子どもたちの“好き”や“得意”を、どんどん伸ばす保育を実践。|Picoナ―サリ保育園 野上美希さん 前編

子どもたちの“好き”や“得意”を、どんどん伸ばす保育を実践。|Picoナ―サリ保育園 野上美希さん 前編

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70年の歴史を誇る久我山幼稚園からスタートし、現在は杉並区で6つの保育園を運営するPicoナ―サリ保育園グループ。同グループの運営に加え、保育士の働き方改革をはじめとする活動にも力を入れる野上美希さんに、保育の“現在”と“未来”について聞くインタビュー。前編では、グループが大切にする理念や保育観、園での取り組みなどについて聞きました。

取材・文:西田嘉孝 写真:穴沢拓也

学びにつながる体験をたくさん用意する

以前は人材広告業界で働いていた野上美希さん。一般社団法人キッズコンサルタント協会の代表も務め、幼児教育のスペシャリストとして多くの講演なども行う。

――Picoナ―サリの保育ではどのような理念を大切にしておられるのですか?

「幼児教育を通じて子どもたちの無限の可能性を開花する」という理念を大切にしています。子どもたちにいろいろな経験をさせてあげて、そうした体験のなかからそれぞれの子たちが特に興味や関心を持つものを見つけ、個性をどんどん伸ばしていく。いまは“個性の時代”と言われていますが、そうした時代の変化に合わせて保育も変化することが必要。Picoナ―サリではそうした考えに基づき、子どもの個性を伸ばす教育、子どもたちの主体性を重視する保育を実践しています。

――保育園というと、「忙しいお父さんやお母さんのために子どもを預かる場所」というイメージがありますが、Picoナ―サリでは教育の部分も重視されているのですね。

私たちのグループは幼稚園からスタートしていますからね。幼稚園を母体とするPicoナ―サリだからこそ、子どもたちをただ預かるのではなく教育に主眼を置いた保育をしていきたいと考えました。たとえば当グループの保育園で行う、リトミックや体操、英会話、絵画、そして茶道からなる“特別教育”は、子ども達の経験の幅を広げていくために、幼稚園の方で長年に渡って実施してきたもの。そうした幼稚園での活動も取り入れながら、保育園での教育活動の充実を図っています。

――いまお話に出た特別教育について、もう少し詳しく教えていただけますか。

脳が最も発達する0歳から6歳からの時期に、年齢に応じた形で提供するオリジナルのプログラム。それぞれの科目で専門の講師に来ていただき、様々な体験を通じて子どもたちの興味・関心を引き出す手助けをします。そのなかの一つである茶道教育も、幼稚園の方では65年に渡って実施しており、96歳で現役の先生がいまも子どもたちを指導してくださっています。

――幼稚園で茶道というのはとてもユニークですね。

「小さな子どもたちに茶道なんてできるの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、たとえばお茶やお菓子をいただくという行為を通じて感謝の心を醸成したり、年長さんになると自分でお茶を点てておもてなしの作法を学んだり。他にもお皿のうえのたくさんのお菓子を一つずつ取って次の人に「どうぞ」と、まわしていくなど、茶道を通じて他者に対する気遣いの気持ちを醸成したり、思いやりの心を学ぶことができるのです。

保育者の「好き」や「得意」を日々の保育に活かす

2020年4月にオープンしたばかりの「Picoナ―サリ玉川上水公園」。園の入り口にはフランスから輸入された本物のステンドグラスを配置。
天井が高く開放感のある園舎は、木の温かさと優しい雰囲気に満ちている。

2020年4月にオープンしたばかりの「Picoナ―サリ玉川上水公園」。園の入り口にはフランスから輸入された本物のステンドグラスを配置。天井が高く開放感のある園舎は、木の温かさと優しい雰囲気に満ちている。

――口頭で「人に感謝しなさい」「思いやりの心を持ちなさい」と伝えるだけでなく、子どもたちが体験として学べる機会をたくさんつくる。すべてにおいて、そうした体感させる保育を大切にされているわけですね。

その通りです。Picoナ―サリでは特に子どもたちの「初めての体験」をとても大切にしています。初めて何かをするときに「やりたくないな、ちょっと不安だな」という気持ちになってしまう子もなかにはいます。そこで頑張って一歩を踏み出す経験をたくさんしてもらう。子どもたちがそんな経験をたくさん積むことで、「不安だったけれど頑張れた」「次はもっと頑張ってみよう」とどんどん成長できて、自己肯定感も高まっていく。当グループの保育園では、そうした子どもたちに体験してもらう保育をベースに、それぞれのクラスの子どもたちの成長や興味に合わせたカリキュラムを保育士の先生たちがつくってくれています。

――保育士さんたちはどのようにしてカリキュラムをつくっているのですか?

