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保育施設を比較する際、認可と認可外で分けて考えがちですが、公立と私立によっても大きな差が生じます。公立保育園と私立保育園では、保育目標や教育方針といった子どもたちへの影響が大きい問題だけでなく、保育士の働き方も大きく変化するため注意が必要です。

今回は、公立保育園と私立保育園による違いを、働き方と保育内容で比較して解説します。近年進みつつある公立保育園の民営化や、私立保育園の待遇改善についても紹介するため、ぜひ参考にしてください。

公立保育園と私立保育園の違いとは?

公立保育園と私立保育園では、働き方や園の方針などをはじめ、さまざまな面で違いがあります。中でも、根本的な差として、保育園の運営元・職員の身分・保育士の採用方法が挙げられます。

●運営元
公立保育園 地方自治体(市区町村)
私立保育園 社会福祉法人・学校法人・NPO法人・民間企業など
公立保育園は地方自治体が直接運営しており、認可保育園しかありません。対して私立保育園は民間の法人・団体が運営しており、認可保育園・認可外保育園の両方があります。
●職員の身分
公立保育園 地方公務員
私立保育園 社員・パート・アルバイトなど
公立保育園で働く職員の身分は、地方公務員となります。私立保育園で働く職員の身分は、一般企業の従業員と同じ扱いです。
●保育士の採用方法
公立保育園 公務員保育士試験に合格する
私立保育園 各園の方針や規定による
公立保育園は、自治体ごとに設けられた公務員試験に合格した上で、保育園に欠員が出なければ採用されません。私立保育園の採用方法は園によってまちまちですが、一般企業と同じように求人への応募から面接の流れになります。

公務員として身分が保証される公立保育園は保育士からの人気が高く、非常に狭き門と言える状態です。

公立保育園と私立保育園の「働き方」の違い・特徴

公立保育園と私立保育園では、保育士の働き方が大きく異なります。下記は、練馬区および厚生労働省が公表した、保育士の給与事情です。

平均年齢 年収 月給 賞与
公立保育園 47歳 約543万円 約33万円 約147万円
私立保育園 37.6歳 約375万円 約25万円 約75万円

(出典:厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」/ https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2020/index.html
(出典:練馬区「職員数や給与の状況」/ https://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/jinji/shokuin_jinji_kohyo.html

上記のとおり、現時点では給与や賞与に関して公立保育園のほうが充実している傾向にあります。とはいえ、近年では私立保育園でも待遇改善が進んでおり、格差は縮小しつつある状況です。

以下では、公立保育園と私立保育園における働き方の違いと特徴を解説します。

公立保育園の働き方

公立保育園の保育士は、私立保育園と比較して160万円ほど年収の差があります。初任給は約15万~18万円と私立保育園とさほど変わりません。しかし、公務員となる公立保育園の保育士には定期昇給があり、長く勤めるほど給与は高くなります。福利厚生も完備されており、残業も少なめで退職金や年金も安定して受け取れる傾向です。

ただし、公立保育園の保育士は数年単位で配属替えが行われます。基本的な保育方針は各自治体の定めに沿っており、仕事の内容自体は大きく変わらないものの、環境の変化にストレスを感じる人もいるでしょう。また、公立保育園の民営化が進んでおり、将来的には公立保育士が不要になる可能性も否定できません。

私立保育園の働き方

公立保育園と比べて、私立保育園の保育士の年齢は平均10歳ほど若く、年収も低い傾向が見られます。しかし、私立保育園は運営元の運営方針によって給与額や待遇面に大きな差があることが特徴です。年功序列の向きが少ない保育園なら実力次第で出世できるため、同世代の公立保育士より高収入を得られるケースもあります。また、複数の保育園を運営していなければ、異動が発生することはありません。

私立保育園の保育方針は、園によってさまざまです。スポーツやアートなどに力を入れる保育園があれば、英語教育や受験対策などを重視する保育園もあり、保育士に求められる能力は異なります。ただし、人手不足に悩む保育園も多く、残業が発生しやすい傾向です。保育士の負担を減らすために、ICTシステムなどを積極的に取り入れる保育園も増えつつあります。

