保育士と児童指導員の仕事には共通する部分もありますが、保育士は児童指導員としては働けません。児童指導員になるには、保育士資格とは異なる資格を要するためです。また保育士と児童指導員は、対応する子どもの年齢や仕事内容、勤務場所も異なります。
当記事では、保育士と児童指導員の違いや児童指導員として働くメリット・デメリット、また保育士から児童指導員になる方法について解説します。児童福祉員に興味のある方は、ぜひ参考にしてください。
目次
保育士と児童指導員の違いは?
児童指導員とは、児童福祉施設で日常生活を送る0~18歳の子どもたちに対して、保護者の代わりに育成や生活指導を行う仕事です。
(出典:厚生労働省 職業情報提供サイト jobtag「児童指導員」/ https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/243 )
保育士と児童指導員は、どちらも子どもと密接にかかわる仕事という点でよく似ています。しかし、保育士と児童指導員には資格や仕事内容などに明確な違いがあり、細かな点では全く違う仕事です。
以下では、保育士と児童指導員の違いを4つ挙げて、具体的にどのような違いがあるかを解説します。
保育士と児童指導員の資格の違い
保育士として働く際は、国家資格である「保育士資格」が必要です。下記に示すどちらかの条件を満たした上で保育士登録を行い、保育士証が交付されると、保育士資格を取得できます。
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(1)都道府県知事の指定する保育士を養成する学校その他の施設で所定の課程・科目を履修し卒業する。
(2)保育士試験に合格する。
(引用:一般社団法人 全国保育士養成協議会「保育士資格を得るには」/ https://www.hoyokyo.or.jp/exam/qa/01.html/2022/11/09 )
一方で、児童指導員として働くためには「児童指導員任用資格」が必要です。児童指導員任用資格は、下記に示すいずれかの項目に該当する方が取得できます。
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第四十三条 児童指導員は、次の各号のいずれかに該当する者でなければならない。
一 都道府県知事の指定する児童福祉施設の職員を養成する学校その他の養成施設を卒業した者
二 社会福祉士の資格を有する者
三 精神保健福祉士の資格を有する者
四 学校教育法の規定による大学(短期大学を除く。次号において同じ。)において、社会福祉学、心理学、教育学若しくは社会学を専修する学科又はこれらに相当する課程を修めて卒業した者
五 学校教育法の規定による大学において、社会福祉学、心理学、教育学又は社会学に関する科目の単位を優秀な成績で修得したことにより、同法第百二条第二項の規定により大学院への入学を認められた者
六 学校教育法の規定による大学院において、社会福祉学、心理学、教育学若しくは社会学を専攻する研究科又はこれらに相当する課程を修めて卒業した者
七 外国の大学において、社会福祉学、心理学、教育学若しくは社会学を専修する学科又はこれらに相当する課程を修めて卒業した者
八 学校教育法の規定による高等学校若しくは中等教育学校を卒業した者、同法第九十条第二項の規定により大学への入学を認められた者若しくは通常の課程による十二年の学校教育を修了した者(通常の課程以外の課程によりこれに相当する学校教育を修了した者を含む。)又は文部科学大臣がこれと同等以上の資格を有すると認定した者であつて、二年以上児童福祉事業に従事したもの
九 教育職員免許法に規定する幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校又は中等教育学校の教諭の免許状を有する者であつて、都道府県知事が適当と認めたもの
十 三年以上児童福祉事業に従事した者であつて、都道府県知事が適当と認めたもの
(引用:e-GOV法令検索「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」/ https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323M40000100063/2022/09/09 )
保育士と児童指導員の仕事内容の違い
保育士の仕事は、0~6歳の子どもたちを預かって保育を行うことです。保育士の主な仕事内容としては、下記の項目が挙げられます。
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●子どもの身の回りの世話
●健康状態のチェック
●集団生活のルールや友だちとの接し方の指導
●保護者への連絡や相談対応
対して児童指導員の仕事は、家庭環境上で養護を必要とする0~18歳の子どもたちに対して、育成・生活指導などを行うことです。
児童指導員の主な仕事内容としては、下記の項目が挙げられます。
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●個別支援計画を作成し、計画にもとづく療育活動の実施
●挨拶や食事作法の指導など、子どもたちの生活全般に対する訓練と指導
●子どもたちの進学・就職に向けた活動支援や学習指導
●児童の引き取りに向けた保護者との面談
保育士と児童指導員の働く場所の違い
保育士の働く場所としては、主に下記の勤務先が挙げられます。
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●保育所
●認定こども園
●企業内保育所
保育士はあくまでも日中に子どもを預かって保育する仕事であり、勤務時間も日中が多い点が特徴です。対して児童指導員は、主に下記の勤務先で働きます。
