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日本全国で、保育人材の不足は深刻な問題となっています。保育士不足の解消・保育士確保に向けた行政による取り組みのなかでも、保育需要の高い一部の自治体で導入された制度が「地域限定保育士制度」です。地域限定保育士は、正式名称である「国家戦略特別区域限定保育士」の略称となっています。

しかし、国家戦略特別区域限定保育士(地域限定保育士)と通常の保育士の違いがよく分からないという方は多いでしょう。

そこで今回は、地域限定保育士制度の概要から、地域限定保育士として働くメリット・デメリット、地域限定保育士試験の詳細、子どもと関われるおすすめの資格までを詳しく解説します。地域限定保育士制度に興味を持っている方や保育業界で活躍したい方は、ぜひ最後まで目を通してくださいね。

国家戦略特別区域限定保育士(地域限定保育士)とは

地域限定保育士とは、一部の自治体で通常の保育士試験とは別に実施される試験に合格すると、対象地域限定で保育士として働ける制度です。

平成27年に成立した「国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律」に基づく比較的新しい制度となります。

■国家戦略特別区域法 第十二条の五 2

    国家戦略特別区域限定保育士は、その資格を得た次項に規定する事業実施区域において、第八項において準用する児童福祉法第十八条の十八第一項の登録を受け、国家戦略特別区域限定保育士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもって、児童の保育及び児童の保護者に対する保育に関する指導を行うことを業とする。

(引用:e-Gov法令検索「国家戦略特別区域法」/ https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=425AC0000000107#Mp-At_12_5/引用日/2022/11/5

保育士不足は待機児童問題の一因となっており、これまで保育士の母数を増やすために処遇改善や保育士試験回数の増加などの試みが行われました。しかし、保育士資格を取得・保有しているだけで、保育士として従事していないという「潜在保育士」も増加します。

保育現場で活躍する保育士をより確保すべく創設された制度が、地域限定保育士です。

「地域限定保育士」と「通常の保育士」の違い

地域限定保育士と通常の保育士の相違点は、下記の通りです。

                             
資格区分地域限定保育士通常の保育士
業務内容 保育士としての業務は同じ
勤務地域 3年間は資格を取得した地域全国どこでも勤務可能

地域限定保育士と通常の保育士の業務内容は同じですが、登録後3年間の勤務可能地域が異なります。

4年目以降は制限が外れるため、地域限定保育士も保育士と同等の扱いとなります。

地域限定保育士として働くメリット・デメリット

地域限定保育士は、通常の保育士とは異なる性質を持つだけでなく、メリット・デメリットも存在します。

             
地域限定保育士として働くメリット
●比較的仕事を見つけやすい
地域限定保育士制度は保育士不足解消を目的に作られた制度であるため、制度を実施している自治体は保育士に対するニーズが高い状態です。地域限定保育士試験に合格した地域で就労を希望する場合は、すぐにでも職場を見つけられるでしょう。

●3年後は一般の保育士と同様に全国で働ける
地域限定保育士は登録後の3年間は対象地域でしか働けませんが、4年目以降は一般の保育士と同様に全国で働けます。登録後の3年間において実際に保育士として働いていない場合でも同様です。将来を見据えたキャリア設計を行っておけば、地域の制限がデメリットになることはありません。
             
地域限定保育士として働くデメリット
●3年間の地域限定がデメリットとなることがある
やむを得ない事情で転居する場合などは、転居先で保育士以外の仕事を見つけるか、3年間経過するまで待たなくてはなりません。そのため、登録から3年後までの将来設計を慎重に考えておく必要があります。

地域限定保育士試験の詳細

地域限定保育士試験には、一般的な保育士試験と似ている部分と異なる部分が存在します。そのため、これから地域限定保育士試験を受ける場合は、通常の保育士試験との違いをあらかじめ把握しておくことが大切です。

ここからは、地域限定保育士試験の受験資格・受験地域・申請方法・試験内容について詳しく紹介します。

受験資格

保育士試験・地域限定保育士試験の実施団体である一般社団法人全国保育士養成協議会では、地域限定保育士試験の受験資格を次の通り定めています。

             
地域限定保育士試験の受験資格
●一般の大学・短期大学・専門学校等を卒業している
●高等学校・中等教育学校等を卒業後、児童福祉施設で2年以上もしくは2,880時間以上勤務している
●義務教育を修了後、児童福祉施設で5年以上もしくは7,200時間以上勤務している

