【業務負担軽減】公立保育園のICT化率は36%!導入状況とシステム導入のコツ|保育ICT推進協会

【業務負担軽減】公立保育園のICT化率は36%!導入状況とシステム導入のコツ|保育ICT推進協会

みなさんは、「保育園アプリ」と呼ばれる保育施設向けのアプリやサービスを使ったことがありますか? 一般社団法人 保育ICT推進協会(愛媛県西予市)が、全国の公立保育施設を対象に行ったアンケートによると、およそ36%の施設が業務をサポートするICTシステムを利用しているとの結果が出ています。また、同調査では、ICTシステムの導入が業務の効率化や、保護者との円滑なコミュニケーションの実現につながったという声も数多く聞かれたそうです。
そこで今回は、保育ICT推進協会の代表であり保育士でもある三好冬馬さんに、保育関係者のICTシステムに対する意識やICTシステムがもたらすメリット、導入のコツなどについてお話をうかがいました。

\お話を伺った方/
三好 冬馬さん 一般社団法人 保育ICT推進協会 代表理事長

コロナ禍によって、保育現場のICT化が加速した

──保育ICT推進協会では、2023年4月に『保育現場でのICT活用の実態調査』の結果を公表されました。現在、保育現場ではどのようなICTシステムが活用されているのでしょうか。

三好:ICT活用の代表例は、登降園の時間管理がICカードでできるサービスや、保護者連絡ができるスマホアプリなどです。近年はICTシステムの種類も豊富になり、園バスの運行管理や職員の人事管理など、保育に直接関わらないものも見られるようになりました。

保育施設のICT化率向上のため、全国各地でセミナーを行う三好さん。

──今回の実態調査は、全国の1,714自治体で実施されたと聞いています。なぜ、そうした大規模な調査を行うことになったのでしょうか。

三好:保育ICT推進協会は、保育に携わる先生たちの業務負担を軽減し、保育に注力できる環境を作ることを目的に活動しています。その一環として、ICTの導入サポートも行っているのですが、実際の活動のなかでは「導入している園はどれくらいあるの?」と質問されることがよくあるんです。

そうした質問に対しては、ずっと肌感覚で答えていたのですが、「具体的な数値や利用者の声を伝えられたほうが、必要性やメリットを感じ取ってもらえるのではないか」と思い、今回の調査を実施するに至りました。

──調査の感想や気づいた点について教えてください。

三好:アンケートの回答を都道府県別に集計した結果、ICTを導入している保育施設の全国平均は36%でした。この数字は、私がいろいろな地域の保育現場に足を運ぶなかで感じていた割合に近かったです。

いちばん導入が進んでいたのは、石川県と富山県で73%。次いで滋賀県の66%でした。都道府県によってこれほどの差があるというのは、正直意外でしたね。反面、地方区分による偏りがそれほど大きくなかったことも発見でした。石川、富山が上位にきているので、北陸地方の導入率が突出していると思っていたら、地方別の集計で最も高かったのは中国地方の51%だったんです。

導入率が高い10都道府県:石川県 73%、富山県 73%、滋賀県 66%、鳥取県 66%、沖縄県 66%、愛媛県 62%、福井県 60%、大阪府 57%、岡山県 55%、広島県 53%、全国平均 36%

さらに調査結果から、大都市圏より地方の導入率が高いことも判明しました。地方の保育施設は横のつながりがしっかりしているので、それが理由かもしれません。

地方では、自治体主導でコミュニケーションを取っていることが多いため、「自治体内で同じシステムを一気に導入しよう」という動きがあったり、「お隣の園が導入したから、うちも同じものを導入してみよう」という連鎖反応が起こったりしやすいのです。

保育者の負担を軽減することが、保育の質向上につながる

──他の業界と比べると、ICTを導入していない割合が多いように感じます。保育業界では、ICTに対してどのような意識を持っているのでしょうか。

三好:コロナ禍以前はアナログな業務が主流で、連絡帳やおたよりはもちろん掲示物にも、昔ながらの手書き・手作りの文化が根強く残っていました。私も保育士として現場を経験してきましたが、保育業界ではそもそもICTの必要性を感じていなかったのだと思います。

けれど、コロナ禍で状況は一変しました。保育者の研修や関係各所とのやりとりがオンライン化されるなど、どの保育施設も否応なしにデジタル活用の波がやってきたんです。そうした背景から、現在はかなり多くの園がICT化に前向きな気持ちを持っていると感じます。

──ICT活用の代表例について、具体的な内容やメリットを教えていただけますか?

