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幼稚園教諭とは、満3歳から小学校に入学するまでの未就学児を対象とした幼稚園で「教育」を行う業種です。一般的な保育所で活躍する保育士とは違って、独自のカリキュラムに沿った教育を担うことから、仕事量も比較的多くなります。そのため、残業や持ち帰りの仕事が発生することも珍しくありません。

そこで今回は、幼稚園教諭における残業事情について詳しく解説します。残業代が支払われないことの違法性や残業代請求の可否、さらに残業を減らすための対策についても説明しているため、幼稚園教諭として働こうと考えている方はぜひ参考にしてください。

幼稚園教諭に残業はある?残業の実態とは

幼稚園はサービス残業が常態化している職場が多く、「残業や持ち帰りの仕事が多い」「残業代が出ない」といった悩みを抱えている幼稚園教諭も少なくありません。

2018年に文部科学省の委託事業として、公益財団法人 広島県私立幼稚園連盟が実施した研究結果によると、幼稚園教諭や保育士などの職員から見た「職場を決める際に重要視していること」「就職前後におけるイメージの差」は、下記の通りとなっていました。

就職先を決める際の判断要素 「重要である」と回答した割合
職場の人間関係が良いこと 96.9%
勤務時間が規則的であること 84.5%
残業が少ないこと 78.6%

(出典:公益財団法人広島県私立幼稚園連盟「働き方改革に向けた調査研究 報告書 」/ https://www.mext.go.jp/content/20200227-mxt_youji-139677_4.pdf
※上記表の数値は「とても重要である」「まあまあ重要である」の割合を足して計算しています。

勤務時間が長い(残業が多い) 「そう思う」と回答した割合
就職前のイメージ 49.5%
就職後のイメージ 68.9%

(出典:公益財団法人広島県私立幼稚園連盟「働き方改革に向けた調査研究 報告書 」/ https://www.mext.go.jp/content/20200227-mxt_youji-139677_4.pdf
※上記表の数値は「とてもそう思う」「まあそう思う」の割合を足して計算しています。

このように、残業の多さや勤務時間の長さは、多くの幼稚園教諭が気にするポイントでもあります。

幼稚園教諭の残業が多い原因

幼稚園教諭の残業が多いことには、「園児の帰園後にすべき業務が膨大である」点が最大の理由として挙げられます。

園児たちがいる時間帯において、下記のような業務を行うことはほとんど不可能です。

  • 翌日の保育・カリキュラム準備
  • 遠足や運動会の行事・イベント準備
  • 職員会議・ミーティング
  • 保育日誌の記入
  • 教室・園庭の掃除
  • その他事務作業

上記に示したような「保育業務や教育に関する業務」以外の仕事は、園児が帰園後に行うこととなります。これにより、幼稚園教諭は残業や持ち帰りの仕事が多くなってしまいます。

また、残業や持ち帰りの仕事による勤務時間の長さが原因で離職を決意する幼稚園教諭も少なくありません。実際に、厚生労働省が公表した保育従事者に関するデータによると、「仕事量の多さ」が原因で退職した職員は27.7%、「労働時間の長さ」が原因で退職した職員は24.9%という結果となっていました。

(出典:厚生労働省「保育士の現状と主な取組」/ https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000661531.pdf

幼稚園教諭に残業代が支払われないのは違法?

幼稚園教諭の時間外労働は、多くが「サービス残業」として扱われることも実態です。残業代・残業手当がしっかり支給される職場が少ないことには、幼稚園教諭の労働時間制度が大きく関係します。

労働時間制度には、「通常の労働時間制」と「変形労働時間制」の2種類があります。

【通常の労働時間制】
対象 労働時間
通常の労働時間制 1日8時間、週40時間(法定労働時間)

(引用:厚生労働省「現行の労働時間制度の概要」/
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000361724.pdf 引用日2023/08/20 )

【変形労働時間制(1年単位)】
対象 労働時間
1年単位変形労働時間制〔法32条の4〕 1か月を超え、1年以内の期間を平均して、法定労働時間を超えない範囲で、特定の日・週で法定労働時間を超えて労働させることができる制度。対象業務や対象労働者に関する制限はない。 1か月を超え、1年以内の期間・期間内の総労働時間を定め、その枠内で働く。(いずれも期間終了時に週当たり40hを超える分は法定時間外労働となる。)
※適用労働者の割合 ⇒ 20.9%※導入企業の割合 ⇒ 33.8%

(引用:厚生労働省「現行の労働時間制度の概要」/
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000361724.pdf 引用日2023/08/20 )

幼稚園教諭の場合、変形労働時間制を採用しているケースが多くなっています。ここからは、変形労働時間制の概要や、残業代が支払われないことによる違法性の有無を判断する基準について説明します。

変形労働時間制とは

変形労働時間制とは、労働時間を年単位・月単位・週単位で調整できる制度のことです。より分かりやすく説明すると、1か月あたりの週平均労働時間が週法定労働時間(40時間)の枠内に収まっていれば、特定の週・日における法定労働時間の規制を解除できるという制度となります。

