【世界の保育②】保育士・久保田修平さんが世界一周して気づいた、保育士にいま必要なこと

【世界の保育②】保育士・久保田修平さんが世界一周して気づいた、保育士にいま必要なこと

取材・文/長野真弓
写真提供:久保田修平さん

約600日をかけて世界25カ国を巡り、保育士の目で「世界の子育て」を見てきた久保田修平さん。世界を知ったからこそ感じる「日本の保育について思うこと」について、お話を伺いました。

旅を終えて見えてきた、日本の保育の課題

旅から帰国後、活動の拠点として、「aurora jouney」を発足。その活動のひとつである「えどぴー保育の専門性を高める会」では、勉強会を開催しています。(写真提供:久保田修平さん)

旅から帰った後、「子どもも 大人も人間らしく過ごせる保育場所を、自分で作ろう」と思っていた久保田さん。しかし、「自然を生かし、大家族のように皆でつながり合う保育」を実践する保育園と出会ったことで、現在は保育士として日々子どもたちと向き合っています。また、働きながら食育や子どもの発達と脳科学の関係など、新しい知識も学んでいるそう。ここでは、現役保育士として働く中で感じている「世界と日本との違い」や、「日本の保育の課題」について聞いてみました。

——久保田さんは、日本の保育の課題のひとつとして、「保育者の専門性を高めること」を挙げていますが、いまの日本に“保育者の学びの場”は充分にあるとお考えですか?

国として、保育士の質を高めることにかなり力を入れているため、キャリアアップ研修などの学びの場は、決して少なくないと思います。また、東関東エリアには、以前から保育者仲間が作る自主的なサークルや勉強会が結構ありました。このコロナ禍でオンラインが普及したことで、サークルや勉強会はさらに増えて、正直飽和状態とさえいえるかもしれません。

しかし、学びの場が足りているからといって、専門性が高まるとは限りません。私自身、去年から国のキャリアアップ研修の幼児教育の講師をやっているのですが、本当の意味で能動的に学びにきている人は、全体の1割くらい。その状況を変えたくて、消極的な人でも「おもしろそう」「学びたい」と思える場づくりをしていく必要性を仲間と話しているんです。たとえば、帰国後作った「aurora journey(オーロラジャーニー)」という団体では、日本の保育をより良くするための活動をしていますが、その中で、「えどぴ」という保育の専門性を高める会をはじめたり、自分が勤める地域でも、行政とは関係なく、保育者同士で語り合える場を作りました。

「保育者の専門性を高めること」を実現するには、熱心な人とそうでない人の“温度差”も問題です。勉強会などで意欲的に学んだのに、保育者間の温度差がじゃまをして現場で生かせなかったり、熱意だけが空回りしたり……。そんな雰囲気が日本の保育園・幼稚園には残っているんです。それに比べると、ヨーロッパなどの教育先進国では、社会が保育者の向上心に応えてくれる環境ができあがっています。加えて、保育者の社会的地位も高く、給与が大学教授と同等の国や、大学院を出ていないと資格が得られない国もある。そうしたしっかりした土台が、保育現場の環境づくりに大きく影響しているように感じます。

——日本はいま保育者不足で、保育士の資格を取りやすくなってもいます。そうした背景が保育者の専門性に影響を及ぼす可能性はあるでしょうか。

確かに、保育士の資格を取りやすくなっている影響で、「保育士の専門性が下がっているのではないか?」と危惧されていますよね。その課題を解決するには、保育者の学びの機会と質、それに熱意が必要ですが、私はそれに加えて「保育者自身が保育の重要性を社会に伝えていくこと」も大事だと考えています。なぜなら、それによって社会全体がヨーロッパのような高い意識を持つことにつながるからです。

世界の教育法をそのまま取り入れるのは、「あり」か「なし」か

ドイツの「森のようちえん」では、森へ遊びに行くときの準備は子ども自身で行っていたそう。「今日は何をするか」「そのために何が必要か」を自分で考え、道具をリュックに詰め、自ら背負って歩く姿に、子どもの自主性を育む重要性を肌で感じたといいます。(写真提供:久保田修平さん)

——モンテッソーリやイエナプラン、レッジョ・エミリアなど、注目されているオルタナティブ教育を採用する保育園や幼稚園は日本にもありますが、海外の教育法をそのまま日本に取り入れることについて、どうお考えですか?

