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保育士はやりがいのある仕事ですが、働くモチベーションを維持するためにはやりがいだけではなく、給料などの待遇面も大切です。保育士が自分の待遇を改善し、給料を上げたい場合は何をすればよいのでしょうか。

この記事では、保育士の待遇改善に大きな役割を果たす「キャリアアップ研修」について紹介します。研修の目的や受講できる分野、研修から得られるメリットなどについても詳しく説明するため、保育士としてのキャリアを積む上での参考にしてください。

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保育士のキャリアアップ研修とは?

保育士のキャリアアップ研修とは、政府による保育士の処遇改善制度の一環「処遇改善等加算」内に追加された制度です。

処遇改善等加算には「処遇改善等加算Ⅰ」と「処遇改善等加算Ⅱ」があり、キャリアアップ制度は「処遇改善等加算Ⅱ」に該当します。従来、保育士の役職としては「主任保育士」「園長」のみが設定されていました。処遇改善等加算Ⅱによって新たに加わった役職が「職務分野別リーダー」「専門リーダー」「副主任保育士」の3つです。

ここでは保育士のキャリアアップ研修について、厚生労働省の「保育士等キャリアアップ研修ガイドラインの概要」に基づいて解説します。

(出典:厚生労働省「保育士等キャリアアップ研修ガイドラインの概要 」
/https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/gaiyou_10.pdf

キャリアアップ研修の種類・受講方法

給与アップなど処遇改善につながるキャリアアップ研修は、各都道府県が提供する「県実施研修」と、外部委託による「指定研修」の2種に分かれます。

指定研修は、指定保育士養成施設・非営利団体(社会福祉法人など)・市町が実施する研修のうち、県がキャリアアップ研修の要件を満たすとして指定した講座のみが対象です。

具体的にどのような機関があるかは、各自治体ホームページに掲載されている「指定研修実施機関一覧」で確認しましょう。開催日・会場など実施予定についても、自治体ごとにスケジュール表や受講案内が掲載されています。

1つの分野で15時間以上の受講と、分野ごとに定められた5つの項目を受講したことが認められると、県や指定研修実施機関から修了証が交付されます。 期限も自治体の制限もなく、一度交付されると他の都道府県でも通用します。

ここでは、研修で受講できるそれぞれの分野と、受講後のキャリア設計について解説します。

キャリアアップ研修の8つの分野

キャリアアップ研修で受講する研修内容は8つの分野に分かれており、さらに大まかに分けると「専門分野別研修」「マネジメント研修」「保育実践研修」の3つからなっています。

◯専門分野別研修

乳児保育 乳児への適切な関わり、保育環境を学ぶ
幼児教育 幼児の発達に応じた教育や環境を学ぶ
障害児保育 障害への理解、保育環境について学ぶ
食育・アレルギー対応 食育やアレルギーへの正しい知識を学ぶ
保健衛生・安全対策 保健計画や事故・病気感染防止を学ぶ
保護者支援・子育て支援 保護者支援の方法や地域ごとの支援を学ぶ

前述した、職務分野別リーダー(特定の分野で認められたリーダー)は、以上6つの講座から自分の担当する分野を受講します。

◯マネジメント研修

マネジメント リーダーシップや人材育成などマネジメントを学ぶ

副主任保育士を担う方は、「マネジメント研修」の受講が必須となります。その他の研修も3分野受講する必要がありますが、必ず受講しなければならない指定研修は、このマネジメントのみです。補佐役としての自覚だけではなく、部下を持つ立場、人材育成を担う立場としての役割や指導責任についても学びます。

◯保育実践研修

保育実践 子どもに対する理解を深め、実戦的な保育を身につける

「保育実践研修」にあたる保育実践を受講する対象は、現役保育士ではありません。以前保育士として働いている方や、資格のみ所有している潜在保育士と呼ばれる方も、保育実践の受講対象となります。いずれの研修も、所定の手続きをもって受講でき、新たに申請書を提出することで、翌年も同じ講座を受けることが可能です。

キャリアアップ研修の対象者・加算要件

給与アップには、保育士としての経験年数や、特定の職位に就くなど、複数の要件を満たしていなければなりません。 特定の職位とは、国が新たに設けた以下の3つの役職のことで、これらの創設により、若年層の保育士でもキャリアアップしやすい環境となりました。

副主任保育士 主任保育士の補佐を行う管理職
専門リーダー 専門性の高さが認められたリーダー
職務分野別リーダー 特定の分野で認められたリーダー

職場によっては別の役職名となっている場合がありますが、求められる要件にほとんど変わりはありません。
役職ごとの経験年数や加算される給与の金額、要件については、以下のとおりです。

