20200225_risyokuritsu_main_01-thumb-600x400-1495.jpg

保育士は、子ども達の輝かしい未来を支援する素晴らしい職業です。しかし、保育士は離職率が高いことを指摘されており、就職することに二の足を踏んでしまう方もいるでしょう。

この記事では、保育士の離職率は本当に高いのか、そして保育士が離職する際に多く挙げられる4つの理由について、それぞれ解説します。併せて、就職後に失敗しないために気を付けたい職場選びのポイントも紹介するため、興味のある方はぜひご覧ください。

保育士の離職率は「9.3%」

エプロンを脱ぐ女性

厚生労働省が発表した「平成28年及び平成29年社会福祉施設等調査」によると、保育士の離職率は9.3%です。離職率は保育園が公営か私営かによって差があり、公営保育園の場合は5.9%、私営保育園の場合は10.7%となっています。

(出典:厚生労働省「保育士の現状と主な取組」
/https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000661531.pdf

また、「平成25年社会福祉施設等調査」では、保育士全体の離職率は10.3%、公営保育園の場合は7.1%、私営保育園の場合は12.0%です。

(出典:厚生労働省「保育士等に関する関係資料」
/https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/s.1_3.pdf

このように、保育士の離職率は公営保育園より私営保育園のほうが高い傾向にありますが、過去と比較すると全体的に下がっていることがうかがえます。

保育士の離職率は高い?低い?

保育士の離職率は年々減少傾向にあるとはいえ、「保育士は離職率が高い」というイメージを持っている人もいるでしょう。下記は、他の産業と保育士の離職率の違いを比較した表です。

【産業別の離職率】

産業計 14.2%
不動産業・物品賃貸業 14.8%
宿泊業・飲食サービス業 26.9%
医療・福祉 14.2%

(出典:厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果」
/https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/21-2/index.html

厚生労働省から発表されている「令和2年雇用動向調査結果」によると、産業全体の離職率は14.2%です。

一方、保育士も含まれる「医療・福祉」分野の離職率は14.2%となっています。また、「不動産業・物品賃貸業」の離職率は14.8%、「宿泊業・飲食サービス業」は26.9%です。産業全体で見ると、保育士の離職率だけが特別高いわけではないことが分かります。

保育士が離職する主な理由

悩む女性02

産業全体で見ると、実際は保育士の離職率が極めて高いとは言えません。しかし、近年では待機児童問題により、保育士の人員不足に対する社会的な注目度が以前よりも高まっています。そのため、保育士離職率の高さが目立っている状況です。ここでは、保育士が離職する際の主な理由を6つ紹介します。

人手不足で仕事量が多い

保育士の仕事内容は、子ども達を預かる保育業務だけではありません。保育士の業務には、連絡帳やおたよりの作成など事務作業に加えて、製作物の作成や行事の準備など、様々な雑務が存在します。

元々人手不足の現場では、1人に割り振られる仕事量が多く、勤務時間も長くなりがちです。勤務終了が深夜になったり、自宅に仕事を持ち帰ったりするケースがあります。

また、研修や職員会議への参加が、勤務時間外や休日に行われることもゼロではありません。大半の保育園では休日などに行われる研修・会議に対しては残業代が支払われますが、中にはサービス残業を求める職場も見られます。職場探しの段階でいわゆる「ブラック保育園」を見抜かなければなりません。

業務量が極端に多かったり、サービス残業を保育士に強いたりする保育園では、離職者が後を絶たず、さらなる人手不足で労働条件が悪化するという悪循環を招いています。

責任の重さに耐えられない

保育士は、子どもたちと触れ合い、成長を間近で見守れる魅力的な仕事です。一方で、保育業務には「子どもの命を預かり安全を守る」という重い責任が伴います。保育園に通う乳幼児は自分で危険を回避できないため、保育士が常に気を配る必要があります。それも1対1ではなく、1人の保育士が何人もの子どもを一度に見なければなりません。日常保育の中での怪我や喧嘩だけでなく、食物アレルギーに対しても配慮が必要です。

