愛着形成とは?発達段階と保育士が大切にしたい関わり方

愛着形成とは?発達段階と保育士が大切にしたい関わり方

文: 神戸のどか(保育士ライター)

愛着形成は、特定の人との関係を通じて形成される心理的な絆を指し、生きていくために必要な安心感や信頼感の土台となるものです。初めはもっとも身近な保護者と愛着が形成されますが、長い時間一緒にいる保育士の関わりも子どもに影響を与えます。

この記事では、愛着形成の重要性や4つの段階をわかりやすく解説します。加えて、愛着形成のために大切にすべき保育士の関わり方やおすすめの遊びも紹介します。子どもの健やかな成長を支えるために、愛着形成についてしっかり理解しておきましょう。

愛着形成とは?

愛着形成とは、特定の人との関係を通じて形成される心理的な絆のことです。イギリスの精神科医で、児童精神医学の研究者であるジョン・ボウルビィによって確立された概念です。

「愛着」とは、物事に対して築く特別で情緒的な結びつきのことで、「アタッチメント(attachment)」とも呼ばれています。赤ちゃんは特定の人から受け入れられる「愛される経験」を通して愛着を形成していきます。

愛着形成が大切な理由

愛着形成が大事な理由は、基本的信頼関係の形成に影響を与えるからです。基本的信頼感は、「自分はこのままで大切な存在だ」「この世界には安全な場所があって自分を守ってくれる人がいる」という自己や他者に対する信頼感です。基本的信頼感は、子どもの健全な発達や幸福感に重要な役割を果たします。

また、愛着形成は、自我・社会性・意欲・心の成長や発達の土台となるため、その後の人間関係を築くための能力にも影響を及ぼします。

特定の人と愛着を形成すると、「安全基地」「安心基地」「探索基地」の3つの基地を得られます。

【愛着形成によって得られる3つの基地】

  • 安全基地……不安や恐怖や悲しみなどの感情が湧いたとき、自分を守ってもらえる存在として頼る心の拠り所
  • 安心基地……一緒にいるとほっとするような気持ちになれる拠り所
  • 探索基地……特定の人から離れて遊んで、また特定の人のところへ戻れる拠り所

3つの基地を得ることで、自分の能力や感情のコントロール方法が身につき、精神的な自立につながります。子どもの世界は徐々に広がっていくでしょう。

子どもが周囲の物事に好奇心を持ったり、友だちや地域の人などに関わったりするためにも、安心できる人との心の絆が重要です。

愛着形成の4段階

愛着形成では、4つの段階を経て、人間関係を築いたり自分の世界を作ったりしていきます。ここからは、第1段階~第4段階まで詳しく解説します。

第1段階(出生~生後12週)

第1段階では、人の声や顔に注意を向けるなど、他人に関心をみせる行動をとります。保護者でなくとも、声を聞いたり顔を見たりして泣きやむこともあります。

生まれたばかりの赤ちゃんは、未熟で何もできないように見えます。しかし、生きていくために必要な「定位行動」や「信号行動」といった愛着行動(アタッチメント行動)をしています。定位行動や信号行動には以下のような例があります。

  • 定位行動……追視する、手を伸ばす、声を聴くなど
  • 信号行動……微笑する、泣く、喃語をいうなど

愛着行動のおかげで、身近な大人は赤ちゃんのお世話をしようとします。たとえば、赤ちゃんが泣いていれば、「どうしたのだろう?」と保護者が声を掛けたり抱っこしたりするでしょう。関わる時間が長くなることで、赤ちゃんが健やかに成長する可能性が高まります。

第2段階(12週~6ヶ月)

第2段階も第1段階と同じように赤ちゃんから働きかけますが、日常でよく関わっている人に対する働きかけが顕著になる時期です。人によって異なる反応や振る舞いをするようになります。

また、自分の笑顔で周りの人が笑顔になる経験を通して、自分の行動が相手に影響を与えることがわかるようになります。第2段階は、意識的に周りの人に笑いかける時期でもあります。

第3段階(6ヶ月~2、3歳)

第3段階は、愛着を形成した人と他の人を区別できるようになる段階です。ハイハイや歩行で移動できるようになり、特定の他者に対して近づく、しがみつく、後追いするなどの接近行動(愛着行動)がみられます。

7~8ヶ月頃からは、人見知りが激しくなります。見知らぬ人への不安や恐怖が強くなり、警戒するようになります。保育園に通い始めた子どもが、保護者と離れることを寂しがって「ママ」「パパ」と泣くことも愛着に基づいた行動です。

また、愛着の対象者を探索基地にして、興味のあるところへ遊びに行くようになります。子どもは特定の人への信頼感や安心感をベースにして、少しずつ行動範囲を広げていきます。身近な外の世界へ行くことで好奇心は満たされますが、まだ子どもにとっては完全に安心できる場所ではありません。遊びに行った後は、安心を求めて愛着が築かれた人の元に戻る様子が見られます。

第4段階(3歳~)

