保育士は、子どもに生活習慣(食事や睡眠、着替え、排泄など)を教えたり、遊びを通じて心身の発達をサポートしたりするのが主な役割です。一方の小学校教諭は、子どもに勉学を教えるとともに、子どもたちが健やかに育つよう生活面、道徳面の指導も行います。
保育士と小学校教諭は、ともに子どもの成長や発達を支える大切な存在であり、やりがいのある職業です。そのため、資格取得を目指している方のなかには、「どちらを取得するのがいいのだろう」「同時に取得することはできないのだろうか」と考えている人もいるのではないでしょうか。
そこで当記事では、保育士と小学校教諭の資格について取り上げ、「同時取得は可能か?」や同時取得することのメリット、小学校教諭から保育士になるための方法などを詳しく解説します。資格の同時取得に興味のある方や進路に迷っている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
保育士と小学校教諭の資格は同時取得できる?
保育士と小学校教諭の資格を同時に取得することは可能です。ただし、養成機関としては、保育士と小学校教諭よりも、保育士と幼稚園教諭の資格を同時取得できるところのほうが多く見られます。
保育士資格と小学校教諭免許の同時取得を目指す場合、通う学校には2種類のパターンがあります。
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①保育士資格の取得がメイン。希望者は提携大学の通信教育課程で学び、小学校教諭免許の取得を目指す
②はじめから、保育士と小学校教諭の資格を同時に取得できるよう、カリキュラムが組まれている
保育士資格と小学校教諭免許の同時取得を目指す場合は、保育園と小学校の両方で教育実習を行う必要があるため、学習スケジュールがタイトになるでしょう。
小学校教諭免許には4年制大学卒業で取れる一種免許と、短期大学卒業で取れる二種免許、大学院修了によって取得できる専修免許があり、種類によって待遇やキャリアパスが違ってきます。そのため、同時取得を目指すときは、通う学校がどの免許に対応しているのかを確かめることが大切です。
ちなみに、校長などの管理職を目指す場合は、一種免許か専修免許が必要となります。
保育士と小学校教諭を同時取得するメリット
学生のうちに、保育士資格と小学校教諭免許を同時取得することには多くのメリットがあります。
ここでは、主なメリットを3つ紹介します。
就職先の選択肢が広がる |
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保育士として働くことも、小学校の先生を目指すこともできるため、就職活動における職場の選択肢が増えます。なお、保育士資格と小学校教諭免許はともに更新の必要がないため、どちらかの経験を積んだ後で、もう一方に転職することも可能です。 |
勉強に励む時間が取りやすい |
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学生のうちは勉強する時間が取りやすいため、保育士資格と小学校教諭免許の同時取得に向けて、集中して勉強ができます。しかし、保育士または小学校教諭として働きながら、もう一方の資格取得を目指す場合は、勉強や実習の時間が取りづらく難易度が増すでしょう。 |
子どもに寄り添った保育や教育ができる |
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保育園を卒園して小学校に通いはじめた子どもが、環境にうまく対応できずとまどってしまうケースは珍しくありません。幼児教育・小学校教育に必要な知識と技術を身につけておけば、子どもの気持ちに寄り添った対応が可能になるでしょう。 |
小学校教諭免許があれば、保育園で働ける?
慢性的な保育士不足への対応策として、2016年4月から「保育所における保育士配置の特例」が施行され、幼稚園教諭や小学校教諭、養護教諭を保育士の代わりに配置することが可能になりました。そのため、小学校教諭免許を持っている方は、保育士資格がなくても保育園で働けます。
ただし、代わりの人材は全体の3分の1以下の人数と定められており、3分の2以上は保育士を配置する必要があります。特例措置を実施するかどうかは自治体の判断に委ねられており、なかには保育園側が制度を活用していないケースもあります。
なお、「保育所における保育士配置に係る特例」は緊急的・時限的な対応です。保育園で勤務したい場合は、保育士資格を取得するのがよいでしょう。
(出典:厚生労働省「保育所等における保育士配置に係る特例について(通知)」/ https://www.hoyokyo.or.jp/nursing_hyk/reference/28-1s5.pdf )
保育士資格があれば、小学校で働ける?