さらに、保育士は身の安全だけでなく、子どもの心身の成長にも責任を負います。身近な大人である保育士の言動は子どもの心に影響を及ぼすことがあるため、子どもの発達や家庭環境などに配慮し、子どもに寄り添った慎重な対応が必要です。このように、保育現場では強い責任感や緊張を求められることから、重圧に耐えきれなくなった保育士が退職するケースもあるでしょう。

仕事量に見合った給料ではない

保育士が離職を望む理由の中で、最も多く挙げられることが給料の低さです。

【全職種平均と保育士の平均給料(月額)】

全職種 32万9,600円
保育士 21万6,100円

(出典:厚生労働省「第3回保育士等確保対策検討会 参考資料1保育士等に関する関係資料」
/https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/s.1_3.pdf

全職種の平均給料に対して保育士の平均給料は、月収にして10万円以上の差があります。

さらに、小規模な私営の保育園などでは、各種保険や手当など福利厚生制度が整っていない施設も少なくありません。結果として実際の手取り額が、15万円以下となるケースも見られる状況です。また、保育園の経営状況によっては昇給が期待できないケースもあります。

保育士を離職する人の中では、仕事量の多さや長い勤務時間に対して、給料額が見合っていないことを理由に離職を決意する人が多い傾向です。

人間関係がうまくいっていない

上司や同僚との関係はもちろん、保護者との関係で悩み、離職に繋がる場合もあります。

基本的に忙しい保育士の職場では、些細なすれ違いが原因でトラブルが発生しやすい傾向です。同僚や上司との関係が悪化することにより、「働きづらい環境」だと感じてしまうことで、離職を選択する人がいます。

職員間だけではなく、保護者相手にも相性の良し悪しがあることは事実です。中には、モンスターペアレントのように度を越した要求を突き付けてくる人もいます。もちろん理不尽に振る舞う保護者は、ごく一部の心ない人たちです。しかし、日々の仕事で疲れている保育士にとっては、大きなストレスとなってしまうこともあります。

保育方針が合わない

自分と保育園の掲げる保育方針が一致しないことも、代表的な離職理由の1つです。

元々保育士を目指す人は、ある程度自分の中に理想とする保育像を持っています。そして、自分の目指す保育像は保育士として生きていくための、大切な芯となっている場合が多い傾向です。保育士として根底にあるものが異なることにより、職場で意見が衝突してしまい、孤立するケースがあります。

また、ワンマンタイプの園長や、一族経営などで職員の意見が通りづらいケースも、不満を蓄積しやすい職場と言えるでしょう。

希望する働き方が実現できない

現代の日本では、地域によっては保育園不足・待機児童が大きな問題となっているため、保育士の需要は非常に高いです。一方で、保育士は柔軟な働き方が選びにくく、長く働き続けることが難しい側面もあります。

保育士は業務量が多く、残業が発生しやすい仕事です。加えて、保育園の保育時間が長くなるにつれて、保育士の就業時間はますます長くなります。早番・遅番のシフト制を採用している保育園も多く、保育士はパートとして都合のよい時間だけの勤務や時短勤務といった、自分の都合に合わせた働き方を選びにくいのが現状です。

特に、子育て中などは働き方が制限され、保育士として働き続けるのが難しくなることもあるでしょう。子どもの急な体調不良などで休むと職場に負担をかけるおそれがあるため、急な早退や欠勤が難しく、子育てが落ち着くまでは保育士としての勤務を断念するケースも少なくありません。

保育士が離職率の低い職場選びで重視すべきこと

保育士と子供

離職率の高いと言われる保育士業界ですが、就職する際の職場選びを注意することで、不本意な離職のリスクを減らすことが可能です。ここでは、これから保育士として就職を目指す方に向けて、安定した良い職場を見つけるための6つのポイントについて解説します。

職員の人数

人手不足で仕事量が多い状況を避けるためには、職員の人数が十分に確保されている必要があります。職員の人数が少ない保育園では、保育士1人あたりに割り振られる業務量が多くなる傾向です。

