英語教育の若年化が進む近年では、保育園の段階から英語教育を取り入れることも珍しくなくなりました。また、外国人保護者・園児への対応が増えている中、英語でコミュニケーションが取れることは、保育士が転職先を探す際の大きなアドバンテージの一つです。 今回は、英語教育の若年化が進んでいる理由と英語保育の仕事内容、早期英語教育のメリット・デメリットを解説します。保育士が転職を有利に進めるために必要な英語力についても解説するため、保育園の英語教育に興味がある方は、ぜひ参考にしてください。
目次
保育園に英語教育は必要?
かつて英語の授業は中学生に上がってからという学校がほとんどであり、幼い頃から英語に親しんでいる子どもは少ない傾向にありました。しかし、2020年度から実施された新・学校指導要領において、小学校の3年生からは外国語活動が始まり、5年生からは必修教科の一つとして扱われています。
(出典:文部科学省「新学習指導要領について」/ https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/044/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2018/07/09/1405957_003.pdf )
英語の必修化が早まることで、「3年生に上がってから苦労するよりは」と考えた保護者により、早期英語教育のニーズも高まっている状態です。幼児期に行われる言語学習は「吸収の効率がよく、身に付きやすい」とされることもあり、最近では英語教育に取り組み始める保育園も増えています。
今のところ、保育の現場において英語力は必須ではありませんが、英語が得意な保育士はどこの保育園に行っても重宝されるでしょう。また、明確に提示できるスキルを保持している場合は、収入がアップする可能性もあります。
保育園における英語教育のねらい
保育園における英語教育には、主に下記のねらいがあります。
保育園における英語教育のねらい
- 幼児期の段階で楽しく英語に親しむ
- ゲームや音楽を通して英語の語感やリズムに慣れる
- アルファベットの形や、大文字と小文字の違いを知る
- 身近なものの英語表現を学ぶ
- 英語の学習を通して外国への関心を深める
英語教育のねらいは、年少・年中・年長といったクラス分けによっても異なることが特徴です。保育園における英語教育のねらいや教育方針を理解することで、保育士はスムーズに英語教育を行えます。
保育園で英語教育を行う4つのメリット
保育園で英語教育を行うことには、子どもが抵抗感なく英語を理解できるようになるというメリットがあります。また語学力が養われるだけではなく、社会生活を営む上で必要な多様性を学べる点もメリットの1つです。
保育士が理解しておくべき、保育園で英語教育を行う4つのメリットを詳しく説明します。
英語の吸収が早く抵抗感が減る
幼児期の子どもは、周囲の人が話す声を聞いて、自分でも言葉を真似て話そうとします。言語能力の発達が著しく、英語の吸収も早い傾向です。保育園で英語教育を行うと、大人になってから勉強し始めるよりも、英語を早く習得できるというメリットがあります。
また、保育園の英語教育では、子どもたちはゲームや音楽を通して英語に触れる機会を得ます。楽しく英語に親しめるため、英語に対する抵抗感を抱きにくいことが特徴です。
子どもたちはあいさつや会話といった日常的なコミュニケーションの中で、英語の感覚やフレーズを学べます。英語の学習に前向きになり、小学校の英語教育にもスムーズに移行できるでしょう。
自然と英語の音に慣れることができる
日本語と英語では、「RとL」や「子音」など、基本的な発音や周波数といった部分に大きな差があります。
保育園での英語教育は、日常生活や遊びの中で音に慣れていくため、聞き取る能力や発音する能力を育てることが可能です。また、英語独特のイントネーションや表現方法を、自然と身に付けることにもつながります。
言語を習得するために最適とされる時期は、幼児期から10歳程度までです。それ以降に学習を始めても、習得が不十分であったり長期間の学習が必要となったりする傾向が見られます。
英語の組み立て方を理解できる
日本語と英語で異なることは、発音や周波数だけではありません。言語としての組み立て方、つまり単語の並ぶ語順が大きく異なります。
大きくなってから英語を学び始めた場合、頭の中で英語と日本語で単語の意味を翻訳し、語順を並び替える作業が必要となることがほとんどです。英語での会話や学習をスムーズに行うためには、この翻訳作業をせずに英語を英語のままで理解し、英語で考えることができる「英語脳」が必要だと言われています。
コミュニケーションを楽しみながら英語の使い方を理解することで、勉強という意識のないまま「英語脳」を身に付けることが可能です。
異文化の理解につながる
早期英語教育は、子どもたちが異文化に興味を持ち、理解するきっかけとなります。あいさつの仕方や、教材に載っているイラスト・写真を通して、異文化への好奇心を高めることもできるでしょう。
また、保育園の中には英語教育のためにネイティブ講師を招くケースもあります。子どもたちにとってネイティブ講師との触れ合いは、英語での表現方法やジェスチャーを体験できる貴重な機会です。日本と外国の価値観や考え方の違いを知り、多様性を受け入れる下地も作れます。
