現職の保育士の方で、妊娠・出産・育児といったライフイベントを控えており、今後の働き方について考えている人は多いでしょう。激務で責任も重い保育士の仕事と育児・家庭を両立することは難しく、実際はやむをえず現場を離れてしまう保育士の方も少なくありません。
今回は、育児や介護と両立して働くことができる「時短勤務」の利用条件や、時短勤務のメリット・デメリット、時短勤務で働く場合のポイントなどを解説します。妊娠・出産・育児を経由しても現役で保育士を続けたいと考えている保育士の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
【保育士】時短勤務制度とは?
時短勤務とは、正しくは「短時間勤務制度」という名称であり、文字通り通常の勤務時間を短縮して勤務できる制度のことです。フルタイムで働いている正社員・契約社員が、一定の条件を満たすことで利用できる働き方となります。
短時間勤務制度は、平成21年の育児・介護休業法の改正に伴い、制度が義務化されています。
時短勤務は、1日の所定労働時間を原則6時間以内とすることを基本とします。通常の所定労働時間が7時間45分である場合など、短縮後の所定労働時間を5時間45分とするケースも考慮して、5時間45分から6時間の間を許容範囲としています。
また、短時間勤務制度では労働者の選択肢を増やすため、上記の原則を踏まえたうえで、下記のような措置を併用することも可能です。
・1日の所定労働時間を7時間とする措置 ・隔日勤務等による所定労働日数短縮にて労働時間を短縮する措置 |
(出典:厚生労働省「短時間勤務制度(所定労働時間の短縮等の措置)について」/https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/manual/doc/attention.pdf)
時短勤務制度の働き方の特徴
時短勤務制度を利用する保育士は、育休・産休を終えて現場復帰する人が多い傾向です。
保育士の9割は女性であり、結婚・妊娠・出産・育児といった大きなライフステージの変化があります。保育士の仕事とライフイベントとの両立は難しく、時短勤務制度が義務化される以前は、復帰を希望する人の多くがパートタイムを希望していました。
しかし、パートタイムは業務負担が少ない反面早番や遅番を求められる機会が多く、育児との両立が難しいというデメリットがあります。
時短勤務であれば、勤務時間が決められているため働きやすく、人手不足の保育園と潜在保育士の双方のニーズをマッチングさせることができます。時短勤務制度は、子どもが3歳になるまで活用できる制度であるため、育児・家庭と仕事のバランスが取りやすい働き方といえるでしょう。
時短勤務制度の対象となる保育士の条件
時短勤務制度を利用するにあたっては一定の条件が定められており、すべての保育士が利用できるわけではない点に注意が必要です。
厚生労働省の資料によると、下記の条件をすべて満たしている人が時短勤務制度の対象となっています。
■時間勤務制度の対象となる保育士 |
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①3歳に満たない子を養育する労働者であること。 ②1日の所定労働時間が6時間以下(※)でないこと。 ③日々雇用される者でないこと。 ④短時間勤務制度が適用される期間に現に育児休業をしていないこと。 ⑤労使協定により適用除外とされた労働者でないこと。 |
(引用:厚生労働省 短時間勤務制度(所定労働時間の短縮等の措置)について https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/manual/doc/attention.pdf)
上記の⑤に該当する労使協定を園と締結している場合は、上記の⑤以外の条件を満たしていても時短勤務の適用対象外となります。
⑤に該当する条件は下記の通りです。
■労使協定により適用除外とされる保育士 |
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ア)当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者 イ)1週間の所定労働日数が2日以下の労働者 ウ)業務の性質又は業務の実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者 |