まずは、求人情報に記載されている勤務体制と残業について、しっかりチェックしましょう。特に、シフト制を取り入れている場合は、時間帯ごとにきちんと分業ができて、人員に余裕のある可能性が高い保育園です。

面接時など就職前に保育園の様子を見学できる場合は、保育士の人数や働いている様子を見て、どの程度の忙しさであるのかを確認しましょう。

各種手当の有無

給料以外の各種手当が充実している保育園は、保育士の待遇改善に取り組んでいることが多いため、長く働きやすい環境が整っていると考えてよいでしょう。保育士が受け取れる可能性がある手当には、下記が挙げられます。

役職手当 副園長・主任などの役職や管理職に対して支給される手当
資格手当 保育士資格の保有者に対する手当
特殊業務手当 負担のかかりやすい行事に関する業務に対して支給される手当
通勤手当 通勤先までの交通費などに対して支給される手当
住宅手当 家賃・住宅費の補助を目的に支給される手当
扶養手当 家族がいる場合に支給される手当

役職手当以外は必ずしも支給されるとは限りませんが、手当が充実している職場であれば、収入面での不満は感じにくくなるでしょう。

有給取得率

有給の取得については法律で定められているものの、有給が取得しやすいかどうかは職場によって変わります。有給の取得率は求人情報などに記載されることがあまりないため、面接の際に確認するのがよいでしょう。

とはいえ、面接で有給について質問すると印象がよくないというイメージから、質問しにくいと感じる方もいます。面接ではまず、その職場で働きたい気持ち・熱意を伝えることが重要です。その上で、面接官から待遇面の話題が出た際や、最後に「何か質問はありませんか?」と聞かれた際に有給について質問しましょう。「出勤日に集中して働きたい」「スキルアップに充てる時間がほしい」など、 仕事に対して前向きな理由で有給を取りたい旨を伝えると、印象を損なわずに質問しやすくなります

経営状況や福利厚生

求人情報を調べる際は給料額だけではなく、どのような福利厚生が受けられるのか確認することが大切です。また、保育園の経営状況にも、注意を払いましょう。経営状況が悪い保育園では、福利厚生や昇給に期待できません。

保育園の経営状態は実際に職場を見学することで、ある程度把握できます。園内の施設や遊具がきちんと手入れされているのか、タイムカードは適切に押されているのか、チェックしましょう。

子育て中の人が多く働いている場合は、職員の働きやすさを重視する職場である可能性が高い傾向です。子どもの病気や行事参加などで早退したり、休んだりできるだけの職員数が確保できている証であり、職員同士の理解が得られやすい職場と言えます。

職場の人間関係

「十分な職員数」と「安定した経営状態・充実した福利厚生」が期待できる保育園は、職場の人間関係も良好な傾向です。

経営状態が良く福利厚生が充実した職場は、保育士の仕事に対する満足度が高くなります。また、十分な人員が確保できていれば、職員1人に多大な負担を強いられることはありません。

結果的に、職員同士のコミュニケーションが活発化し、人間関係での問題が起こりづらくなります。さらに、職員同士のコミュニケーションが活発であれば、保護者からのクレームがあったとしても、お互いにフォローし合うことが可能です。

保育理念・保育方針

保育理念や保育方針は、保育園の運営者が掲げるものであって、基本的に1人の保育士だけで動かせるものではありません。

どれほど福利厚生の良い職場であっても、「保育理念の合う・合わない」といったことは起こりえます。そのため、職場を探す際は保育園のホームページを確認し、園の保育理念・保育方針を確認してください。

就職を希望する保育園が見つかった際は、必ず自ら足を運んで職員同士のやり取りや、子ども達への接し方などを直接自分の目で見るようにしましょう。面接の際に採用担当者に聞くだけではなく、職場見学やインターンシップを行うことがおすすめです。

待遇面が魅力的な保育園であっても、職場の雰囲気に違和感を覚えるようであれば、就職後に不満を抱く可能性があります。一旦保留として、別の就職先を検討すると良いでしょう。

