第11回 気をつけるのは園児だけじゃない。保育士の「熱中症対策」 栄養士|笠井奈津子

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暑い季節、子どもたちの熱中症対策は万全でも、保育士さんご自身の熱中症対策もちゃんとしていますか?

炎天下のなかで、エプロンやマスクを着用しての勤務では、体に負荷がかからないわけがありません。子どもたちを見守る側の健康管理も非常に大切なものです。

水分や栄養補給のポイント、体を回復させる睡眠スキルの重要性など、保育士さん向けの熱中症対策を考えていきます。

文/栄養士 笠井奈津子 写真/櫻井健司

大人が水分補給をしている姿を園児に見せるのも「学び」になる

とくに、体温調節がまだまだ未熟な乳幼児は熱中症になりやすいものです。よって、子どもたちに対する園での熱中症対策は、どこもしっかりとしたガイドラインに沿って運用されていることと思います。でも、保育士のみなさんはどうでしょうか? 

エプロンを着用していれば、プライベート時の服装に比べても1枚多く着込むことになり、それこそコロナ禍のいまは、マスクの着用も求められます。

体内にこもった熱をうまく発散できないと、体温が上がり、やがて脱水症状などを引き起こして熱中症を招きます。なかなか実施することは難しいのかもしれませんが、温暖化が叫ばれ気温が急上昇している夏場は、首周りをゆったりさせて、保育の現場でもクールビズならぬ、「涼しげな格好」を容認する必要もあるかもしれませんね。

熱中症対策として、子どもたちへの水分補給をこまめに行うこともあるでしょうし、プール遊びがはじまったりするとその対応でより忙しくなると思います。そんなとき、「あ、そういえば自分は朝出勤してからなにも口にしていなかった」ということにならないように、保育士のみなさんも水筒を持参して、同僚同士で「ちゃんと水分補給してる?」などと声かけをし合うことも忘れないようにしましょう。

目の前には園児たちがいますから、どうしても「自分より優先すべき」ことがあるでしょう。子育てをしている身からすると、自分自身のためのひと手間が難しいのも理解できます。でも、園児たちに「水分補給をしましょうね」と何度も口うるさくいうよりも、大人がこまめに水分補給している姿を見せることが、園児たちにとっての「学び」になるはずです。

家庭でも、子どもを見る側はついつい自分のことは後回しにしてしまいがちですが、熱中症を予防するポイントをシンプルにふたつ挙げるなら、「こまめな水分補給」と「高温多湿な環境を避ける」ことです。

子どもも大人も暑い夏を元気に過ごすためには、「子どもと一緒に水分補給」「子どもと一緒に体を休める」ことを心掛けたいところです。子どもたちの水分補給のタイミングを決めているように、保育士さんご自身のタイミング(時刻)もあらかじめ決めておくと、「朝から一口も飲んでいない!」といった事態を避けられるでしょう。

体を回復させる睡眠スキルを上げよう

そうはいっても、園児たちの行動は読めず、小さなトラブルも頻繁に起こることと思います。その対応に追われると、勤務中に自分の体をケアするのは簡単ではないでしょう。そんなときに強化したいのは、負荷がかかった体をしっかり回復させる睡眠スキルです。

たとえば、睡眠時に出る「成長ホルモン」がありますが、これは、大人になったわたしたちにも無縁ではなく、成長をうながす思春期が終わったあとも(減少こそするものの)分泌されています。

この成長ホルモンがどんな働きを担っているかというと、細胞を若返らせる働きです。細胞が若返ることで病気などへの抵抗力も高まります。熱中症を防ぐためには、体そのものが健康であることは大前提ですから、覚えておきたいポイントです。

成長ホルモンは眠りが深くなるほどに分泌量が増えるため、良質な睡眠をとれるスキルが求められます。よく「寝る前の食事は体に悪い」といわれますが、これは「太るから」だけが理由ではありません。胃のなかに食べ物が入った状態で寝てしまうと、体が消化吸収の仕事に追われることになり、成長ホルモンの働きがおろそかになってしまうのです。

