保育士に子どもを預けてゆったり!「託児銭湯」の取り組みが話題

保育士に子どもを預けてゆったり!「託児銭湯」の取り組みが話題

「子どもが生まれてから、ゆっくりとお風呂につかる時間がなくなった」。そんな子育て家族の声をもとに企画された「託児銭湯」が話題を集めています。親が入浴している間、保育士らが子どもを預かるという新たな取り組みは、毎回定員数を超える人気ぶり。リピートする子育て家族も多いそうです。

そこで今回は、企画の中心となったライターのヨッピーさんに、「銭湯×子育て」のメリットや反響、今後の展開をうかがいました。

\お話をうかがった方/
ヨッピーさん 託児銭湯の企画・運営

保育士が子どもを預かって見守る託児銭湯

——託児銭湯の取り組みについてご紹介ください。

ヨッピー:託児銭湯は、東京都中野区の銭湯「松本湯」で、月に1回最終土曜日に開催しているイベントです。ゆっくりと湯船につかる時間がない親たちに、リフレッシュしてもらおうと企画したもので、入浴している間保育士に子どもを預けることができます。

利用時間は、松本湯が営業を開始する前の午前12時から午後2時まで。事前申し込みが必要ですが、毎回約30組から40組の親子が参加していて、希望者が定員を上回ることも多いですね。託児料金は無料で、運営費用は中野区の助成金や協賛企業、個人の寄付によって支えられています。

託児銭湯の取り組みの中心メンバーである、ライターのヨッピーさん。1児の父で「サウナー」としても知られています。

自身の育児経験をきっかけに託児銭湯を企画

——託児銭湯を企画しようと思ったきっかけは、何だったのでしょうか?

ヨッピー:子育て中の方と話していると「ゆっくりお風呂に入る時間がない」という声をよく聞くんです。なかには、「兄弟がいるので、5年以上ゆっくりお風呂につかれてない」という方もいました。また、「子どもが泣いて他の人に迷惑をかけるかもしれない」という心配から、銭湯の利用をためらう家族も多いとも聞いています。

一方、僕は銭湯が大好きで、子どもが生まれる前から週7回は銭湯に通う生活をしていました。長男が生まれる前から、できる限り育児に関わろうと決めていたのですが、それでも「育児から解放される時間がほしい」と思う瞬間はある。それで「毎日の銭湯通いだけは続けさせてほしい」と奥さんにお願いして、銭湯通いを続けさせてもらったんです。

銭湯に居る時間は、本当によい息抜きになりました。そして、あの時間があったからこそ育児を頑張れたと思っています。そうした経験から、親が一時的にでも子育てから解放される時間の重要性を実感して、「お風呂に入る時間がない」「子連れで銭湯に行くのは気が引ける」という方のために、託児銭湯を企画しました。

それともう1つ、私自身が「子育ては地域全体で協力した方が効率良いじゃん」と思っていることも、託児銭湯の企画につながっています。核家族が増えた現代は、親戚が遠方にいる家庭も多く、夫婦ふたりだけの力で子どもを育てるのは大変じゃないですか。だからこそ、託児銭湯を通じて地域全体で子育てをする環境を復活させるきっかけになったら良いな、と。

託児銭湯は子どもの社交性を養う場にもなっている

——託児銭湯を利用した方からの反応はいかがでしょう。

ヨッピー:「5年ぶりにゆっくりお風呂に入れて、うれしくて泣いた」「リフレッシュできて心に余裕が生まれた」などの声をいただいています。自分だけで過ごす時間があることで、子どもと向き合うためのエネルギーが補給できたり、心の余裕につながったりする方が多いようですね。

「同じように子育てを頑張っている人と会話できて、自分は1人じゃないと思えた」と言っていただくこともあります。子育て中の孤独感が軽減され、利用者間の交流にもつながっているようでうれしい限りです。

——親が入浴している間、子どもたちはどんな様子ですか?

ヨッピー:子どもたちにとっても、新しい友だちと触れ合う機会になっているようです。さまざまな年齢の子どもが集まることで、社会性を養う場になっているとも感じます。

ロビーに設けられた託児所で乳幼児と遊ぶ保育士。「このおもちゃで遊ぶ?」と笑顔で声をかけています。

さまざまな世代と関わることで、保育士として働く楽しさを再認識

——託児銭湯には、何名の保育士が参加しているのでしょう。

ヨッピー:現在5名の保育士が参加していて、保育士資格が無い通常スタッフが10名という15人の体制で運営しています。

託児所は銭湯の広いロビーを活用しており、乳幼児用エリアと乳幼児以外のエリアに分けて保育士を配置しています。特に注意しているのは、乳幼児エリアの人員配置ですね。子どもたちが安全にすごせるように、保育園の規定と同様、保育士1名につき乳幼児2名を見守るようにしています。とはいえ、雇える保育士の数にも限界があるので、預かる子どもの人数を制限しているのが現状です。

ただし、子どもを預けずに親子で一緒に銭湯を利用する場合は、無制限で受け入れています。

——託児銭湯で働いている保育士からは、どのような声が聞かれますか?

ヨッピー:以前、保育園で働いていて、久しぶりに仕事に復帰された方は「いろいろな年齢の子どもと接することができて楽しい」と話していました。保育園で3歳児クラスを担当している方は、1歳未満の赤ちゃんと触れ合える新鮮さに喜びを感じているようです。みなさん、幅広い年齢の子どもたちと関わることで、保育士として働く楽しさを再認識しているように見えますね。

託児銭湯の保育士さんたち。「毎回いろいろな年齢の子どもに会えるのが楽しい」とのこと。

子育てを社会全体がバックアップする環境が広がってほしい

——託児銭湯の取り組みを通して、社会全体にどのような変化を期待しますか。

ヨッピー:託児銭湯の取り組みを通して、子育て中の家族が気軽に銭湯を利用できる社会になってほしいです。最近は兵庫県尼崎市や大阪市の銭湯でも託児銭湯が始まっており、取り組みが広がっているのがとてもうれしいです。

また、先ほど話したように、社会全体が子育てをバックアップする環境が広がってほしいとも思っています。子どもたちは国やインフラを支える未来の担い手です。そう考えると、社会全体で子育てを担う機運がもっと生まれるべきではないでしょうか。

「子どもと触れ合える時間は楽しいですよ」と話してくれました。

——今後の展開についてお聞かせください。

ヨッピー:託児銭湯は主に中野区の助成金で運営していて、1年目は100万円、2年目は80万円と徐々に助成金の金額が減っていく仕組みなんです。現在、運営は2年目に入っており、3年目までは承認される限り継続する予定ですが、4年目以降の資金調達についてはまだめどが立っていません。企業のネーミングライツ(※)などの方法での収益化を考えて、何とか続けていきたいですね。

※ネーミングライツ:企業がお金を支払うことで施設やイベントの名称に自社の名前を付ける権利のこと。企業は宣伝効果を得られ、施設は運営資金を確保できます。

取材・文/ほりちゃん  編集/イージーゴー

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