年長児を受け持つ保育士にとって最も大きな仕事は、「保育所児童保育要録」の作成と言っても過言ではありません。しかし、初めて年長児を受け持つ保育士の中には、保育所児童保育要録とはどのような書類なのかさえよくわからず、困っている人もいるでしょう。
そこで今回は、保育所児童保育要録とは何かを解説した上で、保育所児童保育要録の記載方法や保育所児童保育要録を書く際のポイントを紹介します。基本的な書き方はもちろん、記入例文も紹介するため、ぜひ参考にしてください。
目次
保育所児童保育要録とは?
保育所児童保育要録(保育要録)とは、小学校へ引き継ぐために年長児の保育所での様子や発達状況、指導方法、留意事項などを記録する書類です。
厚生労働省が2018年2月7日に実施した「保育所児童保育要録の見直し検討会」では、保育所児童保育要録の意義と位置づけについて、下記のような見解を述べています。
・要録は、保育所保育を通じた子どもの育ちの姿を小学校に伝えるためのものであるという目的を明確にすることが重要である。
・要録の記載内容の意図について、読み手である小学校の教員も理解した上で読むことにより、小学校において要録が適切に活用される。 |
(引用:厚生労働省「保育所児童保育要録の見直し等について(検討の整理)」/ https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000202914.pdf )
これらの見解から、保育所児童保育要録は、子どもたちが小学校で適切な教育・指導を受けられるように取り計らうための重要な書類であることが理解できます。
なお、幼稚園では「幼稚園幼児指導要録」、認定こども園では「幼保連携型認定こども園園児指導要録」の作成が義務づけられています。
保育所児童保育要録の内容
保育所児童保育要録は、「入所に関する記録」と「保育に関する記録」で構成されています。
「入所に関する記録」の記載事項は、下記のとおりです。
・児童の氏名・生年月日・性別・現住所
・保護者の氏名・現住所 ・入所年月日 ・卒所年月日 ・就学先 ・保育所名・所在地 ・施設長氏名 ・担当保育士氏名 |
一方、「保育に関する記録」の記載事項は、下記のとおりです。
・児童の氏名・生年月日・性別
・保育の過程と子どもの育ちに関する事項 ・最終年度に至るまでの育ちに関する事項 |
「入所に関する記録」は児童の基本情報を記載する書類、「保育に関する記録」は子どもの育ちを具体的に記載する書類となっています。
幼児期の終わりまでに育ってほしい姿とは?
現行の保育所児童保育要録は、2018年4月1日から施行された「改定保育所保育指針」に合わせて改定されたものです。厚生労働省は、改定前の保育所児童保育要録と大きく異なる点として、下記の事項を挙げています。
・保育所保育における子どもの育ちの姿をより適切に表現する観点から、保育所保育指針に示される保育の目標を具体化した五つの「領域のねらい」に加え、新たに「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(※)」についても様式に明記する。 |
(引用:厚生労働省「保育所児童保育要録の見直し等について(検討の整理)」/ https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000202914.pdf )
新たに加えられた「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」とは、年長児の後半期までに保育所で育みたい資質・能力の指標であり、下記の10項目で構成されています。
・健康な心と体
・自立心 ・協同性 ・道徳性・規範意識の芽生え ・社会生活との関わり ・思考力の芽生え ・自然との関わり・生命尊重 ・数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚 ・言葉による伝え合い ・豊かな感性と表現 |
なお、これらの項目は必ず到達するべき目標ではありません。そのため、保育所児童保育要録を作成する際には、あくまで目安であり、すべての項目について書き記す必要はないことを頭に入れておきましょう。
【例文付き】保育所児童保育要録(保育に関する記録)の記載方法
保育所児童保育要録は、保育所と小学校との間で教育・指導の連続性を保つための書類です。そのため、保育所児童保育要録の「保育に関する記録」を作成する際には、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を強く意識することが求められます。
ここでは、「保育に関する記録」における「保育の過程と子どもの育ちに関する事項」と「最終年度に至るまでの育ちに関する事項」の書き方を記入例文とともに紹介します。
保育の過程と子どもの育ちに関する事項
「保育の過程と子どもの育ちに関する事項」の記載項目は、「最終年度の重点」「個人の重点」「保育の展開と子どもの育ち」「特に配慮すべき事項」の4つです。
ここでは、それぞれの記載方法やコツを記入例文とともに紹介します。
●最終年度の重点
「最終年度の重点」は、年間指導計画における年間目標など、長期的な計画に基づいて年度はじめに設定した年長クラス全体のねらいを記載する欄です。記載する内容は、全員同じものとなります。