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●児童養護施設
●乳児院
●児童発達支援センター
●障がい児入所施設
●放課後等デイサービス
児童指導員が育成する子どもたちは勤務先の施設で生活を送るため、勤務先の施設によっては夜間シフトがあります。
保育士と児童指導員の給料の違い
保育士と児童指導員の給料の違いを、表形式で紹介します。
保育士と児童指導員の平均給料 | ||
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保育士 | 児童指導員 | |
年収 | 約382万円 | 約404万円 |
月給 | 約25.7万円 | 約22万円 |
(出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査 結果の概況」/ https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2021/index.html )
(出典:厚生労働省 職業情報提供サイト jobtag「児童指導員」/ https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/243 )
月給では保育士のほうが高いものの、年収では児童指導員のほうが高い結果となっていました。児童指導員は正職員として働くケースが多く、賞与や手当を期待しやすいと考えられます。
ただし、受け取る給料額は勤務する地域や職場、本人の学歴・経験によって変動する場合がある点に注意してください。
児童指導員として働くメリット・デメリット
幅広い年齢層を対象として成長をサポートする児童指導員には、保育士とは異なる児童指導員ならではのやりがいがあります。一方で、児童指導員は保育士ほど知名度が高くないことにより、働くにあたっての困難さを感じるデメリットもあります。
児童指導員として働く場合は、以下で紹介するメリット・デメリットを把握した上で、デメリットをカバーできるように将来性も考えて職場選びをしましょう。
児童指導員として働くメリット
児童指導員として働くメリットは、主に以下の3つです。
子どもたちの成長が間近で見れる |
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児童指導員は保護者の代わりに子どもを育成する役割を担うため、子どもたちの成長が間近で見れます。個別支援計画にもとづく支援により子どもたちが成長する様子に、大きなやりがいを感じられるでしょう。 |
障がいや療育の知識が身につく |
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児童指導員は障がいのある子どもに対する支援業務を行うことが多く、障がいや療育の知識が身につく点がメリットです。身につけた知識・スキルを生かして、児童発達支援管理責任者へのステップアップの道も開けます。 |
保護者の支援にも携われる |
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児童指導員は子どもの育て方・接し方について、保護者への相談支援を行います。保護者が子どもとの良好な関係を築けるようになったときに、保護者の力にもなれたとやりがいを感じられるでしょう。 |
児童指導員として働くデメリット
児童指導員は勤務先の子どもと長くかかわる仕事です。児童指導員として働く前にデメリットを把握しましょう。
給与が低い傾向にある |
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児童指導員は給与が低い傾向にあります。給与条件は地域性や施設の体制・規模によっても変わるため、なるべく給与条件がよい勤務先を探すことがおすすめです。 |
キャリアアップが難しい |
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保育士のキャリアアップ研修のような制度は、児童指導員にはありません。児童指導員はキャリアアップが難しく、本人の努力による給与アップや待遇改善は見込みにくいデメリットがあります。 |
体力が必要 |
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児童指導員は子どもたちのお世話や指導を行う仕事であり、子どもたちの元気さに対応できるだけの体力が必要となります。早朝や夜間のシフト勤務を行うケースがある点も、体力が必要となる理由です。 |
保育士から児童指導員になる方法
児童指導員になるには、児童指導員任用資格が必要です。任用資格とは、特定の職業・職位に任用されるための資格を指します。
児童指導員任用資格は何らかの試験に合格して取得できるわけではありません。任用されるための要件を満たした上で、厚生労働大臣もしくは都道府県知事へと申請を行い、受理されることで取得できる資格です。
保育士資格は児童指導員任用資格の資格要件ではないため、保育士から児童指導員になるには対象の資格を取得するか、要件を満たす必要があります。
以下では、保育士から児童指導員になる方法を3つ紹介します。
実務経験を満たす
高等学校卒業もしくは同等の学歴を持つ方は、児童福祉事業に2年以上携わることで、児童指導員任用資格の取得条件を満たせます。
学歴が満たされていない方は、児童福祉事業に3年以上携わり、都道府県知事が適当と認定した場合に、取得条件を満たすことが可能です。
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第四十三条
