話が面白い人になれば、生きやすくなる!?ネタ作家が教える人間関係を円滑にする会話術とは

話が面白い人になれば、生きやすくなる!?ネタ作家が教える人間関係を円滑にする会話術とは

保育士の仕事には、職員や保護者、子どもたちとの連携が欠かせません。だからこそ、保育士にコミュニケーション能力は必須! とは言え、保育士の中には、園内の人間関係や保護者対応に悩んでいる方も多いと聞きます。

そこで今回は、芸人さんにネタを提供する「ネタ作家」として活躍する芝山大補さんにインタビュー。人間関係に悩む方のために、コミュニケーション能力をアップさせる方法や気持ちの整え方、具体的なやりとり例などをおうかがいしました。

実を言うと芝山さんは、お笑いの技術を言語化し、一般の人に向けて「みんなを笑顔にするコミュニケーション術」を伝えている人物でもあります。中でも、処女作の『おもろい話し方 芸人だけが知っているウケる会話の法則』(ダイヤモンド社刊)は7万部を突破。近著『お笑い脳 イヤなことをおもろいに変える芸人の思考法』(KADOKAWA刊)も、さまざまな状況での対処法がわかりやすく説明されていると評判で、ビジネスパーソンからの注目を集めています。

記事の最後には、芝山さん流のコミュニケーション実例集もまとめましたので、ぜひお役立てください。

\お話をうかがった方/
芝山大補さん
ネタ作家。2007年、吉本興業が運営するお笑い養成所NSC大阪校に入学。2009年、2011年には「キングオブコント」で準決勝に進出。2019年からは「笑いの力で人間関係に悩む人を救いたい」という思いから、お笑いの技術を言語化した「笑わせ学」に取り組み、YouTubeやTikTok、講演会などを通じて多くの人にその技術を届けている。『お笑い脳』(KADOKAWA刊)、『実は、関西弁が最強の話し方である』(主婦と生活社)など著書も多数。

芝山大補さん

芸人のお笑いの技術をSNSで発信したら、予想以上の大バズり

――芝山さんは現在、芸人さんにネタを提供したり、一般の人にコミュニケーションのノウハウを伝授したりされていますが、もともとは芸人さんだったと聞いています。

芝山:何組かコンビを組んでは、解散していました。最後に組んだのが、フワちゃんです。彼女とのコンビを解散したのは2017年のことですが、当時はこのまま芸人の道を突き進むべきかがわからなくなっていました。それで、真剣に「次に何をしようか」と考えてみたところ、自分はネタ作りが好きなんだという気持ちに気づいたんです。

芸人の頃は、人のネタや笑いの取り方を分析しては、自分の舞台でどんどん実践していて、スベることも全然怖くありませんでした。面白いネタを開拓するためには、いろんな手法を試すことが必要だと思っていたんです。先輩からは「1度ウケたパターンを使い回したらいいのに」とアドバイスを受けることもありましたが、僕にとっては「これはウケるんやな」「これはあかんな」と笑いを分析していくことのほうが面白かった。だから、芸人を辞めると決めたとき、ネタ作りに専念したいと思ったんです。

――現在は、一般の方に向けた情報発信や講演会なども行っていますが、一般の方にお笑いの技術を広めようと思ったのはなぜですか?

芝山:ネタ作家としての活動を始めてからは、ネタを書くだけでなく、若手の芸人にネタ作りの技術をマンツーマンで教えるサービスも提供していました。そして、いろいろなお笑いの技術を分析する中で、芸人が普段頭の中でどういうことを考え、どう実践しているかが、あまり言語化されていないことに気づいたんです。

以来、技術をできるだけ言語化するようにつとめていたんですが、そのうち「これを一般の人に教えたら、その人は面白くなるのかな?」と思うようになり、どうしても実験してみたくなった。それが、一般の人に技術を広めようと思ったきっかけです。

――多くの人がお笑いの技術を身につけたら、社会が明るくなりそうです。その技術をどういった形で発信していったのですか?

芝山:当時はやり始めていたTikTokで、芸人の技術を教える動画をアップしたら、あれよあれよという間にバズりました。コメント欄には、「勉強になります」「芝山さんの方法を試してみたら笑いが取れました!」といった声がたくさん届いて、一般の方もお笑いの技術を使ったら面白くなるんだな、と実感できましたね。

それからは、一般の人でも扱えそうな技術を見つくろって、動画としてあげるようになりました。

――ちなみに、当時人気のあった動画はどんな内容ですか?