①副主任保育士

経験年数 7年以上
職場での人数の割合 全体の3分の1
加算要件 4分野以上のキャリアアップ研修の受講
加算金額 40,000円

キャリアアップ研修は4分野以上の受講が求められますが、そのうちの1講座はマネジメント分野を受講する必要があります。

②専門リーダー

経験年数 7年以上
職場での人数の割合 全体の3分の1
加算要件 4分野以上のキャリアアップ研修の受講
加算金額 40,000円

副主任保育士のように受講内容に特定はなく、いずれの研修を受講しても対象となります。

③職務分野別リーダー

経験年数 3年以上
職場での人数の割合 全体の5分の1
加算要件 1分野以上のキャリアアップ研修の受講
加算金額 5,000円

担当する分野に該当する研修を1分野以上受講しますが、マネジメントと保育実践の研修は加算要件として認められません。

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保育士のキャリアアップ研修が作られた目的

給料がアップして喜ぶ女性

保育士のキャリアアップ研修は、下記の目的のために設けられた制度です。

  • 保育士の長期定着を図るため
  • 一般の保育士は平均勤続年数が8年と短く、職場への定着率が低くなっています。

    (出典:厚生労働省「保育士のキャリアアップの仕組みの構築と処遇改善について」
    /https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000155996.pdf

    過去に保育士を退職した人の29.2%が、「給料が安い」ことを退職の理由に挙げており、過去には多くの保育士が収入の低さに悩んで辞めていったことがうかがえます。

    (出典:厚生労働省「保育士の現状と主な取組」
    /https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000661531.pdf

    公的な制度で役職を増設して新任・中堅保育士のキャリアアップを促し、給料の安さが原因で退職する保育士を減らすことが、キャリアアップ研修を実施する目的の1つです。

  • 専門知識を習得する機会を増やすため
  • 子育てを取り巻く環境の変化に伴い、保育園の役割が多様化・複雑化してきています。アレルギー対応・障害児保育など、保育現場ではさまざまな課題への対応が求められるため、保育士として働くには幅広い知識の修得が必要です。厚生労働省の調査によると、保育士の73%が実習や研修を「必要だと思う」と回答しています。

    (出典:厚生労働省「保育士の現状と主な取組」
    /https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000661531.pdf

    キャリアアップ研修には、幅広いニーズに対応した研修を行うことで、保育士に専門的な知識を身につける機会を与える目的もあります。

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キャリアアップ研修による処遇改善加算の配分方法

勉強中の女性

処遇改善加算により、職務分野別リーダー・副主任保育士・専門リーダーなどの役職者は、技能や経験年数に応じて賃金の加算を受け、給料を上げることが可能です。

ここでは、各役職者に対して処遇改善加算がどのように配分されるのかを、厚生労働省や内閣府の資料に基づいて解説します。

(出典:厚生労働省「保育士等キャリアアップ研修ガイドラインの概要 」
/https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/gaiyou_10.pdf

(出典:内閣府「技能・経験に応じた処遇改善等加算Ⅱの仕組み」
/https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/faq/pdf/jigyousya/youshiki/shikumi.pdf

(出典:内閣府「令和2年度における処遇改善等加算の運用の改善」
/https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/faq/pdf/jigyousya/youshiki/r02-minaoshi.pdf

職務分野別リーダーの場合

職務分野別リーダーとしての要件を満たした保育士には、1人あたり月額5,000円の処遇改善が行われます。

定員90人の標準規模の保育園を想定した場合、処遇改善加算の対象人数の目安は、1つの保育園で3人です。ただし、実際は「園長と主任保育士を除いた保育士全体の5分の1」として算出します。たとえば、園長と主任保育士以外の保育士が20人の場合、支給対象人数は20÷5=4人となるため、保育園で4人の支給対象者を指定し、月額5,000円を配分します。

また、副主任保育士・専門リーダーが少ない保育園では、副主任保育士などに対する加算分の剰余を職務分野別リーダーなどに配分することが可能です。その際、リーダー1人への支給額の上限が、副主任保育士・専門リーダーへの支給額である40,000円に満たないように配分する必要があります。

副主任保育士・専門リーダーの場合

副主任保育士・専門リーダーとしての要件を満たした保育士には、1人あたり月額40,000円の処遇改善が行われます。

副主任保育士・専門リーダーへの配分については、対象となる保育士のうち1人以上には必ず満額の40,000円を支給しなければなりません。最低でも1人以上に満額で支給すれば、後は保育園で柔軟に支給できるため、算出した支給対象者人数に合わせて支給する対象と支給額を決定します。

支給対象者数は標準規模の保育園で5人と仮定されていますが、実際は「園長と主任保育士を除いた保育士全体の3分の1」として算出します。園長と主任保育士以外の保育士が20人の保育園であれば、20÷3≒6人(小数点以下切り捨て)が支給対象者です。

対象者に加算分を支給して剰余が出た際には、主任保育士や職務分野別リーダーへの支給に充てることもできます。その場合、支給額は月額5,000円以上40,000円未満に設定する必要があります。一方、副主任保育士・専門リーダーに対しても、5,000円以上40,000円以下の間で支給額を設定することが可能です。

