ラジオ体操には効能がない?保育現場で実践したい運動4選|スポーツひろば代表・西薗一也

ラジオ体操には効能がない?保育現場で実践したい運動4選|スポーツひろば代表・西薗一也

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子どもたちに運動をさせる前に、ラジオ体操や柔軟体操といった準備体操を取り入れている園もあるかと思います。ただし、準備体操は「とりあえず、やればいい」というものではありません。「やり方次第では、まったく意味のないものになりかねませんよ」と指摘するのは、運動が苦手な子どもたちを対象にした運動教室「スポーツひろば」代表の西薗一也先生。今回は、「まったく意味がない」という言葉の真意や、子どもたちにぜひやってほしいという運動について教えてもらいました。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)
取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

やり方を間違えばストレッチで身体が硬くなる

——子どもが体操を行うことには、どんな効能がありますか?

そもそも体操とはなにかという話からはじめましょう。体操というのは「健康や医療、教育、鍛錬などを目的に行われる運動の総称」のこと。一般的に知られているところだと、ラジオ体操がその代表格でしょうか。ただ、はっきりいってしまうと、ラジオ体操のような体操にはほとんど効能がありません。

——ラジオ体操は、私たち大人も子ども時代に親しんできたものだけに、先生のその言葉には驚きです。

もちろん、きちんとやれば効能はあるでしょう。でも、子どもがきちんと体操をするかといったら、それは難しい。子ども時代に親しんできたといっても、小学校の体育の授業で屈伸をしたりラジオ体操をしたりするのが「楽しかった」という人は少ないでしょう(笑)。楽しくないから、とりあえず適当にやる。それでは効能がないばかりか、時間の無駄とさえ言えます。

また、そういった準備体操は別の理由でもおすすめしません。運動の前には、脚を開いて人に背中を押してもらうといった、柔軟体操からはじめるのがひとつの定番となっていますよね。そうした柔軟体操は、筋肉を伸ばして一定時間保持する「静的ストレッチ」と呼ばれるものですが、場合によっては子どもの身体を柔らかくするどころか逆に硬くしてしまうのです。

——ストレッチで身体が硬くなるというのは、どういうことでしょう?

脚を開いて背中をぐいぐい押されると、痛みを感じます。そして痛みを感じると、身体は抵抗して硬直する。つまりは、硬くなるのです。特に子どもは、痛みに敏感なので注意が必要です。静的ストレッチの効果をきちんと引き出すには、自分の身体と対話しながら、いわゆる「痛気持ちいい」という状態をつくる必要があります。ですが、先にもいったように子どもは痛みに敏感ですから、「痛気持ちいい」状態がまだわかりません。

また、人間の筋肉や腱というのは、ゴムのようなものです。運動前はまだ冷えている状態ですから、冷えたゴムを一生懸命伸ばそうとすると、どうなると思いますか? 場合によっては切れてしまう危険もあります。ですから、静的ストレッチをするにしても、先にウォーミングアップをして、身体が十分に温まった状態でやるべきでしょう。

準備体操に最適な「オリジナルケンケンパ」

——そうなると、子どもにはどんな運動をさせるべきなのでしょう。

わたしからは、「神経系の運動」「動物歩き」「ダイナミックストレッチ」「筋力トレーニング」の4種をおすすめします。そのなかで準備体操にあたるのが、「神経系の動き」です。これには、適度な運動で身体を温めたり関節可動域を広げたりする狙いと、脳や神経と身体をしっかり連動させることでケガを防止する狙いがあります。

身体を動かすとき、その司令を出しているのは脳です。たとえば、脳が「走る」という司令を出せば手足が動き、「右に曲がる」という司令を出せば身体が右に傾きます。でも、その司令が届かず、脳と身体の連携がうまくいかないと……。身体が司令どおりに動いてくれず、ねんざや転倒につながってしまう恐れがあります。

ここでは、「神経系の動き」のおすすめとして、わたしが考案した「オリジナルケンケンパ」をご紹介します。ぜひ「オリケン」と覚えてください。

「ケンケンパ」は、みなさんご存じですよね? 「ケン」は片足でジャンプして着地、「パ」は「パー」の意味なので、脚を左右に開いて着地します。そして、それらに「グー」と「チョキ」の動作も加えたのが「オリケン」の特徴。「グー」は両脚を閉じて着地。「チョキ」は前後に脚を開いて着地です。

ちなみに「オリケン」では、「ケンケンパ、ケンケンパ、ケンパケンパ……」のように順序も決まっていません。どうやるかというと、参加する子どもたちのなかから数人に「ケン・グー・チョキ・パー」のうち好きなものをひとつずつ言ってもらうのです。つまり、「ケンケンパーチョキ」になったらその順に跳ぶというわけです。これは大人でもなかなか難しいですよ。

とはいえ、正確性を問うものであって、全力で走るといった類いの体操ではありませんから、身体に余計な負荷をかけることはありません。その点でも、準備体操には最適だと思います。

【オリジナルケンケンパ】

■ケンケンパッの基本姿勢

■基本のケン

ケン:片足でジャンプして着地。

■グー

グー:両脚を閉じて着地。

■チョキ

チョキ:前後に脚を開いて着地

パー

パー:左右に脚を開いて着地。参加する子どもたちに「ケン・グー・チョキ・パー」のうち好きなものをひとつずつ言ってもらい、その順に跳ぶ

たくさんのメリットが詰まった「クマ歩き」

——先ほどお話に出た「動物歩き」というのは、どういったものですか?