(出典:一般社団法人 全国保育士養成協議会「受験資格」/ https://www.hoyokyo.or.jp/exam/qualify/

地域限定保育士試験の受験資格については、一般的な保育士と大きな違いはありません。

専門卒や大卒の場合は実務経験が不要ですが、それ以外の学歴では実務経験が必要となります。

受験地域

地域限定保育士試験は、どの都道府県に在住していても受験地域を自由に選んで受けられます。しかし、実施実績のある都道府県は限られている点と、試験を実施する都道府県は年度ごとに異なる点に注意が必要です。

(出典:内閣府 国家戦略特区「保育」/ https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/menu/hoiku.html

2022年度においては、神奈川県・大阪府・沖縄県の3府県で実施されました。翌年度(2023年)の実施地域は未定となっています。しかし、神奈川県と大阪府は昨年度(2021年)も実施されていたため、翌年度も同様にこの2府県の実施が見込まれるでしょう。

また、地域限定保育士は試験に合格した地域でしか働けません。例えば、大阪府の地域限定保育士試験を受験し合格した場合、地域限定保育士として働けるのは大阪府のみとなります。

受験の申請期間・手数料

地域限定保育士試験の受験申請期間および手数料は、実施している自治体によって差があります。

地域限定保育士試験を実施する代表的な地域である、神奈川県と大阪府の申請期間・手数料は下記の通りです。

都道府県 神奈川県 大阪府
受験申請の手引き配布期間 4月上旬~中旬 7月上旬~7月下旬
受験申請時期 4月中旬~5月初旬 7月上旬~7月下旬
手数料 12,700円 12,950円

(出典:神奈川県「令和4年神奈川県独自地域限定保育士試験」/ http://www.pref.kanagawa.jp/docs/sy8/hoiku/2022dokuji.html

(出典:大阪府「令和4年後期保育士試験 (通常試験及び国家戦略特別区域限定保育士試験(地域限定保育士試験)」/ https://www.pref.osaka.lg.jp/annai/saiyo/detail.php?recid=25625

受験申請期間は地域差がありますが、約半月~1か月と比較的短いため、地域限定保育士試験の受験を希望する方は早めに手続きを行うとよいでしょう。

試験内容

地域限定保育士試験の内容は、筆記試験と実技試験もしくは保育実技講習会です。筆記試験の全科目に合格した場合、保育実技講習会を受講すれば実技試験は免除されます。

地域限定保育士試験の試験内容は、下記の通りです。

■児童福祉法施行規則 第六条の十

    保育士試験は、筆記試験及び実技試験によつて行い、実技試験は、筆記試験の全てに合格した者について行う。
    ② 筆記試験は、次の科目について行う。
    一 保育原理
    二 教育原理及び社会的養護
    三 子ども家庭福祉
    四 社会福祉
    五 保育の心理学
    六 子どもの保健
    七 子どもの食と栄養
    八 保育実習理論

(引用:e-Gov法令検索「児童福祉法施行規則」/ https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323M40000100011#Mp-At_6_10

筆記試験は通常の保育士試験と同様に、8科目を2日間に分けて受験します。8科目すべてで6割以上の点を取れば、筆記試験に通過できます。

実技試験では、下記3科目のうち2科目を選択します。

    ●音楽表現に関する技術
    ●造形表現に関する技術
    ●言語表現に関する技術

(出典:大阪府「令和4年後期保育士試験 (通常試験及び国家戦略特別区域限定保育士試験(地域限定保育士試験)」/ https://www.pref.osaka.lg.jp/annai/saiyo/detail.php?recid=25625

保育実技講習会では、下記の内容(合計27時間・5日程度)を受講します

    ●音楽表現に関する演習(90分×4コマ)
    ●造形表現に関する演習(90分×4コマ)
    ●言語表現に関する演習(90分×4コマ)
    ●保育実践見学実習の事前指導(60分)
    ●保育実践見学実習(1日:6時間)
    ●保育実践見学実習の事後指導(120分)

(出典:神奈川県「令和4年度保育実技講習会について」/ https://www.pref.kanagawa.jp/docs/sy8/hoiku/2022kousyuukai.html