離職率の高い保育園に共通する特徴

離職率の高い保育園に共通する特徴には、下記の5つが挙げられます。よりよい転職先を選びたいときは、その特徴に当てはまっていないか確認してみましょう。

  • 給料が相場より低い
  • 保育園の中には、利益を出すために保育士の給料をあえて低く抑えているところもあります。就職先を選ぶ際には、保育士の給料の相場を把握しておくことで、不当に給料が低い職場を避けられるでしょう。

  • サービス残業が多い
  • 保育士に限らず、サービス残業はモチベーションを大きく下げる要素です。サービス残業が常態化している職場では、慢性的な保育士不足に陥っている可能性があります。また、自分だけ定時で帰りにくい雰囲気がすでにできあがっており、環境改善を図るのは簡単ではありません。

  • 有給取得率が低い
  • 有給の取得は法律でも定められていることですが、「人手が足りない」「会議のある日は休んではいけないルールがある」などの理由から、有給取得率が極端に低い保育園もあります。有給を自由に取れないほど逼迫した状況で運営されている可能性が高いため、有給取得率が極端に低い職場は避けるほうがよいでしょう。

  • 一族経営で経営者側の力が強い
  • 一族側の力が強すぎると一般職員の意見が通らず、経営者と対立する恐れがあります。もちろん、職員を大切に考える保育園もあるため、一族経営の保育園すべてを敬遠する必要はありません。経営者側が保育士の意見に耳を傾けることを重視しているか確認するようにしましょう。

  • 保育士同士の人間関係が悪い
  • 職場の人間関係は、保育士が離職する要因の1つです。人間関係がギスギスしている職場では必要な連絡や相談がしづらいため、仕事がうまくいかないだけでなく、その場にいるだけでも大きなストレスを抱えかねません。園見学では保育士同士の仲もチェックするとよいでしょう。

離職率の高い職場から転職するには?

保育士が離職率の高い職場から転職する際には、下記の2つの選択肢が考えられます。

  • スキルを生かせる職場に転職する
  • 保育の現場で培ったスキルを生かし、保育士以外の仕事に就くことも可能です。保育園での事務作業の経験を生かせば、一般事務職に就くことができます。資格取得の必要があるものの、看護師・介護士は保育士と分野が近く、スキルを生かしやすい仕事です。また、保護者対応などで培ったコミュニケーション能力を生かして接客業に就く選択肢もあります。

  • 保育士資格を生かせる職場に転職する
  • 保育士資格を生かせる仕事に就きたい場合は、よりよい職場環境の保育園に転職するのがよいでしょう。保育園にはさまざまな形態があり、認可保育園から企業内保育園への転職など、これまでと違った環境の職場に身を置くことで、職場環境が改善されることもあります。また、保育士が活躍できるのは保育園だけに限りません。たとえば、幼稚園教諭は仕事内容が保育園と近く、幼稚園教諭の資格を取得できればなじみやすい職場だと言えます。学童保育は時短勤務がしやすく、ゆったりと働きたい場合におすすめです。

転職後も保育関係の仕事に携わりたい場合は、保育士向けの転職サイトなど、プロに頼る方法も検討しましょう。マイナビ保育士は、保育士の求職に特化したサービスを完全無料で提供している転職サイトです。求人票に掲載されていない企業情報の提供や待遇面の条件交渉など、よりよい条件での転職に欠かせないサービスを提供し、保育士の皆様のスムーズな転職をサポートいたします。

まとめ

保育士は他の業種と比べて、極端に離職率が高いわけではありません。しかし、慢性的な人手不足が解消されないという問題があることも事実です。

保育士として長く働きたいと思うのであれば、職場を十分に吟味する必要があります。保育園の経営状況や配置されている人員数、職場の人間関係などを可能な限りチェックするようにしましょう。そして、求人内容だけではなく、必ず直接自分の目でどのような職場環境なのかを確認するようにしてください。