第10回 大人も子どももストレスフルな時代。「食」でストレス抵抗力をつけよう 栄養士|笠井奈津子

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ストレスが原因で心や体を壊してしまうのは、大人だけではなく子どもの身にも起きうること。とくにコロナ禍にあるいまは、自由な行動が制限されることも多いため、よりメンタルヘルスケアを気にかけたいところです。

ストレスとどう向き合い、つきあっていくのか——。これは生きるうえで大切なスキルですが、残念ながら学校では習うことがありません。普段の「食」を通じてできるストレス抵抗力の高め方、そして、園でできるストレス軽減のための工夫を考えていきます。

文/栄養士 笠井奈津子 写真/櫻井健司

「食べる」ストレス発散法はよりストレスを増加させる

みなさんにとってのストレス発散法には、どのようなものがありますか? 新型コロナウイルスの感染拡大前であれば、旅行、カラオケ、買い物など、たくさんの選択肢を持っていたことでしょう。しかし、行動が制限されがちなコロナ禍では、その選択肢がかなり狭まっていることと推測します。

いまから20年前——わたしのストレス発散法は、「食べること」でした。なんと、そのときの体重は、いまの体重にプラス25kgもあったほどです。ストレスを発散したくて食べているのに、体重が増えるほど余計にストレスを感じ、ダイエットが続かない自分に対する自己嫌悪がどんどん増していきました。そんな10代から20代にかけての体験は、当時大学で専攻していた哲学から、「栄養学」へと関心を変える転機となりました。

そして、そういったことは一個人の体験ではないということを栄養士として仕事をするなかで知ることになります。私の栄養士としてのキャリアのはじまりは「心療内科クリニックに併設された研究所でのダイエット相談」でしたが、相談者が暴飲暴食をするなど食生活が乱れたときの多くは、ストレスがきっかけになっていたことがわかりました。

だれしも「今日は仕事でイヤなことがあったから、夜は食べたいものを食べたいだけ食べよう!」という日があると思います。その一晩でイヤなことが解決してくれたらいいのですが、実際に解決することはありません。翌朝目覚めたらなんとなく体が重い感じがしたり、胃もたれがしていたり、体重が増えていたり……。それでは、体だけでなく心にも負担をかけてしまいます。

すでにストレスが溜まっていた状態から、さらに新たなストレスを受けるのはかなりしんどいことですよね。そもそもストレスとうまく折り合いがつけられていないのですから、暴飲暴食などはもってのほか。それでも、大人であれば何回か同じことを繰り返すうちに、「この方法はやめよう」と自身で学ぶことができます。でも、まだまだ自分で判断できない子どもたちはどうでしょうか? 

子どもがストレスで騒いだときなどに、お菓子や好物を渡して気を紛らわせてしまう親は少なくありません。それはイコール、ストレスを発散させるために「食べる」という行為を、親自らがうながしていることになります。

でもそれでは、一時的にストレスを解消したに過ぎません。わたし自身がそうだったように、結果としてストレスを増幅させることにつながりかねないのです。

ストレス抵抗力を高めるビタミンCとタンパク質

それこそ、大人がストレスを感じているようなタイミングでは、疲労感なども重なって栄養のことを考える気持ちになれないというのが正直なところだと思います。だからこそ、日頃から「抗ストレス作用がある栄養素を十分に摂取する」という意識が必要です。

では、どんな栄養素を摂取すべきなのでしょうか。ここでは、簡単に摂取できるふたつの栄養素を紹介します。

ひとつめは生野菜や果物など、調理に手間がかからない食材に多く含まれるビタミンC。ビタミンCはストレスを感じると消費されてしまう栄養素なので、生野菜ならメイン料理のちょい足しに、果物なら食後のデザートやおやつとして、食べる機会を増やしていきたいところです。

子どもたちには、「お友だちに優しくできたり、ニコニコになったりするために大切なもの(栄養素)なんだよ」というような話をしてあげるといいと思います。

もうひとつの栄養素は、タンパク質です。最近、わたしの子どもも保育園で習ったらしく、「お肉を食べると体が強くなるんでしょ?」と自宅で食事中に話していましたが、お肉を食べると強くなるのは体だけでなく心も同様です。

精神を安定させるハッピーホルモン「セロトニン」や、よろこびや快楽を感じさせるホルモン「ドーパミン」など神経伝達物質の主な原料はアミノ酸です。そのアミノ酸は、タンパク質の構成成分となるものですが、ひと口にタンパク質といっても、魚、肉、卵、大豆などによってアミノ酸の組成が異なりますので、いろいろなタンパク質を食べるようにしましょう。

また、神経伝達物質をつくるためにはビタミンB群も必須なのですが、豚肉など動物性の食品に多く含まれるため、野菜主体の食事では不足してしまいます。これは子どもにはあまりあてはまりませんが、ベジタリアンやダイエット中の場合でも、せめて卵を食べるなどしてビタミンB群が不足しないように気をつけてください。

園で意識したい、「おいしく、たのしく食べる」環境づくり

好きなものを好きなだけ食べるのでは脂肪を増やすだけでなく、心身ともにストレスを受けることは既にお伝えしたとおりです。しかし、栄養のことだけを考えて食べる行為もまた、体の栄養は満たされても心の栄養が満たされません。

そこで、園で意識してほしいのは、「みんなでおいしく、楽しく食べる」ことができる環境づくりです。感染予防対策ありきですが、楽しい会話があってこその楽しい食卓です。マスクをしたうえで先生からの声かけを増やしたり、ときには外でピクニックシートを広げて食べたりすることもできますよね。食事の環境を変えるのは、気分転換に有効です。

子どもたちにとって、園での食事の時間が楽しいものになれば、食べる量だって自然と増えていきます。そして、「家ではあまり食べなくても、園ではしっかり食べている」という事実は、保護者のみなさんにとっても、子どもの食における悩み、日々のストレスを軽減させることにつながります。

親、保育者、子どもたち——。コロナ禍においては、みんながストレスフルな日々を送っていると思います。本来であれば、思いきり遊んで楽しくストレスを発散させたいところですが、そうできないのが現状でしょう。その現実を受け止めつつ、「食」を通じてストレス抵抗力高め、少しでも心と体を安定させ毎日を過ごしていきましょう。

栄養士/食育アドバイザー
1979年、東京都に生まれる。1児の母。聖心女子大学文学部哲学科卒業後、香川栄養専門学校(現・香川調理製菓専門学校)を経て栄養士になったのち、都内心療内科クリニック併設の研究所で食事カウンセリングに携わる。
産後、働き方を見直すなかでパラレルキャリアの道を開拓。
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