三好:登降園管理システムは、登園時に保護者がタッチパネルやQRコードで登園登録をするもので、どの園児が在園しているのかを保育者がリアルタイムで確認できます。以前は、先生が目視確認し、登園児の名前を書いたマグネットをホワイトボード上で動かしたりしていたのですが、このシステムを使うことで作業が格段に効率化されたのではないでしょうか。抜け漏れやタイムラグもなくなるので、管理の精度を上げることにもつながります。

そのほか、連絡帳をデジタル化し、インターネット経由で見られるようにするシステムも多くの園で使われています。このシステムのメリットは、園からの連絡が見やすくなり、保育者と保護者のコミュニケーションがスムーズになることですね。担任以外の先生も連絡帳の内容が見られるので、園内での連携も取りやすくなります。

──ICTの導入には、さまざまなメリットがあるのですね。

三好:いちばん大きなメリットは、作業負担の軽減によって、保育者が子どもたち1人ひとりとしっかり向き合えることだと思います。だからこそ、ICTシステムが保育の質を向上させ、子どもたちにも良い影響を与えられるという点をきちんと伝えていきたいです。

園全体で同じ方向を見ながら、取り組みを進めることが大切

──ICTシステムの導入がうまくいかない事例もありますか。

三好:それぞれの業者が導入のサポートをしてくれるので、「利用方法がわからずにつまずく」といったことはあまりないかと思います。一方で、旧来のやり方からうまくシフトできずに、ICT化の流れを止めてしまう事例はあります。

例えば、せっかく費用をかけてシステムを導入したのに、「〇〇先生がこれまで通りのほうが見やすいと言っている」などの理由で、アナログなやり方を残しているような事例です。

──紙とツールの両方で管理を行っているわけですね。

三好:これまで最善だと思っていた方法を新しいものに切り替えるのは、確かに勇気が必要でしょう。しかし、アナログとデジタルが混在することで、ICTのよさが生かせないケースも出てきます。そうならないためにも、じっくりとシステムを選定したり、それぞれの園の方針になじむ運用方法を考えたりして、焦らずに導入を検討するのがおすすめです。

地域で働く保育士さんを対象にした研修では、「職場の風土づくり」をテーマにする日もあります。

──スムーズな導入のためには、どのような工夫が必要でしょうか。

三好:気持ちがついていかないなど精神的な面が課題になった場合は、導入の目的をあらためて共有し、園全体が同じ方向に進めるように体制を整える必要があります。すべての園で、すべての活動をICT化するのが正しいとは限らないので、「この点はアナログなやり方のほうがいい」という結論に至っても構いません。大切なのは全員で話し合って、将来像についての同じイメージを持った上で、導入を進めることだと思います。

また、ICTに拒否反応を持たれている方でも、実際に触ってみると「いままでどうしてこのやり方を続けてきたのだろう」と急に考え方が変わることもあります。そうした意味では、いろいろなシステムを体験したり、他の園を視察したりすることも大切かもしれませんね。

──導入されたシステムが園になじむには、一般的にどれくらいの時間がかかるのでしょう。

三好:1年程度でICT化の効果を実感される園が多いように思います。使い方に慣れるまでバタバタするのはみなさん同じなので、慌てず少しずつ慣れていくのがよいでしょう。

ICTシステム導入の担当者になった保育施設の職員をフォローするため、現場での活用方法を一緒に考えることも。

──保護者もやり方、考え方を変えなければいけない場面が出てくると思いますが、すぐに受け入れられるものでしょうか。

三好:保護者に関しては、「これを待っていたんです」と歓迎されることが多く、批判的な声はあまりないように感じます。朝の欠席連絡が自動でできたり、登降園の管理を共有できたり、プリントや連絡帳で行っていたやりとりがシステム上でいつでも見られたりと、忙しい保護者にとってはメリットが多いからでしょう。ですから、ICT化を行う理由と期待される効果をしっかり示せば、保護者の理解を得るのはそれほど難しくないと思います。

──最後に、全国の保育者に向けてメッセージをお願いします。

三好:私自身も保育士として10年間現場を見てきたのですが、みなさん日々限界まで努力をされていることと思います。そうした自分に報いるためにも、ぜひICTに目を向けてみてください。日々の努力にプラスする形でICTを活用すれば、もっとできることが増えて、子どもたちにとってよりよい保育ができるようになるはずですよ。

パソコンが苦手、慣れない操作がつらいといった悩みは、個々のスキルを向上させることで解決できます。だからこそ、スキルアップできる環境づくりや、保育現場でICTサポートを担える人材育成など、私たちがやるべきことはまだまだあると思っています。「子どもと向き合う豊かな保育時間」を増やすためにも、自分たちに残された「のびしろ」を使って、ICT導入のハードルを乗り越えて行きましょう。

▼一般社団法人 保育ICT推進協会
https://www.kazenomori.or.jp/

取材・文/万谷 絵美  編集/イージーゴー

この記事をSNSでシェア