第4段階では、愛着の対象者がその場にいなくても、子どもが安心や安全を感じられるようになります。愛着を維持できるようになるため、今まで保護者が離れると大泣きしていた子どもも、安心して「バイバイ」と離れられるようになるでしょう。

また、子どもの認知能力や言語能力も発達し、しっかり会話ができるようになります。脳が発達して愛着の対象者の感情や行動を洞察できるようになるため、相手との関係を調節できるようになります。

愛着形成のために保育士ができること

愛着とは特定の人と結ぶ心の絆ですが、保護者だけではなく保育士も結ぶことができます。子どもと関わる保育士は、愛着形成のためにできることを知り実践することが大切です。

子どもへの関わり方を工夫しよう

愛着形成のためには、子どもとの関わり方が重要です。ここからは、保育園で大切にすべき子どもの関わり方を2つ紹介します。

1. 愛着行動に気づいて受け止める

愛着形成のためには、まず愛着行動に気づき、子どもが求めたら答えるという「応答的」なふれあいや言葉掛けが大切です。愛着行動の例には、「泣く」「抱きつく」「喃語」などが挙げられます。

赤ちゃんが泣いたときに声を掛けてミルクをあげたり、抱きついてきたときに甘えたい気持ちを受け止めてスキンシップをとったりするやりとりを続けることで信頼関係が形成され、次第に愛着形成がなされます。

優しい声掛けは子どもに安心感を与えます。また、スキンシップを行い触れ合うことで温もりや愛情を伝えることができます。スキンシップをとるときは、子どもと目を合わせて子どもを大切にしている気持ちをしっかり伝えましょう。

特に0~1歳児クラスは、担当の保育士を決めることで愛着関係を育みやすくなります。

2. 安心できる基地になる

保育士は「いつでも子どもが戻れる場所」になりましょう。

子どもが不安や恐れを感じているときは、抱っこや声掛けにより安心感を回復させてあげます。やりたいことが見つかったら見守りながら、難しいことは優しく援助します。

子どもは遊んでいるときに、「喜び」「達成感」「悔しさ」などいろいろな感情が湧きます。保育士はポジティブな感情に共感し、困難な場面ではサポートすることが大切です。

おすすめの遊びを取り入れよう

愛着関係を築くためにおすすめの遊びは下記の通りです。

  • ふれあい遊び
  • 赤ちゃん体操やマッサージ
  • 絵本の読み聞かせ
  • 一緒に作る遊び

スキンシップをとれる「ふれあい遊び」「赤ちゃん体操」「マッサージ」は子どもに安心感を与えられます。繰り返し楽しむことで親しみを持ち、愛着関係を育むことにつながります。また、「おもしろいね」「楽しいね」と共感し合い心を通わせられる絵本の読み聞かせもおすすめです。

ブロックやパズル、料理などは、声をかけ合いながら行うため、応答的な関わり合いができる遊びです。

 愛着障害とは?

保護者など特定の大人との愛着形成がうまくいかず、問題を抱えている状態は「愛着障害」といわれます。子どもだけではなく、子ども時代に愛着が形成されなかった大人が、愛着障害を抱えていることもあります。

愛着形成は、自我や社会性、意欲、心の成長や発達の土台となるものですが、これらが育たずに成長していくことで、自己肯定感が持ちづらくなったり、社会のなかで対人関係に問題を抱えたりすることがあります。

愛着障害には、人に対して警戒し上手く頼れない「反応性アタッチメント障害」と、人に対して過度に馴れ馴れしく誰にでも甘えられる「脱抑制型愛着障害」がありますが、以下の共通点が見られます。

【愛着障害にみられる特徴】

  • 体調不良を起こしやすい
  • 自分や他人を傷つける
  • 理由もなく嘘をつく
  • 大人や周りの人を試すような行動をとる など

子どもが愛着障害を抱えている場合、まずは「安全基地」をつくることが最も大切とされています。保護者など特定の大人が、安心感や信頼感を抱ける対象となることが愛着形成には欠かせません。

愛着形成を意識して子どもと関わろう!

子どもが健やかに育っていくためには、愛着形成が非常に重要です。子どもとの愛着はすぐに築けるものではなく、日々のやりとりを続けていくうちに形成されていくものです。子どもが見せる愛着行動は、月齢によって異なりますのでよく理解しておきましょう。

また、保護者が愛着形成について悩んでいるときは、発達や個々の様子に配慮した声掛けをすることが大切です。愛着形成をしっかり理解して、子どもとの絆をしっかり結べるようにしましょう。

神戸のどか(保育士ライター)
保育園で、0歳児から5歳児の子どもたちの保育を5年半担当。
「一人ひとりの個性」や「主体性」を大切にする保育園での勤務経験を活かし、現在は保育士さんや子育て中のママやパパに向けて記事を執筆している。
絵本や歌が大好きで、特に絵本の読み聞かせや手遊びが得意。
保有資格:保育士・幼稚園教諭・認定ベビーシッター

参考サイト:

この記事をSNSでシェア
CATEGORY :