【学び】身近な子どもの死亡を防ぐためにも、心肺蘇生法を学んでほしい

【学び】身近な子どもの死亡を防ぐためにも、心肺蘇生法を学んでほしい

山梨県子育て政策課と山梨大学医学部小児科学教室は、2022年に子どもの心肺蘇生法の手順を紹介する動画を作成。山梨県のYouTube「山梨チャンネル」で公開しました。また、県では保育園や幼稚園、子育て支援拠点の職員らを対象に、子どもの心肺蘇生法に関する研修会も実施しています。今回は、動画作成に携わった山梨大学医学部小児科学教室の河野洋介さんに、「なぜ心肺蘇生法の動画が必要だったのか?」や、保育園での活用法などについてうかがいました。

\お話を伺った方/
河野洋介さん 山梨大学医学部小児科学教室(小児循環器・小児救急)

「予防可能な子どもの死亡を減らしたい!」という思いで動画を作成

——まずは、心肺蘇生法の動画を作成することになった経緯と目的についてお聞かせください。

河野:山梨県は、2020年(令和2年)から厚生労働省の「チャイルド・デス・レビュー(CDR)」というモデル事業に参加し、「山梨県予防のための子どもの死亡検証体制整備事業」を開始していました。チャイルド・デス・レビューというのは、子どもが死亡した際、その原因などについていろいろな関係機関が情報や意見を持ち寄り、「次に同じような死亡が起きないための予防策」を検討・実施する取り組みのことです。検証の結果から得られた予防施策は、県や国に提出され、子どもの死亡を減らすことに役立てられています。

私が所属する山梨大学医学部小児科学教室も、この事業において子どもの死亡原因の検証などに携わっており、心肺蘇生法の動画も子どもの死亡を予防する取り組みの1つでした。動画を活用することで、家庭や学校、保育園などで突発的に起こる子どもの心停止に対して、1人でも多くの方が処置できるようになってほしいと思っています。

——チャイルド・デス・レビューは、どのような背景から実施されるようになったのですか?

河野:19歳以下の死亡数は年々減っていますが、それでも年間4,000人近い子どもたちが亡くなっています。そして、この数字で重要なのは、不慮の事故や自殺などの「予防可能な死亡」がおよそ4分の1もあるということです。チャイルド・デス・レビューは、そうした予防可能な子どもの死亡数を減らしたいという思いから始まりました。

——河野先生は実際の動画作成にも関わられています。特にこだわった点があれば教えてください。

河野:動画は、私と小鹿学医師(山梨大学医学部小児科学教室)の2人で企画し、撮影・編集まで行いました。制作にあたっては「甲府ACLSトレーニングサイト」という、心肺蘇生法を普及する団体の有志のインストラクターの協力も得ています。コンセプトは「いざというときに、誰でも使える動画」で、子どもが心停止したときに、お母さんが1人でも心肺蘇生法を実践できるようになってほしいとの思いから制作しました。

動画撮影のワンシーン。河野先生は「手の形や押す力がわかるように、アングルを決めるのが大変でした」と話します。

心停止が起こってパニックになったときこそ、動画を活用してほしい

——予防対策のなかでも、特に心肺蘇生法を身に付けておいたほうがよい理由は何でしょうか。

河野:心停止が起きると、その段階から頭や臓器への血流が滞ってしまい、1分たつごとに救命率が約10%ずつ下がっていく。だからこそ、なるべく早く心肺蘇生を行う必要があります。

動画を作るより前のことですが、ある学校でプールの事故が起こり、1人のお子さんが心停止になってしまいました。しかし、その学校は心肺蘇生法の習得に積極的に取り組んでいたため、すぐに教員が処置を行い、お子さんは一命を取りとめたのです。こうしたケースからも、日ごろから心肺蘇生法を学んでおくことの重要性がわかると思います。

——心肺蘇生法のポイントについて教えていただけますか。

河野:ポイントは、「絶え間なくしっかりと押すこと」です。押す場所は肋骨の真ん中、押す深さは体の厚みの3分の1ほど。テンポが速すぎても遅すぎてもダメなので、動画に合わせてテンポよく押してください。

目の前で子どもが心停止になったらパニックに陥ると思いますが、そんなときこそこの動画を活用し、救急車が到着するまでの間に心肺蘇生を行ってください。

「親子で学ぶ心肺蘇生法講座」の様子。参加者は蘇生練習シートとペットボトルを使って、繰り返し心肺蘇生を練習します。

いざというときに落ち着いて心肺蘇生を実践するためには、定期的な練習が大事

——保育園でどのように動画を使ってほしいですか? また、どのくらい練習すればよいかも教えてください。

河野:山梨県のホームページで、ペットボトルを使って練習できる「蘇生練習シート」を公開していますので、そのシートとペットボトルを用意した上で、動画を見ながら練習してください。繰り返し練習することで、いざというときに冷静かつ正しく対応できるようになりますので、保育士全員で定期的に練習することが大事です。

また、同じ認識を持っていれば、誰かが間違ったときでもすぐに修正できるので、1人ではなく全員で練習することを心がけましょう。

「研修会などにも参加して、いざというときに躊躇なく行えるようになってください」と河野先生。

——最後に、保育士さんに向けて心肺蘇生法に関するアドバイスをお願いします。

河野:まずは心停止を認識する必要があります。心停止しているかどうかの基準は、呼びかけに反応がなく正常な呼吸をしていないこと。そんなときは心停止が強く疑われますので、勇気を出して心肺蘇生を始めてください。

また、子どもの心停止の多くが呼吸からくると言われているので、窒息への対応もしっかり行いましょう。アレルギーによるアナフィラキシーになったときや、けいれんしているときは横向きに寝かせて、唾液や嘔吐物がのどに詰まらないようにしてください。どのような場面でも、子どもの様子をしっかり観察しながら、落ち着いて対応することが大事です。

河野洋介(こうの・ようすけ)
医師/山梨大学医学部小児科学教室(循環器チーム)

山梨県出身。山梨大学医学部を卒業後、「子どもが好き」「1人でも多くの子どもを救いたい」という思いから山梨大学医学部小児科学教室に所属し、13年目を迎える。専門は小児循環器・小児救急。小児科学教室のほかの専門チームとも協力しながら、日々子どもたちの診療にあたっている。

<参考>
▼山梨チャンネル「子どもの命を救う心肺蘇生法(小児)」
https://www.youtube.com/watch?v=UThpKzTv-c0
▼山梨チャンネル「子どもの命を救う心肺蘇生法(乳児)」
https://www.youtube.com/watch?v=P2QaCpyzD3U
▼山梨県公式ホームページ「蘇生練習シート」
https://www.pref.yamanashi.jp/kosodate/cdr/documents/soseiseet.pdf

取材・文/山王かおり 編集/イージーゴー

この記事をSNSでシェア