多様性を受け入れる考え方は、世界的に活躍するために重要な資質です。保育園で英語教育を行うことで、子どもたちの視野を広げる手助けができます。
保育園で英語教育を行う2つのデメリット
早期の英語教育で引き起こされる主なデメリットは、以下の2つです。
・デメリット1:言語の習得が中途半端になる可能性がある
日本語がしっかりと身についていない時期に英語教育を行うことで、どちらの習得も中途半端になってしまいかねません。
日常のおしゃべりであればどちらでも可能なものの、学校の勉強についていけなくなる、物事を深く考えたり表現したり伝えたりできなくなることがあります。
日本語と英語を混ぜて使わないなど、子どもが混乱しないようにカリキュラムを工夫することが重要です。
・デメリット2:英語嫌いになってしまうことがある
子どもが楽しんで学べることが、早期の英語教育の大きなメリットとなります。
しかし、英語教育に力を入れるあまり、英語の勉強が義務的・強要的になってしまい、子どもに負担を与えることも少なくありません。うまく環境に馴染めなかったり、過度な負担を感じたりすることで、子どもが英語自体を嫌いになってしまうことがあります。
英語教育がある保育園での仕事内容
英語教育と言っても、友人との触れあい方や日常生活でのマナーを教えるといった、基本的な保育士としての仕事は大きく変わりません。ただし、英語の教育レベルは保育園によって差があり、求められる仕事内容も異なります。
通常保育が行われる時間の一部を英語の時間に振り分けたり、希望者のみを募って降園後に英語教室を実施したりと、教育時間もまちまちです。日常生活は日本語で行い、レッスン時のみ英語で話すこともあれば、一日中英語のみで過ごす保育園もあります。
英語教育を前面に出して取り組んでいる保育園は、ネイティブ講師を専門教師として雇っているケースがほとんどです。カリキュラムで協力することはあっても、一般の保育士が英語教師の代わりをすることはあまりありません。
もっとも、準英語教師のような立場で雇用されている場合や、園全体が英会話を主体として運営されているプリスクールなどの場合は、高度な英会話能力が求められます。
英語保育に携わりたいのであれば、まずは求人情報などで希望する保育園の教育方針や英語のレベルを確認しましょう。
英語教育がある保育園での活動例
ここでは、英語教育がある保育園での活動例を3つ挙げます。
・英語の手遊び歌
英語の手遊び歌は、英語の歌に合わせて手や指を動かす遊びです。英語の歌で子どもは英語のリズムを身に付けて、指の本数とジェスチャーで英語の数字や単語を覚えられます。
英語の手遊び歌は、「Head Shoulders Knees and Toes」や「Open shut them」などが代表的です。簡単な英単語で構成されていて、子どもたちも一緒に歌えるリズムの手遊び歌を選びましょう。まずは先生がお手本を見せて、ルールを分かりやすく教えてあげてください。
・英語の絵本の読み聞かせ
英語の絵本の読み聞かせは、英単語の意味やアクセントを子どもに教える活動です。絵本の内容によっては外国の文化を分かりやすく伝えられます。
英語の絵本を選ぶ際のポイントは、絵本の対象年齢ではなく、子どもが楽しめる内容にすることが大切です。アルファベットを楽しく学べる絵本から、身近な動物・乗り物が登場する絵本、簡単な物語形式になっている絵本まで、さまざまな英語の絵本が存在します。子どもの興味関心に合わせた絵本を選んであげましょう。
・英語でのゲーム
英語でのゲームで、子どもがゲームを通して楽しく英語に触れられます。友だちと一緒に行うことで、子どもたちが中心となって英語習得を進められる点も、英語でのゲームのメリットです。
保育園の年少クラスには、「英語のカルタ」「ロンドン橋」などの簡単な英語や歌で遊べるゲームが適しています。年中クラスや年長クラスでは、「What Time is it Mr Wolf?」「Simon says」のようにルールがいくつかあるゲームも遊んでみましょう。
上記以外にも、アニメなどの動画鑑賞や、英語を取り入れた工作などが挙げられます。子どもたちの年齢や興味の対象なども考慮して、楽しみながら学べる活動を選ぶことが大切です。
英語教育で保育士に求められるスキル
英語教育で保育士に求められるスキルは、「リスニング力」と「スピーキング力」の2つです。
・リスニング力
子どもに英語を正しく教えるためには、保育士自身にもリスニング力が必要です。教材として使用する歌や絵本のCDから発音を正しく聞き取り、子どもたちに伝えられるようにしましょう。
英語のリスニングで気を付けたいポイントは、単語のアクセントと文章のイントネーションです。保育園の英語学習で使用するCDには難しい発音はないため、アクセントとイントネーションに気を付けることで正しいリスニングができます。
・スピーキング力
まだ英語を読めない子どもたちは、大人の発音を聞き取って英語を学びます。英語教育を行う保育士には、英語をなめらかに発音できるスピーキング力が必要です。
