保育士不足の原因は?配置基準や実際の取り組みの理解が重要

保育士不足の原因は?配置基準や実際の取り組みの理解が重要

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近年、保育士の不足が社会問題として叫ばれており、官民による様々な施策が実施されているにもかかわらず、保育士不足の状況は解消していません。現状の保育士不足には、どのような背景があるのでしょうか。

この記事では、「保育士が不足している原因」と「不足解消のために、どのような取り組みが行われているのか」について、詳しく解説します。保育士が不足している現状について、疑問を感じている人は、ぜひ参考にしてください。

保育士はどれくらい不足している?

厚生労働省の資料によると、2017年度末の時点で保育士は約7.4万人が不足すると見込まれています。

(出典:厚生労働省「保育人材確保のための『魅力ある職場づくり』に向けて」
/https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000057898.pdf

保育士が不足している背景には、すべての保育士資格所有者が保育施設で働いているわけではないことが考えられます。保育士資格を持ちながら保育施設にもそのほかの社会福祉施設にも就業していない潜在保育士の数は2018年で95万3,000人に及びます。また、保育士資格を取得していながら一般職を選ぶ人もめずらしくありません。これは、「保育実習を経験して自信が持てなくなった」「(一般職のほうが)給与や福利厚生が充実しているから」などが主な理由です。
(出典:厚生労働省「保育士の主な現状と取組」
/https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000672997.pdf

政府は「新子育てプラン」によって2001年から2004年までの4年間で約14万人の保育の受け皿を整備するとしています。「保育ニーズが増加している地域への支援を行う」「短時間勤務の保育士の活躍を促進する」などさまざま施策を打ち出していますが、保育士不足解消には至っていないのが実情です。
(出典:厚生労働省「新子育て安心プランの概要」
/https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000717624.pdf

保育士が不足している原因は?

待機児童が社会問題となっていることから分かる通り、全国的に保育士の人数が不足しています。保育士が不足する背景・原因としては、どのようなものが考えられるのでしょうか。保育士不足の代表的な原因としては、以下に挙げる5つが考えられます。

他職種と比較すると保育士の給料は低い

国の政策によって保育士の待遇改善は進められていますが、他職種と比べると保育士の給料は高くないと言えるのが実情です。以下は、複数の職種と保育士の平均給与を比較した表です。

職種年収
保育士約374万円
幼稚園・保育教諭約382万円
介護職員約360万円
ケアマネージャー約398万円
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士約419万円
看護師約492万円
臨床検査技師約493万円
診療放射線技師約549万円

(出典:厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」
/https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2020/index.html

業務量や内容に見合う給料ではないことは、保育士不足を招く大きな原因となっています。そこで、政府は2015年に保育士の待遇を改善することを目的として「保育士処遇改善加算」を開設しました。また、2022年2月から収入を3%程度(月額9,000円)引き上げる措置を実施することも定めています。

(出典:内閣官房「公的価格評価検討委員会中間整理」
/https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kouteki_kakaku_hyouka/pdf/tyuukanseiri_20211221.pdf
保育士の待遇は少しずつ改善傾向にあります。とはいえ、従来の「給料が安い」とのイメージはなかなか払拭されず、保育士の就労を希望する人の数はあまり増えていません。

仕事量が多く残業などが発生する

保育士は、園児と直接かかわる業務のほか、事務作業などの裏方業務もこなす必要があります。たとえば、以下のような業務です。

保育士業務の種類主な仕事内容全体に占める比率
園児と直接かかわる業務遊びや活動の指導や手助け、食事やお昼寝、排泄のお手伝い、保健指導や応急処置など66.1%
園児と直接かかわらない業務連絡帳の記入、指導計画や保育記録などの書類作成、行事の準備、保護者対応など33.9%

(出典:厚生労働省「令和元年度 保育士の業務の負担軽減に関する調査研究 事業報告書」
/https://www.mhlw.go.jp/content/000636458.pdf

園児と直接かかわる業務がメインですが、裏方業務も全体の3割以上を占めています。保育は、子どもの人格形成にかかわる重要な業務です。子どもから目を離すとケガをする危険もあり、保育時間に気を抜くことはできません。

