第1回 子どもの食育はまず大人から!食事への興味を引き出す場作りの秘訣 栄養士|笠井奈津子

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文/栄養士 笠井奈津子 写真/櫻井健司

「哲学科出身」という少し変わった経歴を持つ栄養士の笠井奈津子さん。学生時代に繰り返した極端なダイエットで失敗した経験から、身体だけではなく、心と食のつながりを痛感したことで栄養士を目指し栄養学を勉強したといいます。

そんな笠井さんは、心療内科クリニック併設の研究所で食事カウンセリングに携わったのち、いまはセミナーやダイエットコンサルを通じてたくさんの人の相談に乗っています。

連載第1回目は、食に悩む大人を多く見てきたからこそ感じる、「食育」の大切さです。

身体の発育、心の発育を支える食。食べる意欲は生き抜く力になる!


『子どもたちが豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身に付けていくためには、何より も「食」が重要である』

2005年に農林水産省が制定した「食育基本法」の前文にあるこの一文を、栄養士・幼児食インストラクター・食育アドバイザーである以前に、子を持つひとりの母親として見返すことがあります。

栄養素という単なる物質的な話で終わらせず、いま目の前で起きている「好き嫌い問題」や「食事のマナー」といったものにも振り回されず子どもと食との健全なかかわりを築くこと——。それが人生100年時代ともいわれる長い人生において、大人から子どもたちへの、いつかきっと役に立つ最高のプレゼントだと思います。

わたし自身が子育て中ということもあってか、最近はお子様の食事相談を受けることも多くなってきました。

大人から子どもまでいろいろな食の悩みに触れていると、子どもの頃にいい食習慣を身に付けることができたら、後々どれほど楽になるか。そして、そのためには子どものときから食への興味関心を育むことがいかに大切かを実感します。

長年習慣になっていることを変えるのは難しいですし、日頃から「どうでもいい」と思っているようなことに対して人は時間を割こうとしません。でも、「適当に食べることは、自分の身体をぞんざいに扱うことと同じ」です。

だからこそ、これから習慣を身に付けていく子どもたちへの「食育」はとても大切なのです。

子どもはその小さな身体で大人よりも多くの栄養を必要としています。

たとえば、「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)で親世代のタンパク質の推奨摂取量を見ると1日あたり50g(女性)が必要です。これに対し、3〜5才は1日あたり25gを要します。

1日あたりの推奨量
親世代(女性)50g
3〜5才25g

体格のちがいを考えると、発育期の必要量がとても多いことがわかりますよね。カルシウムや鉄についても、体重1kgあたりで見ると大人の2~3倍も必要です。

一方、体内での消化能力はまだ発展途上ですし、大人ほどの咀嚼力もありません。

身体の健やかな発育には栄養が欠かせないにもかかわらず、一度に食べられる量は限られてしまう。そういった観点から、幼稚園や保育園でもお菓子ではなく、さつまいももちなど手作りの間食で栄養を補っているところもあるでしょう。

園内をかけまわり、ぐんぐん成長していく子どもたちですから、成長段階で欲する栄養は大人の比ではありません。

栄養バランスに気をつけて身体が健やかであれば、同時に心も健やかに発育していくはず——。わかりやすくそう思いたいところですが、しっかり食べてもらうためにも、子どもの食をとりまく環境にも目を向けなければなりません。

わたしたちは普段の食事から、栄養以外のものもたくさん吸収しています。食卓でのコミュニケーションによる社会性、信頼関係、愛情関係……こうしたことも、健やかな心の発育に欠かせないものでしょう。

そして、安心できる場を提供することが、食べる意欲を育み、生き抜く力になっていくのです。これが、わたしの思う正しい「食育」です。健全な食生活を実践できる力を育むためにも、意識したいところです。

コロナ禍における「新しい生活様式」での食事サポート

しかしながら、「園内でみんな楽しく会話しながら食べましょうね!」というのもコロナ禍のいまは少しはばかられると思います。幼稚園や保育園と保護者をつなぐ「給食参観」のような食の場も、断念せざるを得ないこともあるでしょう。

ひとつのテーブルで食べる人数を減らす(密を避ける)、全員でひとつの部屋に集まらずに食べる場所を変える、食べる時間を変えるといった対応だけでも、先生方のご負担は増えているはずです。

食事中のパーテーションの設置など、決まったことに対しては「備えあれば憂い無し」の気持ちで、子どもたちが楽しくおいしく食べられるように笑顔で見守ってあげてほしいと思います。