立保育園と私立保育園の「保育内容」の違い・特徴

基本的に公立保育園と私立保育園で保育内容自体には大きな差なく、どちらかと言えば保育園ごとの特色による差のほうが大きい傾向にあります。私立保育園の中には特色ある保育を実践するところが多いため、子どもの個性や家庭の教育方針に合った保育園を選ぶとよいでしょう。

なお、認可保育園であれば、公立・私立にかかわらず保育料金に差はありません。認可外の場合は保育園ごとに独自の規定を設けています。

以下では、公立・私立保育園による保育内容の違い・特徴を解説します。

公立保育園の保育内容

公立保育園の保育内容は、運営母体である地方自治体の保育方針に沿って決められます。国の定めた指針を基本とするため、保育施設ごとで保育目標や教育内容に大きな差がないことが特徴です。反面、利用定員や預かり時間・入所条件が限定されており、あまり融通は利きません。

公立保育園の保育士は公務員にあたり、勤続年数の長いベテランも多いため、保育士の質といった面でも比較的高水準が保たれる傾向です。ただし、公務員であるがゆえ人事異動も避けられず、子どもの卒園を待たずに担任が交代します。

また、認可保育園となる公立保育園は園舎が大きく、園庭も広めです。おもちゃや遊具も豊富にあり、配置された保育士の人数もゆとりがある傾向にあります。

私立保育園の保育内容

私立保育園の保育内容は、運営母体によって異なります。最低限の基準は国や自治体の指標を下敷きにしているものの、保育園によって独自に保育目標や教育方針を定めていることが特徴です。子どもの個性を伸ばすカリキュラムに積極的な園も多くある一方、宗派的な行事を重視する園もあるため、事前に確認しなければなりません。

私立保育園は公立保育園に比べて融通が利きやすく、急な延長保育や休日保育に対応してくれたり、保育風景を配信してくれたりする園もあります。ただし、独自の方針やサービスを導入している園は、保育料以外の費用も発生するため注意が必要です。

また、私立の場合は施設や設備、遊具が新しく広い保育園がある一方で、ビル・マンション内にあるため狭い・園庭がないといった園もあります。

【近年の動向】公立保育園の民営化と私立保育園の待遇改善

かつては認可保育園の多くが自治体による直営であったものの、近年では保育園の民営化が進み公立保育園の数は減少の一途を辿っている状態です。

民営化される保育園が増えた背景には、多様化する保育ニーズへの対応や自治体のコスト削減対策などが挙げられます。また、保育園の利用可否が行政の判断によって左右され、利用者に選択の余地がないことへの批判が高まったことも理由の1つと言えるでしょう。自治体の中には全保育園の民営化予定を打ち出しているところもありますが、保護者からの反対意見も根強くあり、将来的にどちらに転ぶか現時点では断言できません。

整備の進む私立保育園が抱える大きな課題は、保育士の人員不足です。保育士が定着しにくい・補充が進まない最たる理由に、「責任の重さに対して給与が低い」と感じられることが挙げられます。とはいえ、内閣府が新たに設けた「保育士処遇改善等加算」により、保育園に対して保育士の給与底上げにつながる補助金が支給されるようになりました。

そのため、一定の経験を積み技能を身につければ大幅な給与アップが期待できます。保育園の中には人員不足の解消に向けて、労働環境改善に努める・研修への参加を積極的に後押しするところも珍しくありません。また地域単位で保育士の不足が目立つ自治体では、独自の施策として特別加算を設けたり宿舎借り上げなどの支援をしたりする場合もあります。

現在働いている保育園の待遇に不満を感じている場合は、他の保育園へ移ることで待遇改善につながるケースがあるため、早めの転職活動がおすすめです。

まとめ

公立保育園は公務員としての身分が保証されており、給与や待遇などの面で恵まれている反面、民営化が進んでいることで将来的な不安は残ります。一方、私立保育園も保育士の待遇改善が進んでいる上、実力が反映されやすい・新しい取り組みやシステムが採用されやすいといった利点も多く、どちらがよいとは一概に言えません。

私立保育園の場合は園の運営母体ごとに保育内容やカリキュラムだけでなく、保育士に対する考え方も異なります。今働いている保育園が自分に合わないと思う場合は、転職も視野に入れましょう。