発達に関する悩みにどう寄り添う?長崎の発達支援特化型センター「にこっと」の岡本恵子さんに聞く、「気になる子」との向き合い方

発達に関する悩みにどう寄り添う?長崎の発達支援特化型センター「にこっと」の岡本恵子さんに聞く、「気になる子」との向き合い方

社会福祉法人日本保育協会が行った、障害児や「気になる子」の保育に関するアンケート調査によると、回答した保育所の9割以上に発達やコミュニケーション、情緒面、運動面について「気になる子」がいることがわかりました。

「気になる子」には、それぞれの特性に応じた支援が必要です。しかし、保育士として働く方のなかには、「どのような支援をしたらよいだろう」「保護者にどう接したらよいのか」と悩んでいる方も少なくありません。

そこで今回は、長崎で唯一の発達支援特化型センター「Nagasaki子ども発達サポートひろば にこっと」(以下、「にこっと」)のセンター長を務める岡本恵子さんに、「気になる子」を支援する際のポイントや同センターの活動内容についてお話をうかがいました。

\お話をうかがった方/
岡本恵子さん
発達支援特化型センター「Nagasaki子ども発達サポートひろば にこっと」センター長。特別支援教育士。
大学卒業後、幼稚園にて幼稚園教諭として働く。その後、出産・子育てを経て、LD・ADHD等のアセスメントと指導の専門資格である特別支援教育士として、小学生と教師のサポートを行う。2010年、非営利団体「チャレンジスマイル」の代表に就任。2021年度より発達支援特化型センター「Nagasaki子ども発達サポートひろば にこっと」のセンター長を務める。プライベートでは3人の男子のママ。

全国からの視察が相次ぐ、発達支援特化型の施設

「にこっと」のプレイルーム。室内には、発達につながる遊具がたくさん設置されています。

――「にこっと」は全国的にも先進的な取り組みとして、県内外から視察が相次いでいると聞きました。まずは、どのような施設なのかを教えてください。

岡本:「にこっと」は、発達が気になる子どもと保護者の支援に特化した施設で、利用対象は、0歳からおおむね小学校2年生までのお子さんおよびその保護者です。障害の有無にかかわらず、子育てと発達に関する悩みを抱えている方ならどなたでもご利用いただけます。

スタッフには保育士、小学校教諭、助産師など、特に子どもの発達について専門知識を持つ人材がそろっており、親子で遊べる場の提供を中心に保護者同士の交流会、子育てや発達に関する研修会、相談支援、関係機関との連携などを行っています。

――実際に利用されているのは、どのようなお子さんですか?

岡本:発達障害とは診断されていないものの、言葉やコミュニケーションの発達に気がかり、あるいは特性のある子が多いです。かんしゃくや多動、偏食がある子もいます。保護者からは、就園や就学についての相談も多く寄せられますね。

「にこっと」を利用する子どもの特性

言葉やコミュニケーションに特性のある子が多いそう。グラフは「にこっと」の保護者へのアンケート調査をもとに編集部が作成。

――子どもたちは、「にこっと」でどのような時間を過ごすのでしょうか。

岡本:施設内にはプレイルームとおもちゃの部屋があり、子どもたちは好きなほうで遊んで過ごします。

プレイルームにはシーソーやブランコ、跳躍器具などさまざまな遊具をそろえ、子どもたちが思い切り体を動かして遊べるようになっています。ジャンプしたり、追いかけっこをしたり、ボールを投げたりすることも、「にこっと」ではOKなんです。

一方のおもちゃの部屋は、絵本や貸し出し制のおもちゃが置いてあり、遊びながらゆっくり過ごせるようになっています。

――遊ぶための環境がととのっている印象ですが、遊びを大切にしているのはなぜでしょうか?

岡本:子どもの遊びには、発達に必要な要素がたくさん詰まっているからです。体を使って思い切り遊んで満足する経験は、運動機能の基礎を育みます。創造力や社会性を育てたりすることにもつながり、子どもたちは遊びのなかでさまざまな経験を積み重ねます。

また、遊び方を見れば、その子が今どんなことに興味関心があるのかがわかり、特性に気づきやすいという利点もあります。

子どもたち自身が納得して行動できる環境をつくるのがポイント

部屋中に散らばったボール。岡本さんは「こうした状況は日常茶飯事です」と笑います。

――子どもたちを見守るにあたって、特に心がけていることはありますか?

