第9回「食べる」がもっと好きになる一工夫入れた食育の時間 栄養士|笠井奈津子

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人間が生命を維持していくためにはもちろんのこと、子どもたちが健やかに成長するうえでも欠かせないのが「食」です。でも難しいのは、食べることが好きな子どもばかりではないという事実です。

そんな子どもたちが「食べる」をもっと好きになるには、食の経験を増やすこと、そして、好奇心を刺激することも大切な要素になってきます。これから夏にかけてぴったりな食育のアプローチ、園でできる一工夫入れた食育の時間について考えていきます。

文/栄養士 笠井奈津子 写真/櫻井健司

子どもたちが「参加」できる食育の時間を心がける

もうすぐ梅雨入りになりますが、家や園のまわりの散歩に行けない日が続いたとき「なにをして過ごそう?」と頭を悩ますのは、保護者も保育士のみなさんも同じだと思います。

そんなときに、選択肢のひとつとして気軽に取り入れてほしいのが「食育の時間」です。食育といっても、難しい資料を見て事前にいろいろと調べたり準備をしたりするのではなく、大人も子どもと一緒に楽しむことがポイントです。

最初に決めたいのは、「テーマとなる食材」です。食材は旬のものから選ぶのがおすすめで、そのメリットとしては次のようなことが挙げられます。

<食育のテーマに”旬の食材”を選ぶメリット>

①その時期、給食でも家庭でもよく出る食材のほうが反復学習をしやすい
②旬の食材は栄養価が高く、シンプルな調理法でも美味しく食べることができるので子ども向けの薄味献立がつくりやすい
③旬の食材は出荷量が多く、手頃な価格で買えるので実践しやすい

では、これから夏に向けて旬を迎える食材にはどのようなものがあるでしょうか? 子どもたちにも馴染みがあって、絵本や歌にもよく登場する旬の野菜であれば、きゅうり、なす、トマトなどが挙げられます。

テーマが決まれば次は食育の内容です。ここでのポイントは子どもたちを飽きさせない工夫。保育士のみなさんの話を一方的に聞くだけでは子どもたちも集中力が続かないので、年齢にあわせて「会話形式」「クイズ形式」「子どもたちが手を動かせる参加型のワークショップ」など複数のパターンを用意しましょう

たとえば、きゅうりでの「会話形式」であればこんなイメージです。「みんなはきゅうり好き?」と聞くと、「嫌い!」「虫の味がする!」と答える子もいれば、「食べられるよー!」と自慢げに話す子どももいるでしょう。

年齢が少し上の子どもたちは、夏場に水分補給が必要なことをある程度理解しているものですが、きゅうりやトマトのように、水分が多い野菜は水分補給としても優れていることなども教えてあげるといいかもしれません。日常に密着した知識は、記憶に残りやすいからです。

また、野菜全般が嫌いな子どもがいれば、「トマトを使った料理や調味料にはどんなものがある?」と身近な食につなげて「クイズ形式」にしてあげるのもいいですよね。

トマトのサラダは食べなくても、ケチャップをかけたオムライスやピザのソース、ミートソースなど、子どもたちが好きなものにもトマトが使われていることをクイズの流れで教えてあげるのです。

調理、試食、実際の野菜づくり……。体験は素晴らしい食育

きゅうりひとつとっても、輪切りにしただけのものと塩をふって少しおいたものでは、味だけでなく食感も異なりますよね。子どもたちにこのきゅうりの違いを体感してもらうためには、実験的な調理実習がおすすめです。

たとえばジップロックやタッパーに適当な大きさに切ったきゅうりと塩を入れて、順番に子どもたちに振らせることで、その変化を目で見て楽しんでもらうことができます。

塩もみによって出た水分を目にすることで、先にお伝えした「野菜も水分補給になる」ということも実感できるでしょう。

もし調理室のスタッフの協力が得られるのであれば、テーマとして扱った食材の「煮る」「炒める」「焼く」といった、それぞれのちがいを見せるのもおすすめです。子どもたちとっては、新たな経験でもあり楽しい食育となります。

ここで肝心なのは、必ず「試食」を設けること。同じ食材でも調理の仕方によって味や食感が変化することを体感すると、食の経験が増えるとともに、「この野菜は嫌いだけれど、このやり方だとちがう味なのかな? 少しだけ食べてみようかな」と、子どもの好奇心を引き出すことにつながります。

ただ、幼児期だと一度でも嫌な思いをすると「もう見るだけでも嫌だ!」ということもありますよね。でも、たとえば人参が嫌いという子どもでも、よくよく話を聞くと「煮炊きした甘い人参は嫌い」でも、「サラダにはいっている人参なら好き」というように、人参そのものが嫌いではない場合がよくあります。

ですから、わたしたち大人は、子どもの好き嫌いに関しては、反応をダイレクトに受け取るのではなく、「そうなんだね」と聞いてあげながらも、食への好奇心を刺激し続けてあげることが大切なのです。

それから、雨の日の楽しみを増やすには、きゅうりやトマトといった野菜を苗から育てるという方法もあります。水やりなどの当番も楽しいものですし、これらは育ちが早く収穫回数も多いので、梅雨時期を通じて繰り返し行うことができます。

季節が変わり真夏になれば、「野菜の成長には天気のいい日ばかりではなく、雨の日も必要」ということも経験から学べるでしょう。さらに野菜を育てる前と野菜を育てたあとで、それぞれ調理実験をすれば、子どもたちの「好き」や「興味関心」がどれだけ変わったかを見ることもできます。

園と家のバランスを考えた食育をする

ただ、園での食育をするうえで少しだけ気をつけたいこともあります。

子どもたちは、きっとその日に園であったことを楽しそうに家で話しているでしょう。保護者が「そんなことをしたんだね!」「そんなことがあったんだね!」と応えられることならいいのですが、どうやら食育に関しては少し抵抗感を感じている家庭もあるようなのです。それは保護者のこんな感想に表れています。

「子どもが園で習った内容をいろいろと話すのだけど、家ではできていないからプレッシャーを感じる」「栄養バランスについて習ってきて、子どもから『野菜が足りないよ』といわれてイラッとした」「家でもやりたいと思うけれど、そんな時間はなかなかつくれない」「子どもが出したクイズの答えがわからなかった」など、様々です。

ですから、「家ではなかなかできない分、園で頑張って食育をしよう!」という意気込みが大きすぎると、家庭とのバランスが崩れてしまう可能性があります。

子どもたちが「食べる」を好きになるには、家庭での食事の時間も楽しいことがなにより大切なこと。そのためには、保護者のみなさまに園だよりなどで事前に食育に関する情報共有をするなど、それぞれの家庭で負担にならないような配慮が必要なのです。

また、そうした観点から見ると、大変な準備をしてはじめる食育よりも、思い立ったらすぐできる食育くらいのほうが適しているということも考えられます。ですので、いくつかの食育のパターンを持っておきながらも、その時々に考えた楽しい食育を実施することも取り入れたいものです。

最後に、気温がとても高くなる夏は、外遊びをするとどうしても食欲が落ちる傾向にあります。そんなときこそ、食への好奇心を刺激しながら、子どもたちをサポートしていきましょう。

栄養士/食育アドバイザー
1979年、東京都に生まれる。1児の母。聖心女子大学文学部哲学科卒業後、香川栄養専門学校(現・香川調理製菓専門学校)を経て栄養士になったのち、都内心療内科クリニック併設の研究所で食事カウンセリングに携わる。
産後、働き方を見直すなかでパラレルキャリアの道を開拓。
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