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近年、保育業界では待機児童問題や保育士の人材不足問題といった深刻な課題を抱えています。保育士資格を持っている方の中には、このような問題を見聞きする中で、「潜在保育士」という言葉を聞いたことがある方もいるでしょう。しかし、潜在保育士とは具体的にどのような方のことを指すのか知らないという方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、「潜在保育士とは何か」「保育士が退職する理由や、潜在保育士が保育士として復職しない理由・悩みは何か」といった点について詳しく解説します。潜在保育士の復帰に向けた取り組みについても併せて確認し、自身が持っている保育士資格の活かし方を考えてみましょう。

潜在保育士とは?

潜在保育士とは、保育士資格を取得している方のうち、保育園や認定こども園といった保育に関連する施設に就業していない方を指します。潜在保育士は保育施設での勤務経験の有無に応じて、次のようなタイプに分けられます。

潜在保育士のタイプ
(1)保育士資格取得後、保育施設などに勤務した経験がない方
(2)保育士資格取得後、一度は保育施設に勤務した経験があるが、現在は保育現場から離れている方

厚生労働省のデータによると、2018年度において保育士登録を行っている方は全国で約154万人います。しかし、保育士登録をしている方のうち保育施設などで働いていない潜在保育士は約95万人となっており、保育現場で従事している保育士の約59万人を大きく上回っています。

(出典:厚生労働省「保育士の現状と主な取組」/ https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000672997.pdf

このように、保育士資格を所持していながら保育園などの福祉施設で勤務していない潜在保育士は多数います。せっかく保育士資格を取得したにもかかわらず、保育士として働かない理由には、一体どのようなものが挙げられるのでしょうか。

保育士の主な退職理由

悩む女性

保育士資格を所持しているにもかかわらず保育士として働かない理由を掘り下げるためには、過去に保育施設の職員として勤務していた方の「退職理由」を知ることも重要です。

それでは、現在潜在保育士となっている方のうち保育士として就業していた方は、どのような理由で退職することとなったのでしょうか。

過去に保育士として働いていた方の主な退職理由(上位5つ:東京都の調査)
1位/33.5% 職場での人間関係
2位/29.2% 給料水準が低い
3位/27.7% 仕事の量が多い
4位/24.9% 労働時間が長い
5位/22.3% 妊娠や出産

(出典:厚生労働省「保育士の現状と主な取組」/ https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000672997.pdf

保育士は他の職種と比べても男女比が偏っており、職場での人間関係を良好に保つことが難しいケースも少なからず存在します。残業や行事・イベントの準備といった持ち帰り仕事も多い割に給料が低く、妊娠・出産前と同様の働き方が難しい労働環境であることも大きな理由の1つと言えるでしょう。

潜在保育士が職場復帰をしない3つの理由

保育士として働いていた方が退職・離職する理由には、職場での人間関係や給料水準の低さ、仕事量や労働時間の多さ、妊娠・出産といった生活の変化が挙げられます。それでは、退職後に保育士として再就職せず、潜在保育士となってしまう理由にはどのような事情が挙げられるのでしょうか。

ここでは、潜在保育士が保育現場への職場復帰をしない理由を3つ紹介します。潜在保育士を取り巻く現状を把握し、自身の保育士資格の活かし方を考える際の参考にしてください。

子育てとの両立が難しいため

厚生労働省の資料では、過去に保育士として働いていた方が再就職する際の希望条件の1つとして、「働くことが可能な家庭状況」が挙げられています。

(出典:厚生労働省「保育士の現状と主な取組」/ https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000672997.pdf

保育士の仕事は責任や負担、業務量、労働時間の多い職業です。小さな子どもを育てていたり、医療ケアが必要な家族の看護・介護を担っていたりする場合には、退職前と同様の働き方で保育士として勤務することは困難でしょう。

