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就職先や転職先を探す際、「変形労働時間制」という用語を求人欄で見つけて、意味が気になった人も多いでしょう。変形労働時間制を採用する保育施設では、勤務時間と給料に関するルールが一般的な保育施設と異なるため、制度に対する正しい理解が必要です。

この記事では、変形労働時間制の概要やメリット・デメリット、変形労働時間制を採用する保育園で働く際の注意点について解説します。変形労働時間制が自分に合った働き方か確認したい保育士は、ぜひ参考にしてください。

変形労働時間制とは?

変形労働時間制とは、繁忙期などで勤務時間が増加した際に、時間外労働としての扱いを不要とするための仕組みです。変形労働時間制を採用する職場では、月単位や年単位で労働時間を調整するため、残業代の支払い方が一般的な職場と異なります。

変形労働時間制は、繁忙期や閑散期など、時期によって業務量や業務時間にばらつきが生じやすい職場で採用されることが一般的です。一般的な雇用形態では所定労働時間が一定であることに対して、変形労働時間制では対象期間ごとの業務量に応じて所定労働時間が決められます。

ただし、変形労働時間制を採用している職場においても、法律によって定められる労働時間を超えた場合は、残業代の請求が可能です。

変形労働時間制における労働時間の算出方法は、労働基準法によって定められています。労働基準法が制定された当初は、4週間以内の期間を単位とした変形労働時間制のみが含まれていました。

法改正にともない、1987年には1か月単位・3か月単位、1993年には1年単位の変形労働時間制が導入されています。

(出典:厚生労働省「労働時間法制の主な改正経緯について」/ https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000361723.pdf

フレックスタイム制・裁量労働制との違い

フレックスタイム制・裁量労働制も、時間外労働の扱い方が通常と異なる点で、変形労働時間制と似た制度です。ただし、各制度では労働時間の算出方法を含む細かなルールが異なります。

フレックスタイム制は、労働時間を月単位で算出する制度です。月単位の労働時間が法定労働時間を超えた場合、残業代の支払い対象となります。フレックスタイム制を導入している職場では、始業時刻と終業時刻を労働者が決めることが可能です。

裁量労働制は、実労働時間によらず一定時間とみなして労働時間を決める制度です。裁量労働制を導入している職場では、長時間の時間外労働が発生している場合においても、決められた範囲内で残業代が支払われます。

保育園における変形労働時間制の導入状況

保育士の求人・転職案件が検索できる情報サイト「マイナビ保育士」では、全求人のうち約1.41%が変形労働時間制を採用していました。

(出典:マイナビ保育士/ https://hoiku.mynavi.jp/r/fw_%20%E5%A4%89%E5%BD%A2%E5%8A%B4%E5%83%8D%E6%99%82%E9%96%93%E5%88%B6/

変形労働時間制を採用している保育園の割合は、求人案件を検索する時点によって若干変化しますが、全体としては少ない傾向です。

変形労働時間制を導入している保育園は、法人運営の施設がほとんどとなっています。社会福祉法人や株式会社、医療法人など組織が運営する保育園において、変形労働時間制が導入されるケースがあります。

社会福祉法人が運営する保育園は、長期間にわたって運営されているケースが多くなっています。事業規模の大きい社会福祉法人が運営する保育園であれば、待遇や福利厚生が充実している可能性が高く、変形労働時間制でも安心して働くことが可能です。

株式会社が保育園経営に携わり始めた時期は社会福祉法人より遅いため、比較的新しい保育園が多くみられます。株式会社が運営する保育園は、業務のIT化など職務環境改善の一環として、変形労働時間制を導入しているケースが一般的です。

変形労働時間制を採用する保育園で働くメリット・デメリット

保育士と子ども

変形労働時間制を採用する保育園では、長時間労働に対する扱いが通常と異なるため、職員にとってメリット・デメリットの両方があります。

下記は、変形労働時間制を採用する保育園で働くメリットです。

・生活リズムが整えられる
・ワークライフバランスがとりやすい
・閑散期には長期休暇がとれることがある

変形労働時間制では月ごとの労働時間があらかじめ決められるため、毎日の業務量を調整できます。忙しい月は集中して取り組み、作業が少ない月は労働時間を短くするなど、生活リズムを整えやすいことが変形労働時間制のメリットです。