(引用:厚生労働省 短時間勤務制度(所定労働時間の短縮等の措置)について https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/manual/doc/attention.pdf)
特に、ア)に定められた「入職後1年以内の場合は利用できない」という条件は、時短勤務の適用の障壁となるため注意が必要です。
時短勤務制度が適用される基本的な条件は以上となりますが、すべての園や施設が時短勤務制度を採用しているわけではありません。時短勤務制度の利用にあたっては、制度の有無や利用の可否を園や施設ごとに確認する必要があります。
時短勤務制度で働く場合の給料
業務内容や責任の重さに変わりがなければ、時短勤務でも時間あたりの賃金に変更はありません。減っている労働時間に比例して賃金が減額されます。
(出典:厚生労働省「短時間正社員制度」/ https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/download/pdf/sogo_manual_old.pdf )
給与は「基本給×実労働時間÷所定労働時間」で算出できます。時短勤務になると給料がどれだけ変化するか、以下の条件で計算してみましょう。
・フルタイム勤務のときの基本給:22万円
・1日の労働時間:6時間に短縮
・1か月あたりの実労働日数:20日
※会社の所定労働時間は8時間、所定労働日数は20日
※手当なしとする
↓
22万円×(6時間×20日)÷(8時間×20日)
=220,000×120÷160
=165,000
時短勤務になると、基本給22万円から16万5,000円に減ります。時短勤務中は原則として残業が制限されるため、残業代がつきません。そのため、フルタイム勤務のときと比べて給与が大きく減る可能性があります。
時短勤務制度で働く場合の賞与(ボーナス)
基本的に、時短勤務の賞与(ボーナス)はフルタイム勤務と同じ基準で支給されます。たとえば、フルタイム勤務保育士の賞与を基本給の2か月としているなら、時短勤務保育士も同じ基準で計算されます。勤務時間が短縮され基本給も少なくなっているため、賞与も減ることがほとんどです。
ただし、賞与の査定期間がまるまる育児休業と重なり、1日も出社しなかったといったケースでは査定のしようがありません。その場合は、休暇明けの賞与がほとんど期待できないこともありえます。
また、賞与には法的な取り決めはなく、企業がそれぞれの就業規則に則って支給しています。そのため、保育施設によって支給要件や支給金額はさまざまです。正確に知りたいときは、勤務先の就業規則を確認しましょう。
時短勤務制度で働く場合の休憩・残業
労働時間中の休憩に関しては、労働基準法第34条により以下のように定められています。
第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
(引用:e-Gov法令検索「労働基準法」/ https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049 )
労働時間が6時間を超える場合は、少なくとも45分の休憩を取ることができます。ただし、時短勤務の労働時間は6時間が基本です。この場合、実は休憩時間がまったくなくても法的な問題はありません。
とはいえ、休憩時間が一切ない場合、6時間を1分でも超えると法律に違反します。実際に保育業務にあたれば、6時間で終わらないことも多々起こるでしょう。そこで、法律違反を避けるため、6時間の時短勤務でも45分から1時間の休憩時間を設定していることが一般的です。
時短社員の残業に関しては、法律上禁止されていません。ただし、事前に申し出れば残業を免除してもらうことは可能です。
時短勤務で働く保育士の一日のスケジュール
時短勤務で働く保育士の方は、フルタイムで働く場合とは異なるスケジュールで一日を過ごすこととなります。
ここでは、私生活も含めた時短勤務で働く保育士の一日のスケジュールを紹介します。時短勤務を検討している保育士の方は、実際の生活感をイメージしてみてください。
■時短勤務で働く保育士の一日のスケジュール例 | |
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6:30 | 起床 朝食準備 子どもの登園準備 |
7:00 | 朝食 出勤準備 |
8:00 | 保育園へ出発 |
8:30 | 子どもを保育園へ見送り、職場へ出勤 |
9:00 | 午前の勤務開始(3時間) |
12:00 | お昼休憩 |