夏場になると、「お風呂上がりのアイスやビールに幸せを感じる!」なんて話を聞くこともあるのですが、体のことを考えるならば、休日の前の日限定の楽しみにしたいですね。

睡眠スキルを上げるもうひとつのポイントは、朝食にあります。

早番・遅番など勤務時間にバラつきがある場合、どうしても朝食の時間が定まりませんが、体内時計を整えるためには、できれば毎朝同じ時刻、遅れたとしても1時間程度におさめたいものです。

そして同時に、朝食の内容も重要なポイントで、「エネルギー源」としてのごはんやパンだけで済ませることなく、「タンパク質」をプラスすると効果的です。朝食ですから、卵、豆腐、納豆といった大豆製品、魚(しらすやツナなどトッピングできるものが便利です)、牛乳などがあるといいでしょう。

これらに含まれる必須アミノ酸のトリプトファンは、幸せホルモンともいわれるセロトニンをつくる材料になり、さらに、安眠をうながすメラトニンの材料へと変換されます。

体に必要な栄養を摂取して体調を整えることは基本中の基本。そうした理由からも、夏場はとくに朝食を抜かないようにしましょう。お味噌汁は水分・塩分の補給にもなりますから、インスタントのものなども上手に活用してください。

「食欲が落ちてラッキー」とは思ってはいけない

気温が上がってくると、普段は「食べることが好き!」な人でも「あまり食欲がなくて……」となることがあります。このとき、「食欲が落ちる」=「ダイエットになるからラッキー」とは思わないでほしいのです。

近年の日本の暑さはとにかく異常ですし、それも暑い期間が長く続きますから、「疲れやすい」「やる気が出ない」といった不調が出やすくもなります。もちろん、こうしたコンディションでは熱中症にもなりやすくなります。

食欲がないときでも、朝食と同じようにタンパク質をしっかり補給しましょう。「疲れたし、食欲がないからコンビニで冷やしうどん買おう」。そんなときも、近くの棚にある温泉卵を一緒に買う。

また、パン屋さんに行くときも、パンだけではなくツナやチキンなどタンパク質入りのサンドイッチも買う。お酒を飲むときもおつまみに枝豆を食べるなど、「ついで買い」で構いません。料理をするのがおっくうなときは、「買う」という選択肢を増やせばいいのです。

また、ビタミンB1が不足すると糖質をエネルギーに変換できず、それによって活力が低下することにともない、食欲も低下しやすくなります。外食などメニューに選択肢があるときは豚肉を使った料理や、カツオの刺し身など、ビタミンB1が豊富な食材を食べることをおすすめします。外食するお店では、エアコンの温度がかなり低めに設定されている場合もあるので、あえて夏場に鍋料理を食べるというのも手軽に栄養補給できる選択肢のひとつです。

暑さからの睡眠不足、そこからの夏バテ、食欲減退……。そんな悪循環におちいらないように睡眠スキルを上げて、しっかり栄養を摂取し、水分補給を欠かさない。日中も少し体を休める時間を取り、夜は再び良質な睡眠を心がける——。そんな好循環を目指しましょう。

「夏バテ」という言葉から、猛暑の最中やそのあとに症状が出ると思いがちですが、梅雨時期にはすでに夏バテがはじまっている人も少なくありません。早めに軌道修正して、疲れをためにくい体にし、熱中症対策をしっかりしていきましょう。

炎天下のなか、子どもたちをずっと見てくださっている保育士のみなさんには、保護者のひとりとして本当に感謝しています。

どうぞ、お身体ご自愛ください。

栄養士/食育アドバイザー
1979年、東京都に生まれる。1児の母。聖心女子大学文学部哲学科卒業後、香川栄養専門学校(現・香川調理製菓専門学校)を経て栄養士になったのち、都内心療内科クリニック併設の研究所で食事カウンセリングに携わる。
産後、働き方を見直すなかでパラレルキャリアの道を開拓。
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