近年、保育現場では保育士の働き方改革や、保育の質の向上を実現する手段の1つとして、ノンコンタクトタイムが注目されています。しかし、ノンコンタクトタイムへの理解が進んでいない現場も多く、広く普及するのは「まだこれから」といった状況です。
当記事では、ノンコンタクトタイムの概要とメリットについて、詳しく説明していきます。ノンコンタクトタイムの確保に向けた施策についても紹介するので、ノンコンタクトタイムに興味のある保育士の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
ノンコンタクトタイムとは?
ノンコンタクトタイムとは、保育士が、勤務時間内に子どもたちから離れる時間のことです。ノンコンタクトタイムを確保することで、保育士は連絡帳の記入や保育記録の作成といった事務作業に集中できるほか、保育士同士の情報交換を行うこともできます。
以下は、ノンコンタクトタイムの間に保育士が行える業務の一例です。
・連絡帳の記入
・保育日誌の記入 ・保育記録の作成 ・指導案の作成(月案・週案・日案) ・教材作成 ・会議(職員間の連絡事項共有) ・保護者対応 ・遊具などの衛生管理 ・行事の準備 |
ノンコンタクトタイムは、業務の効率化だけでなく、保育士が気持ちや考え方の整理を行う時間としても有効です。
なお、休憩時間はノンコンタクトタイムに含まれません。ノンコンタクトタイムは保育以外の作業を行うために設けられた業務時間であり、休憩時間に事務作業を行うことを指して「ノンコンタクトタイムを活用している」とはいわない点に注意しましょう。
ノンコンタクトタイムを取り入れるメリット
保育士のなかには、ノンコンタクトタイムになじみがないために、保育業務から離れることに不安を感じる方もいるでしょう。しかし、保育士が抱える膨大な事務作業を効率よく行うにあたって、ノンコンタクトタイムの導入は非常に有効です。
以下では、ノンコンタクトタイムを取り入れることで生まれる、具体的なメリットを紹介します。
保育環境の改善により保育の質が上がる
ノンコンタクトタイムを導入することで、保育環境の改善に取り組むための時間的な余裕が生まれるほか、保育士同士の連携も取りやすくなります。それによって保育の質の向上にもつながるでしょう。
多くの業務に追われてしまうと、保育内容を振り返ったり、子どもたちの活動・発達に必要な環境構成を見直したりする時間が取りにくいものです。しかし、ノンコンタクトタイムによって業務の効率化が実現できれば、そうした課題も解消しやすくなるでしょう。
また、ノンコンタクトタイムを利用して職員同士が保護者からの情報を共有したり、保育活動について話し合ったりもできるため、報告や連絡・確認がスムーズになります。
こうしたメリットによって保育環境が改善されれば、子どもたちの成長・発達に合わせた質の高い保育を提供できるはずです。
残業時間の削減が期待できる
ノンコンタクトタイムを使って、勤務時間内に多様な業務を処理できれば、残業時間(持ち帰り残業を含む)の削減が可能です。
先に紹介したように、保育士の「保育以外の業務」は意外に多いものです。そのため、勤務時間内に業務が終わらず、職員の負担が大きくなっているケースは少なくありません。しかし、残業時間の削減が実現できれば、労働環境の整備・改善につながり、保育士が継続して働きやすくなるでしょう。
また、ノンコンタクトタイムを活用して保育士の残業を削減できれば、残業のコスト削減にもなり、その分の予算を保育活動にあてることができます。
ノンコンタクトタイムの導入が難しい理由
ノンコンタクトタイムが注目されるようになったきっかけは、幼稚園教育要領・保育所保育指針に、保育の質の向上に関する内容が記載されたことです(2017年に改訂され、2018年から施行)。
以後、保育現場では保育の質を向上させる動きが活発になり、ノンコンタクトタイムにも注目が集まるようになりました。しかし、現状でノンコンタクトタイムを導入している保育施設はそれほど多くありません。
保育施設がノンコンタクトタイムの導入に踏み切れない主な理由は、下記の2点です。
・最低限の保育士しか配置しておらず、保育士1人あたりの業務負担が大きい
・現場が新しい取り組みに消極的 |
保育施設に最低限の保育士しか配置されていない保育施設では、保育業務だけで手一杯となっており、ノンコンタクトタイムを導入する余裕がないと推測されます。また、多くの保育士や施設運営者にノンコンタクトタイムの経験がなく、なかなか理解が進まないことも、ノンコンタクトタイムが普及しない理由の1つです。