食に興味を持たせたいなら「絵本の読み聞かせ」がおすすめ

そんななかおすすめしたいのは、給食やお弁当の時間以外で「食の話」をすることです。園児たちと一緒に食べたり、食事中に会話したりする以外にも、食への興味関心を引き出す方法はたくさんあるのです。

園内で野菜を育てながら食の話をするのもいいですし、もっと日常的なところでは、食にまつわる絵本の読み聞かせもいいですよね。

絵本でいえば、野菜や果物がテーマのものはもちろんのこと、『おなかのこびと』(教育画劇・よしむらあきこ作)のように、子どもが面白がる「うんち」が登場するものもなかなかいいですよ。

子どものうちから、「うんちの状態を見て健康チェックをする」「うんちから逆算して自分の食べ方や水分のとり方を見直す」ことは、自分の身体を大切に扱ういい練習になります。

ただ「お腹をこわすから冷たいものを飲み過ぎちゃダメだよ」と頭ごなしにいうよりも、絵本を通して経験・体感として学んだほうが、子どもの頭にインプットされていきます。

食事中の飛沫感染対策は園によっても異なりますし、同じ園のなかでも先生同士の温度感が異なったり、セッティングしたりするだけでひと苦労ということもあるでしょう。

子どもにぼやきたくなってしまうことも多々あるかと思います。コロナ禍においては、幼稚園や保育園でも「新しい生活様式」が求められ、「食育」においても、その方法を見直していくタイミングなのかもしれません。

「ちゃんと料理をする」以上に、一緒に笑顔で食卓につくことが大事

食べることが好きになると、少なくとも1日3回、楽しみな時間ができます。

でも食に興味がなければ、食べることは単なるの義務のようになってしまい、気が重い時間になるばかり。いうまでもなく、大人になったときに食事のプライオリティが下がりやすくなります。たとえば「朝食は食べない」「お昼は仕事場のデスクでカップ麺」「お腹を満たせばなんでもいい」なんてことが日常的に起こりやすくなるのです。

そんな大人になった人たちが、突然、身体や心を壊すケースを少なからず見てきたわたしとしては、子どもたちにはとにかく食べることが好きになってほしいと願っています。

でも、いろいろと考えてつくられた給食や親御さんが持たせたお弁当を「食べたくない」といわれてしまうと、親自身でなくてもつい口から不満が漏れ出ることもあるでしょう。

それこそ、まだ食べ物が残っている状況で「もうごちそうさま」といわれて頭を抱えることだってあるかもしれません。でも、大人でもそうであるように、子どもだってそのときの心理状況によって食欲はまちまちなのです。

「なんで食べないの?」と聞くのも、余計に食欲を削いでしまう場合があります。食事中はあまり追求せず、あくまでも「次に活かすスタンス」で、食事中ではないときに理由を聞いてみるといいでしょう。

「ちゃんと料理をする」「ちゃんと食べてもらう」以上に、大人が心にゆとりをもって笑顔で一緒に食卓につき「食事の時間が楽しい!」と思える場作りを意識することが大切だと思います。

そして最後にお伝えしたいのは、子どもたちの食を考えると同時に、わたしたち大人の食生活を大事にしたいということ。

食事は、人間が生きていくうえで避けることのできない「毎日の生活の一部」です。

もちろん、忙しいなか毎日ように「食の優等生」でいられません。でも、食が子どもとわたしたちの身体と心を支える大切なパーツであることには疑いの余地はないのです。

ですから、子どもの食育を通じて、わたしたち大人も日々実践できること、続けられることをあらためて考えてみましょう。

大人のしっかりとした食意識が、子どもの食意識を高めていくのですからね。大切なのは、「意識」を持つことです。食に意識を持っていれば、不思議なことに子どもの身体にもいい食の情報はどんどん入ってくるものです。

ぜひ、「楽しいごはんが、いいごはん!」を合言葉に、子どもと一緒にわたしたち大人の身体も大切にしたいものです。それが、いい「食育」につながっていくことは間違いありません。

参考】

農林水産省「食育基本法」
「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)

栄養士/食育アドバイザー
1979年、東京都に生まれる。1児の母。聖心女子大学文学部哲学科卒業後、香川栄養専門学校(現・香川調理製菓専門学校)を経て栄養士になったのち、都内心療内科クリニック併設の研究所で食事カウンセリングに携わる。
産後、働き方を見直すなかでパラレルキャリアの道を開拓。
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