保育士は、通常小学校で先生として働くことはできません。ただし、特別免許状を取得すれば、非常勤講師として勤務できます。
特別免許状とは、優れた知識や経験を有する社会人を学校現場に迎え入れるために、都道府県教育委員会が授与する教諭の免許状です。特別免許状は、小学校、中学校、高校のすべての教科と、特別支援学校のすべての自立教科・自立活動について授与することができます。
ただし、特別免許状は専門的な知識や技能、教員としての素質が求められるため、授与されるのは簡単ではありません。また、特別免許状が効力を持つのは、取得した都道府県内のみです。
(出典:文部科学省「特別免許状の授与に係る教育職員検定等に関する指針」/ https://www.mext.go.jp/content/20240529-mxt_kyoikujinzai01-000014888_03.pdf )
保育士と小学校教諭の給与の違いは?
保育士と小学校教諭は、ともに子どもの成長にかかわる重要な仕事です。しかし、両者の待遇には大きな差があります。
下記は、厚生労働省が発表したデータをまとめた表です。保育士と小学校教諭には平均月給で約10万円、年収では約250万円の差があります。
保育士 | 小学校教諭 | |
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平均月給 | 約25.7万円 | 約38.2万円 |
平均年収 | 約382万円 | 約633万円 |
(出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査 結果の概況」/ https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2021/index.html )
(出典:令和3年4月1日地方公務員給与実態調査結果「令和3年 地方公務員給与の実態」/ https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/kyuuyo/pdf/R3_kyuyo_1_03-2.pdf )
なお、小学校教諭の平均年収は、平均基本給与の合計(平均基本給与月額×12か月)+賞与(期末手当+勤勉手当)で算出しています。
働きながら小学校教諭から保育士になるには?
小学校教諭免許を持っている場合、保育園で働ける可能性はありますが、保育士資格なしの求人には限りがあります。
保育士は、働きながらでも取得が目指せる資格であるため、「保育園で働きたい」と考えている小学校教諭の方には、保育士資格の取得をおすすめします。
ここでは、働きながら保育士を目指す方法を紹介しましょう。
指定保育士養成施設を卒業する
働きながら保育士資格を取得する一般的な方法は、都道府県知事が指定する保育士養成施設で学び、卒業することです。指定保育士養成施設では、卒業と同時に保育士資格が取得できます。夜間コースを設置している大学や通信制大学もあるため、働きながら資格取得を目指すことは十分可能でしょう。
夜間コース | |
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特徴 | ・「平日の夜間と土曜日の日中に通うコース」や「平日の夕方から授業があり、土日は休みとなるコース」などがあり、学校によって内容はさまざま |
メリット | ・一緒に保育士資格取得を目指してがんばれる仲間がいる
・保育における遊び方やピアノの弾き方など、実践的な内容が学べる ・提携している保育施設で、アルバイトとして働ける可能性がある |
デメリット | ・仕事の後に学ぶため体力が必要 |
通信制大学 | |
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特徴 | ・通信教育課程で学び、定期的に課題やレポートを提出する
・単位取得には、基本的にスクーリング(面接授業)を履修する必要がある。ただし、オンライン授業を受ければ、スクーリング不要の大学もある |
メリット | ・卒業すると、保育士資格だけでなく大学卒業資格(学士号)が手に入る
・夜間コースに比べて費用が安い傾向にある ・基本的に通学の必要がなく、時間的な負担も少ない |
デメリット | ・大学によっては、保育実習先を自分で探して申し込む必要がある
・卒業まで2~4年かかるため、モチベーションを維持するのが大変 |
保育士試験に合格する
保育士資格の取得方法として、国家試験である保育士試験に合格するルートもあります。