13:00 | 午後の勤務開始(3時間) |
16:00 | 勤務終了 退勤 |
17:00 | 子どもを保育園にお迎え |
18:00 | 帰宅 夕食準備 |
19:00 | 夕食 |
20:00 | 入浴 家族団らん |
22:00 | 就寝 |
時短勤務は勤務時間が一定であるため、子どもの保育園の送り迎えも決まった時間に行えます。
育児や家事の時間とのバランスを取りながら、うまく時間配分して働いている保育士の方が多く見られます。
保育士が時短勤務制度で働くメリット
時短勤務制度を利用すると労働時間が短くなる分、プライベートの時間が取れるようになります。出産などでライフスタイルが大きく変わり、従来通りの時間で働くことが難しくなったときも、新しい職場を探す必要がない点も大きなメリットです。
これから子どもを持つことを考えている場合は、時短勤務制度の利用を前向きに検討するとよいでしょう。
子育てと仕事の両立を図れる
大きなメリットとして、時間的にも体力的にも余裕が生まれ、子育てと仕事を両立させやすい点が挙げられます。たとえば、子どものお迎え時間までに余裕を持って退勤することも可能です。フルタイム勤務では、帰宅後すぐに夕食の支度にとりかかるなど子どもの相手をする時間が持てないケースもあるでしょう。時短勤務であれば、子どもの話を聞いたり一緒に遊んだりする時間的余裕があり、プライベートの充実も図れます。
また、子どもが通院しなければならない場合、時短勤務であれば仕事終わりに病院に行けます。フルタイム勤務では、休むか遅くまで診療している病院に行くかしなければ受診できません。時短勤務であれば病院の一般的な診療時間内に退勤できるため、通院しやすくなります。
将来の年金受給額が保障される
自営業ではなく雇用されて働いている場合、毎月の給与から保険料が天引きされる代わりに、将来厚生年金を受給できます。厚生年金の受給額を決定するベースとなるのは標準報酬月額(≒平均月収)です。
時短勤務期間中は給料が下がるため、将来の年金受給額も減るのではと心配になる人もいるかもしれません。しかし、時短勤務制度を利用して働く場合は、制度利用前の報酬月額に基づいて算出した金額を受け取ることが可能です。
つまり、時短勤務によって給料が減っても、それが将来受給する年金額に影響を及ぼすことはありません。ただし、時短勤務で給料が減った場合は「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」を会社に提出する必要があります。
職場を変える必要性がない
一度現場を離れてから復職することは、心身ともに負担がかかりますが、時短勤務制度を利用すると、職場を変えずに育児・家庭との両立を図ることができます。また、一定期間経過後は、フルタイムとしてそのまま同じ職場で働くこともできます。
ライフスタイルに合わせて勤務時間を調整できることは、時短勤務のメリットです。
福利厚生は変わらずに利用できる
時短勤務は正社員・契約社員を対象に勤務時間を短縮する制度であるため、福利厚生を引き続き利用することができます。
近年では人手不足を解消するために、福利厚生の充実に力を入れている園も散見されます。安定して働きたい人にとって、時短勤務をしながら福利厚生を利用できることは大きなメリットといえるでしょう。
フルタイムに戻すこともできる
時短勤務で働き始めても、ずっとその働き方を続けなければならないということはありません。時短勤務になることで、給料が減って経済的に厳しくなる人やキャリアへの影響が心配になる人もいるでしょう。また、多忙な保育現場から自分だけ早く帰ることを心苦しく感じる人もいます。そのような場合、会社が規定する期間より早くフルタイム勤務に復帰することも可能です。
ただし、フルタイム勤務に戻るときは、周囲の協力が得られるのか、自分や家族にかかる負担が大きくならないかなどの点を十分に検討することが大切です。また、フルタイム勤務に戻ると、保育園の延長保育を頼む必要が出ることもあります。何時まで預かってもらえるのか、どのくらいの料金がかかるかについても確認しておきましょう。
保育士が時短勤務制度で働くデメリット
保育園は複数の保育士が協力して働く職場です。そのため、職場環境によっては時短勤務について知見がない人や、時短勤務について快く思わない人がいる場合もあります。時短勤務を利用することで、業務の分担や引き継ぎなどで支障をきたしたり、人間関係の摩擦を生んだりする可能性は高いでしょう。
また、時短勤務は勤務時間を短縮する制度であるため、当然ながら短縮した分だけ給料は少なくなります。給料減額分の家計をあらかじめ想定することが重要です。
