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2019年4月から、長時間労働の解消などを目的とした「働き方改革関連法」が施行されました。幅広い業界に働き方改革の影響がありますが、長時間労働が常態化する保育士業界には特に大きな影響があります。

そこで当記事では、働き方改革によって保育士業界はどのような変化が起こるのかについて、解説します。保育士側と保育園を運営する側の二側面から働き方改革の影響を紹介するため、ぜひ参考にしてください。

働き方改革で保育士業界に影響する要素

「働き方改革」とは、労働者個人の事情や希望に沿った働き方を選択できる社会の実現を目指して、現在進められている改革です。代表的な施策としては、雇用形態による待遇の格差や、労働者の心身に悪影響のある長時間労働の是正に向けた取り組みが挙げられます。

働き方改革は、労働者のワークライフバランスの両立だけではなく、企業の人材確保や労働生産性の向上を実現するといった狙いもあります。長時間労働や待遇差が常態化している保育士業界においては、非常に大きな注目を集めている改革といえます。

残業時間の上限規制

2019年4月の法改正以前は、残業時間に実質的な上限規制が存在せず、保育士業界においては、連日の残業が常態化していました。 しかし現在は、法改正にともなって残業時間に上限が設けられ、特別な事情がない場合を除いて以下の時間を超える残業を行うことはできません。

  • 45時間/月
  • 360時間/年

残業を行う場合は、原則1日あたり2時間程度の残業時間に収まるように設定しなければなりません。

特別な事情がある場合には、労使の合意を前提としたうえで、以下の上限で残業が行えます。

  • 100時間/月(休日労働含む)
  • 360時間/年

また、連続的に100時間まで認められるわけではなく、平均80時間以内を目安としており、月間45時間を超える残業は6ヶ月までとされています。

保育園側は上限の範囲内に収まるように業務効率化や業務量削減、人員調整を行う必要があります。また、保育士側も残業を行わなくて済むように、業務の見直しによる効率化が求められています。

有給休暇取得の義務付け

2019年4月の法改正以前は、有給休暇の取得率について法律的な義務は存在しませんでした。 深刻な人手不足の影響により有給休暇を取りづらい雰囲気のある保育士業界では、取得率が低い傾向にあります。

しかし法改正によって、10日以上の年次有給休暇が見込まれる労働者に対して、年間5日以上の有給休暇取得が、保育園側に義務付けられることとなりました。 保育園側は対象となる保育士に対して、希望を聞いて取得する日時を指定する必要があります。

保育士にとっては確実な有給取得によって、働きやすさや満足度の向上が期待できます。その反面、保育園側はスケジュールやシフトの調整といった負担が増す可能性があります。

同一労働同一賃金

同一労働同一賃金とは、正規・非正規といった雇用形態にかかわらず、同じ業務を行った人に対して、同じ賃金を支払うとする取り決めのことを指します。海外では、同一労働同一賃金は、一般的な考え方です。

2019年4月の法改正以前は、同じ業務を行っていても正社員とパート社員で賃金格差が生じていました。しかし、法改正によって同じ業務を行っている場合は、正社員とパート社員で同じ賃金を支払うことがルールとなっています。

同一労働同一賃金は、パートで働く保育士にとってのメリットだけではなく、パート社員のモチベーションアップなど保育園側にとってもメリットがあります。

【運営者向け】保育園が取り組むべき課題

保育園の画像

働き方改革で、ワークライフバランスを両立できる働きやすい保育園を実現するためには、職場環境の整備や業務の効率化を進めることが重要となります。

ここでは、働き方改革を進めるうえで、具体的に保育園にはどのような施策が求められているのか、現在の課題を踏まえつつ紹介します。

業務効率化で残業削減を図る

働き方改革を実現するためには、保育業務の効率化により労働時間の短縮や、業務負担の軽減が欠かせません。

保育士が長時間労働となる原因は、手書きや手作りを推奨する文化が定着しているところにあります。多くの保育士は、手のかかる小さな子どもを長時間預かりながら、手作業による事務作業に追われていることが現状です。 また、保育士の事務作業は保育計画の作成から、子ども達の検温・排便・食事などのチェック、日報の作成までと非常に煩雑なものとなっています。

業務効率化を進めるためには、業務フローの見直しとともに、業務のICT化(情報通信技術の活用による効率化)が必要です。保育士の業務に情報通信技術を積極的に取り入れることで、保育士同士や保護者との情報共有をスムーズに済ませることができます。

徹底した労務管理で待遇差を改善する

働き方改革で提唱されている同一労働同一賃金・残業時間の削減・有給休暇の取得向上を実現するためには、保育園による適切な労務管理が必要となります。

労務管理とは、労働時間・休日・賃金など労働者に関する全般的な管理です。現在の保育士業界では、厳密に労務管理を行う保育園は少なく、運営側が保育士を適切に管理できているとは言い難い状況となっています。

適切な管理を行うためには、まず労務管理の業務を行う管理者を明確にすることが大切です。保育園に設けられた管理者が責任を持って、各保育士の労働時間や賃金を一元的に管理できる体制を構築しましょう。

労務管理を適切に行うことによって、正社員とパート社員の待遇差の是正を実現できます。また、労働者間で合理的な理由のある待遇差が生じる場合は、一人ひとりにその理由を説明しなければなりません。

【保育士向け】期待される保育現場の変化

変化の画像

かつて保育現場は、待遇の格差や長時間労働など様々な問題を抱えているイメージが強くありました。保育の仕事に関心のある人にとって、待遇の格差や長時間労働は深刻な問題です。

しかし、働き方改革の推進によって、保育士の労働環境が改善され、より働きやすくなることが期待できます。ここでは、保育士にとって働き方改革は、具体的にどのような影響があるのかについて解説します。

ワークライフバランスを保てる

小さな子どもたちを預かる保育士の仕事は、見た目以上にハードで責任が重く、煩雑な事務作業により長時間労働となりやすい傾向があります。そのため、以前は連日の残業に加えて、持ち帰りの仕事が発生することもありました。

しかし、昨今の働き方改革の影響で、保育士業界にも残業時間の短縮化や有給休暇の取得率向上が見られ、ワークライフバランスの両立に繋がっています。 また、国や自治体による保育士への支援によって、給与水準の改善も見られます。その結果、保育士の労働条件・環境は、年々改善している傾向にあります。

個々の事情に合わせて柔軟に働ける

保育士業界は女性の労働者が大半を占めているため、多様な雇用形態が入り混じっています。女性が多いことで雇用形態が多様化する理由は、出産や育児にともなってパート勤務を選択する人が多いためです。 以前の保育士業界では待遇差や職場環境の未整備により、復職した保育士のモチベーション低下や復職希望者の減少が問題となっていました。

しかし、働き方改革で同一労働同一賃金が浸透することで、パートなどの形で働く保育士の待遇が改善することが予想されています。そのため、育児や介護と仕事の両立を求める保育士にとっては、自分に合った働き方を実現しやすくなるでしょう。

まとめ

働き方改革は、まだスタートして間もない取り組みですが、保育士業界では徐々に長時間労働などの労働環境や待遇面での改善が見られています。

保育園側は働き方改革に対応するために、ICT化による業務効率化や、労務管理の徹底による待遇差の改善に取り組まなければなりません。 しかし、保育園が働き方改革に力を入れることで、業界に存在する長時間労働や待遇差の問題を改善することとなり、保育園が抱える人手不足などの問題の改善に繋がります。

保育園と保育士が互いに協力して、より良い働き方を実現できるように、働き方改革を進めましょう。