その名のとおり、「動物の真似をして歩く」運動です。多くの種類があるのですが、絶対にはずせないのが「クマ歩き」ですね。やり方は簡単。ただ、両手両足を地面につけて前方に歩くというものですが、この運動にはたくさんのメリットが詰まっています。

一例をあげてみましょう。クマ歩きで前に進むには、前のめりに倒れないように、手で身体を支える必要があります。では、この動きを身につけることで、どういったメリットがあると思いますか? ポイントは「手で身体を支えられるようになる」ということ。そう、運動中や日常生活のなかで転倒しそうになった際にも、手でしっかり身体を支えられるようになるので、ケガ防止、危険回避能力アップにつながるのです。
また、幼い子どもの場合、マット運動の基本である前転を怖がってしまうケースも少なくありませんが、それは自分の手で体重を支えることができないから。前転をするには、ぐーっと前方に向かってかけた体重を手で支える必要がありますが、クマ歩きにはそうした筋力をつける狙いもあります。
同様に、手で身体を支える鉄棒、跳び箱などにも応用が効くので、小学校の体育の内容に直結する力が伸ばせる運動とも言えるでしょう。

【クマ歩き】

クマ歩き:床(地面)に両手両足をつき、右手と左足、左手と右足を交互に出すようにして前進する

 アスリートも実践している「巨人歩き」

——「ダイナミックストレッチ」についてはいかがでしょう。これは、「静的ストレッチ」の対極にあるものだと考えてよろしいですか?

そのとおりです。「ダイナミックストレッチ」というのは、静的ストレッチとは違って、身体の動きをともなうストレッチのこと。ただし、小さな子どもたちに複雑な運動をさせるのは難しいため、単純なものがおすすめです。
ここでは「巨人歩き」を紹介しましょう。これは、「脚を大きく広げて歩く」というもので、簡単にいえば大股歩きです。とはいえ、子どもたちにとっては楽しく運動することが大切なので、あえて「巨人歩き」と呼んでいます。「大きな巨人になったつもりで、ドシーンドシーンと歩いてごらん」というと、子どもたちはよろこんで大股歩きをしてくれますよ。
もちろん、この運動にも大きな効能があります。大きく脚を広げて歩きますから、股関節の可動域を広げることになりますし、下半身の筋肉の強化にもつながります。特に股関節の腸腰筋という筋肉が鍛えられますから、かけっこのスピードアップにも直結します。陸上選手などアスリートが行うトレーニングに「ランジ」というものがありますが、それなどはまさに巨人歩き。効能はお墨付きというわけです。

【巨人歩き】 

巨人歩き①:脚を大きく前に踏み出す。
巨人歩き②:腰を低く落として股関節を広げる。

楽しく笑って運動すれば腹筋が鍛えられる

——最後に、「筋力トレーニング」についてもご説明ください。

これについては、腹筋運動がいちばん。おすすめなのは、小学校の新体力テストでも行う「上体起こし」です。まずは、マットのうえで仰向けになり、両腕を胸の前で組んで、両膝を直角に曲げます。次に、補助者に両膝を押さえてもらって、30秒間にできるだけ数多く上体を起こしましょう。保育士のみなさんも一度はやったことがありますよね?
ところで、なぜ腹筋を鍛えることが大切なのでしょうか。それは、すべての運動の基本となる筋肉が腹筋だからです。身体の中心にあって、姿勢を維持するのも腹筋の役目だし、鉄棒で逆上がりをする際、脚を引き上げるのに必要なのも腹筋。ほかにも、腹筋はさまざまな場面で必要とされていますが……。それにも関わらず、日常生活の動きではなかなか鍛えることができません。だからこそ、意識して鍛える必要があるのです。
日常的に腹筋を鍛えるという意味では、子どもたちがとにかく楽しく運動をできるようにするのも大事です。思い切り笑うことでも、腹筋は鍛えられますからね(笑)。

【上体起こし】

上体起こし①:マットのうえであお向けになり、両手を軽く握って両腕を胸の前で組む。両膝は90度に曲げる。補助者は両膝を押さえて固定する。
上体起こし②:「よーいドン」の合図で、両肘と太ももがつくまで身体を起こす。30秒間にできるだけ数多く①②を繰り返す。
東京都出身。株式会社ボディアシスト取締役。スポーツひろば代表。
一般社団法人子ども運動指導技能協会理事。
日本体育大学卒業後、一般企業を経て家庭教師型体育指導のスポーツひろばを設立。
運動が苦手な子どもを対象にした体育の家庭教師の事業をはじめとして、子ども専用の
運動教室の開設や発達障害児向けの運動プログラムの開発など、新たな体育指導法の
普及に幅広く取り組む。著書に『うんどうの絵本 かけっこ』『うんどうの絵本 なわとび』
『うんどうの絵本 ボールなげ』『うんどうの絵本 すいえい』(いずれもあかね書房)、
『発達障害の子どものための体育の苦手を解決する本』(草思社)がある。

『小学校体育 つまずき解消事典』
西薗一也 著
明治図書出版(2021)