試験が免除されるケース

地域限定保育士試験は、筆記試験と実技試験が一般的な試験要項となります。しかし、筆記試験の全科目に合格したのち、保育実技講習会を受講することによって実技試験が免除されることも覚えておきましょう。

(出典:神奈川県「令和4年度保育実技講習会について」/ https://www.pref.kanagawa.jp/docs/sy8/hoiku/2022kousyuukai.html

保育実技講習会とは、地域限定保育士試験に合格した保育士としての質を確保しつつ、受験者に多様な選択肢を提供することを目的に実施される講習会です。基本的に、1日6時間程度の講習を5日間にわたって受講します。

また、地域限定保育士資格の筆記試験で合格した科目がある場合、通常の保育士試験での受験において、特定の試験科目が免除となります。免除には3年間の有効期間が定められており、この免除有効期限を過ぎると初受験扱いとなる点に注意が必要です。

さらに、地域限定保育士試験の合格者の場合、翌年に実施される通常の保育士試験では過去に受験した筆記試験の合格科目が免除対象外となり、初受験扱いとなります。

(出典:一般社団法人 全国保育士養成協議会「地域限定保育士試験について」/ http://www.hoyokyo.or.jp/exam/qa/gentei.html

試験の難易度

地域限定保育士試験では、筆記試験・実技試験ともに保育士試験と同じ問題が出題されるため、実質的な難易度は通常の保育士試験と変わりません。

しかし、筆記試験の全科目に合格すれば、実技試験の代わりに保育実技講習会を受講することになります。そのため、楽器の演奏や朗読が苦手な方にとっては、実技免除となる可能性のある地域限定保育士のほうが有利といえるでしょう。

地域限定保育士試験に合格するための勉強法

地域限定保育士の試験内容は、一般的な保育士試験とほぼ共通しています。そのため、通常の保育士試験と変わらない方法で勉強すれば問題ないでしょう。

地域限定保育士試験に向けた勉強法には、下記のような方法があります。

    ●教材
    独学で勉強する方は、教材を活用する方法が最も一般的です。筆記試験の範囲を網羅している教材を利用し、一通りの知識が身に付いたら、過去問題集と予想問題集で試験対策を行いましょう。

    ●通学
    時間と資金に余裕がある方は、地域限定保育士について学べるスクールへの通学がおすすめです。分からない部分はその場で講師に質問できるだけでなく、同じ志を持つ仲間と一緒に学ぶことで、モチベーションを高く保てます。

    ●通信教育
    地域限定保育士試験については、DVDやeラーニングによる通信講座で学ぶこともできます。学習にかかるコストを抑えつつ、添削課題やサポートを利用して確かな実力を身に付けられるでしょう。

地域限定保育士試験の学習法は多くありますが、大切なのは「自分のライフスタイルに合う学習法を選ぶこと」です。自分が使える時間や資金を考慮して、無理なく続けられる学習法を選択しましょう。

地域限定保育士として働くために必要な保育士登録

地域限定保育士として働く場合は、試験に合格した後に登録申し込みを行い、「国家戦略特別区域限定保育士登録証」の交付を受ける必要があります。

(出典:登録事務処理センター「地域限定保育士の制度」/ https://www.nippo.or.jp/hoikushi/limited/limited_institution.html

地域限定保育士として働くために必要な保育士登録の流れは、下記の通りです。

(1) 「地域限定保育士登録の手引き」の取り寄せ
国家戦略特別区域限定保育士登録証の交付申請を受けるにあたって、まずは「地域限定保育士登録の手引き」を登録事務処理センターから取り寄せます。送信用封筒と角型2号の返信用封筒を用意し、宛名を記入したのち返信用封筒を送信用封筒に入れて郵送しましょう。

(2) 手数料の払い込み
登録事務処理センターから地域限定保育士登録の手引きが郵送された後は、資料の案内に従って手数料の払い込みを郵便局窓口にて行います。手数料は4,200円です。

(3) 申請に必要な書類の用意
手数料を支払った後は、登録申請に必要となる書類を用意しましょう。必要書類は、地域限定保育士登録の手引きにも記載されています。戸籍抄本も必要書類に含まれているため、なるべく早めに行動しておくことが大切です。

(4) 申請書類の提出
必要書類がすべて揃ったら、登録事務処理センターに郵送します。郵送の際は、必ず郵便局の窓口で簡易書留郵便を利用する必要があることを覚えておきましょう。書類に不備があった際は、登録事務処理センターから連絡が届きます。