ノンコンタクトタイムを確保する方法
ノンコンタクトタイムを導入するのは簡単ではありませんが、いくつかの取り組みを実施することで時間の確保は可能です。
ここまで紹介してきたように、ノンコンタクトタイムは職員のモチベーションアップや、保育の質の向上につながる施策です。働きやすい環境が整備されれば、人材の定着率も上がるでしょう。また、保育士の業務が効率化できれば、子どもたちや保護者にも大きなメリットがあります。
ここからは、ノンコンタクトタイムを確保する方法について説明するので、この記事を参考に導入を検討してみてはいかがでしょうか。
時間帯ごとに人員配置を調整する
まずは、時間帯によって配置している保育士数に偏りがないかを見直しましょう。
子どもに対する保育士の人数が適正であるかを確認した上で、「多忙な時間帯」と「余裕のある時間帯」とで人員配置を調整してみてください。それによって、保育士のスケジュールに余裕を持たせられれば、ノンコンタクトタイムの確保は十分に可能です。
人員配置を見直しても保育士の人数が足りない場合は、必要な時間帯に短時間勤務の保育士や保育補助者を雇うことを考えてもよいでしょう。なお、最低限の保育士数では安全確保が難しいケースもあるので、自園の状況を踏まえながら調整を進めてください。
人員配置の調整はノンコンタクトタイム導入に役立つだけでなく、保育士の労働環境の整整や、心身の負担軽減にもひと役買ってくれるでしょう。
業務内容を見直して無駄を減らす
ノンコンタクトタイムを導入するにあたっては、業務内容を見直すことも大切です。以下の手順を踏むと、業務内容の削減・簡素化を効率的に行えるでしょう。
(1)現在行っているすべての業務をリストアップし、現状を把握する
(2)必要な業務と不要な業務を選別し、業務削減につなげる (3)必要な業務については、簡素化を検討する |
現在の業務をリストアップする際は、「卒園式の準備」といったおおまかな形ではなく、「卒園式の壁面装飾作成」「卒園式の会議」など、具体的に洗い出すことが大切です。
業務が不要であるか迷う場合は、優先順位をつけてみるのもよいでしょう。重要度の低い業務のなかに「習慣的に行っていたけれど、あまり必要はなさそう」と感じるものがあれば、廃止を検討するのも一案です。業務の簡素化には、イベント装飾の使い回しや類似した資料の統合などが該当します。
ただし、業務内容を見直す際は、保育士全員の意見を聞いた上で検討するようにしてください。
ICTを活用して業務効率化を図る
ノンコンタクトタイムの確保には、業務効率化に役立つICTの活用が有効です。
ICTとは、シフト管理や登降園管理、園児情報管理、園だより配信などの事務作業を、スマホやタブレットで管理できる電子システムのことです。ICTではリアルタイムで情報を共有できるため、保育士同士や保護者との連絡をスムーズに行えます。
以下は、ICTの活用による保育業務の改善事例です。
・保育日誌や週案、月案の作成が空いている時間で効率的に行えるようになった
・電子記録として残せるため、正確な情報を迅速に共有できるようになった ・時間を有効に使えることが、午睡中の事故防止にもつながっている ・子どもと向き合う時間が増えた |
こうした例からもわかるように、ICTを活用して事務作業を一括管理できれば、ノンコンタクトタイムを確保する時間が生まれます。ただし、運営方針や保育方針、業務内容は園ごとに異なるため、自園に合ったICTシステムを活用することが大事です。
まとめ
ノンコンタクトタイムとは、勤務時間内に保育士が子どもたちと離れる時間のことです。ノンコンタクトタイムを設けることで、保育士は事務作業や教材の作成、ミーティングなどに集中して取り組むことができます。また、ノンコンタクトタイムによって残業時間が削減できれば、労働環境の整備・改善にもつながるはずです。
そうしたことから、ノンコンタクトタイムは、保育の質の向上を実現する取り組みだとされています。しかし、現状では保育士の不足や制度に対する理解不足などが原因で、ノンコンタクトタイムの導入が進んでいません。保育施設でノンコンタクトタイムを確保するためには、人員配置の調整や業務内容の見直しを図るとともに、ICTを活用して業務効率化を目指すのが効果的でしょう。