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保育の5領域とは、厚生労働省の「保育所保育指針」で定められた、乳幼児教育の基礎となる指導です。子どもの心身の成長を促し、生きていくうえで欠かせないさまざまな能力を育てます。保育士にとって、5領域の知識は必須です。

そこで当記事では、保育の5領域に関する知識について、詳しく解説します。5領域を現場で実践するための具体例や、5領域を指導するために役立つポイントも紹介するため、保育の5領域について詳しく知りたい人は、ぜひ参考にしてください。

保育の5領域とは

保育の5領域とは、厚生労働省の「保育所保育指針」に基づき、保育のねらいを5つに分類したものです。文部科学省が定める幼稚園教育要領とは異なり、保育に関する具体的な指導案が記されています。

(出典:厚生労働省「保育所保育指針」/https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000160000.pdf

保育所保育指針では、小学校入学までに幼稚園や保育園で「生きる力の基盤」を身につけることが大切とされています。5領域の保育指針は1歳以上3歳未満児の保育と3歳以上児の保育で導入されており、心身の総合的な発達を促すことが目的です。

保育所保育指針に定められた5領域とは、下記の5つです。

(1)健康(2)人間関係(3)環境(4)言葉(5)表現

5領域で学ぶ内容は、どれも幼児の成長に欠かせません。5領域を意識した保育指導を行うことで、健全な心身を持つ子どもの育成につながります。


【健康】心身の健康に関する領域

「健康」は、心身ともに健康で、自ら安全な生活を送る力を持った子どもを育てることが目的です。明るく元気で、自分自身の考えで健全な毎日を過ごすために、基本的な生活習慣や自己肯定感を育みます。

「健康」のねらいと内容
ねらい ① 明るく伸び伸びと生活し、自分から体を動かすことを楽しむ。
② 自分の体を十分に動かし、様々な動きをしようとする。
③ 健康、安全な生活に必要な習慣に気付き、自分でしてみようとする気持ちが育つ。
内容 ① 保育士等の愛情豊かな受容の下で、安定感をもって生活をする。
② 食事や午睡、遊びと休息など、保育所における生活のリズムが形成される。
③ 走る、跳ぶ、登る、押す、引っ張るなど全身を使う遊びを楽しむ。
④ 様々な食品や調理形態に慣れ、ゆったりとした雰囲気の中で食事や間食を楽しむ。
⑤ 身の回りを清潔に保つ心地よさを感じ、その習慣が少しずつ身に付く。
⑥ 保育士等の助けを借りながら、衣類の着脱を自分でしようとする。
⑦ 便器での排泄に慣れ、自分で排泄ができるようになる。

(引用:厚生労働省「保育所保育指針」/https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000160000.pdf

子どもが健康で安全に生活するためには、まず食事やトイレ、着替えなどの基本的な習慣を身につける必要があります。保育の中で具体的な生活トレーニングを行いながら、生活リズムを身につけることが大切です。さらに、園庭での外遊びや運動を通して身体の動かし方を身につけ、生活の中の危険についても伝えていきます。

明るく素直な子どもを育てるためには、自己肯定感を高めることも大切です。保育士と家族が連携し、愛情にあふれた環境で接することを心がけましょう。


【人間関係】人との関わりに関する領域

「人間関係」は、社会生活を送るために欠かせない協調性や自立心を養うことが目的です。保育所では、友達や保育士など家族以外の人とのコミュニケーションが求められます。保育所保育指針に基づき、身近な人と関わる楽しさや、人と関わるうえでのルールを学ぶための指導法を実践しましょう。

「人間関係」のねらいと内容
ねらい ① 保育所での生活を楽しみ、身近な人と関わる心地よさを感じる。
② 周囲の子ども等への興味や関心が高まり、関わりをもとうとする。
③ 保育所の生活の仕方に慣れ、きまりの大切さに気付く。
内容 ① 保育士等や周囲の子ども等との安定した関係の中で、共に過ごす心地よさを感じる。
② 保育士等の受容的・応答的な関わりの中で、欲求を適切に満たし、安定感をもって過ごす。
③ 身の回りに様々な人がいることに気付き、徐々に他の子どもと関わりをもって遊ぶ。
④ 保育士等の仲立ちにより、他の子どもとの関わり方を少しずつ身につける。
⑤ 保育所の生活の仕方に慣れ、きまりがあることや、その大切さに気付く。
⑥ 生活や遊びの中で、年長児や保育士等の真似をしたり、ごっこ遊びを楽しんだりする。

(引用:厚生労働省「保育所保育指針」/https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000160000.pdf

