保育士の髪色規定を撤廃!その決断がもたらした驚きの変化とは?|株式会社さくらさくみらい

保育士の髪色規定を撤廃!その決断がもたらした驚きの変化とは?|株式会社さくらさくみらい

華やかなピンクの髪色を1つ結びにした保育士が、園児の服を整える——。これは、株式会社さくらさくみらいが運営する保育園の日常風景です。

東京都を中心に保育所サービスを展開する同社は、2023年8月より保育士の髪色規定を撤廃し、髪色の完全自由化に踏み切りました。それから3か月経った現在(※)、保育現場にはどのような変化が起こっているのでしょうか。同社の代表取締役社長である西尾義隆さんに、髪色の自由化を決めた経緯や、保護者のリアルな反応をうかがいました。

※2023年11月に取材した記事です。

\お話をうかがった方/
西尾義隆さん 株式会社さくらさくみらい 代表取締役社長

子どもたちと接する保育士にも自分らしく楽しみながら働いてほしい

——株式会社さくらさくみらい​​について、簡単にご紹介ください。

西尾:弊社は、「子ども・保護者・職員の笑顔あふれるあたたかい『おうちのようなほいくえん』」という理念のもと、2009年に創設しました。現在は、首都圏や大阪を中心に88か所の保育所を運営しています。多くの園が駅近にあるため、忙しい保護者の方が利用しやすいのが特徴です。また、画一的な関わりにならないように、「その子らしさ」を尊重した保育を行っているのも、さくらさくみらいの大きな特徴と言えます。

そうしたなか、子どもたちに接する保育士にも「自分らしさ」を表現しながら働いてもらえば、子どもたちにより良い影響を与えられるのではないかと考え、2023年8月に保育士の髪色規定を撤廃しました。

規定撤廃に踏み切った背景には、もう1つ目的があります。それは、保育士に仕事に対するモチベーションを維持してもらうこと。身だしなみのなかでも、衛生面・安全性に影響しない髪色の規定を撤廃し、自由化することで、少しでも自分らしく楽しみながら仕事をしてほしいと思っているのです。

保育園は、保育士と保護者が毎日顔をあわせて関係性を作っていく場所です。そんな場所だからこそ、個人の人となりを知っていただくことができ、髪色などの見た目だけで保育の質を判断されることもないと感じ、この度の規定撤廃に至りました。

リーマンショックをきっかけに、2009年に株式会社さくらさくみらいを設立した、代表取締役社長の西尾義隆さん。インタビュー中のやさしい笑顔が印象的でした。

最初は不安もありましたが、髪色規定を撤廃した後に園内でアンケートを実施したところ、保育者からは8割程度、保護者からは7割強の賛成意見を得ることができました。現在は、ピンク色や明るめの茶色など、思い思いのカラーリングを楽しみながら働いてもらっています。

当初は「理想の保育士像」を求める保護者もいるのではないかという不安もあった

——髪色規定を撤廃するにあたって、どのような懸念がありましたか?     

西尾: 個人的にはだいぶ前から、保育士の髪色規定は必要ないと感じていました。しかし、保護者のなかには世間一般がイメージする「理想の保育士像」を求める方もいらっしゃいます。そのため、「髪色が派手だから保育の質も低い」と判断する方もいるのではないかと思っていました。

——保育士のみなさんはどのような意見を持っていたのでしょうか

西尾:ほとんどの保育士は賛成してくれましたが、なかには「髪色が変わることで園のイメージが低下しないだろうか」「保護者に保育の質が低いという印象を与えないだろうか」と心配する保育士もいました。

「髪色を明るくしたことで、仕事に対する意識が高まりました」と話す保育士も多いそうです。

とはいえ、髪色を変えることで、周囲の見る目が変わる可能性はあります。そのため、保護者と密にコミュニケーションを取ったり、安全衛生面について今まで以上に配慮したり することで、これまで以上に不快感や不信感を抱かせない、保育の質を不安視されないように努めることがとても重要になるとも話しました。

そうしたやりとりを受けて、全員の意識が高まったせいか、規定を撤廃して3か月経った今も保護者からの相談や意見はありません。

保育士の仕事に対するモチベーションが確実にアップ

——髪色規定の撤廃後、保育士のみなさんに変化はありましたか?     

西尾:以前は禁止されていたピンク色や明るい茶色に変えたことで、保育士の笑顔が増え、職場の雰囲気が明るくなったと感じます。

保育士のみなさんは、「自分の好きな髪色で働けてうれしいです」と取材中も笑顔を見せてくれました。

撤廃後のアンケート調査でも、「仕事のやる気だけでなく、プライベートの充実にもつながっている」「髪色で評価されないために、より責任感を持って仕事に取り組むようになった」との声が聞かれました。自分らしさを表現することが、仕事のモチベーションにつながっているようでうれしい限りです。各園の園長からも「保育士に対して髪色を注意する必要がなくなった」という声があり、ちょっとしたストレスの軽減にも役立っているようです。

——外部の方からは、どのような声が聞かれますか?

西尾:外部の方からの反応も良いです。園全体の雰囲気が、明るく華やかになったと言われることが増えました。

髪色は、子どもたちが多様性を受け入れるきっかけにもなっている

——保護者からの反応はいかがでしょう

西尾:アンケートで、「清潔感があればどんな色でも構わない」「先生にもおしゃれを楽しんでもらいたい」という意見をいただいたように、保護者からは肯定的な反応が多いですね。お迎えのときなどに「その髪色は何色ですか?いい色ですよね」と声をかけられ、話が弾むこともあるようです。     

おかげで、保育士の髪色と保育の質に相関関係はないと実感することができました。

——子どもたちからの反応もお聞かせください。

西尾:「ピンク色かわいいね」「金色の髪がキラキラしている」と保育士の髪色について興味を持つ子が多いようです。保育士が好きな髪色で働くことで、子どもたちが多様性を受け入れる環境が自然と作られていく。これはうれしい効果ですね。

「先生の髪色 好き!」と子どもたちからも好評です。

多くの保育士は、子どもたちとの関係性を大切にし、日々頑張っています。好きな髪色で楽しく笑顔で働いてもらうことが、みんなの幸せにつながれば、髪色を自由化した意義も大きいと思います 。

保育士の髪色などの見た目ではなく、保育の本質を見て判断してほしい

——今後の展開を教えてください。

西尾:髪色規定を撤廃したことでたくさんの反響をいただきました。同時に、多くの園で「保育士の髪色は黒色」という固定概念が根強く残っているのだなと、あらためて知ることができました。 今後も、髪色に限らず古くからある慣習などを見直しながら、時代に適した保育を提供できるよう、常にアンテナを張っていきたいと思っています。  

近年は社会的に多様性を尊重する動きがあり、私たちはその一例にすぎません。けれど、今回の規定撤廃で、保育士が自分らしく働くことは、子どもたちにとっても良い保育につながると確信できました。だからこそ、今後は地域の特性や園の責任などを考慮しながら、「保育士の見た目ではなく、保育の本質を見て判断する」という考え方が広まってほしいと思っています。

——最後に、全国の保育士に向けてメッセージをお願いします。

西尾:これを読んでいるみなさんは、保育現場で子どもたちの主体性を大切にする保育をされていることでしょう。でも、主体性を大切にすべきなのは子どもたちだけではありません。保育士自身も、主体性を持って楽しく保育に取り組んでもらえたらと思います。

取材・文/ほりちゃん  編集/イージーゴー

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