岡本:けがをしてしまうような危険な遊び以外は、子どもたちがしていることに対して「だめ」といった否定的な言葉は使わないようにしています。

子どもたちがおもちゃ箱をひっくり返して、部屋中に大小さまざまなボールが転がったら「だめでしょ、やめなさい」といいたくなりますよね。けれど私たちスタッフは、「すごいね! にぎやかになったね」というふうに、まずは肯定します。子どもたちに何かをさせたり、してもらおうとしたりすることもありません。

「にこっと」の閉館時間は16時なので、16時までには部屋中に散らばったボールを片づける必要があります。しかし、だからといって子どもたちに声をかけて、「帰る時間までに片づけさせよう」「片づけてもらおう」としても、ほとんどの場合うまくいきません。

「おうちに帰る時間になるまでに片づけようね」という指示は、子どもにとってあいまいでわかりにくいからです。特に、発達に気がかりや特性がある子は、あいまいな言葉が苦手です。だからこそ、「おうちに帰る時間まであとどれくらいあるのか?」「片づけるとは具体的に何をするのか?」をわかりやすく伝えることが大切なんです。

「にこっと」で時間の話をするときは、色の変化で時間の経過がわかるタイマーを使って説明しています。たとえば、「この青い色が全部なくなったら、遊ぶのはおしまいにしようね」と伝え、時間がきたら「まずは赤い色のボールを探して、おもちゃ箱に全部入れちゃおう!」と促すんです。

色の変化で時間の経過がわかるタイマーを使うことで、子ども自身が納得して動けるようになります。

――何をすればよいのかを明確にしつつ、片づけという行為を遊びにしてあげるわけですね。

岡本:はい。赤いボールをしまい終えたら「次は何色にする?」と聞いて、すべてをしまい終えるといった具合です。子どもたちは納得しないと動かないので、何かをさせたり、してもらったりするのではなく、子どもたちが納得できるように私たち大人が工夫する。それが「にこっと」のスタイルなんです。

――先ほど、お話のなかに出てきた「貸し出し制のおもちゃ」とは、どのようなものなのでしょう。

岡本:おもちゃの部屋に置いてあるおもちゃのなかには、貸し出し制になっているものがあるんです。借りたいおもちゃがあったら、子どもはそのおもちゃの貸し出しカードを持って、保護者といっしょにスタッフに見せにいく。スタッフはカードを確認したうえで、子どもにおもちゃを渡す。そんな仕組みです。

自由に遊べるおもちゃとは別に、あえて貸し出し制のおもちゃを用意している理由は、子どもたちが自分の気持ちを伝えたり、他者とやりとりしたりする練習になるからです。

「にこっと」を利用する子の多くは、落ち着いて「やりとり」をすることが苦手です。スタッフに貸し出しカードを差し出せる子もいれば、声をかけられずその場で立ち尽くす子もいます。しかし、スタッフと視線を交わしながらのやりとりは、コミュニケーション力を育むうえでとても大切です。だからこそ、おもちゃを借りる過程で、視線を交わしながらやりとりする体験をしてほしいのです。

なかなか目が合いにくい子も、目を合わせるときのポイントがわかればできるようになります。そして、その様子を見ながら、保護者も子どもとの関わり方のコツがわかるようになります。日々の経験や学習を積み重ねることで、少しずつコミュニケーションがとれるようになるんです。

目を合わせてやりとりできるようになると、今度はおもちゃを借りることが目的ではなく、スタッフとの交流を目当てに貸し出しカードを持ってきたりもします。面白いことに、おもちゃを借りた直後にまた次のおもちゃ、次のおもちゃとくり返す子もいるんですよ。

それを見た保護者は、「遊ばないなら借りないで」とか「先生たちが大変だから」と注意されますが、私たちは「大丈夫ですから、気にしないでくださいね」と伝えています。子どもたちは何度もおもちゃを借りることで、視線を交わしながらやりとりする経験を積んでいるからです。

注意するのではなく、「子どもはこの行動を通じてどんな経験をしようとしているのだろうか」という視点で考えられるようになると、保護者の子どもへの言葉かけも自然と変わってきます。

「にこっと」は「この子のままでいいんだ」と安心してもらえる場

おもちゃ貸し出しカード。おもちゃは、親子で遊びのやりとりができやすいタイプが中心です。

――「にこっと」は保護者の相談支援にも力を入れています。子どもの発達に悩む保護者の方にはどんなことをお伝えしていますか?