保育士試験の合格に必要な勉強時間の目安は、100〜180時間とされています。保育士試験に挑戦する際は、1か月に確保できる勉強時間数を計算した上で、受験日から逆算して学習スケジュールを組みましょう。
保育士試験(独学) | |
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特徴 | ・年に2回実施
・筆記試験9科目と実技試験2科目がある ・筆記試験は60%得点すれば合格。ただし、「教育原理」と「社会的養護」の2科目については、両方とも60%以上取らないと合格と認められない ・合格した科目は、合格した年を含めて3年間有効 (出典:保育士の登録「令和4年保育士試験 受験申請の手引き」/ https://www.hoyokyo.or.jp/2022_guidance_3.pdf ) |
メリット | ・通学や通信制大学で学ぶより費用が抑えられる
・自分のペースで学習できる |
デメリット | ・勉強を続けるにあたってのモチベーションの維持が大変
・わからないことがあっても質問できない ・実習がなく、保育現場を経験しないまま保育士になる |
保育士試験には、受験資格が設定されています。下記は、主な受験資格の条件です。
大学卒 | ・卒業した者
・大学院在学もしくは修了した者 |
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短大卒 | ・卒業した者 |
専門学校卒 | ・専修学校の専門課程を卒業した者 |
高卒 | ・平成3年3月31日以前に卒業した者
・平成8年3月31日以前に保育科を卒業した者 |
大学、短大、専門学校在学中・中退 | ・大学:在学中・中退ともに、2年以上在籍し、62単位以上を修得済みであること
・短大:在学中かつ年度内に卒業すること ・専門学校:学校教育法にもとづいた専修学校の専門課程(修業年限2年以上のものに限る)に在籍していること |
(出典:保育士の登録「令和4年保育士試験 受験申請の手引き」/ https://www.hoyokyo.or.jp/2022_guidance_3.pdf )
通信制大学の選び方
保育士資格が取得できる通信制大学は数多くあり、特徴・学費などが異なります。通信制大学を選ぶ際に、押さえておくべきポイントは次の通りです。
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・学費:スクーリング代や実習費用などが別途必要なところもある
・サポート体制:学習カウンセリングや就職などのサポート体制が学校によって異なる
・卒業までの期間:学校により2~4年と違いがある(編入学の場合も期間が異なる)
・取得できる資格:保育士資格と幼稚園教諭免許を同時に取得できる学校もある
保育士資格と幼稚園教諭免許を一緒に取得することで、就職先の幅が広がります。幼稚園教諭免許には4年制大学卒業で取得できる一種免許、短期大学や専門学校卒業で取れる二種免許、大学院修了で取得できる専修免許があるため、取得したい免許に合わせて学校を選びましょう。
小学校教諭免許があれば、保育士試験で一部科目免除がある?
保育士試験における筆記試験は9科目で構成されています。該当の資格を所持している場合、一部の科目が免除されることがありますが、小学校教諭免許の所持によって免除される科目はありません。
一方、幼稚園教諭免許を持っている場合は、「保育の心理学」と「教育原理」「実技試験」が免除されます。また、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士の資格を持っている方は、免除申請によって「社会的養護」「子ども家庭福祉」「社会福祉」の科目が免除となります。
(出典:保育士の登録「免除・一部科目合格の有効期間について」/ https://www.hoyokyo.or.jp/exam/qa/05.html )
まとめ
保育士と小学校教諭の免許は同時に取得することが可能です。同時に取得することで、就職先の選択肢が広がるほか、より子どもに寄り添った保育・教育を提供できるでしょう。
「保育所における保育士配置の特例」によって、小学校教諭は保育園で働けますが、求人の数は多くありません。「保育園で働きたい」という小学校教諭の方は、指定保育士養成施設の夜間コースや通信制大学を卒業して、保育士の資格を取得するのがおすすめです。通信制大学で学ぶ際は、学費やサポート体制、卒業までの期間、取得可能な資格などについて調べた上で、自分に合った学校を選びましょう。
※当記事は2022年9月時点の情報をもとに作成しています