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日本全国で保育士不足は深刻な問題となっています。保育士不足の解消に向けた行政による取り組みの中でも、保育需要の高い一部の自治体で導入された制度が「地域限定保育士制度」です。

しかし、地域限定保育士と通常の保育士の違いがよくわからないという方は多いでしょう。

今回は、地域限定保育士制度の概要から地域限定保育士として働くメリット・デメリット、地域限定保育士試験の詳細、勉強法までを解説します。

地域限定保育士制度に興味を持っている方や保育業界で活躍したい方は、最後まで目を通してみてください。

地域限定保育士とは

地域限定保育士とは、一部の自治体で通常の保育士試験とは別に実施される試験に合格すると、対象地域限定で保育士として働くことができる制度です。

平成27年に成立した「国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律」に基づく比較的新しい制度となります。

(出典:e-Gov法令検索「国家戦略特別区域法」/https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=425AC0000000107#Mp-At_12_5

保育士不足は待機児童問題の一因となっており、これまで保育士の母数を増やすために処遇改善や保育士試験回数の増加などの試みが行われました。

保育士不足解消を強化すべく創設された制度が、地域限定保育士です。

「地域限定保育士」と「通常の保育士」の違い

地域限定保育士と通常の保育士の相違点は、下記の通りです。

資格区分 地域限定保育士 通常の保育士
業務内容 保育士としての業務は同じ
勤務地域 3年間は資格を取得した地域 全国どこでも勤務可能

地域限定保育士と通常の保育士の業務内容は同じですが、登録後3年間の勤務可能地域が異なります。

4年目以降は制限が外れるため、地域限定保育士も保育士と同等の扱いとなります。

地域限定保育士として働くメリット・デメリット

地域限定保育士は、通常の保育士とは異なる性質を持つだけでなく、メリット・デメリットも存在します。

地域限定保育士として働くメリット
・比較的仕事を見つけやすい地域限定保育士制度は保育士不足解消を目的に作られた制度であるため、制度を実施している自治体は保育士に対するニーズが高い状態です。地域限定保育士試験に合格した地域で就労を希望する場合は、すぐにでも職場を見つけることができるでしょう。
・3年後は一般の保育士と同様に全国で働くことができる地域限定保育士は登録後の3年間は対象地域でしか働くことができませんが、4年目以降は一般の保育士と同様に全国で働くことができます。登録後の3年間において実際に保育士として働いていない場合でも同様です。将来を見据えたキャリア設計を行っておけば、地域の制限がデメリットになることはありません。
地域限定保育士として働くデメリット
・3年間の地域限定がデメリットとなることがあるやむを得ない事情で転居する場合などは、転居先で保育士以外の仕事を見つけるか、3年間経過するまで待たなくてはなりません。そのため、登録から3年後までの将来設計を慎重に考えておく必要があります。

地域限定保育士試験の詳細

地域限定保育士試験には、一般的な保育士試験と似ている部分と異なる部分が存在します。そのため、これから地域限定保育士試験を受ける場合は、通常の保育士試験との違いをあらかじめ把握しておくことが大切です。

ここからは、地域限定保育士試験の受験資格・受験地域・申請方法・試験内容について詳しく紹介します。

受験資格

保育士試験・地域限定保育士試験の実施団体である一般社団法人全国保育士養成協議会では、地域限定保育士試験の受験資格を以下の通り定めています。

地域限定保育士試験の受験資格
・一般の大学・短期大学
・専門学校等を卒業している
・高等学校・中等教育学校等を卒業後、児童福祉施設で2年以上もしくは2,880時間以上勤務している
・義務教育を修了後、児童福祉施設で5年以上もしくは7,200時間以上勤務している

(出典:一般社団法人全国保育士養成協議会「受験資格」/https://www.hoyokyo.or.jp/exam/qualify/

地域限定保育士試験の受験資格については、一般的な保育士と大きな違いはありません。

専門卒や大卒の場合は実務経験が不要ですが、それ以外の学歴では実務経験が必要となります。

受験地域

地域限定保育士試験は、現在どこの都道府県に在住していても受験することは可能です。

しかし、地域限定保育士制度を導入し、地域限定保育士試験を実施している自治体は限られています。

試験合格後は同地域限定でしか保育士として働くことはできないため、地域限定保育士として働きたい場合は、試験合格後のライフプランも考慮する必要があります。

受験の申請期間・手数料

地域限定保育士試験の受験申請期間および手数料は、実施している自治体によって差があります。

地域限定保育士試験を実施している代表的な地域である、神奈川県と大阪府の申請期間・手数料は下記の通りです。

都道府県 神奈川県 大阪府
受験申請の手引き配布期間 4月上旬~中旬 7月上旬~7月下旬
受験申請時期 4月中旬~5月初旬 7月上旬~7月下旬
手数料 12,700円 12,950円