子どもの自立心やコミュニケーション力を育てるためには、保育士と子どもが安定した人間関係を築くことが大切です。保育士が仲介役となって、少しずつ子ども同士の関わりを増やし、人と過ごすことの楽しさを伝えてください。

また、身の周りの人と正しくコミュニケーションをとるためには、さまざまなルールがあることも伝えます。


【環境】身近な環境との関わりに関する領域

「環境」は、身近な環境に親しむことで、探求心や好奇心を育てることが目的です。子どもが成長するうえで、探求心や好奇心は欠かせません。遊び・運動・数字など、さまざまなものに触れることが子どもの感性を育てます。

「環境」のねらいと内容
ねらい ① 身近な環境に親しみ、触れ合う中で、様々なものに興味や関心をもつ。
② 様々なものに関わる中で、発見を楽しんだり、考えたりしようとする。
③ 見る、聞く、触るなどの経験を通して、感覚の働きを豊かにする。
内容 ① 安全で活動しやすい環境での探索活動等を通して、見る、聞く、触れる、嗅ぐ、味わうなどの感覚の働きを豊かにする。
② 玩具、絵本、遊具などに興味をもち、それらを使った遊びを楽しむ。
③ 身の回りの物に触れる中で、形、色、大きさ、量などの物の性質や仕組みに気付く。
④ 自分の物と人の物の区別や、場所的感覚など、環境を捉える感覚が育つ。
⑤ 身近な生き物に気付き、親しみをもつ。
⑥ 近隣の生活や季節の行事などに興味や関心をもつ。

(引用:厚生労働省「保育所保育指針」/https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000160000.pdf

小さな子どもにとっては、目にする物や体験すること全てが新鮮です。保育士による適切な指導で子どもに「気づき」を与えることで、物事への関心を育むことができます。子ども同士でそれぞれの発見や視点を共有すると、よりよい相乗効果が得られるでしょう。タイミングを見計らい、さりげなく働きかけることがポイントです。

数字の概念や場所の感覚など、「環境」で指導できる内容は非常に多くあります。保育士自身も普段から身の回りの現象に探求心を持って接することを心がけてください。


【言葉】言葉の獲得に関する領域

「言葉」は、言語能力を高め、言葉のやり取りを通じたコミュニケーションを行うことが目的です。自分の気持ちを言葉で伝える能力を鍛えるだけではなく、相手の話を聞く能力も伸ばしていきます。

「言葉」のねらいと内容
ねらい ① 言葉遊びや言葉で表現する楽しさを感じる。
② 人の言葉や話などを聞き、自分でも思ったことを伝えようとする。
③ 絵本や物語等に親しむとともに、言葉のやり取りを通じて身近な人と気持ちを通わせる。
内容 ① 保育士等の応答的な関わりや話しかけにより、自ら言葉を使おうとする。
② 生活に必要な簡単な言葉に気付き、聞き分ける。
③ 親しみをもって日常の挨拶に応じる。
④ 絵本や紙芝居を楽しみ、簡単な言葉を繰り返したり、模倣をしたりして遊ぶ。
⑤ 保育士等とごっこ遊びをする中で、言葉のやり取りを楽しむ。
⑥ 保育士等を仲立ちとして、生活や遊びの中で友達との言葉のやり取りを楽しむ。
⑦ 保育士等や友達の言葉や話に興味や関心をもって、聞いたり、話したりする。

(引用:厚生労働省「保育所保育指針」/https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000160000.pdf

言葉を使ったコミュニケーションには、理解力や表現力が大切です。保育士には、日常会話だけではなく、遊びや読書などを通して子どもの言語能力を育てることが求められます。また、言語感覚が未熟な子ども達にとって、言葉によるコミュニケーションは難易度が高いため、保育士による仲介やフォローが必須です。それぞれの子どもの発達状況に合わせて教育方針を決めるようにしてください。

自分の気持ちや感覚を言葉で表現することは大人でも難しいことです。言葉の響きやリズムなど、子どもにもわかりやすい方法で言語化の面白さを伝えましょう。


【表現】感性と表現に関する領域

「表現」は、子どもの感性や表現力を伸ばし、創造性を高めることが目的です。自分の感じたことや思ったことを表現する方法は、言葉だけではありません。絵や音楽なども表現の1つです。

「表現」のねらいと内容
ねらい ① 身体の諸感覚の経験を豊かにし、様々な感覚を味わう。
② 感じたことや考えたことなどを自分なりに表現しようとする。
③ 生活や遊びの様々な体験を通して、イメージや感性が豊かになる。
内容 ① 水、砂、土、紙、粘土など様々な素材に触れて楽しむ。
② 音楽、リズムやそれに合わせた体の動きを楽しむ。
③ 生活の中で様々な音、形、色、手触り、動き、味、香りなどに気付いたり、感じたりして楽しむ。
④ 歌を歌ったり、簡単な手遊びや全身を使う遊びを楽しんだりする。
⑤ 保育士等からの話や、生活や遊びの中での出来事を通して、イメージを豊かにする。
⑥ 生活や遊びの中で、興味のあることや経験したことなどを自分なりに表現する。