時には、園児が帰ってからでなければ時間が取れず、残業をして裏方業務をこなすこともあるでしょう。そうした仕事の多さが原因で、保育士の仕事を避ける人もいます。

仕事の責任が重くプレッシャーを感じる

保育士は園児たちの命を預かるのが仕事です。幼い子どもは危険予測能力が未熟なため、車道に飛び出そうとするなど危ないことを平気で行うこともあります。誤飲や転倒、高い遊具からの落下など、保育の現場には多くのリスクが潜んでいます。そのため、保育士は子どもたちのそばにいて命に危険が及ばないか常に見守ることが必要です。
また、幼い子どもは突然体調を崩すことが多く、安定したと思った容態が急変することもめずらしくありません。保育士は園児の様子をよく観察し、少しでも体調に異変があれば迅速に対応することが求められます。限られた人数で複数の園児たちを見守る必要があり、保育士一人ひとりに大きなプレッシャーがかかります。強いストレスを感じ、離職に至る保育士もいるでしょう。

休みの取得が難しく勤務時間も選べない

園にもよるものの、保育士は夏休みなどの長期休暇を取得しづらい傾向にあります。特に、夏休み期間も開園している園ではその傾向が顕著です。園児を預かる以上、世間が夏休みでも保育士は出勤しなければなりません。人数に余裕があれば交代で休みを取れますが、人手不足の状態で業務を回している園も多く、まとまった休みは取りづらいのが実情です。
また、多くの保育園で保育士はシフト制を採用しています。24時間運営している園であれば夜勤もあり、週末も開いている園であれば土日にも出勤する必要があります。希望どおりのシフトに入れず、時間に融通が利かないシーンもあるでしょう。プライベートの充実を望む人にとって魅力的な労働環境とは言えず、保育士不足につながっています。

保護者と人間関係を構築するのが難しい

保育士は園児の保護者たちと良好な関係を構築することも大切です。しかし、保育士の仕事に限らず、どれほど懸命に仕事をしてもクレームが入ることはあります。中には理不尽なクレームもあります。園行事で行う演劇の配役に納得がいかず役を変えろと迫る保護者、忙しくてすぐに対応できなかった保育士を態度が悪いと責める保護者もいるでしょう。
クレームの内容が納得のいかないものだとしても、保育士は相手の話をよく聞き、誠実に対応することが求められます。子どものお世話や保育業務自体は楽しくても、保護者対応の大変さに、仕事の魅力を感じられなくなる保育士もいます。

保育士不足を解消するための行政の対策

保育士不足は、放置できる問題ではありません。もはや保育士の不足は、大きな社会問題となっており、行政と保育園の双方が対策を検討し、実行していく必要があります。ここでは、行政が実施している取り組みと、各保育園が取り組むべき対策について解説します。

保育士確保プラン

「保育士確保プラン」は、国全体で不足する保育士を雇用するために、平成27年から実施されている施策です。保育士確保プランの具体的な施策内容には、以下のものがあります。

・保育士試験の実施回数を年1回から年2回に拡大
・保育士の待遇改善
・保育関連の学校で学ぶ学生に対する保育園への就職促進支援
・保育士試験を受験する学生に対する受験費用の支援
・離職中の保育士に対する再就職支援
・福祉系の資格保有者に対する、保育士試験の一部科目免除

これらのプランと併せて、従来から行われていた保育士の人材確保・人材育成・就職支援・環境改善の取り組みを継続しています。

保育士確保集中取り組みキャンペーン

「保育士確保集中取り組みキャンペーン」は、保育士確保プランをさらに強化させる形で、平成31年にスタートしました。保育士確保集中取り組みキャンペーンでは、令和2年度末までに32万人にも及ぶ子どもの受け皿を確保することを目標として、以下の施策を展開しています。

・保育士給与を、平成25年度以降で約13%の改善
・技能や経験に応じて、最大4万円の給与改善
・離職中の保育士のために、現場復帰に向けた研修の開催
・保育園の勤務環境を改善し、就業を継続しやすい環境作り

保育士処遇改善等加算

保育士不足を招く大きな原因の1つが給料の安さです。そこで、政府は保育士の処遇改善を目的として「保育士処遇改善等加算」を策定しました。保育士処遇改善等加算とは、国が認可保育園を対象に支給している補助金に一定額を加算する制度です。加算分は保育士の給料アップに充てます。

処遇改善等加算には、「処遇改善等加算Ⅰ」と「処遇改善等加算Ⅱ」の2種類があります。それぞれの概要は以下の通りです。

<処遇改善等加算Ⅰ:職員の平均勤続年数に応じて加算率を設定し、加算分を支給>

構成要素概要
基礎分職員の平均勤続年数に応じて2~12%加算
賃金改善要件分賃金改善計画と実績報告書を提出した施設に、勤続年数に応じ6~7%加算
キャリアパス要件分キャリアパス要件に適合しない場合は2%分を減額