〈例文〉
・友だちと協力して遊んだり、課題に取り組んだりすることの楽しさや大切さに気づく。 ・言葉によるコミュニケーションを通し、友だちと喜怒哀楽を共有することの楽しさを味わう。 |
●個人の重点
「個人の重点」には、保育士が対象の年長児を指導するにあたって特に重視してきた点を記入します。
〈例文〉
・自分の考えや思いを自分の言葉で伝えつつ、友だちの言葉に耳を傾けて会話を楽しむ。 ・まだ経験したことのない遊びや課題にチャレンジし、失敗する悔しさや成功する喜びを感じる。 |
●保育の展開と子どもの育ち
「保育の展開と子どもの育ち」は、年長クラスの1年間で特に成長が著しかった点や、小学校での指導に必要と考えられる配慮事項などを記載する欄です。他の子どもと比べることはせず、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を視点として子どもたち一人ひとりの育ちをより具体的に記入してください。
〈例文〉
・年長児の自覚を持ち、おもちゃを譲ったり怪我をさせないように配慮したりするなど、年少の子どもたちに対して思いやりを持って接していた。 ・感情が高ぶると粗暴な言動が目立つこともあるが、自分が粗暴な言動を受けたらどう思うかを考えさせると反省の姿勢を見せる。 |
●特に配慮すべき事項
「特に配慮すべき事項」には、子どもの健康状態や、指導の際に配慮が必要な点を記入します。
〈例文〉
・卵アレルギーがあるため、給食の際には配慮が必要である。 ・生まれつき心機能が弱いため、激しい運動は禁止されている。 |
最終年度に至るまでの育ちに関する事項
「最終年度に至るまでの育ちに関する事項」は、入所当初から最終年度までの育ちを記載する欄です。年長児クラスでの育ちを理解する上で特に重要と考えられることをピックアップして記入しましょう。
〈例文〉
・0歳の入所当時は保護者と離れることを嫌がって泣くことが多かったが、1歳になる頃には保護者と離れて泣く友だちを慰めるようになった。 ・4歳になると恐竜に興味を持ちはじめ、保育者に恐竜に関連する本を読むことをせがむようになった。 |
保育所児童保育要録を書く際のポイント3つ
保育所児童保育要録は、ただ記入欄を埋めれば良いというものではありません。書き終えた保育所児童保育要録は主任や園長などにチェックされ、不備があれば訂正を求められます。
また、保育所児童保育要録は、保育所によって独自の書き方が指定されていることが少なくありません。そのため、保育所児童保育要録を書きはじめる際には、先輩保育士にアドバイスをもらったり、過去の保育所児童保育要録を参考にしたりすると良いでしょう。
ただし、保育所児童保育要録を問題なく仕上げるためには、他にもコツが必要です。ここでは、保育所児童保育要録を書く際に押さえておくべき3つのポイントを紹介します。
小学校の先生がイメージしやすい言葉で書く
保育所児童保育要録を作成する際には、読み手である小学校の先生がイメージしやすい言葉を使って文章を書くことが大切です。
たとえば、子どもの個性を伝えるために「毎日元気に遊んでいた」と記入しても、小学校の先生には子どもの特徴が伝わりません。一方、「トランポリンや鉄棒で毎日元気に遊び、楽しく汗を流していた」と具体的に記入すれば、小学校の先生も体を動かして遊ぶことが好きな子どもだと深く理解できます。
子どもの育ちを記入する際には特に、情景が具体的に思い浮かぶよう、ポジティブな言葉で書くことを意識しましょう。
各子どもで異なる内容を書く
どの子どもについても同じようなことばかり書いていては、保育所児童保育要録の有用性が下がってしまいます。そのため、保育所児童保育要録における子どもの育ちに関する事項には、一人ひとり異なる内容を書くように心がけてください。
各子どもで異なる内容を書くためには、日々子どもを観察し、メモを取っておくことが大切です。保育業務が終わったら毎日子どもたちの様子を振り返り、少しずつ保育所児童保育要録に記入する材料を集めておきましょう。
誤字脱字に注意して書く
保育所児童保育要録は、子どもの小学校での学びをサポートするための大切な書類であるため、誤字脱字は厳禁です。もし、誤字脱字があった場合、子どもの特性を小学校の先生に正しく伝えられなくなってしまう恐れがあります。
なお、保育所児童保育要録は、パソコンで作成することがおすすめです。校正機能や音声読み上げ機能がある文書作成ソフトを使えば、簡単に誤字脱字を見つけ出すことができます。また、訂正の手間も最小限に抑えることが可能です。
まとめ
保育所児童保育要録は、子どもたちが小学校で適切な教育・指導を受けられるよう、保育所での様子や発達の状況などを記録して小学校に提出する大変重要な書類です。そのため、初めて年長児を担当する保育士には、荷が重いと感じる人もいるでしょう。
しかし、今回紹介した記入例文やポイントを参考にすれば、保育所児童保育要録を書いたことがない人でもスムーズに作成できます。
年長児の担任となった保育士は、子どもの育ちを見逃さないよう、毎日を大切に過ごしましょう。そして、子どもたち一人ひとりの育ちをより具体的に伝えることを意識し、正確で充実度の高い保育所児童保育要録を作成してください。