(5) 地域限定保育士証の交付
申請必要書類を提出し正しく受理された後は、申請先の都道府県による審査が行われます。審査・決定を経て、国家戦略特別区域限定保育士登録簿へ登録されたのち、登録事務処理センターから自宅へ地域限定保育士証が簡易書留郵便で届きます。

(出典:登録事務処理センター「国家戦略特別区域限定(地域限定)保育士登録申請」/ https://www.nippo.or.jp/hoikushi/limited/limited-regi/limited_regi.html

なお、地域限定保育士登録申請から保育士証の交付までは、およそ2か月ほどの期間がかかります。必要書類の用意に手間取るとさらに期間がかかるため、ほかのステップと併行しながらできる限りスムーズに進めることがポイントです。

保育士以外にも! 子どもと関わる資格

子どもと関わることのできる資格は、保育士ではありません。保育士資格以外にも子どもと関わる資格は数多くあります。保育に関わる仕事をするためにはもちろん、保育士資格を取得した後のステップアップを目的に取得するのもよいでしょう。

ここからは、保育士資格以外の子どもと関わる資格をいくつか紹介します。

チャイルドマインダー

チャイルドマインダーとは、0歳~12歳の子どもを対象に、保護者の子育て方針に沿って保育を行う家庭的保育のスペシャリストであり、保育士資格を保有していない方でも受けられる民間資格です。少人数制に特化していることも特徴で、一人ひとりの子どもと密に関われます。

チャイルドマインダーになるには、チャイルドマインダー資格の取得が必要です。チャイルドマインダー資格は、通信講座・通学講座を受講し、検定試験に合格することで取得できます。

(出典:NCMA,Japan「チャイルドマインダーとは」/ https://www.hoiku.co.jp/about/

(出典:NCMA,Japan「チャイルドマインダー になるには」/ https://www.hoiku.co.jp/school/

認定ベビーシッター

認定ベビーシッターとは、ベビーシッターとして在宅保育・個別保育を実施すべく、基礎的・専門的な知識や技術を保有していることを証明する民間資格です。認定ベビーシッターの資格を取得することで、指定された場所で1~2人程度といった少人数の子どもへの保育を実施できます。チャイルドマインダーとやや似ていますが、認定ベビーシッターは派遣の依頼があった家庭に訪問し、より少人数の子どもの保育をすることが特徴です。

認定ベビーシッター資格を取得するには、公益社団法人 全国保育サービス協会が主催する研修会に参加したのち、特定の実務を経験する必要があります。その後認定試験で審査が行われ、審査に合格すれば認定ベビーシッターとして認定・登録されます。

(出典:公益社団法人 全国保育サービス協会「資格認定制度のご案内」/ http://acsa.jp/htm/license/

認定病児保育スペシャリスト

認定病児保育スペシャリストとは、病気のある子どもや健康面に何らかの問題がある子どもを対象に、専門性の高い保育を実施できるスペシャリストに与えられる民間資格です。子どもへの保育スキルだけでなく、子どもならではの疾患や感染症に関する知識・正しい看病方法といった技術を活かして、保育施設や病児専門の託児施設で活躍できます。

認定病児保育スペシャリスト資格を取得するには、日本病児保育協会が指定する全13回のWeb講座を受講したうえで1次試験・認定試験を受験・合格したのち、病児保育施設における24時間以上の実習または実習代替オンライン面接&実技を修了する必要があります。通学で講座を受ける必要がないため、働きながらでも約1か月~2か月といったスピードで受講を修了できます。

(出典:日本病児保育協会 認定病児保育スペシャリスト「認定病児保育スペシャリストとは」/ https://sickchild-care.jp/specialist

(出典:日本病児保育協会 認定病児保育スペシャリスト「資格取得までのながれ」/ https://sickchild-care.jp/license/

まとめ

地域限定保育士は、登録後3年間において勤務地域が限定されますが、基本的には一般の保育士と同じように働ける資格です。住みたいエリアや働きたいエリアが決まっている方にとっては、保育士として活躍するチャンスを増やせます。

地域限定保育士試験の内容は、筆記試験と実技試験もしくは保育実習講習会です。筆記試験の内容は通常の保育士試験と変わらないため、独学や通信教育などで勉強しておきましょう。

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※当記事は2022年11月時点の情報をもとに作成しています