2024 年度 スキルアップ研修第1回 「働きやすい職場づくり」 ~“遠くても通いたくなる保育園”になったわけ~

2024 年度 スキルアップ研修第1回 「働きやすい職場づくり」 ~“遠くても通いたくなる保育園”になったわけ~

昨年度多くの皆様からご好評いただいたスキルアップ研修が今年度も開催が実現しました。 
第1回のテーマは“働きやすい職場づくり”です。 
講師は「遠くても、通いたい保育園。」をコンセプトに、茨城県守谷市・龍ケ崎市にて5園の認可保育園、子育て支援や一時保育・病後児保育を運営している社会福祉法人山ゆり会 理事長の松山 圭一郎先生。 
かつては保育士が疲弊し「自分の子どもは預けたいが、働くなら他園がいい」と言われた職場が、いまや、“働きやすい職場”として多くの人が集まるようになった理由、行った働き方改革について解説いただきました。 

子ども第一主義からスタッフ第一主義へ 

保育士が定着しなかった頃のまつやま保育園グループの理念は「保育士は子どもたちのためにいる」でした。大事な考えではあるものの、子どもたちのためにと身を粉にして頑張り続けた保育士たちが、年度が終わると燃え尽きたように辞めてしまうのです。 
そこで、子ども第一主義からスタッフ第一主義へ「スタッフがいてくれるから子どもたちを預かれる」という考え方に理念を変えました。スタッフを大切にするとスタッフの笑顔が増え、それが子どもにも返り、さらにそれを見た保護者に信頼してもらえるという好循環に繋がっていきました。 
グループの離職率は、2013年は17%程度でしたが、改革を開始してから徐々に低下し、2022年には4.1%にまで減少しました。もちろん、結婚に伴う転居、介護や子育てなど社会的事情で発生してしまう離職は一定数あります。 
離職率の低下に伴い、スタッフが育休を取得する際も同じ数を新規採用するのではなく、戻ってくるスタッフで循環する環境を作ることができました。 

採用→育成→定着のサイクル 

採用・育成・定着、この三つはすべて繋がっているので、全て同じ水準で取り組んでいくことが必要です。 “保育だけを一生懸命やっていればいい”時代も確かにありましたが今は違います。「誰でも通園制度」の開始や少子化の進行など、今の保育の業界は目まぐるしく変化しています。 
現在の東京都の雇用情勢を見ると、一般事務職は一つの求人に対して求職者が8.5人いる一方で、保育士は一つの求人に対して求職者はたったの1.6人です。 
保育士の採用は全産業の中でも特に難しいのではないかと考えています。限られた人材を採用し、大切に育成し、定着させていくこと。働き手が限られた現在の保育業界では必須のサイクルと言えます。 

働きやすい職場づくり 

要望と改革 

「働きやすい職場=居心地がいい場所」と考えスタッフ達から上がった要望を叶えていくことから始めました。 

  • 有給が半日や1日単位では使いづらい→1時間単位で使えるように制度変更 
  • 休日が足りない→年間休日を少しずつ増やす 
  • お昼ご飯をゆっくり食べられない→休憩やノンコンタクトタイムを増やす 

など 

心理的安全性の高い組織 

「心理的安全性」とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことです。組織の上層部が意思決定をする“トップダウン”から、スタッフ達から上がってくる意見を吸い上げる“ボトムアップ”の方式に経営スタイルを転換。 

理事長からスタッフに指示を出すことはほとんどありません。現場のスタッフからの「これをやってみたい」「変えてみたい」ということに対して応援するという立場で園を運営しています。 

ICT化 

働きやすい職場づくりにICT化は必須です。保育業界におけるICT化の普及率は全国平均で40%程度に留まっており、決して高いとは言えない状況です。 
まつやまグループではスタッフ全員に一人1台iPhoneを支給し、連絡ノートや業務報告、写真撮影をスマートフォンで完結できる環境を整えています。現在の20代から30代のデジタルネイティブ世代は、スマートフォンでのタイピングが非常に速く、計画書の作成などはICT化することで圧倒的に効率化を図ることができます。 

処遇の見える化 

理事長や園長含め、全職員の給料を一覧にして”見える化”することによって、スタッフ一人ひとりが自分の将来の給与を見通せるようになります。また、園長や理事長が不当に高い給与をもらっているのではないかという不要な勘繰りも解消され、スタッフは自分の処遇に納得感を得ることができます。役職者も自分の給与に見合った働きをしようという意識が高まります。 
また、毎年の決算報告を全スタッフに公開することで、法人の経営状態を理解してもらい、より安心感を持って働いてもらえるようにしています。

キャリアパス制度 

職務・役職などの目標に対して、必要なスキルや経験、至るまでの工程を明確化し提示する制度です。処遇改善加算を得るために、キャリアパス要件はどの法人でも作成されていると思います。作成した後に、しっかりと実行していくことが大切です。 
スタッフの成長曲線を6段階のステージに分け、それを基準に、年次は関係なく、出来ているか出来ていないかで評価を行います。園長や主任の主観による評価はブレが生じ不公平感に繋がるので、指標を基に公平な評価をすることが大切です。全スタッフの自己評価・上司評価の後、それをもとに1on1面談を実施しています。 

スタッフが受けることができる研修も明示することも、キャリアパス制度の運用には大切です。 

職員とのコミュニケーション 

「何を考えているか分からない」と若手とのコミュニケーションに悩んでいる方は多いと思います。スタッフとのコミュニケーションにおいて工夫は必要です。 
定期的な1on1面談の実施や、日々の会話では仕事の話だけではなくプライベートな雑談もすることで、フラットな関係作りを意識しています。能力や性格が違うスタッフ一人ひとりとしっかり向き合い、求めるものを個々に合わせることも重要です。 

まつやまグループでの取り組み 

  • 一年目スタッフのフォロー(中途含む) 
    毎月一回30分間スタッフ皆で集まって振り返りを行う。
    みんなで悩みを共有し「今月はこうだったから来月はこうしよう」という声がけを行う。 
  • 新卒振り返り 
    夏頃にグループの新卒で集まり、就業後数か月間の感想を共有。園長が入ると緊張してしまうので人事担当が同席して振り返りの場を設ける。 
  • スタッフの親御さんを職場にご招待(見学会)
    1~3年目までのスタッフの親御さんを保育園に招待して、子どもの働いている姿を見てもらう。親御さんとも面談して法人・お子さんの状況の説明。親御さんにも応援団になってもらえるように、職場を「見える化」する。 

地域になくてはならない保育園になるために 

今後、保育園が生き残っていくためには、「選ばれる」を超えて「なくてはならない」保育園にならなければいけないと考えています。 
地域に開かれた、なくてはならない保育園になるために、地域に密着した様々な取り組みをしています。 

利用者支援事業(産前産後の伴走型支援)/支援センターの活動の一環で園に通う親子が使えるレストランを運営/地域でのマルシェ開催など… 

本研修にご参加いただき、誠にありがとうございました。 
今回のスキルアップ研修が、皆様の職場の“働きやすい職場づくり”の一助となり、職場環境を見直すきっかけとなれば幸いです。 
スキルアップ第2回では「保育の環境構成」について井上さく子先生よりお話しいただきます。 皆さまのご参加を心よりお待ちしております。 

~次回の開催情報~
【日時】
2024年10月24日(木) 13:00~15:00 

【テーマ】
保育の環境構成   
~子どもの主体性を育む年齢に合わせた環境とは~ 
井上さく子先生  

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