(出典:厚生労働省「現行の労働時間制度の概要」/ https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000361724.pdf

前提として、労働基準法では1日8時間・1週間40時間を超えての労働が禁止されています。

(出典:e-Gov法令検索「労働基準法」/ https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049

しかし、変形労働時間制を採用している職場の場合、「閑散期における所定労働時間を短縮させる代わりに、繁忙期における所定労働時間を長く設定する」という働き方をしても労働基準法には違反しません。

この変形労働時間制の仕組みによって、残業代が加算されるべきと思っていた労働時間は、「実際のところ時間外労働・残業ではなく所定労働時間だった」というケースも多々あるでしょう。

違法性の有無を判断する基準

変形労働時間制のもと雇用契約を締結した上で、「年間を通して1日の労働時間が8時間以下」など、一定期間における労働時間が法定労働時間を超えない働き方をする限りは、違法とはみなされません。

(出典:厚生労働省「労働時間・休日」/ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/index.html

しかし、変形労働時間制を採用されているからといって一定の範囲までは際限なく働けるわけではなく、「1年単位の変形労働時間制」においては決まりがあることにも注意が必要です。

  • 連続労働日数:6日
  • 1日あたりの労働時間:10時間
  • 1週間あたりの労働時間:52時間

(出典:厚生労働省「1年単位の変形労働時間制度」/ https://www.mhlw.go.jp/content/001021908.pdf

上記の基準を超えた場合は、たとえ変形労働時間制を採用しているとしても、雇用主は対象の従業員に対して残業代を支払う必要があります。

幼稚園教諭の残業代は請求できる?

変形労働時間制を採用している職場であっても、基準を超えた労働時間分の残業代が支払われない場合は違法となるため、堂々と残業代を請求しても問題ありません。

残業代の支払いを請求する方法としては、「直接職場に交渉・相談する」と「労働基準局や教育委員会に相談し、指導してもらう」の2つがあります。

さらに、幼稚園教諭は法律による定めを超えた労働時間分の残業代の支払いだけでなく、休憩時間も要求することが可能です。休憩時間を要求したい場合は、まず職場に直接相談するとよいでしょう。

しかし、残業代の支払いや休憩時間の請求は、少なからず職場の人間関係に影響するため、人間関係を悪化させたくない場合はおすすめしません。第三者機関への通報によって労働環境が大きく改善するケースも少ないため、転職を検討することも一案です。

幼稚園教諭の残業を減らすための対策

残業時間の長さに悩んでいる幼稚園教諭の方は、なるべく早く仕事を終わらせて退勤・帰宅できるよう、下記のような対策を講じてみてはいかがでしょうか。

  • 経験・スキルを積む
  • 保育経験を積み重ねてスキルアップを図ることができれば、自ずと業務効率も向上します。日々「この作業はどのようにすれば効率化できるか」といった点も考えながら、徐々にスキルアップすることで、結果として業務時間の短縮につながっていくでしょう。

  • 上司に相談する
  • どうしても残業時間を短縮できない場合は、上司に直接相談することも1つの手段です。より効率よく作業を完了させるコツを教えてくれるだけでなく、より上の立場の方に掛け合えば労働環境の改善に取り組んでくれる可能性もあるでしょう。

幼稚園教諭の残業が多い場合は転職も考えよう

スキルを積んで業務効率化を図ったり、上司に相談したりしても残業時間の短縮・労働環境の改善を叶えられない場合は、思い切って転職することも一案です。

残業に悩む幼稚園教諭が転職する場合は、ホワイトな労働環境かどうかを重視して転職先を選ぶとよいでしょう。職員全体の平均労働時間に加え、離職率といった情報も要チェックです。中には、「残業少なめ」と記載されている求人もあるため、このような条件を絞り込んで求人検索をするとよいでしょう。

また、保育士資格を有しているのであれば、保育園への転職もおすすめです。保育園で働く保育士は、幼稚園教諭と違って教育を担うことがないため、その分仕事量もやや少なくなります。

とはいえ、転職先の規模や職員の人数によっても仕事内容や量は大きく異なるため、いずれにしても求人情報をきちんとチェックした上で、理想に適した転職先選びをすることが大切です。

まとめ

幼稚園教諭は、サービス残業が常態化していると言われています。実際に、幼稚園では子どもたちの帰園後にすべき業務が多く、残業や自宅への持ち帰り仕事に追われる方もいるでしょう。しかし、幼稚園では基本的に変形労働時間制が採用されており、この変形労働時間制によって実は所定労働時間内である可能性もゼロではありません。

幼稚園教諭が残業を減らすためには、実務経験の積み重ねやスキルアップによる業務効率の向上を目指す・上司に相談するの2点がまず有効です。それでも労働環境が改善されない場合は、思い切って転職を検討するとよいでしょう。

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※当記事は2023年8月時点の情報をもとに作成しています