子どもたちの力が、いずれ社会に還元されて世の中がつくられていきます。そういう意味では、保育者というのは「社会に貢献できるプロフェッショナル」でもあります。それを保育に関わる私たち自身がもっと打ち出していくべきですし、いろいろな場所でお伝えてしていかないといけないと思っています。

——情報を発信することで保育園や保育者の地位向上につながれば、より効果的な社会貢献活動ができそうです。

もちろん、そうした情報を発信をするだけでなく、保育者の側もより専門家になっていかなければなりません。そのために必要なことであれば、従来の保育園という枠組みにとらわれずにどんどん挑戦していきたい。それが私の思いであり茶々保育園グループの考え方なのです。

「やり方」ではなく「あり方」から保育を考える

2021年4月1日にスタートした「茶々だいかんやま保育園」にある木のおもちゃは、ほとんどがスタッフの手づくりだとか。

——茶々保育園グループでは、現在16の園で約600名の保育者さんが働いています。多くの保育者さんを対象にした教育体制についてもお聞かせください。

たとえば、この部屋に保育者がいて、そこで子どもたちが時間を過ごすと、それだけでもう保育になります。乱暴な言い方をすれば、「子どもたちを預かる」という機能さえ担保すれば保育園になってしまうのです。ですから、茶々保育園グループの保育者にはまず「私たちはそうじゃないよね」という呼びかけをするようにしています。私たちが大切にしているのは「子どもたち主体の学び」。最近では、“アクティブラーニング”という保育用語が定着してきましたが、“アクティブワーキング”という視点についてはまだ足りていないように感じます。保育者の側が、「やらされている」という気持ちで業務的に保育を行っていたのでは、子どもたちが主体的に学べるようになるはずがありませんよね。そこで当グループではアクティブワーキングにつながるように、スタッフのアウトプットを活性化させるアプローチを行っています。

——茶々グループでは、保育者さんがプレゼンテーションを行う機会が多いと伺いましたが、それもアウトプット活動の一環なのでしょうか。

そのとおりです。ほかにも、自分たちが保育をするために必要なおもちゃをつくったり、さまざまな勉強会を開いたり。グループ内の各園からメンバーが集まるゼミのようなものもたくさん立ち上がっていて、みんなが意見を出し合い、試行錯誤し合いながら保育活動に取り組んでいます。アウトプットは、当グループでもっとも大切にしていることのひとつなんです。

——講義のようなスタイルはあまりとられていないのでしょうか。

若い保育者の中には、保育のやり方を教えてほしいという方も多いかもしれませんが、保育は「やり方」ではなく「あり方」から考えようというのが私たちのアプローチです。根底の部分からそれぞれが考え、議論し、アウトプットする。そして、その中で見つけた価値観や自分らしい保育というものを、1人ひとりの保育者が実践していくことで茶々保育園グループの理念が完成する。私としてはそんなイメージを持っています。

持続可能な社会の実現に、不可欠なチカラを育む

グループ16園目となる「茶々だいかんやま保育園」。地域に愛され誇りに思ってもらえるような存在になることも目的のひとつ。

——茶々保育園グループではSDGsを意識した保育を行っています。SDGsのような大きなテーマに、世界が一体となって取り組んでいるいま、保育者にはどのような観点が必要になるとお考えですか。

茶々保育園グループでは今年の4月1日に、従来の「オトナな保育園」から「Education is Empathy~よりよく理解しあうことで、世界は変わる。~」へとビジョンの刷新を行いました。新たなキーワードであるEmpathy(エンパシー)というのは、考え方や立場が異なっていても、相手のことを「よりよく理解しようとする」チカラのこと。テレパシーのような超能力でもなければ、シンパシーのように「思いやる」「共感する」だけでもありません。では、こうしたビジョンを掲げた理由は何でしょう? それは、世界共通の課題である持続可能な社会の実現に、子どもたちのチカラが不可欠だと考えているから。そして、環境保護や気候変動、貧困や格差、分断する社会など、深刻化する多種多様な問題を解決するカギがこのエンパシーにあると信じているからです。

「20年後を創る。」というミッションを掲げて日々の活動を行っている以上、SDGsなどへの取り組みは、当然避けて通ることはできません。だからこそ、保育者1人ひとりがエンパシーという観点で保育をとらえ、実践することが必要だと思っています。

——最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

保育という仕事の価値は、「未来を育てること」だと私たちは考えています。そのためには、単に「子ども好きが子どもたちと接しています」といった保育ではなく、「きたるべき持続可能な社会」をつくる子どもたちの成長に貢献する保育が不可欠。社会的に大きな役割を果たしている実感とプロフェッショナル意識を、当グループの保育者に限らず多くの保育者に持っていただけたら素晴らしいなと思いますね。

取材・文:西田嘉孝 写真:高嶋一成

社会福祉法人あすみ福祉会 茶々保育園グループ理事長
立教大学経済学部経済学科を卒業後、アクセンチュア入社。
2003年同社を退社し、社会福祉法人あすみ福祉会の常任理事に就く。
茶々保育園グループの全体統括や人事管理、人材育成を行い、2013年に理事長に就任。
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