芝山:『人と会話するときはキーワードからつなげて話す』という動画が人気でしたね。具体的には、その場が犬の話で盛り上がっているときは、それに関連させた話でつなげていかないといけない、という内容です。

みんなが犬の話を楽しんでいるのに、いきなり話題を変えてしまうと、一から笑いを構築することになる。それって、せっかく笑いのハードルが下がっているのに、自分から高くするようなものです。だから次の話し手は、同じように犬の話をするか、もしくは「僕は犬じゃないけど、うさぎを飼っていて」という風に関連したキーワードで話をつなげて、ハードルを上げないことが大事なんです。このときも、一般の方から「タメになった」というような反応が届きました。

――芝山さん自身は、一般の方が芸人さんの技術を身につけることでどのようなメリットが得られるとお考えですか?

芝山:例えば、嫌なことを言われたときに、いくつか切り返すパターンを知っていれば、対処法として役立ちます。一方で、嫌なことを言う側も悪気があるわけではなく、コミュニケーションのパターンが少ないがゆえに、間違った言葉を使っているケースが少なくありません。

そうした場合は、それぞれがお笑いのパターンを知っておくことで、コミュニケーションが円滑になると思います。実際にあった事例として、生配信をしていたときに印象的だったやりとりを紹介しますね。「学校でゴリラってからかわれるから、行きたくない」と相談してくれた中学生の女の子の話です。

僕はその悩みに対して「お笑いで返すパターンがいくつかあるから実践してみて」と伝えました。一つは、「お前、ゴリラみたいやな」って言われたら、「いい加減にして。お前って誰に言ってんねん」という返しです。ゴリラと言われたことより、お前と言われたことに腹を立てて見せるんです。つまり、相手の意図していないところに怒るというボケ。それに対して相手は「いやいや、そっちかい!」とツッコむことになり、立場が変わります。ほかに、「ゴリラじゃないよ、グォリィラ(英語の発音)やで」という返しも伝えました。

――その後、女の子から連絡はありましたか?

芝山:「教えてもらった通りに言い返したら、ウケました!」と報告してくれました。その子の返しに対して、相手がしどろもどろになって楽しかったそうです。また、ゴリラと言われても「言い返せばいい」と構えられるので、悪口を言われることが怖くなくなったとのことでした。

感動したのは、その子が「ちょっかいをかけられてしんどかったけど、言葉を返せたことでコミュニケーションが取れるようになって、相手のことが嫌いじゃなくなった」と言っていたことです。「この人とは合わない」と諦めていたのに、笑いが生まれるコミュニケーションによって相手のことが苦手じゃなくなり、普通に話せる関係になったんです。

――大きな学びを得たわけですね。ちなみに、芝山さんは子どもの頃からコミュニケーション能力が高かったのですか?

芝山:いや、コミュニケーションがうまいほうではなかったです。特に卓球のラリーみたいなテンポのいい会話は苦手でした。でも、「吉本新喜劇」のまねごとをしているうちにできるようになりましたね。

一般の人にとってのお笑いは、多くの場合、誰かのものまねをするところから始まります。そして、ものまねを続けるうちに笑いの骨組みを理解して、違うパターンでも使えるようになる。そう考えるとシンプルですよね。そのことをたくさんの人に伝えたいんです。

サービス精神を持つことが、コミュニケーションを円滑にする秘訣

――芝山さんは、コミュニケーションに関するたくさんの悩みを聞いてこられたと思います。コミュニケーションが苦手な人に共通している特徴があれば、教えてください。

芝山:「緊張するから」とか「自信がないから」とか、苦手な理由は人それぞれなので一概には言えませんが、上手か下手かで言えば、「自分が得をしたい」と思っている人はコミュニケーションが下手だと感じます。TikTokの生配信で「めっちゃウケる話、教えてよ」と聞かれることがあるんですが、「そういう考え方でいるうちはあかんな」と答えています。

