保育園で今すぐ実践したい幼児教育「子どもの可能性を広げる幼児教育」――今泉真樹さんインタビュー

脳がいちばん育つといわれる0~5歳までに、園が行いたい「子どもたちの将来の可能性を広げる幼児教育」について、保育のスペシャリストたちに学びます。

1.子どもの自己肯定感を育み、やる気を引き出すコーチング

2018年に改定された「保育所保育方針」では、小学校入学後にも子どもたちがいきいきと学び続けられるよう、「幼児期の終わりまでに育っていてほしい姿」が示されています。今だから保育士が知っておきたい「子どもの可能性を広げる幼児教育」について、保育のスペシャリストたちに学びましょう! 第1回は、知育こどもアート教室「アトリエ・ピウ」を主宰する今泉真樹先生に、今すぐ実践したい幼児教育のポイントについて伺いました。

今泉先生に学ぶ【子どもの可能性を広げる幼児教育のポイント】

Point1子どもの「試行錯誤」を重視し、安易に手助けしない
Point2失敗を恐れず挑戦するための声かけをする
Point3思い立った時に、いつでもアートで表現できる環境を整える

「子どもの可能性を広げる幼児教育」を語る女性(今泉真樹さん)

今泉先生の考える幼児教育の根幹にあるのは、子どもたちへの絶対的な信頼感です。どんな子どもでも「やればできる」ということを信じているからこそ、安易な手助けを控えて、子ども自身の試行錯誤を促すことができるのです。もちろん、新しいことや困難なことに挑戦するための的確な声掛けや、望ましい環境づくりにも余念がありません。アトリエ・ピウでは、子どもが楽しめるようなアート教育を通じて、日々これらのポイントを実践しています。

今泉先生は「思い立った時に、いつでもアートで表現できる環境が大切です。ご家庭でも、お部屋の片隅に、汚しても良いスペースを与えてあげて、子どもがのびのびとできるように環境を整えることを、ぜひ実践して頂きたいと思っています」と話します。

2.自分で考え 形にする力を伸ばす【Self dependent Method セルフ ディペンデント メソッド】

子どもの可能性を広げる幼児教育のため本を子どもに見せる女性(今泉真樹さん)

カード型のカラーチャートなどを用いて、色の持つイメージをふくらませるレッスン。好きな季節を一つ選び、連想される色を自由にチョイスして、個性的な切り絵に仕上げました。

■知育こどもアート教室「アトリエ・ピウ」が生まれた背景

――「アトリエ・ピウ」を設立されたいきさつを教えてください。

今泉:私はこれまで、イギリスに留学してシアターデザインを学び、シアターデザイナー(舞台美術と衣装の両方をデザインする専門職)として活動をしておりました。また、日本ではジャン・ルイ・シェレルやインディヴィなど、国内外の有名ブランドや、宝塚歌劇団のジュエリーデザインを手がけるなど、幅広くアートに携わってきました。

その傍らで、自分の子どもができたら、一緒にアートを楽しみたい、自分のアトリエを持ち、子どもアート教室を開きたい、という夢を持ち続けていました。その夢は、息子が2歳半になり、自宅を建築した際、その一画にアトリエを設けるというかたちで叶いました。そのうちに近所のママ友さんが「うちの子も一緒に教えて欲しい」と言ってくださるようになり、知育こどもアート教室としてオープンしたのです。

――アートの分野に進んだ背景には、ご自身の受けたユニークな教育があるそうですね。

私の両親はホストファミリーとしてさまざまな国からホームステイを受け入れていたこともあり、家にいるだけで多様な価値観に触れることができる環境で育ちました。
「おもちゃは買わずに自分で作る」という教育方針でしたので、道具や材料を豊富に与えられ、「自分で作る」ことを促されてきました。
また、テレビもほとんど見ない環境で育ち、その代わりに「本物に触れさせたい」ということで、舞台鑑賞や美術館へ、たくさん連れて行ってもらいました。今になって振り返ると、そうした両親からの「形のないプレゼント」が、自分の財産になったのだと思います。

アート教室でレッスンをする子どもたちと女性の先生(今泉真樹さん)

■好奇心を刺激して、子どもたちの手と頭を動かす

―――アトリエ・ピウのコンセプトを教えてください。

今泉:これまで日本で行われてきたアート教育では、大人が決めた「正解」を教えることに偏りがちな点が気になっていました。
確かに基礎的な技術指導は必要かもしれませんが、子どもたちの個性を尊重し、伸ばすことの方が大切だと考えています。教室の立ち上げ時には、そうした思いでカリキュラムを組み立てていきました。

私が最も重視しているのは、子どもが試行錯誤する過程を大切にすること。「こうすればできるよ」と教えてしまうのは簡単ですが、本当にその子の力を伸ばすためには、自分の頭で考えて答えにたどり着くことが欠かせません。

今の子どもたちは、モノと情報に溢れた世界に住んでいるため、与えられることに慣れてしまい、自分で考え、新しいものを生み出す力が弱くなっています。
そのため、アトリエ・ピウでは、決められた課題をこなすのではなく、「子どもたちが常に自分で考え、自分の力で形にする」という【Self dependent Method セルフ ディペンデント メソッド】を用いて指導し、「クリエイティブな能力」を身につける訓練をしています。
子どもたちの持つ自由な発想力や思考力を育み、自ら道を切り開いていける子どもたちを育てていきたいと考えています。