英語教育で保育士に求められるスピーキング力は、英語で日常会話ができる程度で十分とされています。ネイティブ講師と会話をする形式で子どもたちに英語を教えることもあるため、英語教育にかかわりたい保育士はスピーキング力を高めておきましょう。
以下では、保育士が転職の際に求められる英語力について紹介します。
転職を有利にするために必要な英語力
英語教育を行う保育園を希望する場合、英語力を証明することで転職を有利に進められるでしょう。英語教育に携わりたい保育士向けの英語資格には、「幼児教育・保育英語検定」「TOEIC」「英検」の3つがあります。
・幼児教育・保育英語検定の場合
幼児教育・保育英語検定は英語力以外にも、保育に関する知識や幼児言葉、赤ちゃん言葉など、実際に幼児教育や保育の現場で必要となる能力が求められる検定です。検定試験は5段階あり、それぞれの級に合格できる英語力の目安は下記の通りです。
4級 初級レベル |
・学力目安:中学初級〜中級程度 ・初歩的な単語やフレーズを理解できる ・定型の簡単なフレーズで子どもとのコミュニケーションが取れる |
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3級 基礎レベル |
・学力目安:中学卒業程度 ・保育英語の基礎文法を理解している ・子どもと英語でコミュニケーションが取れる ・保護者との簡単な英会話が聞き取れる |
2級 補助レベル |
・学力目安:高校中級〜卒業程度 ・子どもや保護者と英語でコミュニケーションが取れる ・簡単な文書作成能力がある ・英語だけで行われる保育の補助ができる |
準1級 実務レベル |
・学力目安:大学中級程度 ・子どもや保護者と英語で円滑なコミュニケーションが取れる ・保育活動に必要な文書を英語で作成できる ・英語圏外の幼児教育現場で活躍できる |
1級 専門レベル |
・学力目安:大学上級程度 ・子どもや保護者と英語で高度なコミュニケーションが取れる ・保育活動に必要な文書を英語で作成できる ・海外の幼児教育現場で活躍できる |
試験内容はマークシート方式の筆記試験を基本とし、3級からはリスニングが、準1級からは英作文と二次試験が追加されます。
・TOEICや英検の場合
TOEICは、一般企業で英語力の判断基準に使用されることも珍しくありません。履歴書に記載する場合は、600点以上であれば好印象が期待できる数字です。ただし、英語教育に力を入れている場合は、730点以上を要求されることもあります。
英検もTOEICと同様に、高い認知度と信頼性のある検定です。履歴書に記載する場合は2級以上、準1級や1級であればなおよいでしょう。
英語教育に力を入れている保育園の場合、応募条件にTOEICの点数や英検の級数を明示していることもあります。
英語教育を導入している保育園の種類
英語教育はすべての保育園で実施されているわけではありません。英語教育を導入している保育園の種類は、主に下記の3つです。
・私営認定こども園
私営認定こども園とは、就学前の子どもを対象に保育と教育を提供する保育施設です。私営認定こども園の英語教育は、一般的に就学前の導入的な位置付けであり、保育士の英語力は日常生活で通用する基礎レベルがあれば十分とされています。
私営認定こども園では英語レッスンを専任の英語講師が行い、保育士は講師のサポートを行うことも少なくありません。保育士は、子どもたちが英語を楽しく学べるようにサポートすることが求められます。
・プリスクール
プリスクールとは、就学前の子どもを対象に英語での保育を行う保育施設です。プリスクールの英語教育はネイティブ講師が担当し、保育士はネイティブ講師と園児、もしくは保護者とのコミュニケーションなどをフォローする役割を持ちます。
プリスクールで勤務する保育士には、保育現場でネイティブ講師と意思疎通ができるレベルの英語力が必要です。また、子どもたちとの交流や業務上のやりとりをすべて英語で行うことが求められます。
・インターナショナルスクール
インターナショナルスクールとは、日本に在住する英語圏出身の子どもや帰国子女の日本人に教育を行う施設です。インターナショナルスクールでは国際教育を目的とした英語教育や、日本の小学校に進学するための日本語教育を含めたカリキュラムが存在します。
インターナショナルスクールで勤務する保育士は、英語を第一言語としている子どもや保護者と円滑にコミュニケーションを取れる高いレベルの英語力が必要です。子どもたち一人ひとりの国籍や母国語が異なるケースもあるため、保育士には異文化への十分な理解も求められます。
仕事に英語力を生かしたいと考える人は、上記の施設の特徴を把握した上で、自身のレベルに合った応募先を探すとよいでしょう。
まとめ
幼い時期からの英語教育は吸収が早く、楽しみながら覚えやすいとされていることから、保育園にも英語教育を積極的に行うところが増えています。
しかし、早期の英語教育は言葉の習得が中途半端になることや、英語を嫌いになるといった弊害が起こることも少なくありません。英語教育に携わる場合は、子どもたちが自然に英語を好きになるようなサポートが必要です。
保育士に求められる英語力は、働く保育園の教育レベルによって異なります。まずは、希望する保育園の英語レベルを確認し、条件を満たしているようであれば積極的に応募しましょう。