待機児童をなくすための国や地方自治体の政策により、共働きの家庭をサポートする保育士の処遇は改善されつつあります。しかし、「保育士の給料だけで生活は可能か」と不安を持つ方も多いのではないでしょうか。
本記事では、保育士の給料と手取りについて、手取り算出の注意点から、学歴・地域・経験年数別の給料相場まで、詳しく解説します。保育士の給料と手取りへ影響を与えるその他の要素についても紹介しているため、保育士の給料・手取りに興味のある方は、ぜひご覧ください。
目次
保育士の給料から手取りを算出する際に考慮すべきこと
「手取り」とは、給料総額から社会保険料や税金が控除され、実際に自分が受け取れる金額のことを指します。保育士の給料総額は、資格手当や通勤手当、住宅手当などの各種手当を基本給に加算したものです。
給料総額から各種税金・社会保険料を差し引かれた手取りの金額が、自由に使える可処分所得となります。
給料から手取りを算出する際には、差し引かれる項目を考慮することが必要です。給料から控除されるお金には、下記の種類があります。
控除される種類 | 概要 |
---|---|
所得税 | 所得にかかる税金。通常、毎月の給料から天引きされる。 |
住民税 | 地方自治体に納める税金。前年度の所得から決定される。 |
健康保険料 | 健康保険へ加入するために支払う。 |
介護保険料 | 介護保険へ加入するために支払う。40歳以上64歳以下。 |
厚生年金保険料 | 厚生年金保険へ加入するために支払う。 |
雇用保険料 | 雇用保険へ加入するために支払う。 |
上記の各種税金や社会保険料を差し引いた金額が、手取りとして実際に支払われます。
保育士の給料と実際の手取り
保育士の給料は、学歴・地域・経験年数によって異なることが一般的です。通常、高卒と大卒では初任給の金額が異なります。また、東京や大阪など地域によって給料に差がでることは、他業種と同様です。
ここでは、保育士が受け取る給料の学歴・地域・経験年数別相場と、相場から想定される実際の手取りについて解説します。手取りの計算方法は、給料の金額や扶養家族の有無によって異なるため、正確な金額を単純に総支給額の何%と計算することはできません。しかし、おおよその手取りは総支給額の75~85%が一般的です。そのため、この記事で紹介する手取り金額は、総支給額の80%としています。
高卒・大卒などによる初任給相場と手取り
保育士の平均初任給は約15~20万円です。平均初任給の差は、主に最終学歴により生じています。
初任給相場の詳細を知るために、まずは政府が発表しているデータから確認しましょう。下記表は、総務省が発表している「平成29年4月1日地方公務員給与実態調査結果」から抜粋した公務員保育士の平均初任給です。また、統計結果から想定される手取りも記載しています。
最終学歴 | 平均初任給 | 手取り |
---|---|---|
高卒 | 14.9万円 | 11.9万円 |
短大卒 | 16.1万円 | 12.9万円 |
(出典元:平成29年4月1日地方公務員給与実態調査結果https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/kyuuyo/pdf/h29_kyuyo_1_03.pdf)
表から分かるように、高卒と短大卒では、平均初任給と手取りで短大卒がより高い傾向にあります。また、公立保育園は福利厚生が充実している反面、初任給は抑えられていることが特徴的です。
一方、私立保育園では、一般的に上記の金額よりも約1~2万円初任給が高くなります。さらに、大卒で私立保育園に勤務する場合は、短大卒よりも約1~2万円高くなることが一般的です。そのため、保育士の平均初任給は、約15~20万円となります。
保育士の平均初任給と手取りは他業種と比較して、どれくらいの水準にあるのでしょうか。全業種の平均初任給と想定される手取りは、下記の通りです。
最終学歴 | 平均初任給 | 手取り |
---|---|---|
高卒 | 16.5万円 | 13.2万円 |
高専・短大卒 | 18.1万円 | 14.5万円 |
大卒 | 20.7万円 | 16.6万円 |
(出典:厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」/https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html)
上記のように、保育士の給料は一般企業の平均初任給と比較しても、遜色ない水準にあります。
全国と東京・大阪の給料相場と手取り
保育士の給料相場は、地域によって異なります。全国、東京都、大阪府の給料相場と想定される手取りは、下記の通りです。
地域 | 平均給料 | 手取り |
---|---|---|
全国 | 約358万円 | 約286万円 |
東京都 | 約434万円 | 約347万円 |