(出典:神奈川県「令和2年神奈川県独自地域限定保育士試験」/http://www.pref.kanagawa.jp/docs/sy8/hoiku/2020dokuji.html

(出典:大阪府「令和2年後期保育士試験 (通常試験及び国家戦略特別区域限定保育士試験(地域限定保育士試験)」/http://www.pref.osaka.lg.jp/annai/saiyo/detail.php?recid=23599

受験申請期間は地域差がありますが、約半月~1か月と比較的短いため、地域限定保育士試験の受験を希望する方は早めに手続きを行うとよいでしょう。

試験内容

地域限定保育士試験の内容は、筆記試験と実技試験もしくは保育実技講習会です。

筆記試験の全科目に合格した場合、保育実技講習会を受講すれば実技試験は免除されます。

地域限定保育士試験の試験内容は下記の通りです。

筆記試験
② 筆記試験は、次の科目について行う。一 保育原理二 教育原理及び社会的養護三 子ども家庭福祉四 社会福祉五 保育の心理学六 子どもの保健七 子どもの食と栄養八 保育実習理論

(引用:e-Gov法令検索「児童福祉法施行規則」/https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323M40000100011#Mp-At_6_10

筆記試験は通常の保育士試験と同様に、8科目を2日間に分けて受験します。

8科目すべてで6割以上の点を取れば、筆記試験に通過することができます。

実技試験では、以下3科目のうち2つを選択します。

実技試験
・音楽表現に関する技術
・造形表現に関する技術
・言語表現に関する技術

(出典:大阪府「令和2年後期保育士試験 (通常試験及び国家戦略特別区域限定保育士試験(地域限定保育士試験)」/http://www.pref.osaka.lg.jp/annai/saiyo/detail.php?recid=23599

保育実技講習会では、以下の内容(合計27時間・5日程度)を受講します。

保育実技講習会
・音楽表現に関する演習(90分×4コマ)
・造形表現に関する演習(90分×4コマ)
・言語表現に関する演習(90分×4コマ)
・保育実践見学実習の事前指導(60分)
・保育実践見学実習(1日)
・保育実践見学実習の事後指導(120分)

(出典:神奈川県「令和2年神奈川県独自地域限定保育士試験」/http://www.pref.kanagawa.jp/docs/sy8/hoiku/2020dokuji.html

地域限定保育士試験の難易度

地域限定保育士試験では、筆記試験・実技試験ともに保育士試験と同じ問題が出題されるため、実質的な難易度は通常の保育士試験と変わりません。

しかし、筆記試験の全科目に合格すれば、実技試験の代わりに保育実技講習会を受講することになります。

そのため、楽器の演奏や朗読が苦手な方にとっては、実技試験が免除となる可能性のある地域限定保育士のほうが有利と言えるでしょう。

地域限定保育士の試験に合格するための勉強法

地域限定保育士の試験内容は、一般的な保育士試験とほぼ共通しています。

そのため、通常の保育士試験と変わらない方法で勉強すれば問題ないでしょう。

地域限定保育士試験に向けた勉強法には、以下のような方法があります。

・教材 独学で勉強する方は、教材を活用する方法が最も一般的です。筆記試験の範囲を網羅している教材を利用し、一通りの知識が身に付いたら、過去問題集と予想問題集で試験対策を行いましょう。
・通学 時間と資金に余裕がある方は、地域限定保育士について学べるスクールへの通学がおすすめです。わからない部分はその場で講師に質問できるだけでなく、同じ志を持つ仲間と一緒に学ぶことで、モチベーションを高く保つことができます。
・通信教育 地域限定保育士試験については、DVDやeラーニングによる通信講座で学ぶこともできます。学習にかかるコストを抑えつつ、添削課題やサポートを利用して確かな実力を身に付けられるでしょう。

地域限定保育士試験の学習法は多くありますが、大切なのは「自分のライフスタイルに合う学習法を選ぶこと」です。

自分が使える時間や資金を考慮して、無理なく続けられる学習法を選択しましょう。

まとめ

地域限定保育士は、登録後3年間において勤務地域が限定されますが、基本的には一般の保育士と同じように働くことができる資格です。住みたいエリアや働きたいエリアが決まっている方にとっては、保育士として活躍するチャンスを増やすことができます。

地域限定保育士試験の内容は、筆記試験と実技試験もしくは保育実習講習会です。

筆記試験の内容は通常の保育士試験と変わらないため、独学や通信教育などで勉強しておきましょう。