これからの時代に合った、“新しい保育のカタチ”を体現する。|Picoナーサリ保育園 野上美希さん 後編

これからの時代に合った、“新しい保育のカタチ”を体現する。|Picoナーサリ保育園 野上美希さん 後編

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70年の歴史を誇る久我山幼稚園からスタートし、現在は杉並区で6つの保育園を運営するPicoナ―サリ保育園グループ。同グループの運営に加え、保育士の働き方改革をはじめとする活動にも力を入れる野上美希さんに、保育の“現在”と“未来”について聞くインタビュー。後編では、保育業界が抱える課題やこれからの保育者の在るべき姿、保育士へのメッセージなどを聞きました。

取材・文:西田嘉孝 写真:穴沢拓也

保育士の仕事は「未来をつくること」

以前は人材広告業界で働いていた野上美希さん。一般社団法人キッズコンサルタント協会の代表も務め、幼児教育のスペシャリストとして多くの講演なども行う。

――野上さんは様々なプロジェクトの立ち上げや講演活動などを通じて、保育士の地位向上や業界の働き方改革に取り組んでおられます。そうした活動の背景にはどのような想いがあるのですか?

子どもたちの成長に深く関わる保育は、子どもたちの未来はもちろん、私たちの社会の未来をつくっていく仕事だと思います。そんな保育の担い手が減って業界が人材不足なってしまうと、結果的に保育の質が下がり、日本の将来も危ぶまれてしまいます。逆に、保育の仕事につきたいと思ってくれる人がどんどん増えて、本当に保育の仕事をしていきたいという想いの強い方が保育士という仕事につくような流れができれば、自ずと保育の質は上がっていきます。そうなれば結果的に、子どもたちや社会の未来も明るいものになっていくはず。そうした想いから、同じ想いを持つ保育業界の方々と様々な場で「保育の魅力」を発信したり、自分たちの保育園で“働き方改革”を進めているのです。

――保育に関わってこられたこの10年間で、野上さん自身は保育業界の変化をどのように感じておられますか?

待機児童が社会問題となり一気に保育園の数が増えたり、保育園が自治体の補助を受けて社宅を整備できる「借り上げ社宅制度」ができたり、さらには保育科を新設する大学が増えたりと、国が本腰を入れて保育所や保育の担い手を増やすための政策を取り始めたのがこの10年の流れだと思います。とはいえ、現状を見ると保育園が増えるスピードに保育士が増えるスピードが追いついておらず、保育業界では人材が不足気味になってしまっています。そうなると結果的に保育の質が下がり、そのしわ寄せは子どもたちにいってしまいます。そうした実情は最も私たちが懸念することでもあり、業界全体の大きな課題だと思っています。

保育士の数を増やさなければ、保育の質の向上は不可能

保育園と同時に開園した都立公園のなかにある「Picoナ―サリ玉川上水公園」。周囲を公園や緑道の豊かな緑が囲む、恵まれた環境に立つ保育園だ。

――保育士の数を無視してどんどん保育園をつくってしまうことで保育の質が低下してしまう。一方で杉並区などでは待機児童がゼロになり、保護者が施設や保育の質を比較して保育園を選べるようにもなってきているように思います。

そうですね。 “保育の質向上”はこれから更に重要になってくると思います。そのためにも大切になるのは、私たちが先頭に立って「新しい保育の在り方」を体現し続けていくことだと思っています。私は保育に関わる講演をする機会も多いのですが、たとえば“働き方改革”の話をすると、保育園の経営者の方などから「そうは言っても実際には難しい」と言われたりもします。そこで「いやいやできますよ」と。私たちが体現している環境を見ていただき、そこから自分たちの園で取り入れるヒントを少しでもいいから得てもらいたい。そのためにもまずは、私たちが先頭に立って保育士さんが働く環境の整備を行っていく必要があると考えています。

――とはいえ、確かに保育園の経営者からすると、国が求める基準の2倍以上の保育士を配置することは簡単ではないかもしれません。

もちろん人を増やすことでその分のコストは掛かりますが、多くの自治体では保育士の数を増やすことに対する補助もありますし、すべてのケースで人件費がかさんで経営が大変になることはないと思います。保育士の数がギリギの状態で園を運営していても、すぐに人がやめてしまうとまた採用コストがかかりますし、その状態で保育の質を上げようとするとまた違った労力やコストがかかってきます。それに、そもそも現状の基準(0歳児…子ども3名に対して保育士1名、1〜2歳児…子ども6名に対して保育士1名、3歳児…子ども20名に対して保育士1名、4歳以上…子ども30名に対して保育士1名)では、一人ひとりの保育士の負担が大きすぎて保育の質を求めることは非常に難しいです。現状の配置基準では、先生が休憩を満足に取れませんし研修の時間もなかなか取れません。一日中ずっと子どもたちの保育をしていては事務仕事をする時間もありませんし、自ずと残業や休日出勤が増えてしまいます。こういった課題を解決していくには我々は人員配置の充実が必須だと考えます。実際に当グループの保育園では全ての常勤の保育士が月に一度は全く保育に入らず、丸一日研修のみの日を設けていますが、それでも残業なく休憩もしっかり取れる体制が整えられています。

