とにかく「ほめる」。運動が苦手な子どもを「運動嫌い」にさせないためにできること|スポーツひろば代表・西薗一也

とにかく「ほめる」。運動が苦手な子どもを「運動嫌い」にさせないためにできること|スポーツひろば代表・西薗一也

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保育現場では、縄跳びやボール遊びなどの運動を行う機会も少なくありませんが、みなさんはどういった思いで、運動あるいは運動遊びに取り組んでいますか? きっと、多くの人が「運動が得意とまではいかなくても、せめて嫌いになってほしくない」という思いを抱いているのではないでしょうか。小学校以降の身体活動や体力のことを考えれば、なおさらです。そこで今回は、運動が苦手な子どもたちを対象にした運動教室「スポーツひろば」代表の西薗一也先生に、子どもを運動嫌いにしないためのポイントを伺ってみました。話の中で、先生がいちばん強調していたのは、「ほめる」ことの重要性です——。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)
取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

「ほめられた経験」がない子が運動を嫌いになる

——運動が得意な子どもと、運動が苦手あるいは嫌いな子どもの違いは、どんなところから生まれてくるのでしょう。

運動ができる子とできない子の違いを、「運動能力の差」によるものだと考えている方は多いかもしれませんね。でも、実はそうではありません。全国的にトップレベルの子と最下位グループの子を比べるなら話は変わってきますが、一般的な保育現場における運動ができる子とそうでない子の間では、運動能力にそう大きな開きはないのです。

——だとすると、なにが「できる・できない」の分岐点になっているのでしょうか。

ほめられたかどうか。その一点ではないでしょうか。ある子どもが、友だちとかけっこをして1番になったとします。すると、友だちからも保育士さんからも、「〇〇君、速いね!」とほめられますよね。また、そうやって成功体験を積むと、その子は「僕は足が速いんだ!」「もっと褒めてもらいたい!」と思ってさらにがんばる。その結果、運動が好きになって、どんどん得意になっていくのです。

——逆にいうと、ほめられた経験がないと「運動嫌いになる」ということですか?

そうです。かけっこでビリになってしまって誰にもほめられないと、どうなるでしょう。成功体験を積むことができないために、「僕は足が遅いから誰も褒めてくれないんだ……」と、自分に運動オンチのレッテルを貼ってしまい、運動が嫌いになったり、運動ががんばれなくなったりします。結果、運動が苦手になっていくのです。

運動はある意味で残酷なものです。幼児にはあてはまらないかもしれませんが、たとえば小学校のテストで0点を取ってしまったとしても、誰にも見せなければそれで済みますよね。でも、運動の場合は順位や「できた・できなかった」ということがその場にいる全員にわかってしまいます。そのため、運動が苦手な自分自身に「僕は運動が苦手だ……」というレッテルを貼ってしまいやすいのです。だからこそ、保育士はそれぞれの子のいいところを見て、きちんとほめてあげる必要があります。

——「いいところを見てあげる」ための具体的な方法を教えてください。

大人の仕事においてもそうであるように、子どもの運動に関してもそれぞれに得意・不得意があります。かけっこはビリだったとしても、鉄棒は得意かもしれない。あるいは、得意とまではいかなくても、縄跳びにはすごく興味を持つかもしれない。そういった、得意なことや興味を持った運動についてほめてあげるわけです。

縄跳びの場合なら、跳べるかどうかは問題ではありません。興味を持って取り組んでいるのなら、縄をまわせただけでもいいではありませんか。そんなときは「すごい、まわせたね!」とほめてあげてください。ほめられると、子どもにはどんどんやる気がわいてきますよ。

「早生まれ」を意識することはむしろ危険

——先ほど「一般的に幼児の運動能力には、そう大きな開きはない」とおっしゃいました。でも、いわゆる早生まれの子は、4月や5月生まれの子と比べるとやはり運動能力が劣っているようにも感じます。

一般的にみれば、「多少違う」といったレベルだと思います。もちろん、4月や5月に生まれのなかには、早生まれの子より運動能力にすぐれた子はいますし、それが成功体験につながって、運動を好きになっていく子もいます。しかし、たとえそういう場面に出くわしても、保育士が早生まれの子に対してとるべき行動は同じ。その子ができることや興味を持っていることをしっかり見てあげて、ほめてあげることに尽きます。その際、「早生まれかどうか」を意識しないことも重要でしょう。