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保育士がキャリアアップ研修を受けるメリット

キャリアアップ研修を受けることによって、保育士には給料などの待遇が改善されるメリットがありますが、キャリアアップ研修には待遇面だけではなく、他にも保育士として仕事を続ける上で役立つメリットがあります。

ここでは、キャリアアップ研修による待遇面以外のメリットを紹介します。

保育技能・知識の専門性を高められる

保育士のキャリアアップ研修は、保育業務に必要な専門分野を幅広く学べる研修です。 たとえば、「乳児保育」「幼児教育」「食育・アレルギー対応」「保護者支援・子育て支援」など、日々の保育業務にすぐに生かせる分野を学ぶことが可能です。

将来的により専門性の高い分野への転職を希望する場合も、保育士としてキャリアアップを図りながら、希望する保育内容に応じて必要な知識を学べます。乳児院で働きたいなら「乳児保育」、児童発達支援施設などで活躍したいなら「障害児保育」などの研修が役に立つでしょう。

研修内容が幅広いだけではなく、1分野につき15時間以上の研修が用意されているのも特徴的です。分野ごとにしっかりと掘り下げて学ぶことで専門性を高め、実践的な知識を得られる可能性が高まります。

研修の受講料は無料で金銭的な負担が軽い

保育士のキャリアアップ研修は、基本的に無料で受講可能です。 自己負担はテキスト代のみとなっています。通常、何かの知識を身につけるためには受講料が必要となることがほとんどですが、受講料を負担することなく、質・量ともに十分な研修が受けられるのは大きなメリットです。

また、研修費用の負担が軽いことから、複数の分野を気兼ねなく受講できるのもメリットです。副主任保育士・専門リーダーを目指す際には複数の分野を受講する必要がありますが、金銭面の負担を強いられずに済むため、キャリアアップを目指しやすくなります。

各都道府県で研修が開催されるため、交通費など受講料以外の費用も必要以上にかからないのも魅力です。また、キャリアアップ研修の修了資格は全国共通となっています。研修を受講した場所と異なる都道府県で就職する際にも、交通費やテキスト代をかけて受講し直す必要がありません。そのため、自分が住んでいる都道府県で受講し、隣県の保育園で働く場合、たとえば神奈川や千葉での研修修了者が東京の保育園で働く場合などにも修了資格は有効です。

修了証があれば転職・復職時に有利になる

受講した分野について、きちんとした知識等が身についたと認められると、「修了証の発行」「名簿への登録」が行われます。 役職のある求人へ応募する際、特定の要件を満たした証明となるため、転職時に有利となります。

また、休職者の場合はこのような修了書があると、これまでの経験や知識の証明も容易になるため、復職がスムーズに行えるでしょう。

都市部を中心に、自治体によっては、個別に処遇改善の施策を行っているところもあります。保育士を目指す方へ無金利で貸付金を行う制度や給与の上乗せ、さらに家賃補助やテキスト代補助など、その改善施策はさまざまです。キャリアアップを狙う際は、研修受講はもちろん、独自の処遇改善に取り組んでいる自治体や保育園を探してみましょう。

保育士の給料アップは「キャリアアップ」が重要!

保育士が給料アップを実現するためには、キャリアアップは大切なことです。 この記事で紹介しているキャリアアップ研修を活用して、保育士として求められるスキルを伸ばすことができます。

また、研修以外にも実務経験を積み重ねることもキャリアアップには欠かせません。特に、将来的に行ってみたい保育の業務分野がある場合は、できる限り早くその分野の仕事に携わってみることをおすすめします。

キャリアアップ研修を活用しつつ、自分の目標に近い職場への転職・就職を行うことは、キャリアアップの近道となるでしょう。また、目標の仕事に近い職場に転職・就職することで、給料アップにつながることもあります。

【新・旧】保育士のキャリアパス

以前に比べて、現在は保育士のキャリアパスが多様化しています。 キャリアパスの多様化により、キャリアアップや給料アップを実現しやすいです。

従来は、保育士のキャリアパスとして、園長と主任保育士の2つしか選択肢がありませんでした。もちろん、保育園独自で役職者が設けられていることもありますが、多くの保育園に共通するものではありません。一方、キャリアアップ研修制度の創設により、園長や主任保育士の他にも、職務分野別リーダー・専門リーダー・副主任保育士が設けられるようになっています。

このように、キャリアパスの選択肢が増えたことにより、自分の目標や適性を考慮しつつ、キャリアアップを目指しやすくなっています。給料アップやキャリアアップを実現するために、ぜひキャリアアップ研修の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

まとめ

キャリアアップ研修は、「給料が上がる」「実務に必要なスキルアップが図れる」など、保育士の働き方に大きなメリットをもたらします。また、保育士の待遇がよくなることで離職を防げるため、保育士一人ひとりに対してだけではなく、保育業界や社会全体にとっても有意義な制度です。

キャリアアップ研修の修了資格は、転居や転職で勤務先が変わっても全国で有効です。保育士として、よりよい環境で働き続けられるように、キャリアアップ研修を受けてみてはいかがでしょうか。