社会の変化に合わせて柔軟に、保育のカタチを変えていく

雨天時でも外遊びができる屋根付きの園庭。子どもたちが駆け回るのに十分な広さもあり、梅雨時などにも大活躍してくれる。

――そうした環境で楽しく働けるからこそ優秀な多くの保育士さんが園に定着し、質の高い保育が実現できるわけですね。

その通りです。「人員配置の充実」と聞くと、最初は運営側も負担を感じるかもしれません。しかし、保育を受ける子どもたちや保育士さんにとっても、そして運営側にとっても多くのメリットがあることなのです。最近の若い先生たちは、「子どもたちの主体性を育むための保育」など、今の時代に合った保育を大学で学んできています。私たちのグループの保育園では、学んだことを大いに実践してもらうと同時に、社会の変化を敏感に感じとって保育を行って欲しいと考えています。

保育者がプライベートの時間を削って残業をしたり休日を返上して制作物をつくったりすることは、一見すると子どもたちのためになっているように見えるかもしれません。しかし、長い目で見るとそれよりもずっと、保育者自身が社会との関わりのなかで人生を充実させて、自らの感性をブラッシュアップさせていくことが大切なのではないでしょうか。

――社会の変化を敏感に感じながら、保育園や保育者自身も変化していくことが大切だと。

たとえば、我々が子どもの頃に求められていたことは、「みんなと同じことを高い水準でできる」といった能力でした。対していまは、 「主体的に自分の未来を切り拓いていく力」や、「自分の特性を活かして生き抜いていく力」が必要だとされています。子どもたちに求められる能力がこの20年ほどでそれだけ変化しているのに、保育者がずっと同じ考え方でいいはずはありません。だからこそ私たちは、変化する社会のなかで自分の人生をしっかりと味わっている先生たちに保育を行ってもらいたい。そのためにも、保育者がプライベートを充実させられるような環境を運営側が整備するのは必要なことだと思っています。

自分の価値観に合った、職場や働き方を見つけて欲しい

園の玄関先には、先生たちの写真パネルなどとともに当日の給食も展示。
ホールのガラス張りの窓からは調理室の様子も見ることができる。

――野上さんは一般社団法人キッズコンサルタント協会を設立するなど、アフタースクール(学童)の問題にも力を入れておられます。こうした活動も保育の延長線上にあるものですか?

0歳から9歳までの教育を重視するシングルエイジエデュケーションという考え方があるのですが、保育園や幼稚園では小学校に上がる5歳か6歳までしか関わることができません。そこで、保育園や幼稚園を卒園した子ども達のために「預かり」「体験」「学習」という3要素を兼ねたアフタースクールをつくったのですが、そうした活動を通して知ったのが学童指導員の問題でした。

私は保育士や幼稚園教諭の地位向上のために活動をしていますが、そうはいってもこれらの仕事には資格もあり社会的な認知もされています。一方で学童指導員となるとその仕事自体があまり知られておらず、現場で働く人達は非正規の方が多く時給も安くて…という状況がありました。キッズコンサルタント協会はそうした実情を変えるために設立した協会で、学童指導員の方たちに学びの場を提供したり、資格認定制度の創設などを通して学童指導員の育成を行っています。

――最近では、子どもが小学生になった途端に共働き家庭が直面する「小1の壁」という問題も出てきています。アフタースクールに関する取り組みはそうした社会課題の解決にもつながりますね。

その通りだと思います。小学生になると一人でお留守番ができる子もいるでしょうが、安全面などを考えてそうさせたくない親御さんも少なくありませんからね。ましてや子どもたち同士でいろいろなことができるようになってくるこの年代にとって、学童はとてもいいコミュニティです。小学校の授業では認知的な能力を高めることに重きが置かれてしまいますが、本来は9歳までは非認知能力を培っていくことに適した時期です。アフタースクールや学童で仲間の子どもたちと様々な体験をすることは、そうした時期の子どもたちにとって大きな意義があること。私たちとしても、シングルエイジの間までは責任を持って子どもたちに関わっていきたいという想いがあるので、今後もアフタースクールの取り組みには力を入れていきたいと考えています。

――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

保育の資格を持っているのに保育の仕事をしていない“潜在保育士”の方のなかには、昔の保育園のイメージを持ったままの方も多いのではないでしょうか。しかし時代は変わっていますし、保育の現場にも確実に変化は起きています。そうした環境の変化が実感できれば「また保育士として働いてみよう」という気持ちになるかもしれません。ですから、気になる保育園があればぜひ見学に行ってみて欲しいと思います。

また、特に若い保育士の方などは、恐れずに環境を変えてみることもおすすめです。たとえば、自分が働く保育園の環境や人間関係に悩んで保育士の仕事をやめるくらいなら、思い切って他の園を見てみることも良いのではないでしょうか。そうして自分の価値観や保育観にマッチした保育園を選ぶことが、自分にとっても子どもたちにとっても幸せな保育につながるはずです。

AIなどのテクノロジーに多くの仕事が代替されると言われるこれからの時代にも、人にしかできない仕事として必ず残るのが保育士という職業。子どもたちの大切な未来を、ぜひ私たちと一緒につくっていきましょう。

社会福祉法人 風の森 Picoナ―サリ保育園
大手シンクタンクに勤めた後、人材会社にて人材紹介事業の立ち上げに従事。
妊娠を機に、幼稚園の運営に携わる。0歳~9歳(シングルエイジ期)においての
一貫した教育を提唱し、子育てひろばや学童保育、認可保育園を開設。
現在では学童指導員の地位向上と学び合う場を作ることを目的に、
一般社団法人キッズコンサルタント協会を設立し学童指導員の育成にも力を入れている
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