仕事と家庭との両立が困難であることから、保育士として職場復帰をしないと考えている方も多いと言われています。

給料が安いため

保育士は、未就学児を中心とする保育を担う、保育のエキスパートです。子どもたちの成長の支援というやりがいのある仕事ではありますが、令和元年における保育士の平均賃金は、同年における全職種の平均賃金と比べて、給与額の水準が低い傾向が見られるという実態もあります。

保育士の平均賃金と全職種の平均賃金
男女計 男性 女性
保育士 年収換算 363.5万円 389.2万円 362.1万円
月収換算 30.3万円 32.4万円 30.2万円
全職種 年収換算 500.7万円 561万円 388万円
月収換算 41.7万円 46.8万円 32.3万円

(出典:厚生労働省「保育士の現状と主な取組」/ https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000672997.pdf

仕事のやりがいや楽しさが多くある職業でも、待遇面に納得ができなければ長く続けることは難しいでしょう。業務負担の大きさや業務実態に見合う給与ではない職場が多く、処遇改善・職場環境の改善がなかなか進まない業種であることも、現場復帰しない理由の1つとして挙げられます。

希望条件に合った保育士求人がないため

保育士は慢性的な人材不足・人手不足に陥っている職種の1つであり、全国的に多数の保育士求人が出されています。しかし、保育士の求人数が多いことと、希望する条件に合った保育士求人に巡り合えることはイコールではありません。

保育士として再就職する場合、給与面や家庭の事情などから、通勤時間や勤務する地域、勤務日数、勤務時間、福利厚生など希望する条件も複数出てくるでしょう。しかし、希望条件にすべて合致する求人を見つけられるとは限りません。「希望する労働条件に合う職場がないのであれば再就職を諦めよう」と考える潜在保育士も多いと言われています。

潜在保育士の復帰に向けた取り組み

保育士と子ども

潜在保育士の中には、「育児が一段落したため再就職したいがブランクがある」「保育士としての就労経験がない」など就職活動や勤務への不安要素を抱えている方もいるでしょう。

近年では、待機児童問題や保育士不足の問題への対策として、行政(国や自治体)による潜在保育士の職場復帰を支援する取り組みが行われています。現在整備されている復職支援の制度について確認し、保育士としての再就職を前向きに検討しましょう。

潜在保育士の再就職支援事業

多くの自治体では、潜在保育士の再就職を支援する取り組みとして、就職準備金の貸付制度が整備されています。「貸付金」ではありますが、自治体によっては、◯年間継続して保育士として就業することなどを条件とした、返還免除の規定も珍しくありません。「この先数年は保育士として働く可能性が高い」という方は、ぜひ利用を検討してみましょう。

貸付対象や貸付額、貸与された資金の使い道など、利用条件・基準は自治体によって異なります。制度の利用を検討する場合には、就職希望の地域における支援事業をよく確認しましょう。

その他各自治体が行う支援事業

潜在保育士の再就職支援事業は、国が自治体に配分する支援金・補助金によって運用される取り組みです。この制度に加えて、自治体によっては独自の潜在保育士の再就職サポートが存在する場合もあります。

例えば、東京都が行う「おかえり保育士」という事業は、次のような支援を通して保育士の再就職をサポートする活動です。

東京都「おかえり保育士」の主なサポート内容
・求職者に対する保育園への就職支援(保育園とのマッチング)
・就職支援研修や就職相談会の開催
・保育士への就職希望者のうち、未就学の子どもを育てる方に対する復帰支援資金・預かり支援資金の貸付
・キャリアアップ研修や保育人材育成研修の実施

(出典:東京都「おかえり保育士」/ https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/12/07/documents/04_01.pdf

自治体独自の支援制度は、各自治体によって申請者となれる条件や対応、特色が異なります。再就職を考えている潜在保育士の方は、保育士として働きたい自治体の支援内容や申請の方法などを事前に確認しておきましょう。

まとめ

潜在保育士とは、保育士資格を所持しているものの、現在保育士として就業していない方のことを指します。潜在保育士の状態でいる理由は人によって様々ですが、将来的に保育現場で保育士資格を活かして働きたいと考えている方は、自治体の再就職支援事業などを上手に活用しましょう。

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