たとえば、クラスの子どもたちが大好きな絵本があればその本を題材にして劇活動を行ったり。普段の保育活動だけでなく、発表会や運動会なども決して運営側から押し付けることはなく、日々の子どもたちの興味の延長線上にテーマを設けて活動を考えてもらいます。いわば子どもたちの「やりたい」という意欲を後押しするような、先生たちと子どもたちの日々の絆のなかで生まれてくる活動を通じて、子どもたちの自発的・主体的な行動を促すことが当グループの保育の特徴なのです。

――保育士の先生たちが積極的に保育に関わっていく。Picoナ―サリの保育では、保育士さんのスキルや主体性も重要になってきそうですね。

そうですね。Picoナ―サリの保育士は、保育の仕事を主体的に楽しめる人でなければ務まらないと思います。私が当グループの先生たちによく話すのは、「子どもが主体的に遊びこむ環境設定も大事にしながら、時に先生自身の好きなことや得意なことを保育に活かして欲しい」ということ。たとえばピアノが得意な先生のクラスでは音楽の時間を楽しんでほしいし、英語でも体操でも物語をつくることでも、とにかく自分が好きで楽しいことや得意なことも保育に活かして欲しい。そうして先生自身が楽しんでいる姿を見せれば、子どもたちも一緒に楽しみたいと思ってくれるはず。もちろん中心は子どもたちですが、保育者の方もそうして個性を活かしながら日々の保育に励んで欲しいと思っています。

「保育園の働き方改革」を先頭に立って実現する

2階にある大ホール。公園の緑や道路を行き交う車などが見渡せる右側の大きな窓辺のスペースは、子どもたちが心落ち着ける場所です。

――保育園の様子を拝見させてもらいましたが、緑に囲まれた木の温もりが感じられる園舎で、保育士さんも子どもたちもとても楽しそうに過ごされている印象を受けました。現在、Picoナ―サリの保育園として6園を運営されていますが、園の環境などについてはどのようなところにこだわっておられますか?

こちらの「Picoナ―サリ玉川上水公園」と「Picoナ―サリ和田堀公園」は都立公園内にある保育園ですが、他の園も含めて立地にはとてもこだわっています。大原則となるのは、自然豊かな緑や大きな公園が近くにあって、雨の日でも子どもたちが走り回れるホールがつくれる広さが確保できること。園舎についても、子どもたちはもちろん先生たちも長く過ごす場所ですからね。どの園も木のぬくもりが感じられる優しい雰囲気をベースとし、たとえば泣いている子どもがいた場合、気分を変えられるような見晴らしの良いスペースをつくるなど、現場の先生たちのアドバイスも随所に取り入れています。

――保育士さんの数が多い印象も受けましたが、実際にはどうなのでしょうか?

当グループではすべての園で国基準の2倍以上の保育士を配置しています。現場で保育にあたる先生の数を増やすことは、実は安全面だけでなく、質の高い保育を実現するうえでとても重要です。保育園を運営する私たちがとても大切にしていることは保育環境を整えることです。実際に現場で保育を行うのは保育士の先生です。だからこそ、当グループでは保育士の採用に最も力を入れていますし、おかげさまで今年は定員の3倍以上の応募をいただきました。

グループの事務長を務める夫も私自身も保育業界とは異なる業界で働いてきました。そうした他業界では働き方改革がどんどん進んでいるのに、保育業界ではそれがなかなか進まない。年間の休日も少なくてサービス残業も当たり前…という旧態依然とした世界が、いまも続いていることが保育業界の大きな課題だと私たちは感じています。そうした現状を変えるために、まずは私たちの保育園で保育士を増やすチャレンジをしていこうと思いました。実際に優秀な人材が多く集まってくれるおかげで、当グループでは働き方改革が実現し、保育の質も大きく向上させることができています。

社会福祉法人 風の森 Picoナ―サリ保育園
大手シンクタンクに勤めた後、人材会社にて人材紹介事業の立ち上げに従事。
妊娠を機に、幼稚園の運営に携わる。0歳~9歳(シングルエイジ期)においての
一貫した教育を提唱し、子育てひろばや学童保育、認可保育園を開設。
現在では学童指導員の地位向上と学び合う場を作ることを目的に、
一般社団法人キッズコンサルタント協会を設立し学童指導員の育成にも力を入れている
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