(出典:内閣府「施設型給付費等に係る処遇改善等加算Ⅰ及び処遇改善等加算Ⅱについて」
/https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/law/kodomo3houan/pdf/r020730/shisetsu_kasan.pdf

<処遇改善等加算Ⅱ:保育士の役職を増設し、役職ごとに一定額を加算>

・副主任保育士:月額4万円
・専門リーダー:月額4万円
・職務分野別リーダー:月額5,000円

(出典:内閣府「技能・経験に応じた処遇改善等加算Ⅱの仕組み」/https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/faq/pdf/jigyousya/youshiki/shikumi.pdf

処遇改善等加算Ⅱで増設される役職と手当額は上記の通りです。役職に就くには経験年数やキャリアアップ研修の受講など一定の条件をクリアする必要があります。

なお、処遇改善等加算制度は、職員に直接加算分の手当を振り込むものではありません。いったん施設に補助金が支給され、施設独自の規定に沿って職員に支払われます。

保育園側に求められる保育士不足の対策

保育士不足を解消するためには、現場での取り組みも重要です。保育士が離職する時の原因となる、具体的な職場環境や業務内容の問題を改善する必要があります。それぞれの保育園が取り組むべき対策は、以下の通りです。

保護者からの要望に園全体で取り組む

保育士の業務として、保護者対応は重要な業務です。しかし、保護者の中には、本来は家庭で行うべきことを保育園で実施するように要求するなど、無理な要求をする人がいます。こうした保護者対応の全てを担任の保育士に任せていると、精神的負担が重くなってしまうため、園全体で取り組むように体制改善を行う必要があります。

適切な人事評価制度を作る

保育士のモチベーションを高めるためには、仕事内容を適切かつ公平に評価することが大切です。モチベーションアップは、離職率の低下につながります。モチベーションアップのためには、透明性が高く、分かりやすい評価制度が必要です。

勤務時間を減らす

長時間勤務や土日祝日の出勤は、保育士にとって大きなストレスとなります。保育園である以上、イレギュラーの対応が必要となることは仕方のない部分があります。しかし、休日出勤を行った場合は代休を取得できるようにしたり、業務負担を軽減するために他の職員で分担できるようにしたりするなど、体制を整えることが大切です。

給料を上げる

行政の施策により保育士の給料には改善の傾向が見られますが、業務量や責任の重さを考えると、まだ十分とはいえない職場が多くあります。行政の支援施策だけではなく、各保育園で給料アップに向けた取り組みが求められます。

風通しのよい職場環境に改善する

風通しのよい職場とは、ポジションに関係なく誰でも自由に意見を言える雰囲気があり、職員同士のコミュニケーションが活発な職場のことです。モチベーションを維持しやすく、悩みがあればすぐに相談できる環境のため、離職率の低下につながるでしょう。
職場の風通しをよくするためには、正職員や派遣、パートなどの立場に関係なく保育士同士でコミュニケーションが取れる環境を整えることが必要です。親睦会などの交流の場を設けたり、チャットツールやサンクスカード制度を導入したりするなど、意見交換のできる機会を作りましょう。

多様な働き方を認める

残業が多く拘束時間が長いことも、保育士の仕事が敬遠される原因の1つです。潜在保育士の中には、短時間勤務や週に数日の勤務であれば働ける人もいます。正職員のほか、派遣保育士やパート保育士などさまざまな勤務形態を導入したり、正職員の時短勤務を認めたりすれば、保育士を確保しやすくなるでしょう。結婚や出産によってフルタイム勤務が難しくなった場合も、キャリアを継続しやすくなります。離職した保育士の復帰も期待できます。
また、「シフトの希望をできるだけ聞くようにする」「休みを取りやすくする」なども、保育士不足解消の対策として有効です。

まとめ

今回は、保育士の人数が不足している原因や配置基準のルール、保育士不足を解消するための対策について紹介しました。保育士の人数が不足する原因として、「仕事の責任が重い」「労働環境が悪い」といったことが挙げられます。また、法律や市町村の条例で決まっている保育士の配備数による問題もあります。

保育士不足対策をするためには、行政と保育園の両方での取り組みが大切です。保育士不足に悩んでいる人は、現状を把握し、待遇面や環境面の改善といった保育士に就職しやすくするための取り組みを行いましょう。

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