結論からいうと、「なし」ではないでしょうか。日本にはその昔、フレーベルの教育法を取り入れようとして苦労した過去があります。概念は取り入れてみたものの、実際にどう保育に生かせばいいのかがわからなかったのです。そのあとも、いろいろな教育法が話題になりましたが、どれもその時々の流行りでしかないように感じます。本来なら、日本の歴史や風土、環境などに合わせて、それぞれの教育法をどうアレンジするのか、どう生かすのかを考えるべきだったのに、なかなかそういう流れにはならない。私は世界を見てきましたが、日本だって北海道から沖縄までは結構広いですよね? 東京に限っても、都会もあれば、自然豊かな地域もあります。だからこそ、教育や保育もその地域にあわせて共生することが大切で、子ども、保護者、保育者、地域が一緒になって作り上げていく形こそが、理想だと思うのです。

付け加えるなら、ヨーロッパには「自分を大切にする」「自分の意見をいう」という風土がすごくあります。また、保育士も自分の専門性に自信をもって働いています。日本は、海外の教育法を取り入れる前に、そうした意識の面に改善の余地があるのではないでしょうか。

——子どもと保護者と保育者が協働する保育・教育。それを実現するには、相互のコミュニケーションが必須だと思いますが、保護者と保育者の関係性も日本と海外とでは違うのでしょうか。

いちばんの違いは、「コミュニケーション能力の高さ」「自分への自信」の2点です。繰り返しになりますが、ヨーロッパには、「自分の意見をいう」風土があります。また、教育先進国で誕生したさまざまな教育法の根底には、「子どもは一人の市民として尊重され、自主性を重んじられる存在」という概念があります。

島国の日本と違い、大陸で国々がつながっているヨーロッパでは、どうしても他国を意識せざるを得ません。また、自国を守り、しっかりした国を作るためには、国の資産である子どもに投資し、「自信をもって行動できる人」を育てる必要があります。そうした環境が、個人の「コミュニケーション力」と「自信」に直結しているのでしょう。そして、保育者、保護者ともに2つの能力をあわせ持っているからこそ、対等に子どもについて語り合えるのだと思います。

日本の保育者は、どちらかというと保護者の意見を尊重する傾向にありますよね。でも、そうした関係性は、保育者が専門性を高めることによって変えられると思うんです。保育者が専門性を身につければ、自信につながり、保護者とも対等にコミュニケーションを取れるようになる。そうすると、保護者も安心して保育者に接することができるでしょう? さらにいうなら、その安心感は子どもにも良い影響を及ぼすはず。社会が変化するなかで“生きづらさ”を感じているかもしれない子どもたちに、少しでも安心な保育の場を保証できるように、私自身ももっと専門性やコミュニケーション力を磨かなければいけないなと思っています。

日本の保育士にも、“ゆとりの可視化”が必要

日本の保育には、「子どもを信じて待つ」「保育者のゆとり」「保育者の専門性を高める」の3本柱が必要だと久保田さんは力説します。(写真提供:久保田修平さん)

——久保田さんのように、保育の勉強をするために世界へ旅に出ることは、誰もができることではありません。そうした貴重な体験をしたからこそのアドバイスはありますか?