——「早生まれを意識しないことが大事」というのは、どういった理由からでしょう。

保育士が、早生まれの子に対してレッテルを貼ることになりかねないからです。早生まれで運動ができない子に対して、その子が早生まれであることを保育士が意識していると? 「○○ちゃんは、まだできなくてもしょうがないよね」なんて声がけをしてしまうことも考えられます。もちろん、その子のことを思っての声がけでしょうが、「あきらめられている」という空気は、必ず子どもに伝わるもの。その子は「わたしはできない子なんだ……」と感じて、やはり運動への興味を失っていくでしょう。

ちょっと乱暴ないい方になりますが、早生まれかどうかなんて、どうでもいいことだと思いませんか? 大事なのは、その子自身がいま何に興味を持っていて、何が得意なのか。そして、前よりできるようになったことは何なのか、といったほうです。それらをしっかりと見て、ほめてあげる。あるいは、自信を持たせてあげる。それを強く意識してほしいですね。

意外に難しい「ほめる」という行為

——先生は著書のなかでも「ほめることの重要性」を繰り返し説いていらっしゃいます。

なぜなら、ほめるというのは簡単なようで、実は難しいことだからです。保育士や小学校の教員など「子どもに教える」立場の人だと、「子どもができないことをできるようにしてあげよう」と考えがちですよね。そのため、つい「できないこと」にばかり目が向いてしまいます。

「この子は、これができないから何とかしてあげないと……」「この子は、まだほめるレベルに達していない」。そんなふうに、無意識のうちに考えてしまう。だから、運動ができる子に対してはほめられるのに、運動ができない子に対してはなかなかほめることができない、というケースも少なくないのです。

では、どうすればいいのでしょう。大事なのは「できない子もその子なりにがんばっている」という過程に目を向けることです。周囲の子や一般的なレベルと比較するのではなく、その子自身の過去と現在における成長を見て、ほめてあげればいいのです。よくいわれる話かもしれませんが、努力の過程をほめることは、幼い子どもたちの場合においてとても大切なことなのです。

たとえば、「集合」もそのひとつ。保育現場で子どもたちにさせる運動でも、みんなで集合する機会は多いと思いますが、なかには「集まって!」と声をかけても集合ができない子もいるのではないでしょうか。いまやっていることから、これからやることへの気持ちの切り替えがうまくできないからです。でも、そこで叱ってしまうと、それこそ運動をやる以前からその子を運動嫌いにさせてしまうでしょう。

そうした事態を回避するには、やはりほめるしかありません。まずは、集合をかけてすぐに集まってくれた子をほめる。次に、その様子を見て集まってくれた子もほめる。集合できない子は、それでも遊び続けているかもしれませんが、ときには遅れながらでも集合してくれることがあるでしょう。そのタイミングこそ、ほめるチャンスです。「よく集まってくれたね!」とほめてあげれば、「こうすればほめられるんだ」と認識してくれるはずです。

だからといって、その後も毎回きちんと集まってくれるとは限りませんが、それでもその子にとっては大きな変化であり成長です。その成長をほめてあげることをぜひ実践してください。

東京都出身。株式会社ボディアシスト取締役。スポーツひろば代表。
一般社団法人子ども運動指導技能協会理事。
日本体育大学卒業後、一般企業を経て家庭教師型体育指導のスポーツひろばを設立。
運動が苦手な子どもを対象にした体育の家庭教師の事業をはじめとして、子ども専用の
運動教室の開設や発達障害児向けの運動プログラムの開発など、新たな体育指導法の
普及に幅広く取り組む。著書に『うんどうの絵本 かけっこ』『うんどうの絵本 なわとび』
『うんどうの絵本 ボールなげ』『うんどうの絵本 すいえい』(いずれもあかね書房)、
『発達障害の子どものための体育の苦手を解決する本』(草思社)がある。

『小学校体育 つまずき解消事典』
西薗一也 著
明治図書出版(2021)

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