使用している絵画道具と点描写で描いた水彩画の写真

教室では、先生から「正解」を教えてもらうことを待つのではなく、手探りながらも積極的に前に進んでいく子どもたちの姿が見られます。

―――具体的に、教室ではどのような活動をしているのでしょうか。

今泉:アート教室といっても、座って絵を描くことだけに取り組んでいるわけではありません。工作や裁縫、料理や屋外でのワークショップなどジャンルの垣根にとらわれず、子どもの好奇心を刺激して、手と頭を動かすことなら何でも取り入れています。

また、子どもたちが予想外の反応を見せたときにも、柔軟に対応することも意識しています。その日の子どもたちの様子を見ながら、「今日はお天気がいいから外で絵を描こう!」と、絵の具を持って公園へ出かけることもあります。

アトリエでの活動以外にも、アクティブ・ラーニングを積極的に取り入れ、子どもたちが能動的になって学習する場を設けています。
例えば、【四谷文化祭】では、アトリエ生が似顔絵アーティストになり、お客様に似顔絵を描いて差し上げるワークショップを、【新宿区子育てメッセ】では、アトリエ生がご来場のお子様方に工作をお教えするワークショップを開催し、子どもたちが主体となって活躍するという貴重な学びの経験をします。

このアクティブ・ラーニングは、子どもたちの自発的な学習意欲を引き出し、他者と学び合うというだけでなく、コミュニケーション能力が磨かれたり、自己肯定感も高められる良い機会となります。このようなワークショップに、幼児期の子どもたちが挑戦しているのは、世界でも大変珍しい取り組みではないかと思っています。

版画で年賀状作りをする子どもたち

彫刻刀のようなけがのリスクがある道具も、安全な使い方を伝え、子どもが集中できる環境を整えることで、幼児期から使用することが可能となります。

3.【体験ビフォーアフター】保護者も子どもの成長を実感!

来年の干支の猪を版画に掘る子ども

■答えは子どもの中に――

―――今回は、アトリエ・ピウに小学3年生の息子さんが通っていらっしゃる越智さんにもお越しいただきました。アート教室での経験によって、息子さんに何か変化はありましたか。

越智:息子がアトリエ・ピウに通い始めた3歳のころ、「でちない(できない)!」というのが彼の口癖でした。そう言えばすぐに大人が手助けしてくれると学習してしまっていたのですね。自分で考えたり挑戦したりする力を伸ばしたいという思いから教室に通わせたのですが、当初は「答えを教えてもらえない」ということにびっくりしたらしく泣いてばかりでした。

そうした息子の中で大きな転機となったのが、切り絵の課題に取り組んだこと。普通の先生なら、やり方をすぐに教えてしまうところを、種明かしをせずに根気よく待ち、子ども自身に気づかせた指導がすごいと思いました。最初は、形を切り取ることはできても、その中をくり抜いて模様にする原理がなかなか理解できなかったようですが、先生からのわずかなヒントを頼りに挑戦し続け、ようやく数カ月後に窓の部分を切り抜いたビルを作ることができました。

インタビューに答えるアート教室の生徒の女性保護者

―――息子さん自身の力で、壁を乗り越えることができたのですね。

越智:この「自分の力でできた!」という体験が、息子にとって大きな自信となったことは間違いありません。その後は徐々に、自分で作品を生み出す喜びを感じ始めていったように思います。先生のアドバイスを受けて、いつでも何かを作ることができるよう、自宅リビングの小さなテーブルに、アートの道具や材料、廃材などを揃えて、息子が自由に使えるスペースを作りました。すると「デザイン事務所」を名乗って、自発的にものづくりを楽しむようになりました。

思いついたことをすぐに表現できる環境を整えたことは、子どもの才能を開花させるためにとても効果的だったと思います。また、今泉先生のレッスンでは、答えを教えてもらえないので、日常生活でも粘り強く考えて、自分で答えを見つける習慣が身についたと感じています。

今泉:今では、年下の生徒さんに「考えてみたらできるよ」「あきらめたらもったいないよ」などと声をかけることもあるほどで、本当に大きく成長しましたね。大切なのは、安易に正解を教えたり、その子のやり方を否定したりせず、本人が納得できる答えを自分の力で導き出させること。答えはいつも、その子自身の中にあるのです。

カラーチャートを使う子ども/作った猪の版画にインクを付けて判を試す子どもと

版画で年賀状作りにチャレンジ! 来年の干支のイノシシや縁起物など個性豊かな味のある作品ができあがりました。

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アトリエ・ピウの今泉真樹さんバストアップ写真

【プロフィール】
今泉 真樹(いまいずみ・まき)
知育こどもアート教室 アトリエ・ピウ 主宰
保育 絵画指導スペシャリスト
新宿区子ども未来基金助成活動【アートミック】アート担当講師

専門学校 桑沢デザイン研究所を卒業後に渡英し、ローズ・ブルフォード大学を主席で卒業。国内外の有名ブランドや、宝塚歌劇団のジュエリーデザインを手がける。独立し、アトリエ・ピウ(東京都新宿区)を設立。知育こどもアート教室を立ち上げ、子どもの創造力や思考力を伸ばすことに焦点をあてたアートの指導を行う。