旅先で出会った魅力的な保育者の方々には、きまって“ゆとり”を感じました。デンマークの森のようちえんでは、勤務中にも先生たちのティータイムがあったのですが、それって見方をかえれば“ゆとりの可視化“ですよね。そして、そうやって普段から可視化しているからこそ、「自分はどんなときにゆとりをもてるか」「どんなときにゆとりが足りないと感じるか」が把握できている。これは、いまの日本の保育現場にとても必要なことだと思います。真面目で熱心な保育士さんほど、「子どものために」と、良くも悪くも視野が狭くなりがちですから。

普段から“ゆとり”を意識することで、自分の特性が把握できるという話をしましたが、遊びや趣味の時間をしっかりと持つことは、自分らしさを発見したり、視野が広がったりすることにもつながります。ですから、今まで100%子どものために使っていた時間を80%くらいにして、自分のための“ゆとり”をつくってみてください。もちろんティータイムである必要はなく、読書やヨガなど自分なりのやり方で構いません。

また、できるだけ保育関係以外の人と会って話すのも大切なことです。自分のサードプレイスを作って、保育じゃないところにも目を向けて楽しむ。それが巡り巡って保育にも反映され、子どもとの関係が豊かになるいい循環を生むと思うんです。最近、勉強会で出会う学生の方や若い保育者の方は、持論をもちつつも、頭や行動が柔軟な人が多いので、私自身学ぶことがたくさんあります。業界だけでなく、年齢も超えて、いろいろな人たちと話すのは、とても大切だとあらためて思いますね。

世界一周してわかったこと。「世界を知る以上に自分のことを知れた」

世界中の多くの人たちとの出会いが、久保田さんに、「自分を信じて生きるパワー」を与えてくれたといいます。(写真提供:久保田修平さん)

——最後に、久保田さんご自身が旅をする前と後で変わったことや、旅で得た学びについてお聞かせください。

「世界を一周してみてどうでしたか?」と聞かれることは多いのですが、そのときはこう答えるようにしています。「世界を知る以上に、自分を知れた」と。日本の保育に不満を抱いて飛び出したのですが、世界を見たおかげで「自分は外のことばかり見ていて、日本のことや自分自身のことを何も理解できていなかった」と気づいたんです。

保育者として、「世界を知りたい!」という意欲を持つのは良いことですが、日本の保育の現状を知らなければ、学びにはつながりません。逆に、自分の足元をしっかり認識していれば、海外の保育を日本にどう生かせばいいかがわかってくる。実際、旅を終えて日本の保育をあらためて見つめてみたら、存在に気づいていなかった素晴らしい保育園のことを知ったり、意欲的に学ぶ保育士さんたちと出会えたりと、明るい未来を感じることが多くありましたし、旅の経験の生かし方も見えてきました。これからはそういう日本の良い面にフォーカスして、勉強会などに取り組んでいこうと思っています。

久保田さんは、日本の保育業界について「教育先進国と発展途上国のちょうど間にある」と話していましたが、それは「まだまだ発展の余地がある」ということであり、「自分たちの手で保育の未来を明るくできる」ということ。世界を見てきたからこそのアドバイスを生かして、より良い保育業界を目指しましょう。なお、以下に久保田さんが主宰する会のサイトをご紹介しておきますので、ご興味がある方は、参考にしてみてください。

久保田さんの著書について詳しくは、こちらをご覧ください。

久保田修平さんが活動されている「つむつむ おおた保育者の会」主催でオンライン研修会が開催されます。
大田区以外の方でも参加可能です。
ご興味がある方は、こちらをご覧ください。

「つむつむ おおた保育者の会」
https://tumutumu9.peatix.com/

[参考]
久保田修平・久保田友美(2019),『600日25カ国 夫婦世界一周 世界の子育て、保育を知る旅』, ラーニングス合同会社.

保育士
「aurora jouney -保育の世界を旅してみよう」 「えどぴ-保育の専門性を高める会」 主宰
大学卒業後、私立幼稚園に7年間勤務。2015年6月から600日をかけ、
ヨーロッパ・北中南米・ニュージランド・アジアの25カ国を訪問。
現在は、東京都大田区の保育園に勤務し、日々自然の中で子どもに向き合い奮闘中!

aurora journey.
https://www.aurorajourney.com