また、業務量に合わせて休暇がとれる変形労働時間制では、ワークライフバランスを保って生活できます。趣味や家族と過ごす時間を充実させやすいことも、変形労働時間制のメリットです。変形労働時間制では、ゴールデンウィークやお盆など登園数が少なくなる閑散期に長期休暇をとれる場合があります。

一方、変形労働時間制を採用する保育園で働くデメリットは下記の通りです。

・繁忙期に長時間労働の日が集中しやすい
・給料の面でモチベーションが保ちにくい

変形労働時間制では、保育園で行われるイベントの前など、繁忙期に長時間労働の日が集中する場合があります。長時間労働を行っても、あらかじめ調整された範囲内であれば残業代が発生しない変形労働時間制は、給料の面でモチベーションを保ちにくいことがデメリットです。

これらの特徴から、変形労働時間制を採用する保育園で働く際は、繁忙期に無理をしすぎないように体調管理が重要となります。月ごとの業務負担に合わせて柔軟な働き方を選択したい人にとって、変形労働時間制はメリットのある仕組みです。

変形労働時間制を採用する保育園で働く際の注意点2つ

変形労働時間制を採用する保育園で働く際は、所定労働時間が不明瞭となる傾向があります。サービス残業や未払い残業代が発生するリスクを避けるため、就業規則で規定された内容を確認することが大切です。

ここでは、変形労働時間制で働く際に注意するべきポイントとして、残業代の扱いと休日の扱いについて解説します。

残業代の扱い

変形労働時間制の主な種類は、1か月単位と1年単位の2つです。労働時間を清算する期間によって、残業代が発生するケースが異なります。

・1か月単位の場合
1か月単位の変形労働時間制を導入している職場では、1か月の法定労働時間内で、日ごとと週ごとの労働時間が割り振られる決まりです。

1か月の法定労働時間は、月に含まれる日数によって下記の通りに定められています。

28日間の月 160時間
29日間の月 165.7時間
30日間の月 171.4時間
31日間の月 177.1時間

たとえば、1か月のうち業務量が多くなることが、事前にわかっている週がある場合は、その週に含まれる特定の日に長い労働時間を割り当てることが可能です。

就業規則に記載した所定時間を超えて長時間労働した場合、残業代が発生する対象となります。また、週の平均労働時間が40時間を超えている場合も、残業代の支払い対象です。

・1年単位の場合
1年単位の変形労働時間制を導入している職場では、1年間の合計労働時間が法定時間内に収まるように、出勤日数や就労時間が調整されます。

1年間の法定労働時間は、下記の通りです。

通常の年 2,085.7時間
うるう年 2,091.4時間

週の平均労働時間が40時間を超えた場合と、年間の合計労働時間が法定労働時間を超えた場合は、残業代が発生します。

休日の扱い

1か月単位、1年単位の変形労働時間制における休日の扱いは、下記の通りです。

・1か月単位の場合
1か月単位の変形労働時間制を導入している場合、1か月に含まれる日数や1日の所定労働時間数によって、必要な休日数が決まります。

たとえば、28日間の月の場合は、法定労働時間が160時間であるため、1日の所定労働時間を8時間とすると勤務日数は20日までです。28日間のうち、最低でも8日間は休日を設ける必要があります。

・1年単位の場合
1年単位の変形労働時間制を導入している場合、年間に必要な休日数は最低85日間です。また、連続で出勤できる日数は原則として6日間までと定められています。ただし、労使協定によって特に忙しい期間を特定期間として定めた場合に限り、1週間に1回の休日を確保すれば連続6日間以上の出勤が可能です。

変形労働時間制を導入している職場で働く際は、繁忙期の出勤状況などを事前に確認したうえで、無理のないスケジュールで業務を行いましょう。

まとめ

変形労働時間制とは、労働時間を月単位や年単位で調整し、勤務時間の変化による時間外労働の扱いを不要とするための制度です。保育業界の求人では一部の施設で変形労働時間制が採用されていて、多くは法人運営の保育園となっています。

変形労働時間制は、メリハリのある働き方で仕事に取り組めることがメリットです。一方、繁忙期に長時間労働が必要となることが変形労働時間制のデメリットであるため、体調管理に注意する必要があります。

変形労働時間制を採用する保育園で働く際は就業規則を確認し、残業代や休日の扱いを正しく把握しましょう。