(引用:厚生労働省「保育所保育指針」/https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000160000.pdf

表現の楽しさを知っている子どもは、自信を持って自己表現を行えます。保育を通して想像力を養い、積極的に表現できる子どもを育てましょう。表現にはさまざまな種類があるため指導内容も幅広いですが、表現の楽しさを伝えることがもっとも重要なポイントです。

表現力の高さは、創造性の高さにつながります。褒めることや指導することを適切に取り入れて、子どもの感性を伸ばす手助けを行うことが保育士の役割です。造形表現や音楽表現など、自分なりの表現を作りだせる子どもを育てましょう。

5領域を組み合わせた保育の実践例

保育の5領域は、子どもの成長に欠かせない教育目標がバランスよく含まれた指針です。保育士は、常に5領域を意識した指導を行う必要があります。5領域の指導を行う際は、どれか1つの項目に絞らず、5領域をバランスよく組み合わせた指導がおすすめです。

例えば、子どもに人気の「お店屋さんごっこ」では、次のような内容が身につきます。

お店屋さんごっこのねらい
健康 ・商品の工作を通して指先の器用さを養い、怪我しないために道具の使い方を学ぶ
人間関係 ・友達同士で役割分担を相談して、楽しく遊ぶためのルールを守る
環境 ・お店の仕組みを学び、お金の概念や数字に親しむ
言葉 ・挨拶などの基本的なやり取りを学ぶ
表現 ・店員や客を演じることで表現の楽しさを知る

このように、お店屋さんごっこだけでも、5領域全ての要素を含んでいます。保育士は声かけや指導などを行い、子ども達が遊び方を自ら考えて実行できるようにフォローしましょう。

その他にも散歩や外遊びなど、日常生活のさまざまな遊びから5領域を組み合わせた指導が可能です。子どもによって得意不得意や能力差があるため、子ども達の様子をよく観察してバランスのよい指導を心がけてください。声かけを行いすぎても、子どもの意欲を削いでしまうため、時には見守ることも大切です。

指導案・実習日誌で「環境構成」を書く際のポイント・具体例

保育所保育指針には、保育の5領域の他に「3本の柱」と「10の姿」という概念があります。3本の柱とは、生きる力を育てるために欠かせない能力や資質を3つに分けたものです。保育士の指導案作成には欠かせない概念であるため、常に意識してください。

【3本の柱】(1)知識および技能の基礎(2)思考力・判断力・表現力等の基礎(3)学びに向かう人間性

また、10の姿とは「幼児期の終わりまでに育って欲しい姿」を10項目に分けたものです。

【10の姿】(1)健康な心と身体(2)自立心(3)協同性(4)道徳性・規範意識の芽生え(5)社会生活との関わり(6)思考力の芽生え(7)自然との関わり・生命尊重(8)数量・図形、文字等への関心・感覚(9)言葉による伝え合い(10)豊かな感性と表現

5領域の指導は、3本の柱と10の姿に合った子どもを育てるためのものです。5領域の内容を踏まえた保育計画を作成し、小学校入学までに生きるための基礎力を身につけましょう。5領域を基にした指導を行うことで、「3本の柱」と「10の姿」に合わせた成長が期待できます。

3本の柱と10の姿で定められている内容は、小学校に入学してからも継続した指導がある項目です。そのため、保育施設を卒業するまでに全て無理に覚えさせるのではなく、楽しみながら正しい方向性に導くことが保育士の役割となります。子どもひとり一人の成長や理解度に合わせ、よりよい方向に伸ばしていくことを心がけましょう。

保育所保育指針が改訂され、乳児から幼児、そして小学校入学までが1つの流れとして捉えられるようになりました。保育士側は、3本の柱と10の姿をイメージして、上手に5領域を活用することが大切です。

まとめ

保育の5領域は、子どもの健やかな成長を支える大切な指針です。5領域全ての項目をバランスよく伸ばしてあげることで、創造力や言語表現など、これからの人生に欠かせない能力が身につきます。

保育の5領域では、3本の柱と10の姿も意識した指導が重要です。小学校進学も踏まえて、幼児期に必要な能力を育てることが求められます。保育士や幼児教育に携わっている人は、ぜひ保育の5領域を正しく理解して、保育指導に役立てていきましょう。