岡本:子どもの発達に関する悩みは特別なものではないこと、普段の生活のなかにも子どもたちの力を育む要素がたくさんあるということをお伝えしています。

「にこっと」では、保護者と子どもがいっしょに遊ぶ「親子保育」を毎月2回開催していますが、初参加の方の多くは「いすに座らなければならない場面があったら、自分の子どもはほかの子と同じようにいすに座っていられるだろうか」と心配されたりします。

ただ、グラフにもあるように「にこっと」の子どもたちの特性は本当にさまざまです。そんなまわりのお子さんを見ているうちに、保護者のみなさんは「いろんな子がいるんだな」と感じてくださいます。そして、私たちが「1人ひとりのペースを見守って、自分の子どもは何に興味があってどんなことが苦手なのか、まず知ることを大切にしましょう」と伝えると、「ここでは無理をさせたり、がんばらせたりしなくていいんだ。この子のままでいいんだ」と気づき、安心されるようです。

もちろん、私たちスタッフも「いすに座ろうね」と無理に声はかけません。そのかわり、子どもたちがいすに興味を示したり、触ったりしたら、声をかけてほめます。それをくり返すうちに、子どもたちはだんだん「いすに座ってみようかな」と思うようになるんです。

――そうしたわが子の姿を見たときの保護者の反応はいかがですか?

岡本:「怒ったりしなくてもちゃんと座れるんだ」と驚かれます。「こんなことでほめてもいいの?」とびっくりされる方もいますね。

子どもが何かをできたり、大人の要求に応えられたりしたときに、ようやくほめるという方も多いと思いますが、いすに興味を示したとか、触ったとかのスモールステップでほめることはとても大事です。子どもたちはほめられるとうれしいので、ほめられたことをどんどんやるようになります。また、ほめられることは「自分を認めてもらった」という安心感にもつながるはずです。

目を合わせてからやりとりをはじめるのも、スモールステップでほめるのも、家庭で簡単に実践できますよね。「にこっと」では、そうした家庭で実践できる方法を保護者にどんどんお伝えしています。

療育に進むにせよ進まないにせよ、家庭での取り組みは重要です。「にこっと」で知ったノウハウを家庭で実践した保護者は、「子どもの成長を実感できた」とおっしゃいますし、療育に進んでからの伸びもよいと関係機関の方から聞いています。

なかには、「『にこっと』に出会って、『この子はこうだから』とありのままを受け入れられるようになりました」「発達に特性があるという事実は変わらないけれど、悩みはなくなりました」と話してくれた方もいました。

特性がある子は「困った子」ではなく「困っている子」

にこっとでは、保護者の方が気軽に交流できるイベントも実施しています。

――発達に特性や気がかりがある子どもと、どのようにかかわったらよいのか悩んでいる保育士も少なくありません。何かアドバイスをいただけますか。

岡本:私たち大人は、発達に気がかりや特性がある子を「困った子」「まわりを困らせる子」と捉えがちです。でも、いちばん困っているのはその子自身なんです。だからこそ、「困った子」「まわりを困らせる子」ではなく、「困っている子」と捉えてみてください。それだけで向き合い方が違ってくると思います。

そして、困っている子がいたら、その子が何に困っているのかの背景を丁寧に見てあげてください。

以前、ある幼稚園から、「片づけのたびにかんしゃくを起こすお子さんに、どう対応したらよいだろうか」と相談されたことがありました。工作を終えてクレヨンやのり、粘土をお道具箱にしまいましょうと伝えると、必ずかんしゃくを起こすというのです。その後、様子をよく観察してみたのですが、両手を上手に使いながらものを支えたり入れたりするのが苦手なことがわかりました。そのせいで、使った道具をお道具箱にうまくしまえず、ふたがしまらなくてかんしゃくを起こしていたのです。

そこで、私たちは道具1つひとつの写真を撮り、保管する場所に貼りつけてみることにしました。どこに何を置けばいいのかが、ひと目でわかるようにしたのです。すると、その子は使ったものをお道具箱にきちんとしまえるようになり、かんしゃくを起こさなくなりました。

問題行動をやめさせるのではなく、問題行動が起こらないように環境をととのえることを「環境調整」といいますが、支援のための人員を増やさなくても、環境調整で解決できる問題はかなりあります。保育士のみなさんには、そのことをぜひ知っておいてほしいですね。