笑いが生まれるような良好なコミュニケーションを実現するには、お笑いの技術を身につける以前に、人を楽しませてあげたいというサービス精神を持つことが大切なんです。

「人に楽しんでもらいたい」と考える人は、会話で困っている人を助けようとして話にツッコんだり、話していない人に話を振ってあげたりができます。そうすることで、人に愛されやすくもなります。一方で、自分が面白いと思われたいという気持ちが強いと、人の話している途中で話を奪ってしまうなど、独りよがりなコミュニケーションになりがちです。

なので、己の欲が強い人はお笑いの技術を身につけても、それをうまく生かすことができないんです。

――確かに、自分本意な会話からは、笑いが生まれにくい気がします。では、「良好なコミュニケーションを取りたいけれど、どうしても緊張してしまう」という人の場合は、どのようなことを心がければよいでしょう?

芝山:緊張する人って、「私が気の利いたことが言えなかったから、会話が盛り上がらなかった」などと考えて、何かと責任を感じる傾向にありますよね。でも、会話って1人で成立するものではないので、盛り上がったら「最高のセッションやった」と喜び、盛り上がらなければ「あの人とは合わなかった。半分は相手も悪い」と思えばいいんです。

自己否定の強い人の課題は、責任転嫁を上手にできるかどうかです。よくないのは、会話がうまくいかなかったときにやさぐれた気持ちになって、人を審査するような視点を持つこと。そこは気をつけてください。

以前、緊張して人前で話せないという女の子から相談を受けたことがあるんですが、その子は「まわりの人は、私に対して『ブスはしゃべるな』って思っているに違いない」と思い込んでいました。僕がどれだけ「そんなふうには思っていないよ」と言っても信じてくれない。それで試しに、「街で自分より容姿が劣っている人を見たらどう思う?」と聞いてみたんです。どんな答えが返ってきたと思います? 「ブスは街を歩くなって思います」と言ったんです。

つまり、自分が世の中に思っていることを、まわりが自分に対して思っていると勘違いしていたんですよ。世の中には、そんなふうに自分の視点がすべてだと思っている人が結構います。そして、人前で話すときに、審査するような視点で見られていると思うから話せなくなる。要は、自分で緊張する原因を作っているんです。人を厳しい視点で見る癖がつくと、自分はその審査基準を上回らなければいけないと思って緊張するので、まずは人に対して寛容であることが重要だと思います。

――努力すれば、「審査するような視点」を変えることはできますか?

芝山:変えたいなら、無理やりにでも人に寛容であろうとすることです。先ほどの「ブスは街を歩くな」と言っていた子には、「そう思ってもいいけど、そのあとに『でも服はかわいいな』とか『靴は素敵だな』とか、何かいいポイントを見つけてみようよ」とアドバイスをしました。そしたら、1年後には「人と話すときに緊張しなくなりました」と報告がきましたよ。コミュニケーションって、ちょっとした心持ちで、ラクになるんです。

この話が、緊張する人すべてに当てはまるわけではありませんが、自分の視点がすべてではないということに気づければ、ものの見方、考え方の幅は確実に広がると思います。

――少し極端な例になりますが、保育士の場合、高圧的な保護者と会話する場面もあるかもしれません。そうしたときに、緊張せずに対処できる方法があれば、ぜひお聞かせください。

芝山:高圧的な人というのは、こちらの精神的な弱さを見つけようとしている気がします。つまり、緊張する状況下でもしっかり対応できる人間かどうかを見極めようとしているのです。そうした場合の対処法は、ウソでもいいから落ち着いているように見せること。そのためには、いつもより話す速度を遅くして、キーも低めにすることを意識してください。

低めのトーンでゆっくり話し始めれば、聞いている側もその人が落ち着いているように感じるので、安心して話を聞けます。それによって話の内容も伝わりやすくなるでしょう。僕も芸人時代、話す速度とトーンを意識するようにしてから、前よりウケるようになりました。

自分の話に自信がなくて緊張する人は、リアクションに配慮するのも一つの方法です。その際、大事なのは「あなたの話を聞きたい」という自分の思いを相手に示すことです。上手に会話を運べなくても、「そうなんだね」と相づちをうって、自分が会話を楽しんでいることを示しましょう。

例えば、テレビ番組でアイドルの人が「ハムスター飼ってるんですよ」と言ったとします。それを聞いた芸人さんは、「ええっ、そうなん!?」と言って大げさにリアクションしたりしますよね。あれは、相手が話しやすい状況を作るためです。話しやすい状況を作ると、アイドルの人が安心するので、会話が盛り上がります。ですから、リアクションにも手を抜かないことが大事だと思います。