八 学校教育法の規定による高等学校若しくは中等教育学校を卒業した者、同法第九十条第二項の規定により大学への入学を認められた者若しくは通常の課程による十二年の学校教育を修了した者(通常の課程以外の課程によりこれに相当する学校教育を修了した者を含む。)又は文部科学大臣がこれと同等以上の資格を有すると認定した者であつて、二年以上児童福祉事業に従事したもの
十 三年以上児童福祉事業に従事した者であつて、都道府県知事が適当と認めたもの
(引用:e-GOV法令検索「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」/ https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323M40000100063/2022/09/09 )
実務経験を満たす方法は、収入と経験を得ながら児童指導員を目指せる点が特徴です。
なお、厚生労働省では児童福祉事業について明確な範囲が示されていません。児童福祉法では、児童福祉施設として下記の施設が記載されています。
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第七条 この法律で、児童福祉施設とは、助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童厚生施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援センター、児童心理治療施設、児童自立支援施設及び児童家庭支援センターとする。
(引用:e-GOV法令検索「児童福祉法」/ https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000164_20220820_504AC0000000044/2022/09/09 )
資格を取得する
特定の資格保有者になることで、児童指導員任用資格の取得条件を満たせます。特定の資格とは、「社会福祉士資格」「精神保健福祉士資格」「指定の教諭の免許状」のいずれかです。
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第四十三条
二 社会福祉士の資格を有する者
三 精神保健福祉士の資格を有する者
九 教育職員免許法に規定する幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校又は中等教育学校の教諭の免許状を有する者であつて、都道府県知事が適当と認めたもの
(引用:e-GOV法令検索「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」/ https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323M40000100063/2022/09/09 )
保育士の資格取得と一緒に幼稚園教諭免許や小学校教諭免許を取得した方は、すでに取得条件を満たしているため、改めて資格を取得する必要はありません。
資格を取得する際は時間とお金がかかるため、すでに社会人として働いている方には難しい方法と言えます。
指定の学部や養成施設を卒業する
指定の学部や養成施設を卒業することで、児童指導員任用資格の取得条件を満たせます。
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第四十三条
一 都道府県知事の指定する児童福祉施設の職員を養成する学校その他の養成施設を卒業した者
四 学校教育法の規定による大学(短期大学を除く。次号において同じ。)において、社会福祉学、心理学、教育学若しくは社会学を専修する学科又はこれらに相当する課程を修めて卒業した者
五 学校教育法の規定による大学において、社会福祉学、心理学、教育学又は社会学に関する科目の単位を優秀な成績で修得したことにより、同法第百二条第二項の規定により大学院への入学を認められた者
六 学校教育法の規定による大学院において、社会福祉学、心理学、教育学若しくは社会学を専攻する研究科又はこれらに相当する課程を修めて卒業した者
七 外国の大学において、社会福祉学、心理学、教育学若しくは社会学を専修する学科又はこれらに相当する課程を修めて卒業した者
(引用:e-GOV法令検索「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」/ https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323M40000100063/2022/09/09 )
大学で上記に該当する学部や指定の養成施設・学校を卒業した方は、卒業証書と成績証明書の確認が行われることで、児童指導員任用資格を取得可能です。
大学や指定の養成施設・学校を新たに卒業することは、すでに社会人として勤務している方には簡単ではありません。現在学生であり、該当の学部での修学や研究を行える方に向いている方法です。
まとめ
児童指導員とは、児童福祉施設で0〜18歳の子どもに対して育成や生活指導を行う仕事です。児童指導員と保育士はどちらも子どもと密接にかかわる仕事であるものの、資格や仕事内容、勤務場所などが異なります。
児童指導員として働くには、児童指導員任用資格が必要です。児童指導員任用資格を取得するには、任用の要件を満たさなければなりません。任用の要件を満たした上で厚生労働大臣もしくは都道府県知事に申請し、受理されることで資格が取得できます。児童指導員を目指す場合は、まず資格の要件を満たしているか確認しましょう。
※当記事は2022年11月時点の情報をもとに作成しています