――環境をととのえるためにも、その子をよく見てあげることが大切なのですね。

岡本:ただ、その子にばかり注目するのもよくありません。「○○ちゃん、できた?」「○○ちゃん、大丈夫?」と名指しで常に呼びかけていたら、ほかの子どもたちがその子を特別視するようになってしまいます。

たとえば、指示を理解できているかどうかを確かめる場合は、「○○ちゃん、わかったかな?」と聞くのではなく、「この後に何をするかわかったかな? お友だちと確認しようか」と園児みんなに声をかけてみてください。特性の有無にかかわらず、先生の指示を聞き逃している子どもは珍しくないので、子ども同士で確認するように促すのはよい方法だと思います。

行動の切り替えが苦手な子には、次の活動がわかるような掲示物をつくってあげるのがよいと思います。お昼ごはんを食べる前に、「お道具箱をしまう」「手を洗う」などの段取りがあるのなら、それぞれの活動を写真や絵にして“見える化”しておくのです。そして、写真や絵を指さしながら、「じゃあ次はこれ、お道具箱をしまいましょう」とみんなに向かって指示を出すようにすれば、次の行動に移りやすくなります。

相談を受けたら、まずは家庭の状況を把握することからはじめる

「にこっと」では、子どもの発達状態に合わせて、必要な遊びをチョイスしています。

――保護者から「うちの子は大丈夫でしょうか」と相談され、どのように返答したらよいのか悩んでしまうといった話も聞きます。保育士の立場としてどう答えるのがよいのでしょうか。

岡本:保育士さんは日々、多くの子どもと接しています。そんな保育士さんだからこそ「この子、ちょっと気になる」という感覚は当たっていることが多いです。とはいえ、その感覚をストレートに話すと信頼関係が損なわれるおそれがあるので、相談を受けたら、家庭の状況を把握するところからはじめるとよいでしょう。

まず、保護者が1人でがんばりすぎていないか、子育てにきちんと向き合えているかなどを確認してみてください。その際は、話を聞きながら「大変ですね」「よくやっていらっしゃいますよ」などのねぎらいの言葉をかけ、子どもの発達を心配する保護者の気持ちに寄り添いましょう。

子どもの様子を伝えるときは、その子が「できないこと」ではなく、「できること」から伝えるのがおすすめです。はじめのうちは「できること」が7割、「できないこと」が3割くらいのバランスのほうが保護者も受け入れやすいと思います。また、「できないこと」については、「○○するのは、今はちょっと難しいみたいですね」といった具合にやわらかく説明するのがよいでしょう。

――「これからどうすればよいのか」を質問された場合は、療育をおすすめしたほうがよいのでしょうか。

岡本:脳の神経回路は6歳のころには大人とほぼ同じになることがわかっています。つまり、乳幼児期は脳がもっとも成長する重要な時期であり、その時期に適切な支援を受けられるかどうかによって、その後の発達は大きく変わってくるのです。保育園は基本的に0歳から入園できますから、保育園で早い時期に発達のつまずきに気づいたのなら、様子を見るのは正直もったいないと思います。

とはいえ、保護者のなかには「適切な支援」「療育」といった言葉に抵抗感を示す方もいます。そういう方には、いきなり支援や療育の話をするのではなく、集団生活でその子がどんなふうに困っているのかを丁寧に説明してあげてください。保育園での様子は保護者には見えにくいので、集団生活で子どもがどのように困っているのかを説明するのです。

また、就学を見据えて伝えることも大切です。幼児期の集団生活と小学校での集団生活は大きく異なるので、その点を理解できれば、保護者の方も支援や療育に対して前向きになれると思います。

――ありがとうございました。最後に、「にこっと」の今後の展望をお聞かせください。

岡本:発達に気がかりや特性がある子への支援は、保育園や幼稚園、小学校、中学校とステージが変わっても切れ目なく行われるのが理想です。けれど、実際には関係各所の連携が不十分で、それぞれのステージで単独に支援が行われがちです。

こうした状況を少しずつでも変えていくために、現在私たちは、子どもの発達支援にかかわる人たちと、今後の連携に向けた顔の見える関係づくりを進めているところです。今は点と点になっている支援を私たちがつなぎ役となって結び、線にしていけたらと思っています。

◆発達支援特化型センター「Nagasaki子ども発達サポートひろば にこっと」
開所日:月曜~土曜 10時~16時 ※利用には電話での事前予約が必要(095-842-0116)
Instagram:@nicotto.nagasaki

取材・文/小川裕子

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