大阪府 | 約349万円 | 約279万円 |
(出典:厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」/https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html)
東京都における保育士の平均給料と手取りは、全国平均を大きく上回っています。東京都における保育士の給料が高い理由は、地価や物価が他の都道府県と比較して高い地域であるためです。また、東京都は他地域よりも人口増加率が高い傾向にあります。保育士の社会的ニーズの高い東京都では、保育士を確保するために給料を高く設定している求人が少なくありません。
大阪府における保育士の平均給料は、全国平均よりもやや低い水準にあります。大阪府も東京都と同じく大都市であるため、この給料事情に驚く方も多いのではないでしょうか。大阪府が全国平均よりも給料が低い原因として、下記の理由があげられます。
・賞与が全国平均より低い水準にある
・保育士の平均年齢が、全国よりも低い
大阪府では、賞与が全国より低い水準です。また、全国における保育士の平均年齢が36.8歳であるのに対して、大阪府の保育士平均年齢は約5歳若い31.5歳となっています。一般的には、年齢が若い人ほど実務経験年数が少ない傾向です。つまり、大阪府は他の都道府県に比べて、実務経験年数の短い人が多いため、平均給料が低くなっていると考えられます。
経験年数により推移する給料と手取り
保育士の給料と想定される手取りは、経験年数によっても変動します。保育士として経験を積むことにより、基本給の昇給や役職手当などの手当が加算されるためです。厚生労働省が発表している保育士の給料と経験年数の関係は、下記のようになっています。
経験年数 | 0年(初年度) | 1~4年 | 5~9年 | 10~14年 | 15年以上 |
---|---|---|---|---|---|
年収 | 248.4万円 | 311.1万円 | 368.2万円 | 399.4万円 | 468.8万円 |
手取り | 198.7万円 | 248.9万円 | 294.6万円 | 319.5万円 | 375.0万円 |
(出典:厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」/https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html)
初年度から経験年数1~4年で年収が増加しているように見える理由は、勤務日数を満たすことにより、賞与が満額支給されるためです。したがって、経験年数による年収は経験年数5年目を境として大幅に増加します。
経験年数5~9年目における保育士の給料が大幅に増加する原因は、主任やリーダーといった役職を担うことにより役職手当が加算されるためです。後輩の教育や施設全体の管理を任され、負う責任が大きくなることで、給料・手当の金額も大きくなります。
2017年からは職務分野別リーダーや専門リーダーなどの役職につく保育士に対して、行政からの補助金が受けられるようになりました。このキャリアアップ補助金も、中堅保育士の年収アップにつながっています。
保育士の給料・手取りか異なるその他の要素
保育士の給料・手取りへ影響を与える要素は、学歴・地域・経験年数だけではありません。保育園の運営形態によっても、保育士の給料・手取りは異なります。私立・公立の違いだけではなく、一般保育と企業内保育や病院内保育の違いも、給料・待遇への影響が大きい傾向です。
企業内保育園・病院内保育園は、企業や病院で働く人の児童を預かります。小規模の施設が多く、アットホームな環境が特徴です。給料や手取りは一般の保育園とあまり変わらない水準で、残業は多くありません。ただし、病院内保育園では夜間勤務が行われる場合があります。夜間勤務が行われる場合は、通常の給料に加えて夜勤手当が支給されるため、より高い収入を目指すことが可能です。
また保育士の雇用形態も、給料・手取り額に大きな影響を与えます。常勤・正規の保育士は非常勤・非正規の保育士より給料が高く、賞与や福利厚生の面でも有利です。そのため、収入をより多く得たい方は、常勤・正規の保育士を目指しましょう。
まとめ
現在、給料をはじめとした保育士の待遇は大幅に改善されつつあります。全職種平均でみた初任給の手取り額に比べて、遜色ないレベルに到達しており、今後も高い社会的ニーズのある保育士の給料・待遇は改善していくでしょう。
保育士の手取りは、総支給額から税金などを差し引いたものです。保育士の手取り額は、学歴・地域・経験年数などによって左右されます。さらに、公立・私立や一般保育・病院内保育など施設の運営形態、保育士の雇用形態により、給料や待遇に差のあることが一般的です。
保育士としてより高い給料を目指す方は、求人情報に掲載されている給料・待遇の情報をよく精査し、理想の職場を探しましょう。