保育士が時短勤務に移行する際のポイント
時短勤務は仕事と家庭が両立できる環境づくりを目的として定められた制度であり、要件を満たす労働者は制度を利用する正当な権利を有します。とはいえ、時短勤務職員に対して、周りのスタッフが不満を覚えるケースは少なくありません。上司のマネジメント力不足や周囲の無理解に原因がある場合も多いでしょう。
とはいえ、短時間勤務になれば、その分の仕事がほかの保育士に回ることも事実です。少しでも周囲に迷惑をかけないようにするためには、次の2点を意識するとよいでしょう。
- 周囲に時短勤務に移行すると事前に伝えておく
- 時短で働く期間は最初に決めておく
周囲の同僚には時短勤務で働くつもりである旨を伝えましょう。謙虚な姿勢で「迷惑をかけることがあるかもしれない」と伝え、相談することで、周囲も受け入れやすくなります。
いつまで時短勤務を続けるかを決めておくことも大切です。期限を切ることで、周囲から「〇年のことだから」と理解を得やすくなります。
時短勤務ができる保育園の状況
厚生労働省の資料によると、公立保育園に勤務する保育士のうち、勤続年数が14年を超える人は全体の42.7%を占めます。一方、私立保育園に勤める保育士で勤続14年を超える人の割合は23.6%です。
(出典:厚生労働省「保育士の現状と主な取組」/ https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000661531.pdf )
公立園に長く勤める保育士が多い理由としては、残業が少ない、休みがとりやすい、短時間勤務制度が整っているところが多いことなどが挙げられます。育児と両立しやすい環境のため、出産などのライフイベントで離職する必要がありません。
一方、私立園で時短勤務制度を導入している施設は多くなく、非常勤やパート、派遣などの雇用形態で求人を募集することが一般的です。とはいえ、時短制度を導入している園も増えつつあります。そのような園には下記のような特徴があります。
- 保育士の働く環境を重視している
- 産休や育休制度が充実している
- 持ち帰り仕事や残業がほとんどない
転職先として長く安定して働ける私立保育園を探しているなら、時短勤務可能な園かどうかを求人情報などでしっかり確かめることが大切です。
時短勤務で働く場合に実践すべき2つの工夫
時短勤務は、育児や介護といった事情を抱えた人にとって非常に便利で有益な制度です。しかし、勤務時間が限られているために、フルタイムとは違った難しさがあることが実情です。時短勤務で働く場合は、業務を効率よくこなす工夫が必要となります。
時短勤務で働く場合に意識しておきたい工夫は、下記の通りです。
【保育士が時短勤務で働く場合に工夫すべきポイント】 |
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〇タスクの優先順位をつける 業務の効率化を行うためにはタスクの優先順位づけが基本です。担当している業務に優先順位をつけることで、思考や行動が混線することがなくなり、次々と業務をこなすことが可能となります。また、ミスや失念を減らすことにもつながるため、貴重な時間のロスを防げます。毎日の出勤・退勤時にタスクを整理して、日々改善を重ねながら業務効率化に取り組むことがポイントです。 〇業務内容と進捗状況を明確化する 時短勤務は時間が限られている性質上、一緒に働く保育士や退勤後に引き継ぐ保育士とうまく連携することも大切です。タスク管理ができるようになったら、業務内容と進捗状況をほかの保育士と共有できるようにしましょう。ホワイトボードやアプリケーションなど、全員が使いやすい方法で構いません。業務内容と進捗状況を明確化して共有することで、連携や引き継ぎもスムーズとなり、時短勤務でも働きやすい環境を構築することができます。 |
まとめ
時短勤務は制度が義務化されて以降、現在では広く一般に認知されていています。実際に時短勤務の制度を活用して活躍している産前・産後の保育士の方は多くいます。
時短勤務の制度は現在の職場を離れることなく、育児や家庭とのバランスを見てフルタイム勤務に復帰できることが大きなメリットです。制度を利用するにあたってフルタイムとは異なる難しさはありますが、ポイントを押さえることで働きやすさや業務効率を向上させることができます。
結婚・出産・育児といったライフイベントを控えている保育士の方は、ぜひ時短勤務についての理解を深めて、今後のキャリアプランに役立ててください。