――相づちひとつとっても、サービス精神を持つことが大事なんですね。

芝山:相づちで言うと、相手が話している最中に、結構なスピードで「はいはいはい」とうなずく人もいますが、相手が「早く話を終わらせないといけないのかな」と感じてしまうのでよくありません。ゆっくりと「うん……。うん、そうだね」とうなずいて、「私はしっかり聞いているよ」というスタンスを示しましょう。

相手の話を自分ごとのようにとらえて、共感して見せるのもいい方法です。「こないだ人が大勢歩いている道で転んでしまって」という話に対して、「うわ、それは気まずいね」と共感の気持ちを表せば、話している人もうれしいはずです。

子どもは大人のコミュニケーション術のまねをする!?

――大人がお笑いの技術を使っていると、子どもにも何かしらの影響があると思いますか?

芝山:子どもは大人のまねごとをするので、「大人が嫌なことを言われたときに、どのようにかわしているのか」などもしっかり見ています。

例えば、子どもが大人に向かって「バーカ」と言ってきたとき、言われた大人が「誰か、バカって言われてるよー」とほかの人に聞くふりをしてかわしたとしましょう。すると子どもは「なるほど、そういうやり方があるのか」「これは楽しいな」とインプットできますよね。そして、その答え方が子どもたちの間ではやれば、嫌な言葉を笑いに変える技術が広まります。直接的に「そんなこと言ってはいけないよ」と言うより、効果的だと思いませんか?

ですから、大人のみなさんは率先して僕の本を読んで、笑いの技術を習得してください(笑)。

――ありがとうございます。それでは、最後に「ほいくらし」の読者にメッセージをお願いします。

芝山:日常的にいろんな方とコミュニケーションを取らなければいけない保育士という仕事は、とても大変だと思います。現場で「全然頑張れてないじゃないか」と注意されることもあるかもしれませんが、みなさんは元芸人の僕から見ても「しんどいだろうな」と思うような仕事をしっかりこなしています。どうか、そのことに自信と誇りを持ってください。そして、「すごいな、私」と自分をほめてあげてください!

【コミュニケーション実例集】

ここからは、芝山さんに聞いた日常生活のシーンで使えるコミュニケーションの実例を紹介します。日々の保育活動に役立ててください!

①嫌なことを言われたとき

コミュニケーションは、相手と自分だけで成立する行為だと思いがちです。だからこそ、不意に第三者を巻き込む形にすると、笑いが生まれるそうですよ。

<例>
A:なにか面白いことしてよ
B:(パッと後ろを振り返り、第三者に)○○さん、なんか言われてますよ?

②ほめられたとき

「人からほめられたときに、『いやいや、私なんて』と謙遜するのはおすすめしません。自分の口から発した『私なんてすごくないですよ』という言葉を、自分で聞くことによって自己肯定感が下がる可能性があるからです。また、『すごいですよ』とほめてくれた相手を否定することにもなり、いい印象を与えません」と芝山さん。ほめられたときは、相手に「言ってよかったな」と思ってもらえる返し方を心がけるのがポイントだとか。

<例>
A:すごくおしゃれですね
B:ありがとうございます。嬉しいのでもう1回言ってもらってもいいですか?

③言いにくいことを伝えるとき

目上の人に、お願いごとや否定的なことなどを伝えるときは、いったん相手を肯定することが大事なのだそう。「言いにくい部分だけをいきなり伝えると、相手は強く否定されたように感じてしまうので、いったん肯定してリスクヘッジをしましょう」とは芝山さんのアドバイスです。

<例>
保護者にお願いがある場合
「忙しい中、いつも積極的に協力していただいて助かっています。あとは、持ち物の記名を徹底していただけるとうれしいです」

④後輩に注意したいとき

後輩に注意したいときは、注意の後に自虐で締めるのもテクニックのひとつ。「叱ったあとに相手が落ち込んでいたり、言いすぎたなと感じたりしたときは、最後にフォローを入れて、必要以上に傷つけないよう配慮しましょう」(芝山さん)

<例>
「○○したらダメよ。でもね、私も昔同じことで怒られたの」

取材・文/木下喜子

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